――ずっと
あなたに あなただけに
触れて、触れられたかった――


 彼の部屋のベッドで習慣となった共寝。もちろん『そうした』肌の触れ合いなどはせずただ寄り添いあって眠る事もあるが、いつもなら安らぎの対象である互いの息遣いや香りが互いの隠された欲望を掻き立て、そのままの感情で抱き合う事ももちろんある。今夜もそうして掻き立てられる欲望のままに、彼は彼女にそれとなく身体を寄せていく。そんな時は身体の移動できしむベッドの音すら淫靡に響き、そうした彼の行動や息遣い、そしてきしむベッドの音で彼女も彼が何をするのか分かるのか、彼女はほんの少しの緊張と共に、相反するはずなのにこうして肌を合わせる様になっても変わらない清冽さと、どこか彼を求める様な官能的な雰囲気と表情を彼に見せる。その二つの表情に押し流される様に彼はまず彼女に深く口づける。彼女はその官能を素直に受け入れ、静かな室内に籠った息遣いとかすかに唾液が混じる音が、淫靡な雰囲気を醸し出しながら静かに、でも二人には分かる程度に響き渡る。その彼女の反応に、彼は表には絶対見せないどこか淫靡な雰囲気を漂わせた笑みを見せ、彼女の感度を高めるために、わざと指先のみをついっと彼女の首筋や胸元など、彼女の身体の感度の高い所に軽く力を入れて滑らせていく。掌とは違い、指先の温度や官能の強さが集中して際立つ分彼女の身体はいち早く色づき、その与えられる快楽に堕ちていく様に、官能的な表情に合わせて微かな甘い声や溜息が多くなってくる。そんな淫靡な姿を見せているのに、何故か彼女の清冽な雰囲気は全く損なわれない。その淫靡と清冽を併せ持つ彼女の姿に、彼はまた淫靡な表情で満足げに笑った――


――道場では禁欲が掟だったが、禁忌が厳しい事もあり女を抱く者はさすがにいなかったものの、総師に隠れて道場の男達の間での欲望処理など日常茶飯事。自分はそんな道場の者達に嫌悪感を持っていたが、道場内で生き抜くためにはそんな感情は押し殺さなければいけなかった。まず年配の者に『その道』の様々な手練手管を仕込まれ、彼らの相手をさせられ、共犯者にするためになるべくは避ける手段を取っていたが、そうした行為をまた下の者に仕込む立場にさせられ――しかしどこかでこの行為はこうするためのものではない、と感じ取っていた。ならば、『これ』は何のためのものだ?――その答えも分からず自分は時を過ごしていた――


――そもそも、身内以外の男性は苦手だった。自分の周りにいる男子は少年で欲望のやり場が分からない分、いつも女子に対しては下世話に接している様に見え、早く、それも何人もの女子と『そうなる』事を自慢して、その標的に自分もされている事も彼らは隠しているつもりでも、自分に向けられる眼差しで分かっていた。それ以上に親友が遭った痛ましい『事件』を知っているだけに、男性というものは女性に対して彼女達の事など考えず勝手な欲望しか抱かない存在だとどこかで思い込んで、男性全般に嫌悪感を抱いて過ごしていた――


――そんな時
あなたに出会った。
清冽で美しい、今までに見た事がないその存在に、
知らず知らず一目で恋に堕ちていた。
しかしそれは一瞬の逢瀬。
二度と会う事はない、と諦めたつもりだった――


――それからの自分は、女人は禁忌というしきたりに従い、彼女の事を意識的には消し去った。しかし、欲望処理として誰を抱いて、誰に抱かれていても、その快楽の中に消し去ったはずの少女の面影を見つけようとする自分がいる事を心のどこかが感じ取っていた。それでも、恋など無縁の自分にはこうした欲望のみの行為しか生涯ないのだと思っていた――


――その出会いの後から、男性に対する不信感は続いていたはずなのに、その不信感とは裏腹に幾度も夢の中で強烈な快楽に溺れている自分に気づいた。ただ具合が悪くなった自分を抱き上げて運んでくれただけのほんの短い逢瀬だったのに、自分にその快楽を与えているのが彼の面影だと気づいた時、ああ、自分はもう恋はできないし、そうした意味で男性と抱き合う事は一生ないだろうと思っていた――


――そうして十年以上経った時、自分達はもう一度出会って、
それとは知らず再び恋に落ちた。
その時に確信した。あなたが自分を愛のある快楽に導く相手だったのだと――


 身に纏っているものはすべて取り払い、互いの身体を陶酔した表情で見つめあうと、彼は培われた手管で彼女の感度が高い所に指先や掌や唇を滑らせ、彼女の快楽を高めていく。彼女は与えられる快楽に淫靡で官能的な表情を見せながら、彼に対してぎこちないがその分強い快楽をもたらす愛撫を返していく。


