4月も半ばを過ぎた週末の東京ドーム。新潟ドルフィンズはジャイアンツとの試合に勝利し、ミーティングを済ませた後ホテルに戻るための帰り支度をしていた。そしてその中には自らの権限を使い(ある意味無理やり)ドルフィンズ番の記者として就任した今では東京日日スポーツのデスクである山井英司が、かつてのメッツ番時代と同じく当たり前の様にメンバーに混じってインタビューと言う名の雑談に興じている。
「トーナメントではスターズにしてやられていたが、シーズンとしての滑り出しは勝ち星先行になっていていい事だな。国立」
「確かにそうだが…お前、昔みたいにフラフラと好き勝手入ってこない方がいいぞ?メッツ時代の様に番記者の肩書きのみならいざ知らず、今はお前東日スポのデスクだろう。職権濫用もそうだがこっちだって変なスクープをお前に書かれたり、そのせいでうちがお前の所と癒着していると思われてしまったらたまらないしな」
「大丈夫大丈夫、岩田さんやお前と俺の付き合いに関しちゃ周知の事実だろ?…ま、確かに面白いネタがこうやってやってる時に拾えたら御の字だってのはあるがな」
「英司!」
 山井のノリの軽さを窘める様に声を荒げた国立に対して、ドルフィンズのチームメイト達はそんな彼を宥める様に言葉をかけていく。
「玉ちゃんよぉ、こん人が昔っからこうなんは玉ちゃんが一番よく知っとんべ、諦めんべや」
「それにそうそうこいつが食いつきそうな面白いネタなんざないだろ」
「実際俺達ネタなんか一つも持ってないですしね」
「持ってるとしたら甚久須さんのジンクス以外に虎谷さんのいぼ痔天気予報が意外に当たるとか、この間飲み行った時酔った勢いで岩田さんがいつお陀仏するか賭けをしたって位だし」
「しかも岩田さんの賭けの方は全会一致で『この世の終わりが来るまで何でか分からないけど生き続けて野球してる』って身も蓋もない結果で収束して、賭けとしちゃ成立してないし」
「…ペラペラしゃべれるだけあって、本当にろくでもないネタしか持ってないな君ら」
「…と言う訳でネタはないし今日は試合も終わった事だし帰った帰った」
「しばらく会わない内にホント冷たくなっちゃって。もう、玉ちゃんひどぉい!」
「お前もしばらく会わない内に、随分となりふり構わなくなったな。記者としてもそうだがデスクの肩書が板についたか」
 そうして取材なのか単なる友人同士の雑談なのか分からなくなっている状況でやいのやいのと騒いでいる所に、ドルフィンズのマネージャーが顔を出した。
「ああ皆揃ってるな。皆着替えは済んでるか」
「ああはい一応」
「だとしたら入れて大丈夫か。国立、お前に客だ」
「分かりました」
「じゃあ後はお前に任せるからよろしく。…どうぞ、用が済んだらそのまま選手通用口から帰って下さい。通用口のスタッフや警備には話を通しておきましたから」
「はい、ご丁寧にありがとうございました。…国立さん、皆さんも。お忙しい所失礼します」
 マネージャーとチームメイトに礼儀正しく挨拶をしてロッカールームに入ってきた『客人』を見てドルフィンズの面々も山井も驚きの表情を見せる。何故ならその『客人』は――
「お前、スターズの義経じゃないか」
「ここはお前のチームのホームとはいえ、試合もない日のビジター側のロッカールームに何の用があるんだよ」
「もっと言えば国立をご指名して来るなんざ、交流戦に向けての敵情視察かい?大胆だねぇ」
「おっ、こりゃ面白いネタが出てきそうだな」
「ああいやそう言う訳ではなく」
「英司、うるさい」
 リーグが違うとはいえ敵チームの存在に対する警戒心を持ったドルフィンズの面々と、記事のネタができそうだと言わんばかりにからかう様な山井の言葉と態度に対し、国立は事情が分かっているのか彼を守る様に自分たちの仲間を軽く睨みつけて制しながらも、同時に彼らの態度に戸惑った反応を見せている義経に対して改めて和やかに言葉をかける。
