クリスマスの活気に満ち、華やかに彩られているベルリンの町を、ブロッケンJr.は何かを探す様に歩いていた。今までは酒に溺れ、季節など感じる暇もなかったが、今年のクリスマスは今までと少し違っていた。酒に溺れていた自分を元の自分へと引き戻し、更に自分を師として慕ってくれる弟子ができた初めてのクリスマス。その弟子と、自分が立ち直るまで見守って支えてくれた親友である執事一家に感謝を込めて何かを贈りたいと思って彼は町を歩いていたのである。とはいえ、戦闘超人として育った上、クリスマスはミサを静かに執り行うのみでその喧騒とは無縁で過ごしていた彼には、どういったものが子供が喜ぶかも分からないし、今まで酒に溺れていた分予算もあまりない。何を贈れるか、そして何を贈ったら喜んでもらえるのだろうか…彼は真剣に考え込みながら店のウィンドウを覗いていく。こうしていると、自分がどれだけ戦うしか能がなかったのかが良く分かり彼は苦笑する。しかし、酒に溺れていた自分を立ち直らせてくれただけでなく、こうしてプレゼントを贈るという喜びをそうとはせず教えてくれた小さな弟子に、感謝とある種の愛おしさが湧いていた。様々な店を見ている内に、彼は一軒の雑貨屋で足を止める。そこにはクリスマスに限ったものではなく、子供向けのものから大人向けの雑貨まで様々な物が並んでいるのがショーウィンドウからも見え、ブロッケンJr.はその店に引き込まれる様に入って行った。
「…おや、珍しい。お客さんだ」
店に入ると、店主らしき年若い東洋風の顔立ちの黒髪の青年がいた。彼が立っている傍にあるカウンターの上には、猫が鎮座している。店の雰囲気はある種アンティークショップの様だったが、それだけではない何か神秘的なものをブロッケンJr.は超人としての勘で感じていた。その心のままに青年の顔を凝視していると、不意に青年はふっと微笑み、彼に声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ、私の店へようこそ。…どうやらあなたは訳ありのお客さんの様ですね」
「…何故そう思う」
青年の言葉が訝しく思え、ブロッケンJr.が問い掛けると、青年は微笑みながらさらりとした口調で答える。
「私の店はお客を選ぶんです。店に入って来た人は、何かしら心に背負っているものがある方なんですよ。私はそうした人を相手に商売をしている…という訳で」
「…」
青年の言葉に胡散臭いものを感じたブロッケンJr.は店から出てしまおうと思ったのだが、何故か店に惹きつけられる気持ちが抑えられず、出るに出られなくなっていた。そんな気持ちで更に彼が青年を見詰めていると、青年は微笑みを浮かべたまま、更に問いかけた。
「それで…あなたは何を求めていらしたのですか?」
問い掛ける青年にブロッケンJr.は答えようか迷った末、正直に答える事にした。
「…いや、そんな大層な物じゃない。弟子と親友達にクリスマスプレゼントを探しているんだが…」
「そうですか、それは素敵ですね」
「しかし、俺には予算がない。ここにある様な品は買えそうにないんだが…」
自分で言っていてばつが悪くなり、コートの衿を所在なさげに掴んだブロッケンJr.に、青年はふっと今までとは違う神秘的な笑みを見せる。その微笑みと微笑みを彩る蒼い瞳に、彼は思わず吸い込まれそうな気分になった。青年は神秘的な笑みを見せたまま、その表情をそのまま言葉にした様な口調で言葉を返す。
「…いえ、お代の心配はいりません。先程申した通り、ここは特別な店でしてね。お代はあなたの心から頂きますので…」
「『俺の心から』…?」
訳が分からず問い掛けるブロッケンJr.に、青年は神秘的な笑みを見せたまま答える。