――透きとおるほど白く、掌に吸い付きながらも弾力のある滑らかな肌。ほんの少し強く触れただけですぐに壊れてしまいそうに感じるが故に大切に守りたいと思う反面、裏腹に思うまま壊してみたいとも思う、幼い頃山で戯れた野兎を思わせる温かく柔らかな感触を持つ華奢な身体。小ぶりだが形がよく、自分の愛撫を敏感に受け入れる胸の膨らみ――


――身体を使う職業をしている故に鍛え上げられ逞しいのに、無駄な肉は付いておらず細身でしなやかな、駿馬を思わせる身体。自分をそっと愛しむ繊細で優しい指先と、それとは裏腹に抱き締める腕のどこか荒々しい力強さ。やはり荒々しいたくましさを持つ反面、自分に安らぎを与えてくれる、温かく広い胸――


――そして何より
そうした全ての魅力を駆使してどんなに淫猥な行為を交わしても
決して消えない互いの清冽さが何よりも愛おしく魅力的で、
自分達はその互いの魅力に躊躇う事無く身を任せ、堕ちて行った――


 彼は愛撫で反応していた彼女の胸の頂を口に含み、舌で味わい、転がしながら吸い上げる。何度もこうして身体を重ねているうちに、どの様にどのくらいの強さでそうすれば彼女に不快感ではなく強い快楽が与えられるかはもう分かっていた。そうして彼女の快楽に溺れたため息や声を聞き、表情や姿態を見つめながら、彼はまた淫靡な表情でくすくすと笑い、その耳元に囁きかける。
「あなたのこんな姿は…誰にも見せたくないな。情熱的で…淫らで…でもどんなあなたよりも美しい…こんな姿は」
「美しいかは…どうでもいいけど、見せるものですか…あなた以外に、こんな…恥ずかしい姿」
「…なら、もっと恥ずかしくて…淫らで…それ以上に美しいあなたを…俺には見せてもらう」
「あ…ふぁっ!」
 そう耳元にそっと囁くと彼は彼女の茂みに秘められた花に触れた。彼はそっと触れただけなのに、今までの愛撫で感度が高まっていた彼女は、それまで以上の強い快楽が身体を走ったかの様に一瞬身体をのけぞらせて硬直し、呼吸を止めると、恥じらいが出てきたのか彼の手指を拒む様に脚を固く閉じた。彼女の感度の高い、でも可愛らしい反応に彼はまた淫靡な、それでいて優しい笑みを見せ、その恥じらいを解く様に甘く囁く。
「どうしたんだ?怖い事など…ないと…もう、分かっているだろう…?」
「こわい…わよ。…わたし…このまま、どこまで……おかしくなるの…?…」
「その時は、おれも…いっしょだ。だから、心のままに…受け入れればいい…もっと深く…強く…つながるためにも」
 彼の囁きで、彼女の身体からすうっと力が抜けた。それを確認して彼は改めてその花に触れ、優しく愛しんでいく。その与えられる強い快楽で彼女は更に身をよじり、呼吸が途切れ途切れになる分息遣いが荒くなる。その内に今まで与えられてきた快楽で少しづつ彼女の泉に溜められてきた蜜がとろりと流れ出し、彼が花を愛しむ度に部屋に響き渡る位はっきりと聞こえる程の音を立てていく。その淫猥な音に彼女は羞恥心を掻き立てられ、しかしその音が羞恥心とは裏腹に更に強い快楽と官能を彼女に与えていき、彼女は羞恥心と快楽の狭間でどうしたらいいのかという風情で頭を振り、息遣いの間で途切れ途切れに呟く。
「いや…んっ…ふぅっ……ど…して…はぁ…こん……な…」
「少なくとも…身体は俺の行為を…受け入れているという事だと思うが」
「そ…んな…」
「でも、俺に…こうされるのは…いやじゃ、ないだろう…?」
「…!…」
 彼の意地悪な囁きに、彼女は快楽に溺れながらも一片残っている理性が感じている羞恥心で顔を真っ赤にして息をまた止める。その彼女の表情に、彼は顔だけでなく彼女の全身が更に鮮やかに色づいた様に見えた。彼には彼女の反応が快楽に溺れた結果ではなく、単にこの接触を性的なものと彼女が捕えているがための反射であるとは分かっている。それでも、そうした彼女の失われない清冽さとは裏腹の淫らな反応が官能的で魅力的に思え、嬉しくもあり、愛しくもあった。そんな愛おしい彼女だからこそ、もっと清冽さの中に秘められた淫らで官能的な表情を見たくなり、それを駆り立てるために更なる『意地悪』を思いついた。その思いついた『意地悪』のままに彼はもう一度ゆっくりと彼女の花を愛しんで快楽を更に高めると、愛しんでいるその指で蜜を汲み取り、わざと彼女の眼前に見せて囁いた。
「ほら、これが…あなたの…」
「…」
 そのまま彼は彼女にわざと見せつける様に、その指を彼女の眼前で口に含みその蜜を味わう。そんな彼を、彼女は放心した様にその蜜と同じとろりとした表情と姿態で見つめていた。彼女を駆り立てるための行動ではあったが、同時に彼もその行為に隠された自身の淫猥さを自覚し、自分の中の欲望と官能が更に高まっていく。彼女の蜜を味わい、こうして自分の中の欲望と官能の高まりを自覚する度に思う。この蜜はどんなに甘い蜜よりも甘露で、甘美なものだと。その甘美な蜜を彼女にも味あわせてやろうと、彼はもう一度指で彼女の花を愛しみその蜜を汲み取ると、彼女の眼前から口元へ持っていき、更に甘く、淫靡に囁く。
「…ほら、あなたも味わうといい。…とても…甘いから」
 彼女はその囁きに対し、まるで催眠術にかかったかの様にとろりとした表情のままゆるゆると彼の手を取ると、やはり緩やかにその指を口に含んで舌を絡ませながら吸い上げた。それはとても背徳的で、淫猥で、官能的な行為。その行為を眼前にして彼女の口に含まれている指から電流が走った様な快楽が彼自身にも与えられ、彼は一瞬息を飲んだ後、そっと彼女の口から指を外すと、更に甘く囁く。
「今度は…俺が、もっと…味わっていいか…?」
 彼の言葉に、彼女はまだ半分とろりとした表情でこくりと頷いた。それを確認して、彼は溢れ出る蜜をそのまま花とともに愛しみながら味わう。その行為でほんの少し前までとろりとした表情と姿態を見せていた彼女は、また火がついたかの様に息遣いが荒くなり、今までで最も高く、甘い声を上げていく。その甘い声と息遣いで更に駆り立てられた彼がそれと分かる程に主張してきたのを感じ、彼は不意に起き上がると、身をよじり甘くとろけた表情のまま、快楽を堪える様に指を軽く口にくわえている彼女の手を引き起き上がらせると『最後の行為』へと誘う。
「ほら、もう……いつもの様に…」
 その言葉の意図が分かっている彼女は、いつもそうする様にゆるゆると彼の首に腕を絡めながら、彼の脚を膝でまたぐ様な体勢でそのまま一つになり、こうした行為にまだ慣れないせいか未だかすかに残る一つになる時の苦痛を逃がしながらも、それと同時に感じている快楽を表わす様な甘く大きなため息をつきながら、身を沈めていく。完全に一つになった二人は、少しでも一体感を持ちたいがために互いの身体を抱き締めなるべくぴたりと密着させ、官能の混じった甘い視線を絡めたのを契機に、互いに快楽を与える為に腰を動かしていく。


