土井垣は抱き上げた葉月を寝室へ連れて行き、ベッドへ静かに降ろすと、ゆったりと抱き締めてその耳元へ囁いた。
「本当に…いいんだな」
「…ん」
 土井垣の囁きに、葉月は顔を赤らめながらも、静かに頷いた。彼はそれを確認すると、まず彼女に深く口付ける。こうしたキスにはまだ慣れていなくて、ぎこちなさがまだ残る彼女の反応を感じながら、土井垣ははやる心がどんどん抑えられなくなっていく。唇を離し、そのままその唇を首筋に這わせようとした時、不意に彼女がそれを制した。
「…待って下さい」
 土井垣は動きを止めると、彼女を見詰め、問い掛ける。
「やっぱり…駄目か?」
「そうじゃないの…もうちょっと…もうちょっとだけ決心も付けたいし、綺麗な身体にもしたいから…シャワー…使わせてもらえませんか?」
「ああ、そういう事か…」
 土井垣は葉月の言葉に頷くと、彼女に応える。
「そういう事なら…そうした方がいいかもな」
「ありがとうございます…後、できたらパジャマも貸してもらえると有り難いんですけど…この格好のままじゃ…その、後で眠れないし」
「分かった…ちょっと待っていろ」
 そう言うと土井垣はタオルと適当なパジャマを出してきて彼女に渡す。彼女はそれを受け取ると『じゃあ…お借りしますね』と言ってバスルームへ去って行った。彼はそれを見送ると、勢い良くベッドに倒れ込む。彼女と本当の意味で過ごす初めての夜。彼は自分の欲望が抑えられなくなっていくのを感じながらも、無垢な彼女を怯えさせない様にしなければという理性も同時に感じていた。もちろん自分はそれなりの年齢を重ねているので、今まで何度か女を抱いた事はある。でもその時とは違う何かを彼は感じていた。長い間の片想いが通じた様な充実感と、それをこの行為で壊してしまわないかという不安――そこに辿り着いた時、彼は恋というものをやっと知った様な気がした。そう、彼女への想いは恋を知らなかった頃から無意識に続いてきた十年越しの片想い。それがまさか叶うとは思ってもいなかった。しかし彼女からしたらどうなのだろう、もしかすると自分の想いばかり押し付けて、彼女はただそれに引きずられているだけかもしれない――欲望と理性、想いの熱さと冷静な思考――様々な感情が彼の頭を駆け巡る。
『まるで…青臭いガキだな』
 土井垣は自分自身の様々な感情に対して苦笑する。そして、自分をそこまで翻弄してしまう彼女という存在が、愛おしくも何故か同時に恐ろしく感じた。彼の知っている彼女は清らかで、無垢な乙女。しかしその清らかさが彼女を自分の所に留められず、自分の所に留めようとする彼を翻弄する。彼女の全てを自分のものにしたいという気持ちは本心だが、それと共に、そうする事で彼女の清らかさを奪ってしまいそうで、どこか躊躇も感じていた。しかし、彼女は自分の想いに応えてくれた。だとしたら彼女を心のままに自分のものにするのが正しいのだろう。きっと彼女もそれを望んだからこそ、こうして彼の想いに応えてくれたのかもしれないという思いに辿り着いた時、彼は自らの欲望だけで走らず、大切に、この行為が想い合う男女の自然な営みなのだと彼女へ伝えようと決心した。彼がその決心のまま一息ついて起き上がると同時に、葉月がパジャマに着替えて寝室へ戻って来た。
「…戻りました」
「…ああ」
 葉月の姿に土井垣は一瞬息を呑む。大分彼女のサイズより大きいサイズのパジャマを何とか引っ掛ける様にして着ているため、彼女がそうとはしているつもりはなくても、彼女が動く度に胸元が見え隠れする。その姿に大きいパジャマを着ている愛らしさと共に、胸元に目が行くとある種の艶かしさすら感じてしまう。そんな戸惑いで彼が言葉を失っていると、彼女は土井垣の隣に座り、同じ様にためらいがちに口を開く。
「…じゃあ、あたしはもう大丈夫ですから…その…」
 葉月の言葉に、土井垣ははっと我に返ると、自分も彼女とこうした関係になるという気持ちをまとめるためにシャワーを浴びようと思い立ち、それをそのまま言葉に乗せる。
