――それは、ただひたすらに静かで密やかな、二人だけの儀式――

 義経は若菜を抱き締めると、深く口付ける。今夜は彼の故郷で過ごす最後の夜。その夜に若菜は自分の部屋で彼と共に過ごすと言ってくれた。その言葉に隠された彼女の本心が嬉しくて、熱い想いがこみ上げてくるのと同時に、本当は自らの満たされない感情を満たすために彼女を利用しているのではないかと思い、清らかな雰囲気を持つ彼女をこの行為で汚してしまいそうで、その口付けには一片の迷いを込めてしまった。それを感じ取ったのか、若菜も彼の腕の中で身体を震わせる。彼女も自分との関係の中に、自らの中に満たされないものが生まれたとは言っていたが、それでもこれから起こる事に、決意はしているものの怖れも感じているのだとそれで彼は感じ取り、彼女をきつく抱き締めたまま問い掛ける。
「…怖いのか」
 義経の真っ直ぐな問いに、若菜は不安げな表情を見せながら、ぽつり、ぽつりと答える。
「はい…正直に言いますけど…私、男の人とこうなるのは初めてで…おかしいですよね。この歳まで男性経験が無いなんて」
 そうやって自嘲気味な笑みを見せる若菜を慈しむ様に、義経は彼女の額に軽くキスをすると、安心させる様に優しく言葉を紡ぐ。
「いや…おかしいとは俺は思わない。むしろ、若菜さんが自分の身体を大切にしてきたんだって良く分かる。それに…」
「それに?」
「俺も…女性にこうして触れるのは初めてだから…始めて同士で…その相手が若菜さんで…嬉しい」
「…そうですか」
 義経の言葉に、若菜は恥ずかしげに俯く。彼はその彼女の顔を上げさせ、真剣な表情で更に問いかける。
「初めての事だから、若菜さんに辛い思いをさせるかもしれない…それでも…いいか?」
 義経の言葉に、若菜はふわりと微笑んで言葉を返す。
「はい…こうするって決めた時から、光さんに身を任せると決めたんです。それに…きっとこうなる事で私達は満たされなかった部分が満たされあうんだと思います。だから…いいんです」
「…そうか」
 義経は頷くと思いの熱さのままにもう一度若菜を強く抱き締め、彼女の首筋に唇を這わせながら、パジャマのボタンを一つ一つ外していく。彼女は初めて感じる感覚に戸惑い、小さな溜息を漏らした。そうしてパジャマをするりと脱がせた時、彼はふと息を呑む。暗がりに浮きあがる程白い透き通る様な肌、それを彩る緑なす長い黒髪と、黒く輝く瞳に赤く濡れた唇。華奢と言っていい程、思っていたよりもずっと細身の身体。小ぶりだが形のよい胸――彼は彼女の全てが清らかで美しいと感じた。しかし――その彼女の美しさと清らかさの全てが想いの熱さとは裏腹に彼を迷わせる。本当に自分は彼女を自分のものにしていいのだろうか。彼女を自分はこの行為で穢してしまうのではないか――そんな迷いのまま動きを止めた彼の様子を不思議に思い、恥じらいのため布団で身体を隠しながらも、彼女は彼に問いかける。
「…どうしたんですか?」
 若菜の問いに、義経は自分の迷いを言葉にしていく。
「このまま、何もしないで…寄り添い合って眠るだけの方が…いいのかもしれない」
「どうして…?」
 義経の言葉に若菜は哀しげな表情を見せる。その彼女を宥める様に抱き締めて、その耳元に更に自分の迷いを囁いていく。
「怖く…なってしまったんだ。俺の中に渦巻く想いの熱さも、満たされない部分を満たしたいという想いも変わっていない。しかし…ここにいる若菜さんは俺には余りに清らかで…美し過ぎる。そんな若菜さんを俺が独占していいのか…分からなくなったんだ。それに…こうして俺の想いの熱さと満たされない部分を押し付けるままに触れる事で…若菜さんの清らかさを奪ってしまいそうで…それが、俺は怖いんだ…」
 そう言ってうなだれる義経を若菜はしばらく見詰めていたが、やがて頬を両手で包み込んで顔を上げさせると、自分から深く口付ける。驚いた彼に、彼女は寂しげに、しかし決意の籠った口調で言葉を掛ける。
「どうあろうとも…私はこうするって決めたんです。それに…私は、そんな風に大事にされて喜ぶ様な、ガラスケースの中の人形じゃありません。生きて…光さんを愛している一人の女です。だから、そんな哀しい事を…言わないで下さい…」
「若菜さん…」
 義経は若菜の想いを感じ取り、迷っていた自分が恥ずかしいと思った。そうだ。自分達は愛し合っている者同士。だからこうするのは自然の営みなんだ――そこへ辿り着いた彼は、彼女を改めてしっかりと抱き締め、静かに言葉を紡いだ。
