2001年松の内、山田は元旦に届いた手紙を見ながら呟いた。
「…本当に届いたんだな」
「何が」
 山田の呟きに年始の挨拶がてら遊びに来ていた里中が彼の手元を覗き込むので、山田は手に持っていたそれを彼に見せた。
「これだよ」
「…うわ、懐かしいな。そういえば学校で書かされたっけ」
 それは十数年前に書いた自分自身への手紙。当時の万博の企画の一環で、書いた手紙を密封カプセルに入れて2001年の元旦に届けると言うもので、おそらく当時の大体の小学生は学校単位で書いていたものと思われる。山田もその例に漏れず書いていたらしく、それが届いたという訳だ。個性的なデザインの封筒に入れられたそれを持って思案する様な素振りを見せる山田に、里中は興味深そうに手紙と山田を見比べて問いかけた。
「お前、何書いたんだ?」
「いや、覚えてないな。それに自分で書いた手紙だけに見るのも気恥ずかしい気がするし」
「いいじゃないか、折角だから見ようぜ。昔の自分が何考えてたかも思い出せるじゃないか」
「そうだな…ってその口ぶりだとお前が見たいんだろ」
「あはは、ばれたか。…でもいいだろ?見ようぜ」
「そうだな」
 里中の楽しげな様子に山田は苦笑しながらも封を開けて手紙を広げる。そこには幼い字ながらもしっかりした文章でこう綴られていた。

――未来のぼくへ
 こんにちは。この手紙を読んでいるぼくは何をしていますか?しっかりした大人になって、じっちゃんやサチ子が笑っていられる様に頑張っているでしょうか?今のぼくは未来のぼくがそうなっているといいなと思います。
 でも一つだけかなっているといいなと思うのは、できたら、今やっている野球で甲子園に行って、しょうらいキャッチャーとしてプロ野球選手になっているといいなということです。もしぼくがプロ野球選手になっているとしたらどんな選手になれるかな。どうなっているかはこの手紙が届く時にわかるんだろうけど、プロ野球選手になれているといいなと思うし、なっていたら頑張りたいです。
 それじゃあさようなら。 山田太郎――

「へぇ、やっぱり山田はこの頃からプロを目指してたんだな」
「ああ…そうみたいだな」
 楽しそうに笑いながら言葉を紡ぐ里中に山田も照れ臭そうに笑う。里中はそれを見て更に続けた。
「…で、これを読んだ感想は?」
「何だ、里中唐突に」
「だってさ、山田は手紙の通りに山田のじっちゃんやサッちゃんが笑っていられる様にちゃんと頑張ってるしさ。甲子園にだって行ったし、ちゃんとキャッチャーでプロに行ってしかも今は正捕手じゃないか。願いが全部叶ってるじゃないか。嬉しいか?」
 里中の問いに山田はふっと笑うと言葉を紡ぐ。
「ああ、手紙通りに夢が叶ってびっくりしているのもあるが、嬉しいな。でも…」
「でも?」
「その嬉しさを叶えてくれた半分は…お前がいてくれたおかげだしな」
「山田…」
「俺一人だったらここまでできたか分からない。お前とバッテリーを組んで一緒にやってきたから、甲子園にも行けたし今の俺がいるんだと思う。だから…俺の夢を叶えてくれてありがとう、里中」
「…どういたしまして」
 山田の言葉に里中は照れ臭そうに、しかし嬉しそうに答える。照れる里中を山田は微笑ましそうに見詰めていたが、やがて思い出した様に口を開く。
「そうだ里中…お前こそ手紙は届かなかったのか?」
 山田の問いに里中は少し考えると口を開く。
「う~ん…俺の場合手紙を書いてから何度か住所変わってるからな~もしかしたら届かないかもしれないな」
「そうか?こういう企画だったら住所変更の時の事もあるんじゃないかな。折角だから郵便局にでも聞いてみたらどうだ?お前も自分が何を考えていたか興味が湧いてるだろう?」
「そうだな…」
 考え込む里中に山田は更に言葉を続ける。
「俺のだけお前が読むなんてずるいしな。…それに、昔のお前が何を考えていたか俺だって知りたい」
「…」
 山田の言葉に里中は赤面して黙り込む。しばらく沈黙の後、里中は口を開いた。
「そうだな…昔の俺が何を考えていたか知りたいし…お前にも見てもらいたいな。調べてみるよ」
「楽しみにしてるぞ」
「ああ」
 二人は照れ臭そうに笑い合うと、静かに寄り添った。