「…こんにちは、皆さん、ただ今監督室へ入ってきました」
「…という訳で、今から土井垣監督の抜き打ち荷物検査を始めます」
監督室に入ったカメラに向かって三太郎と里中が楽しげに笑ってピースサインをする。これはスポーツ番組の特番企画で、『チーム選手の誰かの抜き打ち荷物調査をする』というもの。そうして調査員に選ばれた里中と三太郎が話し合って、『他のメンバーよりも土井垣さんの荷物調査をしたら結構面白いんじゃないか』と意見が一致し、今実行して収録をしているところである。もちろん土井垣にこの話は知らされていない。里中は土井垣のロッカーからバッグを取り出すと、三太郎と共に荷物を取り出していく。
「…まず着替えで~す…相変わらずのセンスだよな、土井垣さん」
「そうだな…おっ、文庫本だ。内容は…歴史小説か。これはこれで土井垣さんらしいけど意外性がないな」
「それから…これは他チームの戦力分析ノートだな…これは企業秘密って事で戻しま~す」
「携帯もある。んじゃアドレス帳チェッ~ク…あ、畜生、ダイヤルロックがかかってる…でも、という事は見られちゃやばい電話番号があるかもしれないな~…土井垣監督の秘密、一つ発見で~す」
「…おっ、これはシステム手帳…予定が色々入ってま~す…支援団体さんかな…の用事とかまで律儀に入ってるよ…って、あれ?これちょっと変だな」
「『H オフ』やら『H 出』って所々書き込まれるやつか…他はちゃんと詳しく書いてあるのに…これ…どういう意味だ?」
「H……ああそうか、そういう意味ね。…土井垣さん律儀過ぎだぜ」
「どういう事だ?里中」
「…いや?何でも…でもこう見てきたけど、何かインパクト少ないよな~」
「もっと面白いものは見付かんないかな~…ん?」
二人がつまらなそうにバッグの中身をぶちまけていると、不意に三太郎が何かを見つけて取り出す。それは守り袋だった。
「何かすごく大事そうにこれ入ってたぜ…どこのだ?…これ何て読むんだろう」
「どれどれ…ああ、これは『だいゆうざん』って読むんだよ。俺が昔住んでた所の傍の山にあるお寺のお守りだな。何で土井垣さんが…ああ、そうか」
「どうした?里中」
何か恵心した様ににやりと笑う里中を不思議そうに三太郎が見ると、里中はウィンクして言葉を返す。
「これは調べる価値がありそうだぜ。三太郎、ちょっと中身開けてみろよ」
「えっ?どうせただのお守りじゃ…ん?何か入ってる感触がする。何だろう……えぇぇっ!?」
それは何の変哲もない普通の守り袋だったが、三太郎が色々外から触ってみると、守り札以外の感触が守り袋の布を通して彼の手に伝わってきた。それを不思議に思った三太郎は里中が言う通り守り袋を開けて中身を探る。と、中からどう見てもマリッジリングにしか見えないプラチナのシンプルな指輪が出てきた。
「お~っとぉ!これはスクープのネタになりそうなもの発見です!どう見ても結婚指輪、しかも明らかに土井垣さんのサイズじゃありません!」
「どう見ても女性のサイズですねぇ…これどういう事だと思う?三太郎」
「…もしかして、前騒がれた土井垣さんが隠してる女の話って…マジだったのか?」
驚く三太郎とは逆に、里中はにやにや笑って答える。
「…そういう事になりそうだな」
「…しかもまだ続いてる…その上こうやって結婚指輪まで買う仲なのかよ!…皆さ~ん、最大スクープですよ~!…ちなみに名前はあるかなっと…『S to H』って入ってる…って事はどうやらイニシャルはHさんという方らしいです…ん?…とするとさっきのシステム手帳の『H、オフ』の意味はこの人の休みの日って事か?…いかがですか、里中さん」
わざとらしく意味深に問い掛ける三太郎に、里中もわざと意味深に笑ったままさらりと答える。