「すまない。…俺の勝手な迷いで…若菜さんを傷付けてしまったかもしれない」
 その言葉に、若菜は静かに、しかし決意の籠った口調で言葉を返す。
「いいえ…光さんが私の事を考えてくれて…それは嬉しいんです。だから…あえて言います。私を…抱いて下さい。あなたを愛している私を…あなたの想いのままに。私も…あなたの想いで満たされたいんです」
「若菜さん…」
 驚いて義経が若菜を見詰めると、彼女は心からの優しさと愛しさを込めた表情で自分に微笑み掛けていた。その微笑みに返す様に彼も彼女に微笑み掛けると、静かに呟いた。
「ああ…もう迷いはない。あなたは…俺のものだ」
「…はい」
 義経は彼女を抱き締めたまま布団に押し倒し、身に纏っているものを全て外すと、自らも同じ様にし、体中に掌や唇を這わせていく。彼女は初めて感じる快楽とも何ともつかない感覚に戸惑う様に溜息を漏らしていく。
「ふぅ…」
 そうして優しく愛撫していくうちに、彼女の白い肌が段々と色づいていく。そうしてもう一度首筋に唇が辿り着いた時、彼女は初めて甘やかな声を上げた。
「あ…」
 義経は彼女が快楽も感じてきたのだと分かり、今度は小ぶりの胸に手を掛け、軽く刺激を与える。彼女はその感覚にも素直に反応して、小さくだが声を上げた。
「う…ん」
 その内胸の頂が主張してきたのを確かめると、義経は衝動のままにその頂を口に含む。そうして舌で味わっていると、若菜は小さくだが拒む様な声を上げた。
「いや…」
 その言葉に、義経は自分のした事を後悔し、胸の頂から口を離すと、彼女に謝罪の言葉を囁く。
「すまない…嫌…だったか…」
 若菜はその謝罪にふと顔を赤らめ、宥める様に微笑むと、静かに言葉を返す。
「そうじゃ、ないの…何だか…自分が自分でなくなる様な感じがして…恥ずかしくて…ごめんなさい。私は…大丈夫だから」
「そうか…でも…本当に嫌だったら言ってくれ…若菜さんに嫌な思いをさせる位なら…何もしない方がいい」
「…ええ」
「続きをして…大丈夫か?」
「ええ…大丈夫。あなたの…心のままに…」
「…ああ」
 義経は頷くと、もう一度胸の頂を口に含み、もう片方の膨らみにも手を掛ける。二つの異なる快楽に、若菜は次第に溺れていく様子を見せ始めた。
「はぁ…ん…あぁ…」
 その甘く切ない表情に突き動かされて、義経は彼女の聖域へと手を滑り込ませた。花芯に触れた途端、彼女はビクンと身体を震わせ、花芯に刺激を与える度、更に甘やかな声を上げていく。
「うんっ…あ…やぁ…」
「大丈夫か…?嫌じゃないか…?」
 若菜の敏感な反応に義経の方が不安になり、声を掛ける。彼女は快楽に溺れながらもまだ理性が残っている様で、その言葉に困惑した微笑みを見せ、小さく呟く様に応える。
「大丈夫…嫌じゃ、ないわ。…でも、こんな…恥ずかしい…ところ…あなたに、みせてる…」
「そんな事ないさ…今の…あなたも、とても…魅力的だ…」
「…」
 義経の言葉に彼女は更に恥じらいの様子を見せる。その二つの表情が彼にはとても魅力的で、もっと彼女の色々な姿が見たくなり花芯を愛しみながら、彼女の身体の感度が高い所も愛撫しながら探して、蜜を溢れさせる。彼女はその与えられる快楽に素直に反応し、身をよじらせながら切なげな表情を見せ、一際甘い声を上げていく。
「あぁ…んっ…はぁっ…ぁ…」
 その甘やかな声と、蜜で手が濡れていく感覚に更に欲望が駆り立てられ、義経は衝動のままに彼女の泉に顔を埋め、蜜を味わっていく。更に強くなった快楽に若菜は溺れ、更に高く甘い声を上げた。
「ぁぁん…!ひか…るさぁ…ん」
 蜜を花芯ごと味わい、更に溢れさせ、彼女の溜息や声の様子で快楽が最高潮に達したと感じた義経は、想いの熱さを彼女に直接伝える様に、とうに主張していた彼自身で彼女を貫いた。彼女はきつい抵抗感とともに彼を受け入れる。彼は初めてこうする彼女が辛くない様にとゆっくりと彼自身を進めていったが、それでも苦痛は避けられなかったのか、若菜は苦痛の表情と声を漏らした。
「くぅっ……!……んんっ…!」
 若菜の苦痛に歪む表情と声が義経は不安になり、そっと彼は囁く。
「辛かったら…やめようか…?」
 その言葉に、若菜は苦痛の表情ながらも一生懸命に微笑みかけ、頭を振って応える。
「いいの…少し…辛いけど…その辛さで光さんを…感じる事ができるから…それが嬉しいの。だから…大丈夫」
「若菜さん…」
「お願い…続けて」
