2015年元旦、土井垣と葉月は朝食の雑煮を食べた後、炬燵に二人で入りお茶を飲みながら二人に届いた年賀状や年始メールを眺めつつ楽しく話していた。
「…ご挨拶としての年賀状だけでこんなに。毎年こうやって年賀状見てると将さんはやっぱりプロ野球チームの監督なのね。出し忘れた方がいないといいけど」
「そういうお前も何やかやで結構職場の同僚や友人から年賀状やメールが届いてるじゃないか。仕事で人と良く関わっているし趣味も多いから顔も自然と広くなる様だな。…しかし、毎年の事だが、どうしてチームメイトの連中は賀状を出すのにわざわざ俺とお前で別に出してくるんだ。どうせ届く場所は同じだし結果的には見られてしまうのに」
ぶすっとした表情と口調で言葉を零した土井垣に対して、葉月は優しく宥める様に言葉を返す。
「きっとチームメイトの皆さんからしたら今までや普段のお付き合いも考えてあたしを将さんの奥さんって立場より個人的な『友人』として扱ってくれてるのよ。だから一応上司に対して出すものと、友人に対して出すものは分けた方がいいって事じゃないかしら。だって皆さん揃って将さん宛てのものは公的な形式だけど、私宛てのものは個人宛て用の砕けたものだし、私自身もそうした年賀状を出している訳なんだから」
「まあ、それもあるんだろうが何となく俺としては釈然としない。…もうこれで4度目の正月なんだから、公的だろうが私的だろうがそろそろ一枚に纏めてどっちの名前が先でもいいから連名の宛名で出して来いと思うぞ?俺としては」
「…」
少し面映さも含んだ不機嫌な口調で紡ぐ土井垣の言葉の意図を理解した葉月は、やはりうっすらとだが最初の頃からずっと自分も持っている面映い感情が自分も強くなり、何も言えなくなる。そうしてしばらく面映さと何とも言えない気まずさが混じった沈黙の後、その雰囲気を何とか破ろうと明るく葉月が改めて口火を切る。
「…ほ、ほら、でもそのおかげで二種類の年賀状が楽しめるし、お年玉くじだってその分当たるチャンスができる訳じゃない、そうないわよ?こんなお得な事って…それより、ねぇこれ柊からだわ。相変わらずシンプルだけどデザインのセンスがいいわね。このセンスは見習おっと」
「悔しいが確かにそうだな。…ああ、これは美月ちゃんからだぞ。今年は宛名も教わりながらだろうが全部自分で書いたみたいだな」
「本当ね。手描きのイラストも可愛いし、名前も全部漢字で書いてる。今年はもう3年生だし毎回会った時のおしゃべりを聞いてると『もう大きいお姉さんだもん』って頑張ってるみたいね。…あ、これは道場のおじいちゃまからだわ。今年は墨絵も綺麗で字もしっかりしてるし、本当に元気になったみたいで嬉しい」
「そうだな。こっちは里中からだぞ。家族写真の年賀状とは、里中もやっと『家族』が増えたのが嬉しくて仕方がないんだな。…しかしいくら男の子とはいえ、あの二人から産まれたのにどうしてこうも山田に似ているんだ」
「まあまだ産まれたばっかりだし、元々おっきく産まれた赤ちゃんだから山田さんに似てるって思うだけで、この後育っていくと段々二人に似てくるんじゃない?…その山田さんの所も家族写真よ。こっちは女の子二人だからでしょうけど段々彩子さんとサチ子さんに似てきているみたい」
「確かにそうだな。こっちは守からか。…おい、これは…あいつは今から息子に自分と同じ格好をさせる気なのか?」
「ああそれ?真理ちゃんから聞いたけど、不知火さん自身は「俺とこいつは事情が全く違うんだから普通にやっていたら逆に目が悪くなりそうな事はやらせたくない」って止めてるんだけど、それでもやりたがるんですって。…きっとお母さんがいつも『かっこいいわね、素敵ね、大好き』って言ってるお父さんだから、自分もそう言われたくて真似してるのよ」
「そんなものか?」