「久しぶりだね、義経君。もしかして『この間の件』かな」
「はい。二人とも読み終わったのでお返しに上がったんです。大事な資料ですから早くお返ししたかっただけでなく、「できるならお礼含めて直接自分の手で返したい」と『彼女』が言っていたところで丁度『彼女』のスケジュールが空いたものですから。とはいえご連絡してお宅にお邪魔するまでの時間は取れなくて、ならば僕と一緒ならとりあえずロッカールームには許可を貰えば入れるので丁度ドルフィンズさんの試合もありましたしいいかな、とこちらに連れて来ました。…さあ、せっかく機会を頂けたんだし、言っていた通りちゃんと礼をしないと」
「はい。…皆さん、試合後で立て込んでいる所を失礼致します」
 国立の言葉にやはり穏やかな口調と態度で義経は言葉を返すと、彼の背中に隠れていた人物を国立に対面させる形で促す。見るとそこには前髪を上げる形で髪をまとめた質素なスーツ姿の女性が控えめに立っていて、何故か少し驚いた様子を見せた後チームメイトと国立に礼儀正しく挨拶をした後、ふんわり微笑みながら国立に向き直りお礼の言葉を重ねた。
「国立さん、今回は貴重な資料を貸して頂いて本当にありがとうございました。舞台機構や衣装の歴史文献や写真や新歌舞伎の初演時の脚本や個人的な備忘録なんて興味深い物が沢山読めた上に、ご厚意に甘える形で昔の舞台やラジオドラマの音源や映像も個人用にコピーを頂いて。このご厚意を無駄にしない様に、これから何度も鑑賞して私が持っている他の資料と一緒にしっかり学びます。それからこちらは今回のお礼にと思って買ってきた足柄の銘茶『北の藤』です。是非皆さんで飲んで下さい」
 そうして性格が良く分かるふんわりした笑顔と口調でお礼を言いつつ、返却しに来たという資料が入っているだろう紙袋とお礼のお茶の包みを差し出す女性から受け取った国立は、やはり穏やかな笑顔で彼女に言葉を返す。
「丁寧にありがとう。とはいえ僕としては先日の話を聞いていて参考になるならと家で持っているものをお貸ししているだけですし、それも原本は手元に置いておきたいもの以外全て研究資料として学術機関に寄付してしまっているので、大半はコピーですから。そんな物でも研究熱心なあなたに喜んでもらえるなら何よりです。…そうだ、まだ正式な告知はされていないんですが、九月の新橋演舞場での公演で演目の一つが『狐と笛吹き』に決まって、日によって僕と玉二郎がともねと春方を交互に演じる事になったんです。公演日程は追って出ると思いますから、お時間があったら是非観にいらして下さい」
「まあ!『狐と笛吹き』ですか!?北條先生の随筆を読んでから劇伴を含めて一番舞台で直に観たかった演目で、しかもお二人のともねと春方、何て素敵なお話でしょう!絶対にどちらの配役も時間を作って観に行きます。ありがとうございます!」
「直にお礼ができただけじゃなく、嬉しい前情報まで貰えて良かったな。若菜さん」
「はい、光さん。今回ばかりは無理を言って良かったです。ありがとうございます」
「まあ、この程度なら無理な話でもないから」
 国立の言葉に女性は先程までの大人しく控えめな態度とは打って変わってはしゃぐ様に目をきらきらと輝かせて喜びの声を上げ、義経はそんな彼女を愛しむ様に、試合時はもちろん彼らが知っている範囲内では決して見せた事がない、優しい口調と態度で接している。そうして親しげな和やかさで会話をしている三人に対して、ドルフィンズのチームメイト達は何となく置いてけぼりにされた形になったため、不満そうな態度で口々に声を上げる。
「おいおい玉ちゃん、トーナメントでの初対面から二か月も経ってねぇべ?それにしちゃ義経と随分仲がいいんでねぇかい」