「…まあ、おそらくそれで当たりでしょう。多分そのお守りもHさんからもらったものだと思いますよ。だから中に彼女の指輪を入れてるんですよ」
「そうかもしれませんねぇ。…でも、ここで新たな疑問が湧いてきました。どうして自分の指輪じゃなくて女性側の指輪を持ってるんでしょう…見解はどうですか?里中さん」
「そうですねぇ…ちょうど本人来たし、直に聞いてみれば?」
「え?…うわやべっ…」
里中がのんびりと笑いながら上を指すと、そこには憤怒の形相で土井垣が仁王立ちしていた。土井垣はドスの効いた低い声で二人に言葉を掛ける。
「お前ら…どうしてテレビカメラの前で俺の荷物を開けてるんだ…」
「番組特別企画、『抜き打ち荷物検査』で~す」
「うちは土井垣さんの荷物を調べさせてもらいました~」
「何ぃっ!?」
憤怒の形相の土井垣とは裏腹に、里中はのんびりと笑いながら、見られて腹が決まったのか三太郎も笑ってネタ晴らしをする。その言葉に土井垣は卒倒しそうな表情に変わる。卒倒しそうになりながらも、土井垣は低く重い口調で問いかけた。
「…お前ら…どこまで見た…?」
「ええ、色々と見させてもらいましたよ~。土井垣さんの予定表とか、隠し持ってた結婚指輪とか」
「…」
「どうして女性の指輪を持ってるんですか~?土井垣さん」
「三太郎…」
「それからこの指輪の主の『Hさん』て方との仲は、どこまで進んでらっしゃるんですか~?」
「里中…お前…」
興味津々といった様子の三太郎と、明らかに事情が分かっていて口を割らせようとしている里中の様子に、土井垣は呆然としながらも段々怒りのボルテージが上がってくる。土井垣はその心のままに声を荒げた。
「…お前ら…他人のプライバシーを勝手に覗くな!」
「だってそういう企画なんですから仕方ないでしょう?諦めて下さい」
「もうここまでばれちゃったんですから、公表しちゃったらどうですか?土井垣さん」
二人の言葉に怒りのボルテージが最高潮に達した土井垣は更に怒鳴った。
「やかましい!去れお前ら!」
「…と、いう訳で核心には迫れませんでしたが、これ以上土井垣さんを怒らせたくないのでこの辺りで失礼しま~す」
「レポーターは東京スーパースターズの里中智と俺、微笑三太郎でした~」
憤怒の形相を見せている土井垣とは裏腹に里中と三太郎は笑ってカメラに手を振って中継は終了した――
「…はーちゃん、大丈夫?またマスコミとか来たら大変だよ」
ここは弥生のマンション。弥生と葉月は二人でパジャマパーティをしながらテレビを見ていたのだ。弥生の自分を心配する言葉に、葉月はハーブティを飲みながら苦笑して応える。
「…そうなったら何とかするしかないわよ。今度は邪道かもしれないけど柊兄の手も借りるなりなんなりして被害を最小限に食い止めばいいでしょ」
「そうね、御館さんに頼めば何とかしてくれるか。…ところではーちゃん」
「何?」
「何ではーちゃんの指輪を土井垣さんが持ってるの?」
ハーブティを飲みながら問い掛ける弥生に、葉月はふっと虚空を見詰めて答えた。
「あれはね…『約束の印』なの」
「『約束の印』?」
不思議そうに更に問い掛ける弥生に、葉月は静かに言葉を紡いでいく。
「うん、新球団ができたシーズンから日ハムは北海道行く事になってたでしょう?だからその時のオフに結婚しよう、って話に何となく流れそうだったんだけどね。結局、新球団ができて土井垣さん北海道へ行かなくて済んだ代わりに、新球団の監督になっちゃったからね。ちゃんと監督の役目果たして欲しかったから、あたしから結婚は『新球団の基盤が固まるまで待つ』って申し出て延期してるの」
「そうだったんだ…」
