シーズンも中盤の7月に入り、今月は葉月と土井垣共々誕生日があるのでどちらかの誕生日がオフならその時に、どちらも試合が入っていたのならより近いオフの前夜にささやかなパーティを行い、オフ当日は葉月は夏の繁忙期で、土井垣はシーズンも中盤で疲れてきた身体と心をお互いに労わり合う様に例年は過ごしている。しかし今年のスターズは山田の故障が災いして苦戦気味。V3どころか下手をするとBクラス入り、最悪の場合最下位の可能性まで出てきてしまった。葉月はそうした状況で土井垣がかなり苦悩している事を分かっているので、いくらささやかでも例年通り過ごしたいとはどうしても言い出せなかった。それ以上に葉月は誕生日とは関係なく、本当なら今すぐにでも彼に言わなければならない事があるのだが、『その事』も悪い事ではないとはいえ土井垣の負担を増やす原因になると思い、今年は誕生日でも…いや、誕生日だからこそ気を抜いたり余計な負担になりかねないから会わないで、『その事』ももう少しスターズが安定してから言う事にしようと随分と前から寂しく、そして『その事』で嬉しさもあるが不安にもなっているため本当は土井垣に傍にいて欲しいという切ない気持ちを何とか振り切ろうと努力し、自分の決心もつけるために7月に入ってすぐにしばらく試合で遠征が多く会えない事もあり、携帯で土井垣に連絡を取った。数コール後、電話口から『葉月か?』という嬉しそうな優しい声が聞こえてくる。その声に胸が締め付けられながらも、彼女は静かに言葉を紡いでいく。
「ごめんなさい、将さん。大変な時に電話なんて…」
『いいんだ。葉月の声を聞くと俺は気持ちが安らぐし、頑張ろうという気になってくるんだ。だからこうして葉月から連絡を取ってきてくれた事が嬉しい』
「…そう」
 土井垣の言葉に嘘がない事は充分過ぎるほど分かっている。だからこそ身を切るほど切ない思いを抱えつつ、葉月は用件を話した。
「…あのね。今年の誕生日の事なんだけど…今将さんすごくチームの事で大変でしょう?だから…今年はお祝いするの止めた方がいいのかなって思って…ちゃんと軌道に乗ればいつだって会えるんだし、今はチームの事に全力を挙げて欲しいから…将さん、私の事は忘れて、チームの事に全力を注いで?…そうしてくれるのが…私にとって一番の誕生日プレゼント…だから…」
 自分で決意した事なのに、言葉にしていくとどんどん胸が苦しくなって、涙が零れそうになる。でも二人にとってこれが一番いい選択なのだ。誕生日だからと言って何かしなければいけない義務はない、何よりそれぞれの基盤をしっかりさせる事が大切なのだから――そう思いながら途切れ途切れに紡ぐ葉月の言葉を土井垣は静かに聞いていたが、不意にため息の様な息遣いが聞こえた後、ぽつりと彼が呟く声が彼女の耳に届いた。
『…困ったな』
「え?」
 土井垣の言葉に葉月が問い返すと、彼も静かに言葉を紡いでいく。
『…いや、お前に相談しないで事を進めたのは悪かったが、今年はどっちの誕生日も試合があるから、少し遅れるが13日がお互いオフだったろう?その日にこのところの不調の切り替えのためにもと思って、二人だけでちょっとよそいきのパーティをしようと場所を予約してしまったんだ。キャンセル料などを気にしている訳ではないんだが、このパーティは俺にとっても、お前にとっても絶対に大切なものだから…キャンセルしたくないんだ』
 その口調から、土井垣が心からその言葉を言っている事はすぐに分かる。でも自分にとっても絶対に大切だと彼が言いきる『パーティ』とは何なのだろうと思い、葉月は問いかける。
「将さん…あたしにも大切って…どうして?」
 土井垣はその問いの答えを濁し、言い聞かせる様に言葉を返す。
『それは…本当にお前には申し訳ないと思うが、今は言えない。…でも…本当に大切なものなんだ…だから…乗ってもらえないか』