「そりゃ、ファーストコンタクトはよく似た面が揃った上にお互いあのど派手なプレーだから、確かにインパクトある状況だったけどよ」
「いつの間にかこんなに仲良くなってるなんざ、お前俺らに内緒でこいつと何やってたんだよ」
「義経さんだけじゃなく、この女性も随分国立さんと馴染んでるみたいだけど…そういえばそもそもこの女性は誰なんですか?」
「会話からして義経の身内っぽいが、こいつに兄弟がいるなんて初耳だぞ」
「え、あの、ええと、その…」
 ドルフィンズの面々が口々に発した不満げな言葉に、女性ははしゃいでいた処から自分が何か失礼を働いてしまったのかという風情の困惑した態度に一気に変わり、それでもどうにか自分の口で説明しようとしてあたふたと言葉を探している。そんな彼女を見た義経は彼女のフォローをする形で、彼らに対して爽やかな笑顔とあっさりした態度で代わりに返答した。
「ああ、紹介が遅れて申し訳ありません。彼女は若菜さんと言って僕の妻なんです。以前から趣味で地元のアマチュア劇団に入って芝居をしている事もあって舞台の裏方部分や歴史等にも興味を持っていて、過日の試合後に球場内で偶然国立さんと行き会った流れでその話をしたら国立さんが「もしだったら折角の縁だし一度一緒に話でもどうか」と仰られて」
「名前を申し上げるのが遅れて申し訳ありませんでした、神保若菜と申します。…私もそのお話を光さんから聞いて、本当にいいのならお話が聞きたいし是非にとお願いしたら、そこからとんとん拍子に日にちが決まってお会いできて、そこで国立さんだけでなく、お父様の玉蔵様や弟さんの玉二郎さんにもお芝居や踊りの様々な話を沢山お聞きできて」
「まあそういう訳で、何となく家族ぐるみで仲良くなってな。とはいえ彼女に関しては俺もそうだがむしろ玉二郎が『芝居もそうだけれど歴史や古典に対する造詣が深くて参考になる話をたくさん聞ける』と喜んでいるせいか、会うと俺と義経君が野球の話、彼女と玉二郎が芝居や歴史や文学の話で盛り上がっている事が多いんだが」
「ああ、知らない内にそういう風な関係になってたんね」
「確かに野球狂の男と芝居狂の女が夫婦で揃ったら、足して二で割る形にすりゃ国立さんとある意味同類だし、仲良くもなるか」
 義経の言葉に続けてやっと説明の糸口を引き取れた彼が妻だと紹介した『神保若菜』と名乗った女性と、それに続ける形で国立も経緯を説明した事でドルフィンズの面々はとりあえず今の状況には納得したが、それでも一つ腑に落ちない面がある事に気付き、それを口にする。
「…ん?でもちょっと待て。今彼女『じんぼ』って名乗ったよな。結婚してるなら義経が登録名変えてない以上何で名字違うんだよ」
「っていうかそもそも義経が結婚したなんて話は一切出て来てないし、今まで聞いた事もないぞ?」
「かと言って婚約中なら許嫁って紹介するよな。でもさっきこいつ何の躊躇もなく妻って言い切ってたよな」
「言い切ったな」
「女房って言っても、もしかして内縁か?まさか女房と言いつつ愛人とかじゃないだろうな」
「いえそうじゃなくて…」
「あの、ええとそれは…」
「っ!」
 更なるツッコミを入れるドルフィンズの面々とそれに狼狽する二人に今までのやり取りを傍観していた山井が不意に吹き出し、爆笑した。その爆笑で一気に場の雰囲気が変わり、その場にいた全員が彼の方を向く。山井はその視線に気づくと、爆笑からの息を整えながら楽しげに言葉を紡いだ。
「…いやすまん、お前らのやり取りがあんまり面白くて…お嬢さんもすまなかった。久しぶりに会ったのにいきなりこれで。…で、答えるのはどっちでもいいんだけど、今の話からするとそろそろ籍が入れられそうなのかい?」