「土井垣さんは『形式上せめて入籍だけでも』って言ってくれたんだけど、そういう騙し討ちみたいな事はしたくなかったし、だからって言ってそのまま結婚しちゃって生活ガラッと変わって新球団の基盤づくりに支障をきたしちゃうのも嫌だったから、『今はあたしの事より野球の事だけ考えて』って、あたし両方とも突っぱねちゃったんだ…」
「はーちゃん…」
寂しそうな葉月の表情に弥生は痛々しい気持ちになる。その様子を見た葉月は取り成すように微笑むと、更に静かに言葉を紡いだ。
「そうしたらね、土井垣さんそう言った次のデートの時に『結婚指輪だけは絶対に買う』ってお店に連れて行ってくれて…その場で買って『これは約束の印だ。基盤ができたらお前をちゃんと女房にするっていうな』って言ってくれたの…で、約束を形にするために、結婚するまではお互いの指輪を交換して持っていようって事になって、あたしは土井垣さんの、土井垣さんはあたしの指輪を持ってるって訳。…お守りはお互い自分の務めをちゃんと果たせる様にって事と、早く約束が果たせるようにって願いを込めた、あたしからのプレゼント。毎年一緒に新年のお参りがてら買いに行ってるのよ」
「じゃあ、はーちゃんも?」
「ん…ほら、ここにちゃんと」
そう言うと葉月は自分の荷物から大事そうに土井垣とは色違いの守り袋を取り出すと、中から指輪を取り出し、にっこり微笑んで弥生に見せた。その幸せそうな微笑みに弥生も幸せな気持ちになりながらも、からかう様に言葉を返す。
「もう…本当にごちそうさまな話だわ。胸焼けしちゃう位…あ~あ、あたしも土井垣さんみたいないい人、早く見つけたいなぁ」
「ヒナったら…」
葉月は恥ずかしそうに口ごもる。それから二人は楽しそうにまた話を弾ませていった。
――その後、この番組を見たチームメイト達から土井垣は『指輪の相手を紹介して下さい』とねじ込まれ、彼の表情がしばらく渋いものになっていたというのはまた別の話――
「…という訳で、今から土井垣監督の抜き打ち荷物検査を始めます」
監督室に入ったカメラに向かって三太郎と里中が楽しげに笑ってピースサインをする。これはスポーツ番組の特番企画で、『チーム選手の誰かの抜き打ち荷物調査をする』というもの。そうして調査員に選ばれた里中と三太郎が話し合って、『他のメンバーよりも土井垣さんの荷物調査をしたら結構面白いんじゃないか』と意見が一致し、今実行して収録をしているところである。もちろん土井垣にこの話は知らされていない。里中は土井垣のロッカーからバッグを取り出すと、三太郎と共に荷物を取り出していく。
「…まず着替えで~す…相変わらずのセンスだよな、土井垣さん」
「そうだな…おっ、文庫本だ。内容は…歴史小説か。これはこれで土井垣さんらしいけど意外性がないな」
「それから…これは他チームの戦力分析ノートだな…これは企業秘密って事で戻しま~す」
「携帯もある。んじゃアドレス帳チェッ~ク…あ、畜生、ダイヤルロックがかかってる…でも、という事は見られちゃやばい電話番号があるかもしれないな~…土井垣監督の秘密、一つ発見で~す」
「…おっ、これはシステム手帳…予定が色々入ってま~す…支援団体さんかな…の用事とかまで律儀に入ってるよ…って、あれ?これちょっと変だな」
「『H オフ』やら『H 出』って所々書き込まれるやつか…他はちゃんと詳しく書いてあるのに…これ…どういう意味だ?」
「H……ああそうか、そういう意味ね。…土井垣さん律儀過ぎだぜ」
「どういう事だ?里中」
「…いや?何でも…でもこう見てきたけど、何かインパクト少ないよな~」
「もっと面白いものは見付かんないかな~…ん?」
二人がつまらなそうにバッグの中身をぶちまけていると、不意に三太郎が何かを見つけて取り出す。それは守り袋だった。
