『きゃぁぁぁぁ~☆こんなに人だらけの所で...ホントにいいの?』
日本酒の入ったプラスチックコップを片手にした女性は目の前の光景に目を見張る。『会費は会社持ちでおいしい物が食べられるから』と誘われて花見に来たものの、周囲にいるのはほとんどが自分よりかなり年配の上知らない人間ばかり。確かに目の前のお酒も料理もおいしいし、参加している人間は皆気がよくきさくな人間ばかりでそれなりには楽しいとはいえ、自分よりかなり年配の人間に合わせてノリを良くするのは少しくたびれる、というのも彼女の本音だった。休憩の意味も兼ねて周囲の喧騒から逃れお酒を片手に夜桜見物をしていると、テレビでよく見かける人間の姿が目に入ってきた。興味も手伝って遠巻きに何となく観察していたらいきなり二人は抱き合う。この周辺で有名人を見るのはそう珍しくないという事は彼女も承知だが、スクープネタになりそうな光景が拝めるとはまさか思っていなかった。
「あれってプロ野球の山田と里中よね...すごく仲がいいって事は聞いてたけど、そうか~そういう仲だったのね~」
こんなに人目がある所(と言っても酔っ払いばかりで誰も周囲を注意して見る様な人間はいないのだが)で臆面もなく抱き合っているのもそうだが、彼らの周囲は砂糖やら蜂蜜やらシロップやらありとあらゆる甘い物を混ぜた様な甘さが漂っており、その空気は花見の雰囲気から見ればかなりの異世界となっていたのだ。多少酔っている頭とはいえその雰囲気を感じれば二人の仲は容易に想像がつく。彼女は日本酒をちびちび飲みながら遠巻きにその光景をしっかりと楽しみつつ、ふと以前行きつけの飲み屋で知り合いと交わした会話を思い出した。
『土井垣さ~ん、そういえば土井垣さんって高校時代ライオンズの山田とマリーンズの里中の先輩だったんですよね~』
『確かにそうだが...何だ、唐突に?』
『いえ~よくこの二人って高校時代の話になると最高のバッテリーだったって言われてるじゃないですか。先輩から見てどうだったのかな~と思って』
『...確かにお互いのいい面を引き出しあう最高のバッテリーだったが...しかし』
『...しかし、何ですか?』
『聞くな...あの二人の事はあまり思い出したくないんだ』
『そりゃまた何でですか』
『だから聞くな!この話はしたくない!』
あの時は土井垣の勢いに圧されてそれ以上聞けなかったが、今この光景を目にして彼女はあの時の彼の心情を何となく察した。彼女にしてみれば人間同士なんだから男同士だろうが何だろうがお互いに幸せならそれでいいじゃないかという考えだが、ある意味実直過ぎる程実直に育ってきた土井垣にとってはあの二人は理解の範疇を超えているのであろう。かく言う彼女でも今の二人の光景は見ていて楽しいものの、かなり気恥ずかしいものがあるのも確かなのだ。土井垣にすれば始終ああした二人を見ていたとしたら、それは苦行か拷問に近かったのであろうという事は何となく理解できた。
『そういえば今度この二人って一緒のチームになったのよね。しかも土井垣さんが監督だったっけ...土井垣さんにはご愁傷様だけど...二人にはきっと...『お幸せに』なのよね』
これからの土井垣の苦悩の日々を思い心の中で合掌しつつ、彼女は寄り添いながら幸せそうに桜を見続けている二人に向かって微笑みながらコップをかざした。
日本酒の入ったプラスチックコップを片手にした女性は目の前の光景に目を見張る。『会費は会社持ちでおいしい物が食べられるから』と誘われて花見に来たものの、周囲にいるのはほとんどが自分よりかなり年配の上知らない人間ばかり。確かに目の前のお酒も料理もおいしいし、参加している人間は皆気がよくきさくな人間ばかりでそれなりには楽しいとはいえ、自分よりかなり年配の人間に合わせてノリを良くするのは少しくたびれる、というのも彼女の本音だった。休憩の意味も兼ねて周囲の喧騒から逃れお酒を片手に夜桜見物をしていると、テレビでよく見かける人間の姿が目に入ってきた。興味も手伝って遠巻きに何となく観察していたらいきなり二人は抱き合う。この周辺で有名人を見るのはそう珍しくないという事は彼女も承知だが、スクープネタになりそうな光景が拝めるとはまさか思っていなかった。
「あれってプロ野球の山田と里中よね...すごく仲がいいって事は聞いてたけど、そうか~そういう仲だったのね~」
こんなに人目がある所(と言っても酔っ払いばかりで誰も周囲を注意して見る様な人間はいないのだが)で臆面もなく抱き合っているのもそうだが、彼らの周囲は砂糖やら蜂蜜やらシロップやらありとあらゆる甘い物を混ぜた様な甘さが漂っており、その空気は花見の雰囲気から見ればかなりの異世界となっていたのだ。多少酔っている頭とはいえその雰囲気を感じれば二人の仲は容易に想像がつく。彼女は日本酒をちびちび飲みながら遠巻きにその光景をしっかりと楽しみつつ、ふと以前行きつけの飲み屋で知り合いと交わした会話を思い出した。
『土井垣さ~ん、そういえば土井垣さんって高校時代ライオンズの山田とマリーンズの里中の先輩だったんですよね~』
『確かにそうだが...何だ、唐突に?』
『いえ~よくこの二人って高校時代の話になると最高のバッテリーだったって言われてるじゃないですか。先輩から見てどうだったのかな~と思って』
『...確かにお互いのいい面を引き出しあう最高のバッテリーだったが...しかし』
『...しかし、何ですか?』
『聞くな...あの二人の事はあまり思い出したくないんだ』
『そりゃまた何でですか』
『だから聞くな!この話はしたくない!』
あの時は土井垣の勢いに圧されてそれ以上聞けなかったが、今この光景を目にして彼女はあの時の彼の心情を何となく察した。彼女にしてみれば人間同士なんだから男同士だろうが何だろうがお互いに幸せならそれでいいじゃないかという考えだが、ある意味実直過ぎる程実直に育ってきた土井垣にとってはあの二人は理解の範疇を超えているのであろう。かく言う彼女でも今の二人の光景は見ていて楽しいものの、かなり気恥ずかしいものがあるのも確かなのだ。土井垣にすれば始終ああした二人を見ていたとしたら、それは苦行か拷問に近かったのであろうという事は何となく理解できた。
『そういえば今度この二人って一緒のチームになったのよね。しかも土井垣さんが監督だったっけ...土井垣さんにはご愁傷様だけど...二人にはきっと...『お幸せに』なのよね』
これからの土井垣の苦悩の日々を思い心の中で合掌しつつ、彼女は寄り添いながら幸せそうに桜を見続けている二人に向かって微笑みながらコップをかざした。