 山井の言葉に、義経と若菜は恥ずかしげに顔を赤らめながらそれぞれ言葉を返す。
「お久しぶりです山井さん。はい、ようやく僕の姓にするという事でまとまりまして、籍を入れる事にはなっています。ただ今だと暦上少々良くない時期ですので、その時期を過ぎた来月半ばの吉日まであえて日延べにしている状態なんです」
「ご無沙汰しております。…暦としてもそうですが来月は丁度季節としても初夏の晴れも多くて気候も爽やかないい時期ですし、こういうお祝い事には最高だなと思いまして。今までの経緯を思ったら折角ですから式の時期の選択肢が少ない分、私もせめて籍を入れる日取りはこだわりたくなったもので、「やっと姓をどちらにするか決まったのだし今までかかった分早々に入れろ」と言っている互いの両親達を逆に抑えている位なのです」
「そうか、おめでとうなお二人さん」
「…ありがとうございます」
「…ありがとうございます。…そういえば、どうしてあなたはこちらにいらっしゃるのですか?スポーツ新聞のデスクさんなのは存じておりますけれど、それぞれのチームにはそれぞれにデスクさんとは別の番記者さんがいらっしゃるものなのですよね?それに取材だったとしてもこちらまで入ってよろしいものなのでしょうか」
 山井の心からの祝福が込められた言葉に、義経と若菜は赤面して恥ずかしそうに返す。そうして照れながらも逆に彼に対して返された若菜の素直な問いに、山井は楽しそうな笑顔で国立の肩を叩きながら明るく答えた。
「ああ、俺はこいつと高校時代同期の桜なんだよ。で、昔馴染みだしこいつが前の球団…東京メッツにいた時にメッツ番をしてた事もあって顔が利く分、こうしてここやベンチにも入れるんだ。それにその頃からの事もあって、こいつと岩田さん含めた元メッツ関係の人間の記事は絶対に俺が書きたくてね。今回権限使ってデスクだけどドルフィンズの番記者に就いた…って訳」
「そうなのですか」
「…『入れる』じゃなくて『好き勝手入ってきている』上に、やっている事は『職権濫用』と言うのだけれどな」
「まあそう言うなって。俺とお前や岩田さんの仲なんだし、ベストな選択肢だろ」
「よくもまあそうやって次々と調子のいい言葉が出て来るものだ。新聞記者と言うのはそういうものだったか?…まあそれはそれとして。義経君はともかくあなたもこいつを知っている様ですが、どこかでこいつと会った事があるんですか?」
 ふんわり微笑んで納得した様に頷く若菜に対してあっけらかんとした口調と態度で自分と肩を組んで言葉を紡いでいる山井とは裏腹に、苦い表情と口調で彼に返す国立が彼女に対して不思議そうに問いかけると、彼女はやはりふんわり穏やかな微笑みで彼に言葉を返す。
「はい、以前私達の公演時に怪我をした役者の代役を光さんが務めて下さって、その時にその件をスクープと言いながら実際はスターズの番記者の方と一緒に丁寧な取材で記事にして下さったのです。その時にインタビューを私も光さんや座長と一緒に受けましたので、その時にお会いしております」
「ああ、思い出した。『スターズ伝説二大紙面』って言われてるアレか」
「そういやありましたね。別の新聞社の土井垣監督の連敗苦悩ポーズと、山井さんとこの東日スポの義経の舞台出演の殿様衣装の写真が載った記事で、それぞれ新聞が即完売って事が同じシーズンにあったからそう言われてるんだっけ」
「そういやその記事の写真に一緒に舞台に出てたお姫様の格好で写ってて、そっからその後イベントのイメージキャラクターのオファーが来て光源氏をやった義経が「彼女と一緒じゃなければこうした仕事は受けない」ってゴネたとかで、それ呑む形で紫の上で共演して一時結構な人気が出た女が確かにいたし、こいつは取材の時その女の事を恋人だか嫁だか言ってた気がするわ」
