久しぶりのオフの昼下がり。天気はあいにくの雨で、葉月と土井垣は朝から彼女のマンションで過ごしていた。大粒の雨を見ながら、土井垣は独り言の様に呟く。
「折角遊園地にでも行こうと思っていたんだがな…」
その言葉を聞いて、葉月は土井垣に問いかける。
「将兄さんは、雨が嫌い?」
葉月の問いに土井垣は答える。
「嫌い…というより困る事が多くて苦手だな。野球の試合日程はスケジュール通りに行かなくなるし、野外練習場も使えないし」
「そうですか…じゃあ、個人的には?」
葉月の更なる問いに土井垣はしばらく考え込んだ後、ぽつり、ぽつりと話し始める。
「そうだな…考えた事もなかった。俺の生活は野球一色だったからな」
「そうですか」
「そういう葉月はどうなんだ?」
土井垣の問い返しに、葉月は明るく応える。
「ええとですね…台風とか大雨は困りますけど、普通の雨は好きです」
「そうなのか」
「うん。あたしも昔は雨が苦手だったんですけどね。お母さんが可愛い傘とか、レインコートとか、その頃には珍しいかかとの高い長靴を買ってくれて、自分がお姉さんになった気分になった時に、ふっと雨もいいな~って思う様になったんです。将兄さんはそういう事ってなかったですか?」
「そうだな…」
中学に入った頃、長靴は許可されていたので母が『こういうのもいいでしょ?』と、シックなデザインのレインブーツと傘を買ってくれた。それが何だか嬉しくて、照れくさくて――そんな事を思い出し、土井垣は懐かしげに虚空を見つめると、また呟く様に言葉を零した。
「そういえば…そんな事もあったな」
「でしょう?雨だからって嫌な事ばっかりじゃないですよ。…そうだ、あたし久しぶりに雨用のレインブーツとか、ずっと気になってた和傘とか買いに行こうかな。将兄さんも一緒に行きましょうよ。で、気に入ったものがあったら買って、雨を楽しみましょう?」
葉月の明るい口調が嬉しくて、土井垣は葉月の誘いに乗る事にした。
「ああ…ただし、条件がある」
「条件?」
「傘は、店で買いたいから…行きはお前の傘に俺を入れて行く事」
「…」
土井垣の提案に葉月は顔を赤らめて一瞬絶句した後、呟く様に口を開く。
「でも…そうしたら、将さん濡れちゃうかも」
「大丈夫さ、葉月は荷物を濡らさない様にって大きな傘しか持ってないだろう?あれなら二人入れる」
「…」
「相合傘も雨の特権だ。そうやって雨を楽しもう」
「…」
葉月はしばらく顔を赤らめて考え込んでいたが、やがて恥ずかしげに微笑むと、頷く。
「ん…じゃあそうしましょう」
「じゃあ善は急げだ。早く外に行こう」
「…ん」
二人は葉月の傘に納まって、寄り添いあいながら街へと出ていった。肩にかかる雨だれも幸せの一つとお互いに自覚しながら――
「折角遊園地にでも行こうと思っていたんだがな…」
その言葉を聞いて、葉月は土井垣に問いかける。
「将兄さんは、雨が嫌い?」
葉月の問いに土井垣は答える。
「嫌い…というより困る事が多くて苦手だな。野球の試合日程はスケジュール通りに行かなくなるし、野外練習場も使えないし」
「そうですか…じゃあ、個人的には?」
葉月の更なる問いに土井垣はしばらく考え込んだ後、ぽつり、ぽつりと話し始める。
「そうだな…考えた事もなかった。俺の生活は野球一色だったからな」
「そうですか」
「そういう葉月はどうなんだ?」
土井垣の問い返しに、葉月は明るく応える。
「ええとですね…台風とか大雨は困りますけど、普通の雨は好きです」
「そうなのか」
「うん。あたしも昔は雨が苦手だったんですけどね。お母さんが可愛い傘とか、レインコートとか、その頃には珍しいかかとの高い長靴を買ってくれて、自分がお姉さんになった気分になった時に、ふっと雨もいいな~って思う様になったんです。将兄さんはそういう事ってなかったですか?」
「そうだな…」
中学に入った頃、長靴は許可されていたので母が『こういうのもいいでしょ?』と、シックなデザインのレインブーツと傘を買ってくれた。それが何だか嬉しくて、照れくさくて――そんな事を思い出し、土井垣は懐かしげに虚空を見つめると、また呟く様に言葉を零した。
「そういえば…そんな事もあったな」
「でしょう?雨だからって嫌な事ばっかりじゃないですよ。…そうだ、あたし久しぶりに雨用のレインブーツとか、ずっと気になってた和傘とか買いに行こうかな。将兄さんも一緒に行きましょうよ。で、気に入ったものがあったら買って、雨を楽しみましょう?」
葉月の明るい口調が嬉しくて、土井垣は葉月の誘いに乗る事にした。
「ああ…ただし、条件がある」
「条件?」
「傘は、店で買いたいから…行きはお前の傘に俺を入れて行く事」
「…」
土井垣の提案に葉月は顔を赤らめて一瞬絶句した後、呟く様に口を開く。
「でも…そうしたら、将さん濡れちゃうかも」
「大丈夫さ、葉月は荷物を濡らさない様にって大きな傘しか持ってないだろう?あれなら二人入れる」
「…」
「相合傘も雨の特権だ。そうやって雨を楽しもう」
「…」
葉月はしばらく顔を赤らめて考え込んでいたが、やがて恥ずかしげに微笑むと、頷く。
「ん…じゃあそうしましょう」
「じゃあ善は急げだ。早く外に行こう」
「…ん」
二人は葉月の傘に納まって、寄り添いあいながら街へと出ていった。肩にかかる雨だれも幸せの一つとお互いに自覚しながら――