――幾度かあなたと肌を重ねているうちに、こうした行為を知らないあなただからこそ辛さを味わって欲しくないと、無意識に道場で仕込まれた手管を使って彼女に快楽を与える様になっていた。それに気づいたあなたはある夜、そうして肌を重ねた後哀しげにぽつりと『ねぇ…あなたは私に『女性に触れるのは初めてだ』って言ったけど…嘘でしょう?』と俺に向かって呟いた。女性に触れたのは彼女が初めてだった事は嘘じゃない。しかし彼女にこの行為で辛さではなく少しでも甘く、熱くとろける様な快楽のみを与えたいと思っていた事が裏腹に彼女を傷つけていたのだとその言葉で実感して――それでもそれはあなたを愛しているからこそそうしてしまったのだ、とどうしても伝えたくて、そのためには軽蔑され別れる事になろうとも、自分の『過去』を話さなければならないと自覚して、その心のままに全て話した。あなたは何も言わずその話を聞いていて、俺は話し終えても黙っているあなたを感じた。その沈黙でもう自分達はこれで終わりだと思って別れの言葉を口にしようとした時、あなたは『なら…もう二度とその手管は使わないで…私以外には。私は…あなたの与えてくれる快楽が全て欲しいの。私も…私の全てをあなたにあげるから』という言葉と共に、今までにない妖艶な表情を俺に見せたのだ。その時分かった。あなたの清冽さは失われていないが、同時にあなたは本当の意味で『女』として花開いたのだと。
 そうして互いの想いが分かってからの自分達の行為は、それまでの清らかで、しかし遠慮がちなものから一気に大胆で、淫らで、官能的なものに変わっていった。しかし、そうして抱き合っていても奥底の清冽さは決して失わないあなたは誰よりも美しく、愛おしい。だからこそ、俺はそうしたあなたの『女』の部分が誰よりも欲しいと思った――