 土井垣が核心の所を濁しているとはいえ、根本的なところは心から真剣に言っている事は痛い程分かった。その彼の心が葉月の決意を揺るがせ、彼の想いに包まれたいという欲求が勝ってしまった。葉月はその心のままの言葉を零す。
「…うん、将さんがそこまで言ってくれるのが嬉しいから…甘えちゃう」
『ありがとう。それで、本当に悪いが…パーティは準備から自前持ちだから、当日は朝が早いんだ。だから12日の夜から俺のマンションへ来てくれ。それで一緒に会場へ行こう。お前が当日安心して楽しめる様に…絶対試合には勝つから』
「…ん」
『じゃあ、12日まで多分会えないが…お互い頑張ろうな。俺もお前を励みにするから、お前も俺を…励みにして欲しい』
「…ん、そうする。もう一つの励みのためにも、将さんの頑張りを…励みにするわ」
『『もう一つの励み』?』
「あ、ううん?何でもない。…じゃあ将さん、もう遅いからゆっくり休んで」
『ああ、お前もゆっくり休めよ』
「うん、おやすみなさい」
 葉月は電話を切ると、土井垣の話の不思議さを思う。自分にはよほどの事がない限り隠し事をしない彼が濁している『パーティ』とは、一体何なのだろうか――

 そうして葉月の誕生日である7日のナイターと土井垣の誕生日である11日と、約束の12日のデーゲームは接戦ながらも勝利で終わり、葉月も出張の休憩中に、彼女にしては珍しくそっと携帯で試合結果を見て安心しながら自分の仕事を終らせた後、彼へのプレゼントを持って彼のマンションへと足を運ぶ。合鍵でオートロックのドアを開け、ドア前のインターホンを鳴らすと嬉しそうな土井垣の声で『葉月か?』という声が聞こえてくる。彼女が『うん…ただいま』と応えると、『すぐに開ける』という言葉の後にドアが開き、彼は出て来るや否や彼女を抱き締め額に軽くキスをすると『…会いたかった。お互いの誕生日もそうだが、今日も勝ったぞ』と囁く。葉月は普段はこうした場合どんなに嬉しい事があっても、人の目がありそうな所ではこれ程に感情を露わにしない彼の上機嫌な様子に不思議さを感じながらも、彼に会えた嬉しさと勝利の喜びを分け合える喜びを噛みしめながら、『…うん、知ってる。良かった。今日だけじゃなくって、あたしの誕生日にも、将さんの誕生日にも勝てて』と呟いた後は彼に抱かれるままになっていた。そうしてしばらく抱き合った後、彼は彼女を促して部屋へ入れると、『久し振りだから…お茶を入れてくれないか』と彼女にねだる様に頼んだ。彼女はこうした土井垣の子どもの様な面をよく分かっているのでにっこり微笑みながら『いいわ。緑茶と紅茶とハーブティ、どれがいい?』と問いかける。彼は少し考えると、『そうだな、葉月のハーブティが久しぶりに飲みたい』と答えたので、彼女は彼用にストックしてある数種類のハーブティをブレンドしていれ、蒸らしながら持っていき、リビングで座っている彼の隣に寄り添う様に座ると二人で買いそろえたティーカップと共に置いて口を開く。
「今日は試合で疲れてるだろうから、リラックスできる様にカモミールメインで、それにミントとレモンバームのブレンドにしてみたわ。カモミール単体よりすっきりしてて飲みやすいと思う…とりあえずホットで持ってきたけど、今日は暑いからアイスにする?」
 葉月の言葉に、土井垣は微笑みながら彼女を引きよせ、優しく囁く。
「あまり身体を冷やしたくないし、何より氷を持って来る間も惜しいから…このままでいい」
「…そう」
 葉月は土井垣の思いが分かる囁きに優しく微笑みながら、ティーカップにハーブティを注ぎ、二人は寄り添い合いながらハーブティを飲む。飲み終わった所で土井垣はキッチンを指して言葉を紡ぐ。
「夕飯は作っておいた。それに偶然だが、いい酒も手に入ったんだ。もし酔ったらちゃんと介抱してやるから…一緒に飲もう。いや…飲みたいんだ、明日の前祝いに」