「ええ。…とは言っても魂を頂くとかではありませんからご安心を…簡単に言えば、あなたが今手放すべきものを、お代の代わりに頂く…という事です。この店はそうして手放されて、新たにあるべき人の元に届けられるのを待っている物達の店なんです。あなたは手放すべき物を持っている、そして新たに手にすべき物がある。…だからこの店が呼んだんですよ」
青年の不思議な言葉に、ブロッケンJr.は訳が分からなくなる。こんな胡散臭い店と店主なのに、危険は何故か感じない。それどころかある種の安心感すら覚えてしまう。そんな不思議な感覚を覚えながら立ち尽くしていると、青年は神秘的な笑みを見せたまま、更に言葉を重ねた。
「さあ、心を澄ませて下さい…あなたを呼んでいる物があるはずです。…それが、今あなたが手にするべき物達です」
ブロッケンJr.は自然と青年の言う通りに、超人としての感覚を研ぎ澄ませていた。すると、数え切れない物があるというのに、いくつかの物が彼に対して呼びかける様に目に入ってくる。彼はそれを順番に手に取っていった。あまり名を聞かないが、その曲の内容は素晴らしいものがあると感じた作曲家の楽譜、アンティーク風の可愛らしいオルゴール、ルビーだろうか、赤く美しい石がはまった瀟洒な細工のネックレス、有名だが戦火で焼かれ、ほぼ作品が残っていない画家の画集…彼はそれぞれを手に取り、青年に渡していく。青年は穏やかに微笑むと、それぞれをプレゼント用にラッピングしていった。不思議な事に彼はプレゼントを贈る相手の事は何一つ言っていないのに、青年はそれぞれ贈る人間のイメージに合ったラッピングを施していた。そうして彼が『これで…全部だ』と言うと、青年は微笑んでラッピングした品を彼に渡す。
「ありがとうございます」
「いや…しかし本当にいいのか?かなり高価なものばかり選んでしまった気がするが…」
「いいえ。…それがあなたが手放すべきものに対する対価なんです。おそらく、あなたはかなり重いものを背負っていらしたんでしょうね。それを手放す時が来た…そういう事です」
「…?…」
青年の言葉にブロッケンJr.はこのプレゼントのラッピングを見た時の様に、不思議な気持ちを覚える。彼に自分の人生を語った訳ではないのに、彼には全てが見えているかの様だ。その気持ちのままに彼が青年を見詰めていると、青年はまた神秘的な笑みを見せて口を開いた。
「では、お代を頂きます。…ミケット、出番だ」
青年の言葉に反応したかの様に、今までカウンターでおとなしく座っていた猫が飛び降り、ブロッケンJr.の前で飛び上がり、何かをくわえて着地した。彼が見ると猫がくわえていたのは両親の愛の印であり、彼にとっては形見ともいうべき懐中時計。彼は慌てて猫を捕まえようとする。
「待て!それは俺の大切なものだ!」
猫は彼の言葉など聞いてもいないかの様に、青年の腕の中に飛び込む。青年はその二様の様子を見て、神秘的な笑みを見せたまま口を開いた。
「どうやら…これがあなたの手放すべき物の様ですね」
「しかし…これは…俺の…」
動揺するブロッケンJr.に青年は神秘的な笑みから、ふっと真剣な眼差しに変わり彼を見詰める。彼はまたその瞳に吸い込まれそうになる。青年は真剣な瞳のまま言葉を重ねる。
「何かを手に入れるためには、何かを手放さなければなりません。…そして、あなたは今手にすべき物が分かった。だからあなたは今手放すべきなんです…この時計を、そしてこの時計が背負った全ての思い出を」
青年の言葉にブロッケンJr.は驚く。青年は本当に何もかもを知っているかの様だ。青年は彼の様子を見てふっと微笑むと、改めて確認する。
「…手放せますね。…これと、これに関わる思い出を」
青年の言葉に、ブロッケンJr.もふっと笑うと言葉を返す。
「…ああ、俺は新しい道を見つけたんだ。だとしたら思い出は…ここに置いていくべきなのかもな」
「はい」
青年は猫から時計を受け取ると、微笑んだまま言葉を続けた。
「…では、お代、確かに頂きました。どうかこれからのあなたに、また新たな幸せがある事を」
