「…じゃあ、皆さんに認めてもらったんだ」
「ええ、何とかね」
「おめでとう、おゆき。幸せになんなきゃ許さないんだから」
「何かスタートはあたしの方が早かったのに先越されちゃってちょっと悔しいけど、お姫が幸せになるのは嬉しいから祝福するわ。おめでとう」
「ありがとう…モモ、およう」
二人の親友のそれぞれの性格が出た祝福の言葉に、若菜は幸せそうに微笑んで言葉を返す。今日は全員で休みを合わせて若菜が義経の故郷に挨拶に行く事を知っていた二人が『休養と結果報告を聞きがてら小旅行をしよう』と計画を立て、三人で彼女達の先輩が女将をしている箱根の温泉に泊まりに来ている次第である。日頃それぞれ忙しい三人はゆったりと温泉につかり、旅館のおいしい料理を堪能した後、売店で買って来たアイスと飲み物を片手に結果報告を楽しくおしゃべりしている。若菜は経過を詳しく聞き出そうとする二人を仲の良さから来る息のあったテンポでさらりさらりとかわしながらも、本当に大切な事は親友二人にきちんと報告する。
「…じゃあ、オフに結婚式…って事は今からだと最低限期間とって12月半ばよねぇ…それでも相当急がないと式場、予約できないんじゃない?」
「そうなのよね…それに私、光さんがプロポーズの時に贈ってくれた櫛と笄を挿したいから和装にしたいし。…となると神式か仏式…最低限で人前婚でしょ?更に式場の選択肢狭くなるわよね。最近はチャペルの方が人気で増えちゃったみたいだから」
「そうね…昔だったら市民会館の上がどんな形式の式でも受けてくれたから困らなかったんだけどねぇ…」
「そうなの?はーちゃん、あたし真鶴だから知らないんだけど」
問い掛ける弥生に葉月は説明する様に答える。
「そう。昔は今市民プラザに変わってる所が宴会場で結婚式もできたのよ、貸衣装もあって。結構昔は利用してた人多かったらしいけど、会館あの通り古いでしょ?そのうち利用者減っちゃって、結局採算合わなくなって止めちゃったみたいだけどね」
「そうだったんだ」
納得する様に弥生は頷く。葉月は提案する様に更に問い掛ける。
「じゃあ…都内と神奈川、後熱海と御殿場位までの結婚式場、柊兄に当たってもらう?」
「う~ん、いくらそれも仕事の一つとはいえ、御館さんにそこまで頼むのも悪い気がするし…」
「何せ寂しい独り者だからね、御館さんは。身内の結婚式の世話まではさせたくはないよね…まあ、はーちゃんの式場捜せって言うよりはダメージ少ないだろうけど」
「…ストップ、それ禁句よ。モモ」
「…ごめん」
華やかな話につい浮かれて地雷を踏んだ事に気付いて、弥生は謝る。申し訳なさそうな様子の弥生に葉月は取り成す様に笑うと、更に考える様に言葉を紡いでいく。
「…っとなると、選択肢広げるには神社とかで式挙げて披露宴は別の場所、とかも考えなきゃか…でもお姫の氏神様の一色さんは宮司様普段いなかったよね…報徳さんとかだと豪華過ぎちゃって、あたしらが気後れしそうだし…う~ん…」
悩む葉月に、弥生がふと考え付いた様に言葉を紡ぐ。
「そうだ!じゃあ、竜宮さんか、はーちゃんとこの氏神様の白神さんでやるっていうのは?で、写真は村西さんの所で撮って、披露宴は『恵比寿』のお座敷ぶち抜いて。竜宮さんは小田原の総鎮守じゃない。それに白神さんも宮司様常駐してるし、規模はどっちも丁度いいし。それに村西さんと『恵比寿』はどっちの神社にも近いから式終わってからの移動距離も少ないし、『恵比寿』は料亭だから慶弔どっちのお料理もお任せだし。お葬式の忌中払いだって予約できる位だから、今からなら予約充分間に合うんじゃない?それに竜宮さんに近いけど、おゆきがいつも芝居で髪結ってもらってる宮小路の美容師さん、高島田結えるし花嫁衣裳の着付けもできるって言ってたんでしょ?おゆきの希望、全部叶うじゃん」
「うん…そうね、じゃあ…そういうパターンなら、おように頼みたい事があるから…白神さんで式挙げようかな」
「何?頼みたい事って」
葉月が問い掛けると、若菜はふわりと微笑んで言葉を紡ぐ。
「おようのお神楽…一度見てみたいの。だから式の時、神楽奉納…やってくれないかな。おようは『白神の大巫女』って言われてて、おようが踊るととっても縁起がいいって聞いたから…お祝い代わりに…踊ってほしいの」
「…!」
若菜の頼みに、葉月は赤面して絶句したが、やがてにっこり笑って言葉を返す。