 土井垣の言葉に喜びを感じながらも、葉月は自分が酒に弱いというだけではない、ある『理由』があるので、彼に申し訳ないと思いながらも、静かに頭を振って応える。
「ごめんなさい。本当は一緒に飲みたいんだけど…今は…ううん、これからしばらくは、どうしても飲めないの」
「どうした。二日酔いになったら困るという事か?」
「ううん…そうじゃないんだけど…ごめんなさい」
「珍しいな、俺に隠し事か?…まあ俺も今はお前に隠し事をしている身だから、強くは言えないか…じゃあ、俺だけ飲むのも何だか味気ないから飲める時に飲むか」
「…うん、ごめんなさい。でもしばらくずっと…うん、あと2~3年は飲めないわ、あたし」
「…?…」
 葉月の様子に怪訝そうな表情を土井垣はしばらく見せていたが、やがてふっと笑うと彼女の肩を抱いて立ち上がり、キッチンのテーブルに促した。
「…まあいいさ。酒は楽しく飲みたいからな。じゃあ飯にしよう。今日は少し腕をふるってみたぞ」
「ほんとね。おいしそう」
 そうしていつもよりほんの少し豪華な土井垣の手料理を二人で穏やかに食べて二人で片付けた後、食後のお茶をまた葉月が用意して一息ついたところで、葉月はプレゼントを差し出す。
「これ…誕生日のプレゼント。気に入ってくれると嬉しいんだけど…」
「ありがとう、今開けていいか?」
「うん」
 土井垣がラッピングを開けると、そこにはあまり知られていないブランドだが、シンプルな分使いやすく丈夫そうな財布が入っていた。葉月は恥ずかしそうににっこり微笑んで口を開く。
「前に会ってお茶飲んだ時、会計で将さんふっとお財布見て、『もう大分使い込んだから、壊れそうだな』ってぼそっと言ってたでしょ?だから壊れちゃう前に予備に新しいのを…って思ったの」
 土井垣はしばらく財布を見詰めていたが、やがて嬉しそうに彼女を引き寄せてキスをすると、その耳元に囁く。
「…ありがとう、そんなちょっとした一言まで気にかけてくれるお前の気遣いが…何より嬉しい」
「…うん、将さん、お誕生日おめでとう」
「葉月も…誕生日おめでとう…でも、俺のプレゼントは…申し訳ないが、明日まで秘密にさせてくれ。びっくりさせたいから…全部明日に回してしまったんだ」
「ううん…将さんがそうやってあたしの事を考えてくれるのが…何より嬉しい。それに、もう少ししたら…」
「もう少ししたら?」
 問い返す土井垣に、葉月はふっと自らが零した言葉に気づいたのか、取り成す様に微笑んでキスを返すと、悪戯っぽく言葉を紡ぐ。
「…あたしも、明日まで内緒。…将さんもあたしに何か内緒にしてるから」
 葉月の言葉に土井垣は苦笑いすると彼女をきつく抱き締めて囁いた。
「…仕方ないな。弱みはこっちにあるんだし…ああそうだ葉月、俺の結婚指輪は今も持っているよな」
「うん…ここに。どうしたの?」
「ちょっと今日明日は俺に持たせてくれ」
「いいけど…何で?」
「これも秘密だ…じゃあ明日が早く来る様に、今日はもう寝るか」
「…?…でも、そうね」
 そう言うと二人は寄り添い合いながら寝室に向かった――

 そうして翌朝土井垣は早朝に葉月を起こすと、二人で朝食を作り食べた後、彼の運転で車を走らせる。30分程走らせてあるホテルに着くと駐車場に車を止め、彼は彼女を促してホテルに入りフロントに『予約した土井垣です』と声を掛ける。フロントは彼の言葉にコンピュータを調べる様に見るとにっこり笑って『土井垣様ですね。ご予約承っております。そちらが新婦様ですか?』と二人に言葉を掛ける。彼女は『新婦』という言葉に訳が分からなくなりながら、恥ずかしさで顔を赤らめ戸惑っていたが、彼ははっきり『はい』と答えた。その言葉に返す様に『お持ち込みの衣装も昨日届きましたので、それに合わせた用意はできております。では新婦様はこちらにどうぞ』と従業員は彼女のみを促してホテル内の美容室に連れて行く。