猫も青年の腕の中で、ブロッケンJr.の方を見て鳴き声をあげた。彼は青年と猫の不思議なコンビにふっと笑みを見せると、感謝の言葉を述べる。
「ありがとう…素敵なプレゼントになりそうだ。贈る相手にも…俺にもな」
「そうですか…では、またいつかお会いする事があるかもしれませんね…その時はまたどうぞ」
青年は微笑むとブロッケンJr.を店から送り出す。彼は不思議な気持ちを抱えながらも、何故か暖かい気持ちが湧きあがるのも感じながら、家路を急いだ――
「…あ、お帰りなさいレーラァ」
「おかえりなさい、ブロッケンレーラァ」
「ああ、ただいまジェイド、マノン」
ブロッケン邸へ戻ると、彼の弟子であるジェイドと、彼の親友であり使用人でもある夫婦の娘であるマノンが彼を出迎える。ブロッケンJr.は二人の出迎えに応えると、二人に促されて三人で居間に行く。居間では親友兼使用人夫婦が食事の支度をして待っていた。
「お帰り。どこに行ってたんだ?」
「お帰りなさい。さあ、あまり代わり映えはしないけど、クリスマスパーティといきましょう?今日の料理はね、ジェイドが手伝ってくれたのよ」
「そうなのか?」
ブロッケンJr.が尋ねると、ジェイドが恥ずかしそうに答える。
「はい。オレ、レーラァに何かプレゼントしたかったんです。でも、何にしたらいいかなって考えても分からなくって…だから、せめてこうやってオレも手伝った料理を食べてもらおうと思ったんです」
「ジェイド…」
「あたしもてつだったのよ。ブロッケンレーラァ」
「マノンもか…ありがとう」
敬愛を形にできた事が嬉しい反面恥ずかしそうなジェイドと、頑張ったというほんの少し誇らしげな、でも自分に喜んでもらえるのが嬉しいからこそそうしたんだと分かるマノンのそれぞれの言葉に、ブロッケンJr.は胸が一杯になる。確かに自分には様々な過去があった。しかしその過去に囚われていた今までとは違い、自分を暖めてくれる存在が確かに感じられた。これが過去を手放して今を手に入れるという事なのだろうか…ブロッケンJr.はそう思ってふっと微笑むと全員に言葉を返した。
「…だとしたら、皆の気持ちをありがたく貰わなければな。…そうだ、皆にプレゼントを買ってきた」
「ええ?レーラァ、ホントですか?」
「ブロッケンレーラァ、ありがとう!」
「嬉しいけど…複雑よね」
「良く買う金があったな」
「…秘密だ」
そう言うとブロッケンJr.は悪戯っぽい表情で笑った。そんな彼を不思議に思いながらも、一同は楽しいパーティを始める。囚われていた過去から解放されて手に入れた、幸せな今を噛み締めながら――
「…おや、珍しい。お客さんだ」
店に入ると、店主らしき年若い東洋風の顔立ちの黒髪の青年がいた。彼が立っている傍にあるカウンターの上には、猫が鎮座している。店の雰囲気はある種アンティークショップの様だったが、それだけではない何か神秘的なものをブロッケンJr.は超人としての勘で感じていた。その心のままに青年の顔を凝視していると、不意に青年はふっと微笑み、彼に声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ、私の店へようこそ。…どうやらあなたは訳ありのお客さんの様ですね」
「…何故そう思う」
青年の言葉が訝しく思え、ブロッケンJr.が問い掛けると、青年は微笑みながらさらりとした口調で答える。
「私の店はお客を選ぶんです。店に入って来た人は、何かしら心に背負っているものがある方なんですよ。私はそうした人を相手に商売をしている…という訳で」
「…」
青年の言葉に胡散臭いものを感じたブロッケンJr.は店から出てしまおうと思ったのだが、何故か店に惹きつけられる気持ちが抑えられず、出るに出られなくなっていた。そんな気持ちで更に彼が青年を見詰めていると、青年は微笑みを浮かべたまま、更に問いかけた。