「そんなものよ。そういえば似た様な話を微笑さんもしてるんでしょ?『東京から京都に弥生さんと娘が会いに来る度に自分が褒めるからか弥生さんのする事を全部真似したがってちょっと困る』って。同じ話をあたしもヒナから聞いてるし、実際そうしてるのも見てるもの」
「そうか、そういえば義経も『最近息子も自我ができてきたのか、冬の荒行に付いて行きたがる様になってしまって言い聞かせるのに少々困っている』と言っていたものな。…まあ、もう少し大きくなったら修行はともかく礼儀作法を身に着けさせるために休みの間何日かでも実家から神保さんに付き添ってもらいながら通う形で道場へ連れて行く事は考えているとも言っていたが」
「そうなの。皆それぞれに大変で…でも、幸せなのね」
「…そうだな」
そう言った所で二人はまたふと言葉が途切れ、沈黙する。そうしてまたしばらくの何とも言えない沈黙の後、やはり葉月が改めて口火を切った。
「…あら、お茶なくなっちゃったわね。おかわりいれましょうか、それとも将さんは『いらない』って言ってたけどやっぱりお酒かお屠蘇を用意する?今からでも用意できる様にはしてあるから、用意しようと思えばすぐできるわよ」
葉月の言葉に土井垣は静かに頭を振ると、彼女に面映さと愛おしさが混じった優しい表情と口調で言葉を返す。
「いや…いい。年末に言った通り今年の我が家はお節はともかく酒やお屠蘇はなしだ。だから…その代わりに去年俺が買ってきた桜茶をいれてくれないか。これなら酒が飲めないお前も飲める『祝いの飲み物』だからな」
「…そう、じゃあ折角だからお菓子と一緒に用意するわ」
彼の言葉に彼女も彼と同じ面映さと愛しさに加えて嬉しさが混じった優しい笑顔を返すと少し改まった時に使う湯呑みに桜茶をいれ、買っておいた羊羹と共に彼に勧めると、先刻とは違い、彼の隣に入り込んで甘える様に寄りかかり、言葉を零した。
「…桜の花が開いた見た目も綺麗だしこの香り。…お湯呑みの中が文字通り『初春』ね」
「そうだな。…どうだ?いい香りだろう。これが『春の香り』だぞ」
寄り添いながら言葉を零す彼女に彼は言葉を返すと、同時に彼女の腹部を撫でる様に手を当て、その『掌の先の存在』に話し掛ける。彼女もそんな彼に倣う様に彼の手に自分の手を重ねる形で自分の腹部に当てて微笑んだ。そこにいるのは4年経ってやっと訪れた、『それ』とはまだ分からぬ程小さな…しかし確かにこの中で息づいている、二人がずっと待ちわびていた存在。年齢の事もあり一時は諦めていたが、結果としてこうなった今から思うと、自分達がここまで待つ事になったのは、自分達二人が万全な状態で『訪問者』を無事に迎え入れるために必要な準備期間だったのだと自然に思えた。籍を入れた直後に職場から彼女が『結婚祝い』という冗談半分の口実で――実際は彼との結婚を機にいくら体調管理がしっかりできていて重要な主力にもなっているとはいえ元々身体があまり強くない、そうでなくても本来ならこの半分の期間で異動を考慮しなければならなかった女性である彼女をこれ以上不規則で多忙な健康診断の現場に置き続ける事は、今後の彼女の健康だけでなく彼女自身の生活を考えても良くないと判断され、同じく多忙ではあっても元の職場よりは格段に彼女の身体の負担が少なく、加えて元来の性格にも合った現場に就かせる事で彼女本来が取るべき優先順位を気兼ねなく行使させようという周囲の配慮によって――丁度改築が終わり元々の診療科に加え小児科を新設した診療所の主任へと昇格を兼ねた異動の辞令が出され、新しい部署に移って働いていく中で、それまでの不規則な仕事や生活で彼女が知らぬうちに負っていた心身の深い部分にあったダメージがゆっくりと癒されていき…今準備が整ったからこそ、この小さな生命もこうして訪れる事ができたのだろう。そんな事を思いながら二人は寄り添いあい、悪戯っぽい、だが同時に優しい口調で小さく大切な生命に更に語りかける。