――『女性に触れるのは初めてだ』と言っていたあなたなのに、私への愛撫は明らかに快楽の与え方を全て知っているもので、私はあなたが本当はこうした行為が私とが初めてではないのだ、と無意識に気づいた。そしてそれを口にした時、あなたは一瞬哀しげな表情をした後長い間逡巡し、衝撃的な告白をした。その内容に愕然としながらも、それでもあなたが本当はそうした行為はしたくないのと同時に、そうして覚えた快楽の与え方だったとしても、私を愛しているからこそ辛さよりも与えたかったのだと心から言っているのも分かり、そんな暮らしを続けていたあなたが痛々しく、誰よりも愛おしいと感じた。そしてその時、幾度肌を重ねていても固い蕾として閉じていた私の中の『女』が開花した。
 過去はもうどうでもよかった。あなたが私に与えてくれる快楽を、私達のものだけにしてくれればもういい。自分は女としてあなたにその愛と快楽を返していくから。そして、どんな淫猥な行為だとしても、その行為の奥底に清冽さと私に対する愛は決してなくさないあなたの『男』を、『女』としての自分で受け取ろう、受け取りたいと心から思った――


 互いに動く度自分達が一体になっている実感が得られ、今行っている行為の淫猥さよりも、その結果の快楽よりも、自分達が一体である事の幸福感が大きくなる。その甘美な幸福は相手が互いでなければ絶対に得られない、という事ももう分かっている。そしてその幸福感があるからこそ互いに快楽を貪り合い、淫猥な姿をさらけ出してもそれすら互いへの愛しさに変わってしまうのだという事も、心のどこかが理解していた。その心のままに汗と吐息を混じり合わせ、甘い声を交わし合い、熱い視線を絡ませて共に頂点に上り詰めていく。そうして二人は完全に一つに交り合った――


 頂点に上り詰めた後の気だるい身体を、それでも互いの体温が欲しくて寄せ合いながら、彼はやはりどこか陶酔した表情で彼女を見つめながら彼女に囁きかける。
「…やっぱりあなたは…美しいな」
「…そうかしら」
「…ああ」
「…そう。…でも、私が美しいって言うなら…あなたもよ」
「…そうだろうか」
「…ええ」
「…そうか」
 そう言うと二人はくすりと笑いあって唇を合わせ、また互いの淫らで、官能的で、幸せな快楽を貪り合った。


――決してあなた以外には見せない、真夜中の別の顔。
この顔を見せるのは、これからもずっとあなただけ。
そしてこの快楽を与えるのも、ずっと触れて欲しかったあなたにだけ――

 え〜と…まず
 ごめんなさい(土下座)
 義経がヘンタ(以下略)。そもそもの発端は『思いの迷路〜another story〜』の余韻が残って土井垣さんが私の中でエロ魔人と化していた事もあり、まだ書いてないんですが土井垣さんと葉月ちゃんでお馬鹿チックな変態エロネタ(コスプレやら寝込み襲うやら)が構想に出ていた時に突発的に浮かんだネタだったりします。ちなみに一応お題があって、そこはかとなく変態品のある官能と下品のボーダーラインを書ききってみようという事で、不幸にもイメージぴったんだったので義経が選ばれてしまったのでした(爆死)。その試みが成功したかは…皆さんの判断にお任せ致します。最初はエロエロの部分と、義経と若菜ちゃんの独白部分で二つのネタだったんですが書いてみたら一つに統合した方がはまりがいいので一つに。ちなみにこのエロネタは某所のツネドイがとってもいい刺激になってます。あれ読んでなかったら書けなかったと思います。ノマカプにしちゃって申し訳ないですがインスピレーション下さってありがとうございましたA様。

 おまけの話ですが、書いてないものも含めて作者の中での他キャラに対してのノマカプ、801含めてのエロ構想は『土井垣さん→いちゃいちゃしつつお馬鹿にエロ』『三太郎→多少下品でも明るいので気にならないエロ』『不知火→おこちゃまっぽいけどそれゆえにいかがわしいエロ』『小次郎兄さん→ちょいとねちっこい大人のエロ』だったりします。山里は作者にはエロは(イメージがうまくわかないという意味で)難しいです。ちなみに鑑賞という意味では他の方のネタは何でもおいしく頂きます。
 さて『心の旅人シリーズ』の続きもそろそろちゃんと書かないとなとは思ってます。後上記に書いた土井垣さんのお馬鹿エロネタも書けたら書きたいなぁ…後狼少年になってますがちゃんと801も書きたいと思ってるんですが、頑張…っていいのか?

[2012年 05月 27日改稿]