「何かすごく大事そうにこれ入ってたぜ…どこのだ?…これ何て読むんだろう」
「どれどれ…ああ、これは『だいゆうざん』って読むんだよ。俺が昔住んでた所の傍の山にあるお寺のお守りだな。何で土井垣さんが…ああ、そうか」
「どうした?里中」
何か恵心した様ににやりと笑う里中を不思議そうに三太郎が見ると、里中はウィンクして言葉を返す。
「これは調べる価値がありそうだぜ。三太郎、ちょっと中身開けてみろよ」
「えっ?どうせただのお守りじゃ…ん?何か入ってる感触がする。何だろう……えぇぇっ!?」
それは何の変哲もない普通の守り袋だったが、三太郎が色々外から触ってみると、守り札以外の感触が守り袋の布を通して彼の手に伝わってきた。それを不思議に思った三太郎は里中が言う通り守り袋を開けて中身を探る。と、中からどう見てもマリッジリングにしか見えないプラチナのシンプルな指輪が出てきた。
「お~っとぉ!これはスクープのネタになりそうなもの発見です!どう見ても結婚指輪、しかも明らかに土井垣さんのサイズじゃありません!」
「どう見ても女性のサイズですねぇ…これどういう事だと思う?三太郎」
「…もしかして、前騒がれた土井垣さんが隠してる女の話って…マジだったのか?」
驚く三太郎とは逆に、里中はにやにや笑って答える。
「…そういう事になりそうだな」
「…しかもまだ続いてる…その上こうやって結婚指輪まで買う仲なのかよ!…皆さ~ん、最大スクープですよ~!…ちなみに名前はあるかなっと…『S to H』って入ってる…って事はどうやらイニシャルはHさんという方らしいです…ん?…とするとさっきのシステム手帳の『H、オフ』の意味はこの人の休みの日って事か?…いかがですか、里中さん」
わざとらしく意味深に問い掛ける三太郎に、里中もわざと意味深に笑ったままさらりと答える。
「…まあ、おそらくそれで当たりでしょう。多分そのお守りもHさんからもらったものだと思いますよ。だから中に彼女の指輪を入れてるんですよ」
「そうかもしれませんねぇ。…でも、ここで新たな疑問が湧いてきました。どうして自分の指輪じゃなくて女性側の指輪を持ってるんでしょう…見解はどうですか?里中さん」
「そうですねぇ…ちょうど本人来たし、直に聞いてみれば?」
「え?…うわやべっ…」
里中がのんびりと笑いながら上を指すと、そこには憤怒の形相で土井垣が仁王立ちしていた。土井垣はドスの効いた低い声で二人に言葉を掛ける。
「お前ら…どうしてテレビカメラの前で俺の荷物を開けてるんだ…」
「番組特別企画、『抜き打ち荷物検査』で~す」
「うちは土井垣さんの荷物を調べさせてもらいました~」
「何ぃっ!?」
憤怒の形相の土井垣とは裏腹に、里中はのんびりと笑いながら、見られて腹が決まったのか三太郎も笑ってネタ晴らしをする。その言葉に土井垣は卒倒しそうな表情に変わる。卒倒しそうになりながらも、土井垣は低く重い口調で問いかけた。
「…お前ら…どこまで見た…?」
「ええ、色々と見させてもらいましたよ~。土井垣さんの予定表とか、隠し持ってた結婚指輪とか」
「…」
「どうして女性の指輪を持ってるんですか~?土井垣さん」
「三太郎…」
「それからこの指輪の主の『Hさん』て方との仲は、どこまで進んでらっしゃるんですか~?」
「里中…お前…」
興味津々といった様子の三太郎と、明らかに事情が分かっていて口を割らせようとしている里中の様子に、土井垣は呆然としながらも段々怒りのボルテージが上がってくる。土井垣はその心のままに声を荒げた。
「…お前ら…他人のプライバシーを勝手に覗くな!」
「だってそういう企画なんですから仕方ないでしょう?諦めて下さい」
「もうここまでばれちゃったんですから、公表しちゃったらどうですか?土井垣さん」