「いや…俺もシャワーを浴びて来る。ちょっと待っていてもらえないか」
「…はい」
 葉月はためらいがちに頷いた。土井垣は自分もパジャマを持ってバスルームに入る。脱衣所から浴室に入ると、湯気に紛れていつもとは違う、ほのかに柔らかく甘い香りが彼の鼻腔をくすぐった。同じ石鹸を使っているはずなのに、自分と彼女ではここまで残り香が違うのかと驚くと同時に、彼女の残り香に彼自身が刺激されそれと分かる程に主張し始めたのに気付き、彼は苦笑する。体を洗ってシャワーを浴び、自分もパジャマに着替えて寝室に戻ると彼女はベッドの上に正座を崩した様な姿で座って、ぼんやりとしていて、彼が『…戻ったぞ』と声を掛けると、弾かれた様に彼を見詰め、恥ずかしげに俯いた。彼は寝室にある棚から『ある物』を取り出してベッドサイドに置く。彼女はそれを見て、これから起こる事を改めて実感したのか、更に顔を赤らめてもじもじし始めた。彼はそんな無垢な彼女が愛おしくて、彼女の隣に座るとふわりと彼女を抱き締める。
「…震えているな…やっぱり…怖いか?」
「ん…ちょっとだけ。…でも、大丈夫だから…」
「大丈夫だ…これは惚れ合っている男と女なら自然な事だ…でも、何か特別な事をしようと思わなくていい…まずは…ただ俺を感じてくれるだけでいい」
「…ん…」
「でも…本当に嫌になったらちゃんと言え。お前を怖がらせる位なら…止めるから」
「…分かった」
 葉月が頷いたのを確かめると、土井垣は先刻と同じ様に唇を首筋に這わせる。初めて感じる感覚に戸惑っているのか、彼女は小さな溜息をついた。首筋から耳朶に唇を這わせ、甘噛みすると、今度は切なげな溜息が聞こえてきた。その溜息に突き動かされ、彼は彼女のパジャマを脱がせていく。彼女を怯えさせない様にゆっくりと、一つ一つボタンを外していき、彼女の腕からするりと外す。と、彼女が不意に口を開いた。
「あの…」
「どうした」
「明かり…消してもらえませんか」
「…ああ、そうだな」
 明かりは普段より薄暗くしてはあったが、彼女にはやはり恥ずかしいのだろう。彼は彼女の言葉に頷くと、明かりを消し、代わりにベッドサイドのテーブルライトをつけた。
「これだけは許せよ…お前の顔は見ていたいんだ」
「…ん」
 土井垣は更に作業を進めて行ったが、葉月を押し倒してパジャマのズボンを脱がせた時、ふとここでどうしようか考える。下着だけはまだ付けさせておく方が彼女も安心するかもしれないが、むしろ一気に一糸纏わぬ姿にしてしまった方が、彼女の覚悟もできるかもしれないとも思う。動きが止まった彼に気付き、彼女は戸惑いと不思議さが混じった口調で問いかける。
「どうしたんですか?」
「え…いや…」
 自分の考えている事はさすがに直接は言えない。土井垣が言葉を濁していると、不意に葉月が起き上がり、自ら下着を外していった。一糸纏わぬ姿で彼に向き合った彼女に、彼の方が今度は戸惑う。
「…いいのか?」
「はい。まだ少し怖いですけど…もう、こうするって決めたんです。だから…あたしをちゃんと見て…感じて下さい」
「…ああ」
 葉月の決心に土井垣は驚くと同時に、薄明かりに照らされたその裸身に感嘆する。以前一度だけ薄衣を着けた姿で遠目から見た事はあったが、改めて間近で一糸まとわぬ彼女を見て、これ程までに綺麗だったのかと彼は言葉を失っていた。腰を覆う程まである豊かで美しい髪、薄明かりに彩られた乳白色の滑らかな肌、ほっそりとしながらも適度な肉がつき女性らしい曲線を持った柔らかな身体のライン、服の上から見ていたよりも豊かな胸――彼は思わず呟いた。
「綺麗だ…こんなにお前は綺麗だったんだな…葉月」
「…」
 土井垣の言葉に、葉月は髪で身体を隠しながら、恥ずかしそうに俯いた。彼は彼女の姿をしばらく見詰めていたが、ふと自分の姿を思い出し、彼も一枚、一枚、身に纏っているものを脱いでいった。衣擦れの音と共に彼も一糸纏わぬ姿になり、彼女に向き合うと、口を開く。