「お前のせいで俺達は「こんな寒い時期に無理して来なくていいから」と年始の挨拶すら門前払いをされてしまったんだぞ?だから…その代わり、暖かくなってこの茶の花が外で満開になったら…俺達と一緒にお前も行こうな。ちゃんと皆に挨拶をしに」
「そうね。そうしてその後…そう、紫陽花がとっても綺麗な頃にちゃんと顔を合わせる事ができるのよね。そうしてここに出てきたら、この桜茶やその元のお花ももちろんだけど…他にももっといろんな物を沢山見て、聞いて、感じて、味わって…先に待ってる皆みたいに一緒にいろんな事をしながら泣いて、笑って、怒って…そんな風に過ごしていきましょうね」
「俺達だけじゃない、皆が…そうやってお前と一緒に過ごしていくのを楽しみに待っているんだからな。だから…慌てず、安心して出てくればいい」
「あたしも、将さんも、他の皆も…あなたを思いっきり愛したくて待っているんだから…心配しないで出ていらっしゃいね」
そうして二人は寄り添いあって桜茶と羊羹を口にしながら幸せな気持ちで語り合い続けた。
「…しかし、こいつの年賀状は結婚したのに相変わらずというか…むしろエスカレートしていないか?あの女房と結婚したら少しは嗜めてくれて落ち着くかと思ったんだが、実際は女房も同じノリの性格だったとは…どちらも普段の姿からは全く想像できないんだがなぁ」
「あたしは好きですけどね、個人的な好みで言えば。…ただ、断りたかったとしても断れなくて付き合わされてる『この子』がちょっと可哀想かなって事は思いますけど。…そうだとしてもやっぱり可愛いな、このモコモコの羊服着た嵐君」
「そういえば…向こうもうちとそう変わらん時期に子供が生まれるんだよな。こんな事を言うと新年早々鬼に爆笑されそうだが…来年の年賀状を想像すると今からちょっと怖いぞ」
「嵐君と産まれた赤ちゃんも混じった三人と一匹の家族写真なんて、ほのぼのしていていいじゃないですか」
「…『まともな家族写真』ならば…だがな」
「…ご挨拶としての年賀状だけでこんなに。毎年こうやって年賀状見てると将さんはやっぱりプロ野球チームの監督なのね。出し忘れた方がいないといいけど」
「そういうお前も何やかやで結構職場の同僚や友人から年賀状やメールが届いてるじゃないか。仕事で人と良く関わっているし趣味も多いから顔も自然と広くなる様だな。…しかし、毎年の事だが、どうしてチームメイトの連中は賀状を出すのにわざわざ俺とお前で別に出してくるんだ。どうせ届く場所は同じだし結果的には見られてしまうのに」
ぶすっとした表情と口調で言葉を零した土井垣に対して、葉月は優しく宥める様に言葉を返す。
「きっとチームメイトの皆さんからしたら今までや普段のお付き合いも考えてあたしを将さんの奥さんって立場より個人的な『友人』として扱ってくれてるのよ。だから一応上司に対して出すものと、友人に対して出すものは分けた方がいいって事じゃないかしら。だって皆さん揃って将さん宛てのものは公的な形式だけど、私宛てのものは個人宛て用の砕けたものだし、私自身もそうした年賀状を出している訳なんだから」
「まあ、それもあるんだろうが何となく俺としては釈然としない。…もうこれで4度目の正月なんだから、公的だろうが私的だろうがそろそろ一枚に纏めてどっちの名前が先でもいいから連名の宛名で出して来いと思うぞ?俺としては」
「…」
少し面映さも含んだ不機嫌な口調で紡ぐ土井垣の言葉の意図を理解した葉月は、やはりうっすらとだが最初の頃からずっと自分も持っている面映い感情が自分も強くなり、何も言えなくなる。そうしてしばらく面映さと何とも言えない気まずさが混じった沈黙の後、その雰囲気を何とか破ろうと明るく葉月が改めて口火を切る。
