今年もオールスターは盛況に終わり、不知火と土井垣はお互いが出場した時の常で二人で酒を酌み交わした後、お互いのホテルへ戻ろうとしていた。二人はタクシーを待っていたが、そんな中不意に不知火が土井垣に呟く様に声を掛ける。
「今年も…終わりましたね」
「…ああ」
「また…明日からは敵同士になるんですね」
「…そうだな」
二人は言葉少なに会話を交わしていく。オールスターの時は味方であっても、普段の自分達は敵同士。それをオールスターの後はいつも以上に痛いほど実感させられる。この祭の後からその日常へ戻らなければいけない一時が不知火の心をきりきりと締め付けていく。このまま、祭を終わらせないまま、時が止まってしまえばいいのに――気がつくと不知火は衝動的に土井垣を抱き締めていた。土井垣の方も彼の気持ちを分かっているのか、抱き締められるままになっていた。不知火は呟く様に口を開く。
「どうして…俺はあの時、東京を選ばなかったんでしょうね…」
「守…」
「俺は、こんなに…こんなに土井垣さんと一緒にいたいのに…」
「…」
土井垣はしばらく抱き締められるままになっていたが、やがて彼から身体を離すと、静かに問いかけた。
「…お前は、四国に行った事を…後悔しているのか?」
土井垣の言葉に、不知火ははっとする。そう、自分は望んで四国へ行ったのだ、山田と対決するために、何より勝負師として生きるために、愛する存在を手放す事も躊躇わずに――それに気付いた不知火は、唇を噛み締めしばらく俯いていたが、やがてゆっくりと口を開く。
「いえ…後悔はしていません。…でも…今、土井垣さんと離れたくないのも…本当です」
「…そうか」
ふたりは沈黙して見詰め合い、お互いの中にお互いに対する情熱の炎を見つけ出す。それを見つけた時には、もう言葉はいらなかった。敵だとか味方だとかいう事は関係ない。二人には二人の絆がある。それに気付いた不知火は、またゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「すいません土井垣さん、俺…どうかしていました」
「…そうか」
「負けませんからね、スターズには」
「…ああ」
そう言うと二人は笑い合う。そうして二人はしばらく笑い合っていたが、不意に不知火は真面目な顔になり、土井垣を引き寄せる。
「…でも」
「…っ!」
そう言うと不知火は土井垣にキスをする。土井垣は彼の突然の行動にされるがままになっていた。やがて唇を離すと、不知火は悪戯っぽい笑顔を見せて口を開く。
「たとえ敵同士だって…土井垣さんは俺のものですからね。誰にも渡しません」
「守…お前…こんな所で…」
あまりの事に目を白黒させている土井垣に、不知火は更に悪びれない態度で言葉を重ねた。
「ほら、タクシー来ましたよ。…そうだ、折角だから土井垣さん、今夜は俺の部屋に泊まりませんか」
「馬鹿野郎!誰がそんな事…」
「だったら、俺が土井垣さんの部屋へ行きましょうか」
「守…お前…!」
「冗談です。…ほら、土井垣さんから先に乗って下さい。じゃあ運転手さん、行って下さい」
そう言うとむっとしている土井垣を乗せたタクシーは走り出した。それを悪びれない笑顔で見送った不知火は小さく溜息をつくと、ふっと複雑な表情に変わり、痛む胸を堪えながら呟いた。
「『後悔はしていない』…か」
不知火は夜空を見上げる。半月に近い月が浮かび上がり、彼を照らしていた。不知火は頭を振ると、続いてやって来たタクシーに乗った。振り払いたくても振り払えない、祭の後の切なさを引きずりながら――
「今年も…終わりましたね」
「…ああ」
「また…明日からは敵同士になるんですね」
「…そうだな」
二人は言葉少なに会話を交わしていく。オールスターの時は味方であっても、普段の自分達は敵同士。それをオールスターの後はいつも以上に痛いほど実感させられる。この祭の後からその日常へ戻らなければいけない一時が不知火の心をきりきりと締め付けていく。このまま、祭を終わらせないまま、時が止まってしまえばいいのに――気がつくと不知火は衝動的に土井垣を抱き締めていた。土井垣の方も彼の気持ちを分かっているのか、抱き締められるままになっていた。不知火は呟く様に口を開く。
「どうして…俺はあの時、東京を選ばなかったんでしょうね…」
「守…」
「俺は、こんなに…こんなに土井垣さんと一緒にいたいのに…」
「…」
土井垣はしばらく抱き締められるままになっていたが、やがて彼から身体を離すと、静かに問いかけた。
「…お前は、四国に行った事を…後悔しているのか?」
土井垣の言葉に、不知火ははっとする。そう、自分は望んで四国へ行ったのだ、山田と対決するために、何より勝負師として生きるために、愛する存在を手放す事も躊躇わずに――それに気付いた不知火は、唇を噛み締めしばらく俯いていたが、やがてゆっくりと口を開く。
「いえ…後悔はしていません。…でも…今、土井垣さんと離れたくないのも…本当です」
「…そうか」
ふたりは沈黙して見詰め合い、お互いの中にお互いに対する情熱の炎を見つけ出す。それを見つけた時には、もう言葉はいらなかった。敵だとか味方だとかいう事は関係ない。二人には二人の絆がある。それに気付いた不知火は、またゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「すいません土井垣さん、俺…どうかしていました」
「…そうか」
「負けませんからね、スターズには」
「…ああ」
そう言うと二人は笑い合う。そうして二人はしばらく笑い合っていたが、不意に不知火は真面目な顔になり、土井垣を引き寄せる。
「…でも」
「…っ!」
そう言うと不知火は土井垣にキスをする。土井垣は彼の突然の行動にされるがままになっていた。やがて唇を離すと、不知火は悪戯っぽい笑顔を見せて口を開く。
「たとえ敵同士だって…土井垣さんは俺のものですからね。誰にも渡しません」
「守…お前…こんな所で…」
あまりの事に目を白黒させている土井垣に、不知火は更に悪びれない態度で言葉を重ねた。
「ほら、タクシー来ましたよ。…そうだ、折角だから土井垣さん、今夜は俺の部屋に泊まりませんか」
「馬鹿野郎!誰がそんな事…」
「だったら、俺が土井垣さんの部屋へ行きましょうか」
「守…お前…!」
「冗談です。…ほら、土井垣さんから先に乗って下さい。じゃあ運転手さん、行って下さい」
そう言うとむっとしている土井垣を乗せたタクシーは走り出した。それを悪びれない笑顔で見送った不知火は小さく溜息をつくと、ふっと複雑な表情に変わり、痛む胸を堪えながら呟いた。
「『後悔はしていない』…か」
不知火は夜空を見上げる。半月に近い月が浮かび上がり、彼を照らしていた。不知火は頭を振ると、続いてやって来たタクシーに乗った。振り払いたくても振り払えない、祭の後の切なさを引きずりながら――