「さあ…これなら平等だな」
「…はい」
 葉月は一旦は土井垣の姿を見たが、すぐに恥ずかしそうに目を逸らした。初めて見る父親以外の男の裸身に戸惑っている様だ。彼はそんな彼女が愛らしく、思わず意地悪がしたくなり、悪戯っぽい口調で問い掛ける。
「俺の身体は…そんなに見たくないのか?」
 土井垣の言葉に、葉月は恥ずかしそうにぽつり、ぽつりと口を開く。
「そうじゃないの…男の人の裸って見るの初めてだから…恥ずかしくって…どうしたらいいのか分からないの…」
「そうか…じゃあ、見なくてもいいから感じろ…俺の身体を」
 そう言うと土井垣は葉月を抱き締めながらもう一度押し倒し、彼女を怖がらせない様優しく愛撫しながら、その身体に唇を這わせていく。耳朶から首筋、そして鎖骨へと唇を這わせる度、彼女は切なげな溜息を漏らす。そして胸へと唇が辿り着いた時、彼は心臓の辺りに赤い痕を付ける。その行為に彼女は切なげなか細い、しかし甘い声を上げた。痕が残っているのを見て彼女は恥ずかしそうに『どうして…?』と問い掛ける。彼はそんな彼女が更に愛らしく、愛おしく思えて、悪戯っぽく答える。
「これは…印だ。お前の心は俺のものだというな。お前も…俺に付けるか?俺の心はお前のものだからな」
「…」
 葉月は恥ずかしそうに顔を背ける。土井垣はそんな彼女に、ふと優しい声で言葉を掛ける。
「でも…本当だぞ。俺だって今…お前とこういう風になる事に…嬉しさもあるが、緊張もしている」
「嘘…」
「嘘だと思うなら、俺の鼓動を聞いてみるか?」
「…そうね」
 そう言われて、葉月は右手を土井垣の鎖骨辺りに付けて脈を確かめると、納得した様に頷く。
「本当だ…脈が速くなってる」
「おい…こういう時くらい医療の事は忘れろ。こうすればいいだろう?」
 そう言うと土井垣は葉月の手を引いて起き上がらせ、その耳に自分の胸を押し付ける様に抱き締めた。彼の行動に彼女は戸惑っていたが、やがて、その鼓動を聞いていて安心してきた様に、嬉しそうな声で言葉を零す。
「将さんの胸の音…あったかくって…気持ちいい」
「そうか…少し安心したか?」
「…ん」
「じゃあ…続きをするか」
 そう言うと土井垣は葉月をまた押し倒し、今度は胸の膨らみを手で包み、軽く刺激を与える。彼女はまた感じる新たな感覚に声を上げそうになるが、今度はそれを堪える様に口を手で覆う。その行動が土井垣には訝しく思え、彼女に声を掛ける。
「…どうした?」
「だって、声出すの…恥ずかしいもの」
「無理をするな…声を出した方が楽になれるぞ。それに…俺はお前の声が聞きたい」
「…嫌」
「…じゃあ、我慢大会だな」
 そう言うと土井垣はわざと強弱を付けて葉月の膨らみに刺激を与える。彼女はそれでも声を上げまいと口を覆っていた。その内に彼女の意思とは裏腹に身体は反応して、その胸の頂が主張をし始める。それを確認すると、彼はそれを口に含み、吸い上げ、舌で味わう様に転がす。その行為に彼女は羞恥心と快楽の狭間を彷徨い、堪えきれなくなり微かにだが甘く切なげな声を上げた。それを見て彼は悪戯っぽく声を掛ける。
「…ほら、我慢をしない方が楽だろう?…それに、こんなに可愛らしい声を聞かせないなんて、お前は意地悪だな」
「…将さんの方が…意地悪よ」
 土井垣の言葉に、葉月は頬を膨らませてまた顔をそむけた。彼女の反応が愛らしいと思いつつも、彼は自分でもこんなに意地悪な男だったのかと思っていたが、彼女の愛らしい反応を見ていると、つい意地悪がしたくなってしまう気持ちも確か。彼は好きな女の子をいじめる男の子の気持ちが少し分かった気がして苦笑した。そうしてしばらく彼は武骨な自分の身体とは違う彼女の柔らかな身体を愛しむ様に優しく愛撫していたが、その柔らかな体の感触や愛撫に反応し切なげな溜息や声をあげる彼女を感じている内に、彼女の核心に触れたくなってくる。