「ついでに言えば、どっちの件に関してもその女性の事を随分義経さん取材の時毎度思いっきり褒めて…って言うよりのろけてた様な」
「つまりこの女の人はその女性で、何かゴタゴタがあったらしいけどそれも解決したから、後は名実を繋げるのに法律上の手続するだけになってるって事なんですね」
「…はい」
「まぁそういう事なら、確かに奥さんって扱いでいいべな」
 若菜の答えにドルフィンズの面々も過去にあった件を思い出したらしく、それぞれそれについて記憶にある事を口にし、彼女は義経とともにまた顔を赤らめて頷く。そうした様子を見ながら山井はからかう様な口調で言葉を発した。
「やっぱりこのやり方は正解だな。勿論足を使った取材も大切だが、闇雲に探し回るよりはいいネタがこうやって転がり込む形で上手い事手に入る」
「!」
「英司、お前…!」
 山井のあっけらかんとした言葉で義経と若菜は更に真っ赤になって絶句し、国立はそうした二人を庇う意図も含め山井のからかいを叱る様にまた声を荒げたが、山井はその様子も全く気にする事がないかの様にあっけらかんとした、しかし同時に悪戯っぽい口調と表情に変わり、そのままの態度で言葉を重ねた。
「…とはいえ、このネタを今スクープにするのはもったいないな。このまま今シーズン取材続けて深めればもっと面白そうな話が出てきそうだし、そうやってシーズンオフにでも『球界紳士交流録』みたいな連載コラムにした方が面白くなるか。…ってな訳でこのネタはとりあえず今の所温めておくかね」
「…英司」
「…そうですか」
「…お気遣い、痛み入ります」
 悪戯っぽい言葉と態度に隠された山井の本心が良く分かり、三人は恥ずかしげに、しかし同時に嬉しげな笑みを見せる。その笑顔に彼も今までとは打って変わった親しげかつ優しい笑顔を返すと、義経と若菜を帰る様促した。
「…さあ、お嬢さんのその恰好だと向こうで仕事終わって直行でここに来たんだろ?もう今夜は遅いし二人とも別方向に忙しい仕事なんだから、早く帰って休まないと。それからこの件はまた日を改めて番記者通す形で各々に取材の打診はするけど、君達からも他の皆にはそれとなく話よろしく」
「…はあ、分かりました」
「承知致しました。…ではお騒がせ致しましたが、お言葉に甘えて私達はこれで失礼致します。国立さん、またお時間がある時にお話を聞かせて下さい」
「ええ、こちらこそ遅くにありがとう。玉二郎や父もお二人が来ると喜ぶので、是非またいらして下さい」
「ありがとうございます。では皆さんも、遅くに長々とお邪魔しました」
 二人は面々にお礼と暇乞いの挨拶をしてロッカールームを出て行った。ドルフィンズの面々はその二人を見送ると、国立以外一斉に山井に詰め寄る。
「あの二人に『他へ話しとけ』って、どういう事だよ山井さん」
「っていうか、そもそもあっちがそれだけで通じる『他の皆』ってどこのチームのどいつだよ」
「絶対スターズの人間だけじゃないですよね、あの話口だと」
「ここにきて一体何企んでるんですか?」
 面々の問いに山井はにやりと笑うと楽しげに言葉を返す。
「…さてな、ここから先は今後のお楽しみ…って事で。とりあえずうちの紙面は今シーズン変なゴシップを出さずに済みそうだ。…ああ国立、俺からも後でちゃんと打診するけど岩田さんにもちょっと頼みたい事を思いついたから、その内話がしたいってそれとなく言っといてくれ」
「…」
 面々の詰問も気にするどころか逆に悪戯を仕掛ける様な楽しげな山井の言葉にドルフィンズの面々は不満そうなブーイングを上げ、深くはないが先刻の二人を通してこの件に関する諸々の事情をそれなりに理解しているため、そこから山井の企みが察せられた国立は今後あるだろうある意味の面倒事を思い、苦い表情で眉間を押さえて沈黙した。