訳が分からないまま美容室に入ると、連れてきた従業員が中にいた美容師に『ご予約の土井垣様の新婦様です、よろしくお願いします』と彼女を引き渡した。戸惑っている彼女に美容師は笑顔で『おめでとうございます。改めてメイクとヘアメイクを致しますので、まずは今のメイクを落として下さい』と言って彼女に髪をまとめるゴムとクレンジングを渡した。訳が分からないままに、言われた通り化粧を落とすと美容師は彼女を椅子に座らせ、髪と肌の状態を見ながら『本当に肌もお顔立ちもおきれいですし、髪もしなやかでいい髪です事。これは腕のふるいがいがありますわ』と愛想よく言葉を紡ぐ。葉月が戸惑っていると、美容師は彼女の態度を勘違いしたのか『そうですわね。お二人だけのお式とはいえ、一生に一度の晴れ舞台ですものね。ちゃんと美しくなれるか心配ですわね。大丈夫です。最高に美しくいたしますから、ご安心下さいね』と、更に彼女の気持ちを引き立てる様に機嫌よく言葉を掛けた。
「あ、はあ…」
 曖昧に相槌を打ちながらも、美容師の機嫌のよい言葉に葉月は訳が分からなくなっていた。『新婦』…?『お式』…?誕生パーティじゃないのだろうか…?戸惑いながら鏡を見詰めていると、美容師は慣れた手つきでメイクやヘアメイクをしていく。
「この髪の長さと元のくせは生かしたいですわ…ベールと合わせると…軽くウェーブをかけてそのまま流しましょうか。…お顔立ちは可愛らしい感じですし、お肌の色は健康的な白さですからファンデーションはこの色で、全体的には上品さとほんの少し可憐さを演出しますね」
 そうしてあれよあれよと言う間に彼女は髪を巻かれ、メイクをされていく。そうして『はい、できましたわ。いかがですか?』と言われ鏡を見ると、彼女は目の前に映っている綺麗な女性が自分だとは思えなくてため息をついて呟きを返した。
「まるで…自分が自分でないみたいです。…もちろんいい意味ですけど」
「でもお似合いですよ。これにこれからドレスを着られたら、もっと美しくなりますわ。さあ、次は更衣室へどうぞ」
 そう美容師に促され併設している更衣室に連れて行かれると、そこには手縫いらしきシンプルだが上品な雰囲気の絹地にレースをあしらった純白のウェディングドレスと、可憐なばら色のカラードレスがそれぞれ一式ハンガーに掛けられていた。彼女は驚きながらも美容師に言われるままにまずウェディングドレスを着ていく。ドレスも、手袋も、ベールも、靴も、サイズからイメージまであつらえた様にぴったりだった。そして最後にカラードレスと同じ色合いのバラとかすみ草を主にしたブーケを渡されて、『はい、完成ですよ』と言われ、この思ってもみなかった事の流れに彼女が戸惑っていると、美容師が何やら内線を掛けた後彼女に向き直り『それでは丁度お時間ですので、スタッフを呼びましたわ。幸せなお式になります様に。この後もう一度お色直しでお会いしましょう』と微笑みかけて、丁度来たスタッフに彼女を引き渡す。彼女が戸惑いながらも静かにスタッフの案内に付いて行くと、ホテル内のチャペルに案内され、そこではモーニングを着た土井垣が既に入口で待っていて、近付いてきた彼女に気づくと優しく微笑みかけながら彼女に向って手を伸ばす。それで彼女は自分の鈍さに内心苦笑しながらも、それ以上に彼の贈ってくれた『プレゼント』への喜びが溢れてきた。嬉しさで涙を零す彼女の涙を彼はそっと拭い手を取ると、優しく囁く。
「泣くな。…せっかくの化粧が崩れるぞ」
「でも…嬉しいんだもの…」
「良かった…喜んでもらえて。…本当に綺麗だ」
「…ありがとう」
「これは、俺達だけの仮祝言だ。本当の式はもう少し先になってしまうが…俺の決意をちゃんともう形にしないといけないと…俺は分かっていたんだ。だから…これが、俺からの今年の『プレゼント』だ」
「…うん」