その心のままに、唇をもう一度首筋に這わせて彼女を安心させながら、こっそりと右手を腹部から内腿へと這わせ、彼女の聖域へと手を滑り込ませた。彼女は驚いて身をよじろうとしたが、彼に押さえつけられ身動きが取れない。彼女の泉はもうかなりの蜜が溢れているのが滑り込ませた手指の感覚で分かったが、それでも初めての彼女ではまだ自分達が一つになるには足りない様な気がして、蜜を溢れさせ、『その時』に苦痛よりも快楽が勝る様に彼女の花芯を刺激する。彼女は今までにない強い感覚に堪えられず、更に甘い声を上げながらも、首をいやいやをする様に振り、抵抗する。
「あ…やめ…しょ…さ…はぁっ…」
「駄目だ…ここで止めて後で辛くなるのはお前の方だぞ。俺はお前の辛い顔を見たくない…少し…我慢しろ。それに…辛いんじゃなくて、むしろ…気持ちいいだろう?」
 花芯に刺激を与えつつ、時に彼女の泉にも指を入れ、その熱さを確認する様に胎内にも刺激を与えながら、わざと意地悪っぽく声を掛ける土井垣に、葉月はそれでも切なげな表情で弱々しく、甘い声で抵抗する。
「で…も…こ…んな…こと…はぁ……しょう…さん…の…いじ……わる…」
「意地悪で結構だ。…俺としてはお前のそんな表情が見られて、逆に嬉しい位だからな」
「しょ…さ…ひど…い…あ…ふぅ…」
 刺激を与え、自分の手が蜜で濡れていく感覚を感じているうちに、土井垣はふと葉月の蜜を味わいたいという衝動を感じたが、無垢な彼女に初めてのこうした行為でそこまでするのはいけないと自分を抑える。とはいえ自分の愛撫に反応する彼女の甘い声を聞いているうちに彼自身が主張し始めるのを感じ、彼は一旦彼女から身体を離すと、ベッドサイドに置いた『それ』を丁寧に彼自身に着ける。それを見ていた彼女は、この後に起きる事を察し、切なげな表情から一転怯えた表情を見せた。彼は彼女の所に戻ると、彼女を抱き締めて安心させる様に口を開く。
「大丈夫だ。これも自然な事なんだぞ…俺を信じろ」
「…」
 それでも葉月からは不安げな表情が消えない。土井垣はふと不安になり、彼女に問いかける。
「嫌…か?やっぱり…」
 土井垣の問い掛けに、葉月は不安げながらも真摯な口調で言葉を零していく。
「そうじゃ…ないの…でも、何だか…怖いのも確かなの……よく分からないけど…さっきからあたしの中で…何かがあたしに、襲い掛かってくる気がするの。…ねぇ…ここにいるのは…将さん…よね…?」
 葉月の言葉に不思議なものも感じたが、土井垣はそれに答えられるだけの答えを返す。
「ああ…俺だ。…お前に襲い掛かってくるものからは、俺が…守ってやる」
「…」
 葉月は少し迷う素振りを見せたが、やがて決心した様に頷くと、真摯な瞳で口を開く。
「…ごめんなさい。もう大丈夫…だから…ちゃんと、将さんを感じさせて…」
「…ああ、分かった」
 土井垣は葉月の蜜がちゃんと潤った事を確認すると、彼女を貫く。彼はきつい抵抗感を感じると共に、彼女が蜜で潤したとはいえ苦痛があるのか、辛そうな表情を見せる。それを見て、彼は心配そうに声を掛ける。
「やっぱり…辛い…か…?」
「だい…じょ…ぶ…でも」
「でも?」
「もう…少し…こうして…いて」
「…ああ」
 土井垣はゆっくりと彼自身を進めて行き、完全に一つになった所で止まる。苦痛を耐える様に唇を噛み締めている葉月を抱き締め、その額にキスをすると、彼女は苦しげながらもにっこりと微笑んだ。二人はしばらくそうしていたが、やがて彼女がゆっくりと口を開く。
「もう…大丈夫…だから…将さん…」
「…いいんだな」
「ん…」
