朝、土井垣はほのかに香ってくるコーヒーの香りで目を覚ました。
『ああ、今朝はあいつがいるんだ…』
土井垣は幸せな気分でしばらく微睡んでいたが、朝のロードワークの事もあり起き出すと、香りの主であるコーヒーをいれていた恋人に声を掛けた。
「おはよう、葉月」
「おはよう、将さん」
「今まではねぼすけだったのに…最近は早いな」
「うん。将さんと一緒だと、何となく一緒に早起きしちゃうのよね」
そう言って恥ずかしげに微笑む葉月に土井垣はいつもの様にキスをすると、更に言葉を掛ける。
「じゃあ、俺は着替えてロードワークに行って来るから」
「うん、じゃあとりあえず行く前にお水飲んでいかないと。寝てるうちに汗もかくから」
「そのコーヒーじゃ駄目なのか?」
「駄目。これは帰って来てからのご褒美」
「そうだな…じゃあ早く帰って来て『ご褒美』にありつく事にするか」
そう言って土井垣は彼女が出してきたミネラルウォーターを飲む。これも彼女がいる時のいつものやり取り。ミネラルウォーターを飲むと、土井垣は着替えてロードワークに出かけた。『ご褒美』が待っている事が彼を幸せな気分にさせて、ロードワークの足取りも軽くなる。そうして戻って来て、シャワーを浴びると、キッチンには朝食と『ご褒美』のコーヒーが用意されていた。それを見て彼は更に幸せな気持ちになってくる。そしてその『幸せ』を作ってくれた、傍らで微笑んでいる存在が愛しくて、彼は彼女を抱き締める。
「ありがとう。うまそうな料理だな」
「だって、誰かがやらないと駄目だし、あたしにできる事これ位しかないもの。それに、お料理って言っても簡単なものじゃない。将さんの方が本当はお料理うまいし…」
「上手い下手は関係ない。作ってくれる気持ちが嬉しいんだ」
「…ん」
「じゃあ、食べようか」
「そうね」
そう言うと二人は朝食をとり始める。土井垣は『ご褒美』のコーヒーを口にすると優しく微笑む。
「…うん、相変わらず葉月のコーヒーはうまいな」
「ありがと…でもお父さんのいれる方がもっとおいしいでしょ?」
「そうかもしれんが…俺は葉月のいれてくれる方が好きだ」
「…ありがとう」
葉月は恥ずかしそうに微笑んで、自分もコーヒーに手を付けた。土井垣はブラックだが、彼女は胃に負担をかけない様に、牛乳を入れてカフェオレにしている。彼女は基本的にコーヒー用のクリームが好きではなくて、しかし気を遣う性分で周りに合わせるため、外の喫茶店で飲む時には彼女も一緒にコーヒーを頼みブラックで飲んでいたので、こうして一緒に朝を過ごす様になって、彼女が本当はカフェオレの方が好きだと知った時、彼は少し嬉しくなった。家族位しか他の人間が知らない彼女の一面を自分が知っているというちょっとした優越感、そして自分のために朝早く起きてこうして料理を作り、コーヒーをいれてくれる彼女への愛おしさ――それを感じた時、ふっと彼は彼女を微笑んで見詰めていた。
「どうしたの?」
自分を見詰めている土井垣に気づいて、葉月が不思議そうに問い掛ける。彼は微笑みながら言葉を掛ける。
「いや…幸せだな、と思って」
「何がですか?」
「こうやってお前と朝食事をして、お前のいれてくれるコーヒーを飲んで…傍にお前がいるんだと実感できるのがな」
「…」
葉月は土井垣の言葉に赤面して一瞬沈黙し、呟く様に言葉を返す。
「…あんまり恥ずかしい事言わないで下さい」
「でも本音だ」
「本音だとしても、よくそう恥ずかしい事が言えますね」
「お前のコーヒーが言わせるんだ。…お前のいれてくれるコーヒーは不思議と素直な気分にしてくれる。きっと…お前の素直な心が、コーヒーを通して伝わるんだろうな」
土井垣の言葉に、葉月は照れ隠しの様に話を茶化そうとする。
「それじゃまるであたしのコーヒーは自白剤じゃないですか」
「…ああ、それはいいな。でも、きっとこれは俺限定の自白剤だぞ」
「どうしてですか?」
「お前が朝いれてくれるコーヒーは…俺とお前だけのものだからな。だから俺も素直になれるんだ。それだけじゃない。このコーヒーは俺にはお前がいるんだという幸せを実感させてくれる証拠だ」
「…」
完全に葉月は赤面して沈黙した。それを見て土井垣は幸せな微笑みを見せながら更に言葉を重ねた。
「早く毎朝こうなりたいものだな。お前とこうしてコーヒーを飲んで、二人で話しながら朝食をとって…そうしてその内に家族が増えて、その家族も一緒にコーヒーを飲める様になって…そうやって俺達は過ごしていくんだ」
「…」
葉月は黙ってカフェオレを一口飲むと、また呟く様に問いかけた。
「本当に…それまで一緒にいたいって思ってくれる?」
「ああ」
土井垣は微笑んで頷いた。葉月はその微笑みに返す様に微笑んで呟いた。
「…良かった」
土井垣は葉月の微笑みと呟きに更に幸せな気持ちになり、口を開く。
「ところで、『幸せ』のおかわりをもらえないか。もう一杯飲みたい」
「うん」