「…ほ、ほら、でもそのおかげで二種類の年賀状が楽しめるし、お年玉くじだってその分当たるチャンスができる訳じゃない、そうないわよ?こんなお得な事って…それより、ねぇこれ柊からだわ。相変わらずシンプルだけどデザインのセンスがいいわね。このセンスは見習おっと」
「悔しいが確かにそうだな。…ああ、これは美月ちゃんからだぞ。今年は宛名も教わりながらだろうが全部自分で書いたみたいだな」
「本当ね。手描きのイラストも可愛いし、名前も全部漢字で書いてる。今年はもう3年生だし毎回会った時のおしゃべりを聞いてると『もう大きいお姉さんだもん』って頑張ってるみたいね。…あ、これは道場のおじいちゃまからだわ。今年は墨絵も綺麗で字もしっかりしてるし、本当に元気になったみたいで嬉しい」
「そうだな。こっちは里中からだぞ。家族写真の年賀状とは、里中もやっと『家族』が増えたのが嬉しくて仕方がないんだな。…しかしいくら男の子とはいえ、あの二人から産まれたのにどうしてこうも山田に似ているんだ」
「まあまだ産まれたばっかりだし、元々おっきく産まれた赤ちゃんだから山田さんに似てるって思うだけで、この後育っていくと段々二人に似てくるんじゃない?…その山田さんの所も家族写真よ。こっちは女の子二人だからでしょうけど段々彩子さんとサチ子さんに似てきているみたい」
「確かにそうだな。こっちは守からか。…おい、これは…あいつは今から息子に自分と同じ格好をさせる気なのか?」
「ああそれ?真理ちゃんから聞いたけど、不知火さん自身は「俺とこいつは事情が全く違うんだから普通にやっていたら逆に目が悪くなりそうな事はやらせたくない」って止めてるんだけど、それでもやりたがるんですって。…きっとお母さんがいつも『かっこいいわね、素敵ね、大好き』って言ってるお父さんだから、自分もそう言われたくて真似してるのよ」
「そんなものか?」
「そんなものよ。そういえば似た様な話を微笑さんもしてるんでしょ?『東京から京都に弥生さんと娘が会いに来る度に自分が褒めるからか弥生さんのする事を全部真似したがってちょっと困る』って。同じ話をあたしもヒナから聞いてるし、実際そうしてるのも見てるもの」
「そうか、そういえば義経も『最近息子も自我ができてきたのか、冬の荒行に付いて行きたがる様になってしまって言い聞かせるのに少々困っている』と言っていたものな。…まあ、もう少し大きくなったら修行はともかく礼儀作法を身に着けさせるために休みの間何日かでも実家から神保さんに付き添ってもらいながら通う形で道場へ連れて行く事は考えているとも言っていたが」
「そうなの。皆それぞれに大変で…でも、幸せなのね」
「…そうだな」
そう言った所で二人はまたふと言葉が途切れ、沈黙する。そうしてまたしばらくの何とも言えない沈黙の後、やはり葉月が改めて口火を切った。
「…あら、お茶なくなっちゃったわね。おかわりいれましょうか、それとも将さんは『いらない』って言ってたけどやっぱりお酒かお屠蘇を用意する?今からでも用意できる様にはしてあるから、用意しようと思えばすぐできるわよ」
葉月の言葉に土井垣は静かに頭を振ると、彼女に面映さと愛おしさが混じった優しい表情と口調で言葉を返す。
「いや…いい。年末に言った通り今年の我が家はお節はともかく酒やお屠蘇はなしだ。だから…その代わりに去年俺が買ってきた桜茶をいれてくれないか。これなら酒が飲めないお前も飲める『祝いの飲み物』だからな」
「…そう、じゃあ折角だからお菓子と一緒に用意するわ」
彼の言葉に彼女も彼と同じ面映さと愛しさに加えて嬉しさが混じった優しい笑顔を返すと少し改まった時に使う湯呑みに桜茶をいれ、買っておいた羊羹と共に彼に勧めると、先刻とは違い、彼の隣に入り込んで甘える様に寄りかかり、言葉を零した。
「…桜の花が開いた見た目も綺麗だしこの香り。…お湯呑みの中が文字通り『初春』ね」
「そうだな。…どうだ?いい香りだろう。これが『春の香り』だぞ」