「…オッケー、親友の頼みは断れないわ。その代わり…神楽奉納には正式には巫女が四人いるのよ。だからその内の一人はヒナ、頼んだ」
「ええ!?」
手をしっかりと握り依頼の言葉を紡ぐ葉月に弥生は困惑する。困惑する弥生に、葉月は安心させる様に更に言葉を重ねた。
「大丈夫。神楽奉納の舞はそれ程難しくないから、バレエやってたヒナなら今から覚えれば完璧よ。でも、それでも後二人足りないか…地区で毎年舞ってくれてる子に頼んでもいいけど…なるべくならお姫に縁がある人に舞ってほしいよね」
「だねぇ…あ、じゃあ、OBネットワーク使って、おゆきの直の後輩だった佳奈ちゃんと理恵ちゃんにあたしから頼んでみるよ。多分お祭り騒ぎが好きなあの二人なら乗ってくれるわ。その代わりその辺りの代の演研のメンバー、二次会にでも呼ばないとまずくなるけど」
「それはいいよ。演研メンバーにも祝ってほしいし、元々御館さんはお世話になってるOBってだけじゃなくて劇団の毎年の馴染みのお客様でもあるから、二次会にだけでも呼ぼうって思ってたし」
「そっか…じゃあそこはクリアっと…宮司様にはあたしの許可は取ったって言って式の予約の時頼んでみて。多分交換条件付きだけどオッケーが出るわ」
「『交換条件』?」
「何それ?」
若菜と弥生が問い掛けると、葉月は苦笑して答える。
「毎年お祭りの時に宮司様に背後霊のごとく取り憑かれて言われてるのよ。『結婚式はうちで挙げろ~でないと毎年巫女をやってもらってるのに面目が立たない~費用は格安にするから~』って」
「そうだったんだ…」
「おようも大変だねぇ…」
「まあ…あたしもそのつもりでいるから気にはしてないんだけどね」
「じゃあおようも和装で式挙げるつもりなんだ」
「うん、別に『夢はお嫁さん』って訳じゃないけど、着るなら白無垢に綿帽子があたしの憧れだったからね。それにお姉ちゃんがドレスだったし、姉妹で両方見せれば変化があって親孝行にもなるかなって」
そう言って柔らかな笑顔で虚空を見上げる葉月に弥生がからかう様に声を掛ける。
「そっか。よっ!孝行娘!」
「もうヒナ、からかわないでよ…そういうヒナはどうしたいの?」
「ん~?あたしはやっぱドレスかな…あんな真っ白のど派手~な衣装素面で着られるなんて、結婚式かバレエの発表会位しかないじゃん」
「それはまた夢があるんだかないんだか…」
「それにブーケトス、やりたいのよね。うちの独身看護師集団、皆あたしより若いのに『忙しいせいで嫁き遅れた』ってうるさいから、招待してやったら争奪戦になるだろうから面白そうだし」
「ヒナ…あんたホント年中無休で鬼畜よね」
弥生の言葉に葉月は呆れた様に言葉を紡ぐ。若菜はそのやり取りを見詰めていたが、やがてにっこり微笑むと、弥生に問い掛ける。
「…で、本音の所は?」
「おゆき…どういう事?」
「モモはこういう時照れて本音を隠すからね。折角の三人だけの場所よ。たまには私達に本音を出したら?」
「…」
若菜の言葉に弥生は顔を赤らめて沈黙したが、しばらくの沈黙の後、顔を赤らめたまま、ぽつりと言葉を零す。
「三太郎君だと、紋付袴よりモーニングの方が似合いそうだから…あたしが合わせようかなって…」
「…そう、モモもちゃんと考えてるのね」
「ヒナも可愛いとこあるじゃん」
「…」
二人のからかいながらも優しい言葉に、弥生は更に顔を真っ赤にして沈黙する。しばらくの暖かい沈黙の後、ふと呆れた様に葉月が言葉を紡ぐ。
「…で、根本的な話だけど、何であたしらがお姫の結婚式のプラン立ててるんだか…普通こういうのは当事者二人で立てるもんでしょ?」
「…まあ、義経君はこの辺の地理詳しくないし、自覚なしだけど土井垣さん並かそれ以上に鈍いから…こっちで先回りしてあげないと、おゆきに全部苦労がかかっちゃうからねぇ…」
呆れた様に言葉を紡ぐ葉月と弥生に、若菜は呆れながらも本心は自分を想ってくれる二人の友情に感謝して、それを言葉に出す。
「そうじゃなくて…私達の事を本当に考えてくれてるからでしょ?二人が一生懸命私達の結婚式の事考えてくれて、本当に嬉しい。今日の話、光さんに相談してみるわ。ありがとう」
「…ま、あたしらの仲は腐りきった腐れ縁だからね、いつでも相談に乗るわよ」
「そういう事」
二人はふっと笑ってわざとぶっきらぼうな言葉を紡ぐ。そうして箱根の夜は三人の楽しい会話で、ゆっくりと更けていくのであった。