あたしと里中ちゃんは里中ちゃんのプロポーズで婚約した。小さい時から里中ちゃんの事がずっと好きだったあたしは里中ちゃんのプロポーズが本当に嬉しかった。でも――
「サッちゃん。婚約指輪はダイヤと誕生石、どっちがいい?」
「う~ん、ダイヤも嬉しいけど、誕生石も記念になって嬉しいと思うし…」
「山田だったらどうする?」
「俺に聞くなよ、サチ子が喜ぶ方にしたらいいだろ?」
「そうだな。…じゃあサッちゃん、宝石店に行ってみようか。デザインとかもきっと色々あって迷うだろうし」
「…そうだね、里中ちゃん」
あたしは明るく応えながらも心に翳りができる。里中ちゃんが本当に愛しているのは――
そうして宝石店に行って色々選んで、ダイヤがアクセントについた誕生石がメインの可愛らしいデザインの指輪を選んで、里中ちゃんはその場で買った。店員さんは『おめでとうございます。素敵な記念になるといいですね』とお祝いの言葉と共に指輪をラッピングしてくれた。そうして買った後近くの喫茶店に入って里中ちゃんはコーヒー、あたしはミルクティーを頼んで飲みながら話す。
「気に入った指輪があって良かったな、サッちゃん。すごく似合ってて可愛かったぜ」
「うん、ありがとう里中ちゃん」
「帰ったら山田に見せようぜ、きっとびっくりすると思う」
「…そうだね」
あたしは今まで幸せで弾んでいた気持ちが急に萎んでいく。その様子を見た里中ちゃんは怪訝そうな表情を見せて問い掛けた。
「どうしたんだよ、サッちゃん。何か急に元気なくしちゃってさ」
「何でもない…うん、なんでもないよ。里中ちゃん」
「…?…そうだ、サッちゃん」
「何?」
「その…さ、『里中ちゃん』っていうの、そろそろ止められないかな。婚約したんだから、何かよそよそしいよ」
「ごめんね、ずっとこう呼んでたし、この呼び方が一番しっくりくるからつい呼んじゃうの」
――本当は違う。あたしは里中ちゃんに対して一歩引いているんだ。里中ちゃんを名前で呼ぶ程、里中ちゃんが近くにいる様に思えないから。だって、里中ちゃんは――
「じゃあさ、ここで練習してみようよ。『智さん』ほら」
「…『さとるさん』」
「そう、その調子。俺も言ってて何だけど、ずっと『サッちゃん』て呼んでるもんな。俺も一緒に『サチ子』か『サチ子さん』って呼べる様に努力するからさ。サッちゃ…っとサチ子も一緒に頑張ろうぜ?山田にもちゃんと仲のいい所見せて安心させないとな」
「…そうね、『智さん』」
そう呼んだ時、あたしは無意識に涙を零していた。あたしの涙の意味が分からず、『智さん』は驚いてあたしに声を掛ける。
「どうしたんだよサッちゃん。何か俺、悪い事言った?」
「ううん…嬉しいの…嬉しくって…」
「?」
『智さん』は不思議そうにあたしを見ていた。嬉しいのは本当。でも同じ位哀しい。だってこの関係は…本物に限りなく近いイミテーションだから。『智さん』は無意識で気付いていないけど、彼が本当に愛しているのは、あたしじゃなくてお兄ちゃん。あたしはずっと前からその事に気付いていた。あたしはずっと『智さん』が好きだったから。だから『智さん』がお兄ちゃんへの想いをあたしへの想いと勘違いしてプロポーズしてきた時も受けたのだ。たとえ『智さん』の想いがイミテーションだとしても、あたしの想いは本物だから――だから、『智さん』が気付かない様にあたしはこの関係を守り通そう。たとえイミテーションの関係だとしても――
「サッちゃん。婚約指輪はダイヤと誕生石、どっちがいい?」
「う~ん、ダイヤも嬉しいけど、誕生石も記念になって嬉しいと思うし…」
「山田だったらどうする?」
「俺に聞くなよ、サチ子が喜ぶ方にしたらいいだろ?」
「そうだな。…じゃあサッちゃん、宝石店に行ってみようか。デザインとかもきっと色々あって迷うだろうし」
「…そうだね、里中ちゃん」
あたしは明るく応えながらも心に翳りができる。里中ちゃんが本当に愛しているのは――
そうして宝石店に行って色々選んで、ダイヤがアクセントについた誕生石がメインの可愛らしいデザインの指輪を選んで、里中ちゃんはその場で買った。店員さんは『おめでとうございます。素敵な記念になるといいですね』とお祝いの言葉と共に指輪をラッピングしてくれた。そうして買った後近くの喫茶店に入って里中ちゃんはコーヒー、あたしはミルクティーを頼んで飲みながら話す。
「気に入った指輪があって良かったな、サッちゃん。すごく似合ってて可愛かったぜ」
「うん、ありがとう里中ちゃん」
「帰ったら山田に見せようぜ、きっとびっくりすると思う」
「…そうだね」
あたしは今まで幸せで弾んでいた気持ちが急に萎んでいく。その様子を見た里中ちゃんは怪訝そうな表情を見せて問い掛けた。
「どうしたんだよ、サッちゃん。何か急に元気なくしちゃってさ」
「何でもない…うん、なんでもないよ。里中ちゃん」
「…?…そうだ、サッちゃん」
「何?」
「その…さ、『里中ちゃん』っていうの、そろそろ止められないかな。婚約したんだから、何かよそよそしいよ」
「ごめんね、ずっとこう呼んでたし、この呼び方が一番しっくりくるからつい呼んじゃうの」
――本当は違う。あたしは里中ちゃんに対して一歩引いているんだ。里中ちゃんを名前で呼ぶ程、里中ちゃんが近くにいる様に思えないから。だって、里中ちゃんは――
「じゃあさ、ここで練習してみようよ。『智さん』ほら」
「…『さとるさん』」
「そう、その調子。俺も言ってて何だけど、ずっと『サッちゃん』て呼んでるもんな。俺も一緒に『サチ子』か『サチ子さん』って呼べる様に努力するからさ。サッちゃ…っとサチ子も一緒に頑張ろうぜ?山田にもちゃんと仲のいい所見せて安心させないとな」
「…そうね、『智さん』」
そう呼んだ時、あたしは無意識に涙を零していた。あたしの涙の意味が分からず、『智さん』は驚いてあたしに声を掛ける。
「どうしたんだよサッちゃん。何か俺、悪い事言った?」
「ううん…嬉しいの…嬉しくって…」
「?」
『智さん』は不思議そうにあたしを見ていた。嬉しいのは本当。でも同じ位哀しい。だってこの関係は…本物に限りなく近いイミテーションだから。『智さん』は無意識で気付いていないけど、彼が本当に愛しているのは、あたしじゃなくてお兄ちゃん。あたしはずっと前からその事に気付いていた。あたしはずっと『智さん』が好きだったから。だから『智さん』がお兄ちゃんへの想いをあたしへの想いと勘違いしてプロポーズしてきた時も受けたのだ。たとえ『智さん』の想いがイミテーションだとしても、あたしの想いは本物だから――だから、『智さん』が気付かない様にあたしはこの関係を守り通そう。たとえイミテーションの関係だとしても――