寄り添いながら言葉を零す彼女に彼は言葉を返すと、同時に彼女の腹部を撫でる様に手を当て、その『掌の先の存在』に話し掛ける。彼女もそんな彼に倣う様に彼の手に自分の手を重ねる形で自分の腹部に当てて微笑んだ。そこにいるのは4年経ってやっと訪れた、『それ』とはまだ分からぬ程小さな…しかし確かにこの中で息づいている、二人がずっと待ちわびていた存在。年齢の事もあり一時は諦めていたが、結果としてこうなった今から思うと、自分達がここまで待つ事になったのは、自分達二人が万全な状態で『訪問者』を無事に迎え入れるために必要な準備期間だったのだと自然に思えた。籍を入れた直後に職場から彼女が『結婚祝い』という冗談半分の口実で――実際は彼との結婚を機にいくら体調管理がしっかりできていて重要な主力にもなっているとはいえ元々身体があまり強くない、そうでなくても本来ならこの半分の期間で異動を考慮しなければならなかった女性である彼女をこれ以上不規則で多忙な健康診断の現場に置き続ける事は、今後の彼女の健康だけでなく彼女自身の生活を考えても良くないと判断され、同じく多忙ではあっても元の職場よりは格段に彼女の身体の負担が少なく、加えて元来の性格にも合った現場に就かせる事で彼女本来が取るべき優先順位を気兼ねなく行使させようという周囲の配慮によって――丁度改築が終わり元々の診療科に加え小児科を新設した診療所の主任へと昇格を兼ねた異動の辞令が出され、新しい部署に移って働いていく中で、それまでの不規則な仕事や生活で彼女が知らぬうちに負っていた心身の深い部分にあったダメージがゆっくりと癒されていき…今準備が整ったからこそ、この小さな生命もこうして訪れる事ができたのだろう。そんな事を思いながら二人は寄り添いあい、悪戯っぽい、だが同時に優しい口調で小さく大切な生命に更に語りかける。
「お前のせいで俺達は「こんな寒い時期に無理して来なくていいから」と年始の挨拶すら門前払いをされてしまったんだぞ?だから…その代わり、暖かくなってこの茶の花が外で満開になったら…俺達と一緒にお前も行こうな。ちゃんと皆に挨拶をしに」
「そうね。そうしてその後…そう、紫陽花がとっても綺麗な頃にちゃんと顔を合わせる事ができるのよね。そうしてここに出てきたら、この桜茶やその元のお花ももちろんだけど…他にももっといろんな物を沢山見て、聞いて、感じて、味わって…先に待ってる皆みたいに一緒にいろんな事をしながら泣いて、笑って、怒って…そんな風に過ごしていきましょうね」
「俺達だけじゃない、皆が…そうやってお前と一緒に過ごしていくのを楽しみに待っているんだからな。だから…慌てず、安心して出てくればいい」
「あたしも、将さんも、他の皆も…あなたを思いっきり愛したくて待っているんだから…心配しないで出ていらっしゃいね」
そうして二人は寄り添いあって桜茶と羊羹を口にしながら幸せな気持ちで語り合い続けた。
――おまけ――
「…しかし、こいつの年賀状は結婚したのに相変わらずというか…むしろエスカレートしていないか?あの女房と結婚したら少しは嗜めてくれて落ち着くかと思ったんだが、実際は女房も同じノリの性格だったとは…どちらも普段の姿からは全く想像できないんだがなぁ」
「あたしは好きですけどね、個人的な好みで言えば。…ただ、断りたかったとしても断れなくて付き合わされてる『この子』がちょっと可哀想かなって事は思いますけど。…そうだとしてもやっぱり可愛いな、このモコモコの羊服着た嵐君」
「そういえば…向こうもうちとそう変わらん時期に子供が生まれるんだよな。こんな事を言うと新年早々鬼に爆笑されそうだが…来年の年賀状を想像すると今からちょっと怖いぞ」
「嵐君と産まれた赤ちゃんも混じった三人と一匹の家族写真なんて、ほのぼのしていていいじゃないですか」
「…『まともな家族写真』ならば…だがな」