「…ああ」
 義経は完全に一つになった所で若菜を抱き締め、キスをする。彼女はそれを受け、苦痛の表情はまだあったが、苦痛を逃がす様に大きく息を付いた後、ふわりと微笑んだ。その表情に駆り立てられて、彼は弾かれた様に律動を始める。彼女は長い髪を乱れさせながら、やはり苦痛を逃がす様に息をついていたが、やがてふとほんの一瞬だけ甘い陶酔を含んだ表情を見せた。彼は彼女に苦痛以外の感覚を与えられた事に喜びを感じながら、その表情を見せる所を探し出し、その場所を突き上げていく。彼女は段々と苦痛も感じてはいるが、快楽の方が強くなってきた様子を見せ、一際高い甘い声を漏らす。
「んんっ…ぁ……ん…あぁ……」
 彼はただひたすら彼女に苦痛ではなく快楽を与えようと律動を続けていると、その内自らにも快楽が訪れた。彼は初めて感じる強い快楽の感覚に溺れかけながら、彼女を見詰める。彼女は甘く、切なげな表情を彼に返す。今ここにあるのはお互いの存在だけ。快楽以上に二人でいるこの空間の幸福感に満たされ、二人は快楽以上にその幸福感に溺れていく――
「ひか…る…さん…もう…」
「ああ…わかな…さん…おれ…も」
 二人は快楽を越えた幸福感の中で、一つに溶け合っていった――

「どうしよう…シーツが……」
「気にしなくていい…母さんもこうなると分かっていて若菜さんを俺の部屋へ入れたんだから…咎めやしないさ」
「でも…恥ずかしくて…こんな、証拠を残す様な事になって…」
 困り果てる若菜の表情も愛しくて、でも、彼女を困らせるのは本意ではないので、義経は優しく言葉を掛ける。
「じゃあ…明日朝一番に俺が布団カバーと一緒に洗濯に出そう。どうせ明日帰るんだから、シーツを洗濯してもおかしくないだろう?」
「…ありがとう、光さん」
 やっとの事で微笑みを見せた若菜を、義経は抱き寄せてキスをする。若菜は優しくそれを受け入れた後、ふと思い出した様に恥ずかしげな口調で更に言葉を重ねる。
「そうだ、洗濯に出す時は…血の部分は必ずお湯じゃなくて水と石鹸で予洗いしてから出して下さいね。でないと染みが…残ってしまいますから」
「ああ…分かった。そうするよ。若菜さん、気を遣ってくれてありがとう」
「…いいえ」
 そうして二人に暖かだがどこか気まずい沈黙が訪れる。しばらくの沈黙の後、義経は彼女をもう一度抱き締めてそのまま寝かせると、彼女に優しく囁いた。
「さあ、疲れたろう…?もう眠ろう」
「でも、こんな風に寝て肩とか腕に何かあったら…」
 心配そうな表情を見せる若菜に、義経はふっと笑って更に囁く。
「いいんだ…若菜さんがここにいて…俺と…一緒になったんだって実感したいんだ」
「光さん…」
 義経の言葉に、若菜はふと嬉しそうな表情を見せると、こちらも囁く。
「私も…光さんと一緒になったって…本当は実感したいの」
「だからいいんだ。…今夜だけは…こうして眠ろう」
「…はい」
 若菜は幸せそうに身を寄せると、そっと義経にキスをして、安らかな寝息を立て始める。義経は自分の腕の中の彼女の暖かな体温を感じながら、お互いに満たされない部分が満たされた幸せな思いのままにこちらも彼女にキスをして、目を閉じた。

 …はい、『山伏故郷に帰る』の直接描写の部分でございます。土井垣さんと葉月ちゃんと違ってお互いの初めての行為に対する初々しさと、初めての行為での若さゆえの暴走を全面に出したくてこうなりましたが…いまいちワンパターンに陥っている気がしないでもありません。でも二人はお互いに求め合っていてこういう行為に行ったという事が書きたくてこうなりました。で、お互いを満たしあった二人は、更に深く繋がる事ができると信じて書きました。…しかしこれから表に書くクリスマスパラレルSSでここでの成果(爆笑)が書かれる予定です。いや、メインは弥生ちゃんと三太郎なんですが、ちょっくら書きたい事が出てきたので…もっと直接的な事は裏に書くかもしれません。でも皆(私的な)幸せは与えるつもりです。…しかし義経、『シーツを洗う』と言っておきながら表の様子だと忘れてそうなので、結局お母さんに見付かって『まあ…』となる確率95%(爆笑)…後でねちねち言われるんだろうな〜。そんな想像をすると笑えます。でも幸せになって欲しいのは本心。どうか幸せになってね。
 たまには単発801も書きたい自分ですが、やっぱノマカプの方が書きやすい自分…でも精進してみます、はい。

[2012年 05月 27日改稿]