「ドレスはおばあさんと、御館さんの手縫いだ。お前が白無垢を着たいし、身内のみの小さな式にするつもりだから和装だけにしようとしていたのは分かっているが…俺は欲張りだから、ドレス姿も見たくて…俺の決意を形にするにもいいと思って、今回の事を思いついて、本当の式まで白無垢は取っておいて、今回の仮祝言をドレスにしようとこっそりおばあさんに頼んだんだ。おばあさんも『六花子だけでなく葉月にまでウェディングドレスが縫えて、洋裁学校を出たかいがあった』と喜んで縫ってくれた。…御館さんは式場選びを頼んだら『一番似合うドレスは自分が縫う』と言い出して自主参加で、カラードレスを縫ってくれた。…悔しいが、色から雰囲気から本当にお前に似合いそうなドレスを縫ってくれたな」
「…そうなんだ、おばあちゃま…柊…」
 周りの人間の愛が分かるこの『プレゼント』に胸が一杯になり、また泣きそうになるのをこらえて葉月はにっこりと精一杯微笑む。土井垣もそれを見て笑いかけると、彼女に囁く。
「…さあ、行こう。式を挙げるから」
「…うん」
 葉月は土井垣の腕に自分の腕を絡め、二人はチャペルへ入って行った。

 そうして二人だけの結婚式を挙げた後、写真撮影の準備の間に土井垣はそこで書いた結婚証書を『これが指輪以上の約束の証だ。…勝手だが、これを支えにもうしばらく待ってくれ』と言って葉月に渡そうとする。彼女はそれをやんわりと返すと、優しく微笑んで言葉を紡ぐ。
「ううん…これは将さんが持ってて?…あたしにはちゃんと、もっと大きな支えがあるから」
「葉月、どういう事だ?」
 訳が分からず問い返す土井垣に葉月は微笑んだまま更に言葉を紡ぐ。
「言ったでしょ?あたしも内緒の事があるって…まだ分らないみたいだから教えてあげる…耳を貸して?」
「…?…」
 そう言うと葉月は不思議そうに彼女の口元に耳を近付けた土井垣の耳にそっと『秘密』を囁いた。その内容に土井垣はしばらく茫然とした後、絞り出す様に呟く。
「おい…それは本当か…?」
「うん…ちゃんとお医者様に調べてもらったから本当よ」
「でもお前、その…そう言う事は…お前自身も…その、きっちりしていたじゃないか…」
「うん…だから…お医者様も『確率ではごくわずかだから、本当に『神様からの授かりもの』よ』って…」
 そう言って顔を赤らめ俯く葉月に喜びと今までにない愛しさがわいてきて、土井垣はドレスの重さやかさばりも気にならない風情で彼女を抱き上げ、歓声を上げた。
「そうか…!ありがとう葉月!何より最高の『プレゼント』だ!」
「でも、こうなると本当のお式はかなりもっと先になっちゃうわね」
「いいさ、楽しみが増えるだけだ。…その代わり、籍はこの後すぐにでも入れなければな」
「さあ…それはどうしようかしら」
 わざと迷う様な素振りを見せる葉月に、土井垣は叱る様に言葉を掛ける。
「何を馬鹿な事を言ってるんだ!もう俺達二人だけじゃない、新しい『家族』が増えたんだぞ!?安心してこの世に出て来られる様に環境を整えないといかんだろうが!」
「…いいの?」
「あたり前だろう!」
 土井垣の言葉に、葉月はふっと真剣な表情になると、静かに微笑んで呟く。
「…ありがとう」
「礼を言うのは俺の方だ。ありがとう、今日の幸せを倍…いや、それ以上にしてくれて。…これからは今以上にお互いに頑張って…絶対にこれからもずっと、幸せになろうな。…いいや、なってみせる」
「…うん、そうね、幸せになれるわね」
「ああ、大丈夫だ。今のお互いへの…それに『新しい家族』への愛を忘れなければな」
「…うん、忘れないわ、絶対に…将さんも忘れないでいてくれる?」
 葉月の言葉に、土井垣は彼女を引き寄せてキスをすると、ぶすっとした口調で呟く。
「…愚問だぞ」
 ぶっきらぼうだが彼の想いが分かるその口調と言葉に、葉月は幸せそうに寄り添って呟く。
「…そうね」
 そうして撮った写真に写されたのは今までの二人で最高の笑顔――