「それで…あなたは何を求めていらしたのですか?」
問い掛ける青年にブロッケンJr.は答えようか迷った末、正直に答える事にした。
「…いや、そんな大層な物じゃない。弟子と親友達にクリスマスプレゼントを探しているんだが…」
「そうですか、それは素敵ですね」
「しかし、俺には予算がない。ここにある様な品は買えそうにないんだが…」
自分で言っていてばつが悪くなり、コートの衿を所在なさげに掴んだブロッケンJr.に、青年はふっと今までとは違う神秘的な笑みを見せる。その微笑みと微笑みを彩る蒼い瞳に、彼は思わず吸い込まれそうな気分になった。青年は神秘的な笑みを見せたまま、その表情をそのまま言葉にした様な口調で言葉を返す。
「…いえ、お代の心配はいりません。先程申した通り、ここは特別な店でしてね。お代はあなたの心から頂きますので…」
「『俺の心から』…?」
訳が分からず問い掛けるブロッケンJr.に、青年は神秘的な笑みを見せたまま答える。
「ええ。…とは言っても魂を頂くとかではありませんからご安心を…簡単に言えば、あなたが今手放すべきものを、お代の代わりに頂く…という事です。この店はそうして手放されて、新たにあるべき人の元に届けられるのを待っている物達の店なんです。あなたは手放すべき物を持っている、そして新たに手にすべき物がある。…だからこの店が呼んだんですよ」
青年の不思議な言葉に、ブロッケンJr.は訳が分からなくなる。こんな胡散臭い店と店主なのに、危険は何故か感じない。それどころかある種の安心感すら覚えてしまう。そんな不思議な感覚を覚えながら立ち尽くしていると、青年は神秘的な笑みを見せたまま、更に言葉を重ねた。
「さあ、心を澄ませて下さい…あなたを呼んでいる物があるはずです。…それが、今あなたが手にするべき物達です」
ブロッケンJr.は自然と青年の言う通りに、超人としての感覚を研ぎ澄ませていた。すると、数え切れない物があるというのに、いくつかの物が彼に対して呼びかける様に目に入ってくる。彼はそれを順番に手に取っていった。あまり名を聞かないが、その曲の内容は素晴らしいものがあると感じた作曲家の楽譜、アンティーク風の可愛らしいオルゴール、ルビーだろうか、赤く美しい石がはまった瀟洒な細工のネックレス、有名だが戦火で焼かれ、ほぼ作品が残っていない画家の画集…彼はそれぞれを手に取り、青年に渡していく。青年は穏やかに微笑むと、それぞれをプレゼント用にラッピングしていった。不思議な事に彼はプレゼントを贈る相手の事は何一つ言っていないのに、青年はそれぞれ贈る人間のイメージに合ったラッピングを施していた。そうして彼が『これで…全部だ』と言うと、青年は微笑んでラッピングした品を彼に渡す。
「ありがとうございます」
「いや…しかし本当にいいのか?かなり高価なものばかり選んでしまった気がするが…」
「いいえ。…それがあなたが手放すべきものに対する対価なんです。おそらく、あなたはかなり重いものを背負っていらしたんでしょうね。それを手放す時が来た…そういう事です」
「…?…」
青年の言葉にブロッケンJr.はこのプレゼントのラッピングを見た時の様に、不思議な気持ちを覚える。彼に自分の人生を語った訳ではないのに、彼には全てが見えているかの様だ。その気持ちのままに彼が青年を見詰めていると、青年はまた神秘的な笑みを見せて口を開いた。
「では、お代を頂きます。…ミケット、出番だ」
青年の言葉に反応したかの様に、今までカウンターでおとなしく座っていた猫が飛び降り、ブロッケンJr.の前で飛び上がり、何かをくわえて着地した。彼が見ると猫がくわえていたのは両親の愛の印であり、彼にとっては形見ともいうべき懐中時計。彼は慌てて猫を捕まえようとする。
「待て!それは俺の大切なものだ!」