二人の言葉に怒りのボルテージが最高潮に達した土井垣は更に怒鳴った。
「やかましい!去れお前ら!」
「…と、いう訳で核心には迫れませんでしたが、これ以上土井垣さんを怒らせたくないのでこの辺りで失礼しま~す」
「レポーターは東京スーパースターズの里中智と俺、微笑三太郎でした~」
憤怒の形相を見せている土井垣とは裏腹に里中と三太郎は笑ってカメラに手を振って中継は終了した――
「…はーちゃん、大丈夫?またマスコミとか来たら大変だよ」
ここは弥生のマンション。弥生と葉月は二人でパジャマパーティをしながらテレビを見ていたのだ。弥生の自分を心配する言葉に、葉月はハーブティを飲みながら苦笑して応える。
「…そうなったら何とかするしかないわよ。今度は邪道かもしれないけど柊兄の手も借りるなりなんなりして被害を最小限に食い止めばいいでしょ」
「そうね、御館さんに頼めば何とかしてくれるか。…ところではーちゃん」
「何?」
「何ではーちゃんの指輪を土井垣さんが持ってるの?」
ハーブティを飲みながら問い掛ける弥生に、葉月はふっと虚空を見詰めて答えた。
「あれはね…『約束の印』なの」
「『約束の印』?」
不思議そうに更に問い掛ける弥生に、葉月は静かに言葉を紡いでいく。
「うん、新球団ができたシーズンから日ハムは北海道行く事になってたでしょう?だからその時のオフに結婚しよう、って話に何となく流れそうだったんだけどね。結局、新球団ができて土井垣さん北海道へ行かなくて済んだ代わりに、新球団の監督になっちゃったからね。ちゃんと監督の役目果たして欲しかったから、あたしから結婚は『新球団の基盤が固まるまで待つ』って申し出て延期してるの」
「そうだったんだ…」
「土井垣さんは『形式上せめて入籍だけでも』って言ってくれたんだけど、そういう騙し討ちみたいな事はしたくなかったし、だからって言ってそのまま結婚しちゃって生活ガラッと変わって新球団の基盤づくりに支障をきたしちゃうのも嫌だったから、『今はあたしの事より野球の事だけ考えて』って、あたし両方とも突っぱねちゃったんだ…」
「はーちゃん…」
寂しそうな葉月の表情に弥生は痛々しい気持ちになる。その様子を見た葉月は取り成すように微笑むと、更に静かに言葉を紡いだ。
「そうしたらね、土井垣さんそう言った次のデートの時に『結婚指輪だけは絶対に買う』ってお店に連れて行ってくれて…その場で買って『これは約束の印だ。基盤ができたらお前をちゃんと女房にするっていうな』って言ってくれたの…で、約束を形にするために、結婚するまではお互いの指輪を交換して持っていようって事になって、あたしは土井垣さんの、土井垣さんはあたしの指輪を持ってるって訳。…お守りはお互い自分の務めをちゃんと果たせる様にって事と、早く約束が果たせるようにって願いを込めた、あたしからのプレゼント。毎年一緒に新年のお参りがてら買いに行ってるのよ」
「じゃあ、はーちゃんも?」
「ん…ほら、ここにちゃんと」
そう言うと葉月は自分の荷物から大事そうに土井垣とは色違いの守り袋を取り出すと、中から指輪を取り出し、にっこり微笑んで弥生に見せた。その幸せそうな微笑みに弥生も幸せな気持ちになりながらも、からかう様に言葉を返す。
「もう…本当にごちそうさまな話だわ。胸焼けしちゃう位…あ~あ、あたしも土井垣さんみたいないい人、早く見つけたいなぁ」
「ヒナったら…」
葉月は恥ずかしそうに口ごもる。それから二人は楽しそうにまた話を弾ませていった。
――その後、この番組を見たチームメイト達から土井垣は『指輪の相手を紹介して下さい』とねじ込まれ、彼の表情がしばらく渋いものになっていたというのはまた別の話――