朝の幸せな二人の一時。コーヒーの香りがその幸せを彩っていた。
『ああ、今朝はあいつがいるんだ…』
土井垣は幸せな気分でしばらく微睡んでいたが、朝のロードワークの事もあり起き出すと、香りの主であるコーヒーをいれていた恋人に声を掛けた。
「おはよう、葉月」
「おはよう、将さん」
「今まではねぼすけだったのに…最近は早いな」
「うん。将さんと一緒だと、何となく一緒に早起きしちゃうのよね」
そう言って恥ずかしげに微笑む葉月に土井垣はいつもの様にキスをすると、更に言葉を掛ける。
「じゃあ、俺は着替えてロードワークに行って来るから」
「うん、じゃあとりあえず行く前にお水飲んでいかないと。寝てるうちに汗もかくから」
「そのコーヒーじゃ駄目なのか?」
「駄目。これは帰って来てからのご褒美」
「そうだな…じゃあ早く帰って来て『ご褒美』にありつく事にするか」
そう言って土井垣は彼女が出してきたミネラルウォーターを飲む。これも彼女がいる時のいつものやり取り。ミネラルウォーターを飲むと、土井垣は着替えてロードワークに出かけた。『ご褒美』が待っている事が彼を幸せな気分にさせて、ロードワークの足取りも軽くなる。そうして戻って来て、シャワーを浴びると、キッチンには朝食と『ご褒美』のコーヒーが用意されていた。それを見て彼は更に幸せな気持ちになってくる。そしてその『幸せ』を作ってくれた、傍らで微笑んでいる存在が愛しくて、彼は彼女を抱き締める。
「ありがとう。うまそうな料理だな」
「だって、誰かがやらないと駄目だし、あたしにできる事これ位しかないもの。それに、お料理って言っても簡単なものじゃない。将さんの方が本当はお料理うまいし…」
「上手い下手は関係ない。作ってくれる気持ちが嬉しいんだ」
「…ん」
「じゃあ、食べようか」
「そうね」
そう言うと二人は朝食をとり始める。土井垣は『ご褒美』のコーヒーを口にすると優しく微笑む。
「…うん、相変わらず葉月のコーヒーはうまいな」
「ありがと…でもお父さんのいれる方がもっとおいしいでしょ?」
「そうかもしれんが…俺は葉月のいれてくれる方が好きだ」
「…ありがとう」
葉月は恥ずかしそうに微笑んで、自分もコーヒーに手を付けた。土井垣はブラックだが、彼女は胃に負担をかけない様に、牛乳を入れてカフェオレにしている。彼女は基本的にコーヒー用のクリームが好きではなくて、しかし気を遣う性分で周りに合わせるため、外の喫茶店で飲む時には彼女も一緒にコーヒーを頼みブラックで飲んでいたので、こうして一緒に朝を過ごす様になって、彼女が本当はカフェオレの方が好きだと知った時、彼は少し嬉しくなった。家族位しか他の人間が知らない彼女の一面を自分が知っているというちょっとした優越感、そして自分のために朝早く起きてこうして料理を作り、コーヒーをいれてくれる彼女への愛おしさ――それを感じた時、ふっと彼は彼女を微笑んで見詰めていた。
「どうしたの?」
自分を見詰めている土井垣に気づいて、葉月が不思議そうに問い掛ける。彼は微笑みながら言葉を掛ける。
「いや…幸せだな、と思って」
「何がですか?」
「こうやってお前と朝食事をして、お前のいれてくれるコーヒーを飲んで…傍にお前がいるんだと実感できるのがな」
「…」
葉月は土井垣の言葉に赤面して一瞬沈黙し、呟く様に言葉を返す。
「…あんまり恥ずかしい事言わないで下さい」
「でも本音だ」
「本音だとしても、よくそう恥ずかしい事が言えますね」
「お前のコーヒーが言わせるんだ。…お前のいれてくれるコーヒーは不思議と素直な気分にしてくれる。きっと…お前の素直な心が、コーヒーを通して伝わるんだろうな」
土井垣の言葉に、葉月は照れ隠しの様に話を茶化そうとする。
「それじゃまるであたしのコーヒーは自白剤じゃないですか」
「…ああ、それはいいな。でも、きっとこれは俺限定の自白剤だぞ」
「どうしてですか?」
「お前が朝いれてくれるコーヒーは…俺とお前だけのものだからな。だから俺も素直になれるんだ。それだけじゃない。このコーヒーは俺にはお前がいるんだという幸せを実感させてくれる証拠だ」
「…」
完全に葉月は赤面して沈黙した。それを見て土井垣は幸せな微笑みを見せながら更に言葉を重ねた。
「早く毎朝こうなりたいものだな。お前とこうしてコーヒーを飲んで、二人で話しながら朝食をとって…そうしてその内に家族が増えて、その家族も一緒にコーヒーを飲める様になって…そうやって俺達は過ごしていくんだ」
「…」
葉月は黙ってカフェオレを一口飲むと、また呟く様に問いかけた。
「本当に…それまで一緒にいたいって思ってくれる?」
「ああ」
土井垣は微笑んで頷いた。葉月はその微笑みに返す様に微笑んで呟いた。
「…良かった」
土井垣は葉月の微笑みと呟きに更に幸せな気持ちになり、口を開く。
「ところで、『幸せ』のおかわりをもらえないか。もう一杯飲みたい」
「うん」
朝の幸せな二人の一時。コーヒーの香りがその幸せを彩っていた。