猫は彼の言葉など聞いてもいないかの様に、青年の腕の中に飛び込む。青年はその二様の様子を見て、神秘的な笑みを見せたまま口を開いた。
「どうやら…これがあなたの手放すべき物の様ですね」
「しかし…これは…俺の…」
動揺するブロッケンJr.に青年は神秘的な笑みから、ふっと真剣な眼差しに変わり彼を見詰める。彼はまたその瞳に吸い込まれそうになる。青年は真剣な瞳のまま言葉を重ねる。
「何かを手に入れるためには、何かを手放さなければなりません。…そして、あなたは今手にすべき物が分かった。だからあなたは今手放すべきなんです…この時計を、そしてこの時計が背負った全ての思い出を」
青年の言葉にブロッケンJr.は驚く。青年は本当に何もかもを知っているかの様だ。青年は彼の様子を見てふっと微笑むと、改めて確認する。
「…手放せますね。…これと、これに関わる思い出を」
青年の言葉に、ブロッケンJr.もふっと笑うと言葉を返す。
「…ああ、俺は新しい道を見つけたんだ。だとしたら思い出は…ここに置いていくべきなのかもな」
「はい」
青年は猫から時計を受け取ると、微笑んだまま言葉を続けた。
「…では、お代、確かに頂きました。どうかこれからのあなたに、また新たな幸せがある事を」
猫も青年の腕の中で、ブロッケンJr.の方を見て鳴き声をあげた。彼は青年と猫の不思議なコンビにふっと笑みを見せると、感謝の言葉を述べる。
「ありがとう…素敵なプレゼントになりそうだ。贈る相手にも…俺にもな」
「そうですか…では、またいつかお会いする事があるかもしれませんね…その時はまたどうぞ」
青年は微笑むとブロッケンJr.を店から送り出す。彼は不思議な気持ちを抱えながらも、何故か暖かい気持ちが湧きあがるのも感じながら、家路を急いだ――
「…あ、お帰りなさいレーラァ」
「おかえりなさい、ブロッケンレーラァ」
「ああ、ただいまジェイド、マノン」
ブロッケン邸へ戻ると、彼の弟子であるジェイドと、彼の親友であり使用人でもある夫婦の娘であるマノンが彼を出迎える。ブロッケンJr.は二人の出迎えに応えると、二人に促されて三人で居間に行く。居間では親友兼使用人夫婦が食事の支度をして待っていた。
「お帰り。どこに行ってたんだ?」
「お帰りなさい。さあ、あまり代わり映えはしないけど、クリスマスパーティといきましょう?今日の料理はね、ジェイドが手伝ってくれたのよ」
「そうなのか?」
ブロッケンJr.が尋ねると、ジェイドが恥ずかしそうに答える。
「はい。オレ、レーラァに何かプレゼントしたかったんです。でも、何にしたらいいかなって考えても分からなくって…だから、せめてこうやってオレも手伝った料理を食べてもらおうと思ったんです」
「ジェイド…」
「あたしもてつだったのよ。ブロッケンレーラァ」
「マノンもか…ありがとう」
敬愛を形にできた事が嬉しい反面恥ずかしそうなジェイドと、頑張ったというほんの少し誇らしげな、でも自分に喜んでもらえるのが嬉しいからこそそうしたんだと分かるマノンのそれぞれの言葉に、ブロッケンJr.は胸が一杯になる。確かに自分には様々な過去があった。しかしその過去に囚われていた今までとは違い、自分を暖めてくれる存在が確かに感じられた。これが過去を手放して今を手に入れるという事なのだろうか…ブロッケンJr.はそう思ってふっと微笑むと全員に言葉を返した。
「…だとしたら、皆の気持ちをありがたく貰わなければな。…そうだ、皆にプレゼントを買ってきた」
「ええ?レーラァ、ホントですか?」
「ブロッケンレーラァ、ありがとう!」
「嬉しいけど…複雑よね」
「良く買う金があったな」
「…秘密だ」
そう言うとブロッケンJr.は悪戯っぽい表情で笑った。そんな彼を不思議に思いながらも、一同は楽しいパーティを始める。囚われていた過去から解放されて手に入れた、幸せな今を噛み締めながら――