 土井垣は葉月が頷いたのを確認すると、律動を始める。彼の動きに合わせて、彼女の胎内が彼を締め付けるのと同時に彼女が苦痛の表情を見せるのを見て、彼は本当にいいのだろうかとためらったが、その行為を止める事が出来ない。そうした自分の行動に戸惑いながらも律動を続けていると、次第に彼女が苦痛の表情から甘い陶酔を含んだ切なげな表情に変わっていくのを感じる。彼女も苦痛以外の感覚が湧き上がってきたのだと知り、彼は更に強く彼女を突き上げる。彼女の顔は陶酔と切なさを帯び、その胎内は収縮し、彼自身を締め付け刺激しながらも、彼女の心は苦痛とおそらく快楽であろう他の感覚を彷徨い、意識が混濁してきたのか、長い髪をベッドに広げ、うねらせながら、両腕を彼を探す様に虚空に彷徨わせ、うわ言の様に彼の名前を呼び始めた。
「しょ…さ…しょう…さ…ん…どこ…?…あたし…こわ……い」
 土井垣は虚空に彷徨わせている葉月の手首を掴むと、その手を自分の頬にもって行き、彼女の耳元に言い聞かせる様に囁く。
「ほら…俺はここにいる。…何も怖がらなくていい…お前は…俺が守る…」
「しょう…さん……あ……はぁぁんっ…!」
 土井垣の言葉に葉月は涙を零しもう一度彼の名を呼ぶと、今までで一番甘く、切なげな声を上げてその身体から力が抜ける。それに反応して彼も頂点に達し、間接的に彼女の胎内に彼の欲望を放出した。

 行為の後処理をした後、土井垣は葉月を抱き締めて、彼女の長い髪を愛おしさを込めて、そして彼女の心を宥める様にすいていた。彼女はまだ少し混濁した意識の中にいる様で、どこか虚ろな目に涙を零して震えながら、彼に身を擦り付けていた。
「葉月…やっぱり怖かったんだな。…すまん…」
 土井垣は葉月の様子に、結局はやはり自分の欲望を押し付けてしまった気がして、彼女が今分かるかは分からなかったが、謝罪の言葉を発した。と、彼の言葉に今まで泣きながら身を擦り付けていた彼女が、ゆっくりとその目に光を取り戻し、途切れ途切れにだが、呟く様に口を開いた。
「ううん、違うの。…途中で…何でか将さんが見えなくなって…よく分からない怖いものが襲ってきたの…でも…そんな時…将さんの声が聞こえて…あたしを引き戻してくれたのよ…将さんは…怖いものからあたしを守ってくれたの…だから…いいの」
「葉月…」
 土井垣は葉月の言葉が愛しくて、彼女を抱き締める腕に更に力を込める。彼女は更に口を開いた。
「…ねえ、将さん」
「何だ?」
「…キスして。…将さんがここにいるって…実感できる様に」
「…ああ」
 土井垣は葉月の言葉に応じて、深く口付ける。彼女も彼の存在を確かめる様に、ぎこちなく反応を返す。長い口付けの後唇を離すと、彼は呟く様に言葉を零した。
「本当は言いたいが…今、愛していると言っても…嘘になりそうだな」
「そう。…でも…愛してるまで行かなくても…将さんがあたしを好きって事は、何となくだけど…分かった」
「そうか…」
「うん。でね…あたしも…将さんの事が好きなんだって…ちゃんと分かった…だから…初めてこうする人が…将さんで…嬉しかった…」
「…そうか」
「…うん」
「…ありがとう」
 涙が止まり、柔らかな微笑みを見せ囁く彼女を彼はもう一度きつく抱き締め、更に深く口付けた。


――お互いの身体も心も通じ合い、溶け合っていく幸せを感じながら、二人の夜は更けていく――

…と、いう訳でやらかしてしまいました、男女カップリングのエロ系ネタ…。表も読んでらっしゃる方は分かるかと思いますが『ほどけた髪』のその後の話でございます。元々『ほどけた髪』が書けた時点で構想だけはあったんですが、一応ある程度健全を基本にしていることと、自分に書けるかという迷いがあって書かずにいたものです。でも裏を作った時点で、『やっぱり私の基本はノーマルカプだな…』と思っていたらいつの間にか書けていました(笑)。保健体育的描写なのは所詮こうしたものは書くのが経験不足のためまだ躊躇があるからだと思われ。本能で書く事がまだできぬ身ですので…むしろ前後のいちゃいちゃを書いてる方が楽しい自分がいます。やっぱりまだお子様なのかも(苦笑)。でも頑張ってこういうネタも上手く書ける様になりたいなぁとは思ってますので生暖かい目で見守って下さい(ぺこり)。

[2012年 05月 27日改稿]