「…どう?社内の生休取得状況は」
「うん、本当は法律上保障ない社長自らが生休公言して、男性と共通のリフレッシュ休暇って形で与えて仕事調整とかお互い様意識を高めたり社員教育を徹底してから、ほんの少しずつだけど上がってきてる。不正取得もないとは言わないけど、そうするのは大抵新入社員で、そうした社員はまっとうに休暇取ってる女子社員から総スカン食らって止めてるから、まあ横ばいかな」
「婦人科検診の受診率と、産業医を基準以上に増やした上で男女にした効果はどう?」
「受診率は社内検診では7割かな。でも佐倉のネットワーク使ってそれとなく情報集めてもらったら、社内だと漏れるかもしれねぇからって敬遠した代わりに、社外で検診きちんと受けてる奴も多いから実質9割ってとこか。産業医への相談は内容までは聞いてないが、産業医を男女にしたおかげで自分が相談しやすい方に相談してるみたいでな。相談数も上がってるから経費分くらいは楽勝で効果出てるぜ」
「後はマンモグラフィーをもう少し扱いやすくて女性が楽な形に改良できたらいいわね…ちょっと時間かかりそうだけど開発チームに頑張ってもらいますか。そうすれば経済効果と女性も楽になって、あたしとしては一石二鳥だわ」
「そうだね。この不況、経済効果も大切だけど、利益のために簡単にリストラする様な会社環境にしたくないし僕も。その辺りはおじい様も同意見だもんね。男性も女性も長く元気で働いてもらいたいし、女性って事や結婚、出産がハンデにならない、職務以外は社員みんながお互い様的な会社作り、夢かもしれないけど作りたいよね」
「そうだな。そうすりゃ仕事好きな佐倉はずっと働いていられるもんな」
「御館さん!それどういう意味?」
「だからそういう意味でしょ?光流」
「~っ!」
 彰子と柊司の言葉に光流は顔を赤らめて絶句する。それを見て彰子と柊司は笑った。一時笑った後、彰子が言葉を紡ぐ。
「…って訳で明日から佐倉さんと入れ替わりであたし二日生休取るから、その間の事、頼んだわね」
「オッケー。嫌味言う様な取引先のセクハラ社長や役員には倍…ううん、三倍返ししとくから任せてよ」
「お前は動けなくなる事はないから心配はしねぇが、まあ神様のくれる休暇だと思ってゆっくり満喫しな」
「もちろん。ちょっと腰痛出る分は試作品試しながら、あっためてのんびり家でストレッチでもしてリフレッシュして復活するわ…でも佐倉さんは大丈夫かしら。昨日の電話の様子だと、かなりゾンビ状態だと思うのよね」
 彰子の言葉に、光流が必死に手を合わせ頭を下げて頼む。
「僕も心配だけど、僕が分っててお見舞い行くと嫌がられるから、何かお土産買って姉さん様子見て来てくれない?この通り!」
「最近嫁き遅れだとか秘書は若い方がいいみたいな嫌味を言う無神経な役員のセクハラが多くてきついって言ってたからな。余計にストレスで症状出るんだろ。その辺りの制裁は後にするとしても、景気づけに親友としてのお前が行けばきっと喜ぶぞ。佐倉は」
 にやりと笑って言葉を紡ぐ柊司に、彰子もその言葉の意図を察して微笑んで言葉を返す。
「当り前。という訳で早退して今から行っていい?」
「もう今日は主だった緊急の仕事はないからいいんじゃない?」
「それでも何かあったら携帯にかけるからとりあえず出ちまえ。出たもん勝ちだ」
「そうね。じゃあいってきますか!」
 そうして彰子は会社を出ると千穂――佐倉の名前である――の住んでいるマンションへと足を運ぶ。玄関のインターホンを鳴らすと、しばらくの間の後、疲れた口調で『は~い…』という声が聞こえてくる。彰子は柔らかな口調でインターホンに返す。
「千穂、あたし。陣中見舞いに来たわ。入れてくれる?」
「あ~彰子か~…部屋散らかってるけどそれでいいなら」
「いいわ。開けて」
 そう言うと玄関のオートロックの扉が開き、彰子は入るとエレベーターで千穂の部屋の階に登って部屋の前でインターホンを鳴らす。と、ドアが開き会社では見られない位乱れた様子の千穂が現れた。
「やっぱり。ま~見事なゾンビ状態」
「しょうがないじゃん、治療してこれがやっとよ。笑わないで」
「笑わないわ。むしろ心配…特に光流がね」
「!」
 彰子の言葉に顔を赤らめた千穂を見て彰子は優しく微笑むと、更に言葉を重ねる。
「とりあえず入れて。後差し入れ持ってきたからもうちょっとで夕飯時だし作るわ」
「…ありがと」
「どういたしまして」
 そう言うと彰子は部屋に入ってキッチンでにゅう麺と彼女の『この時』の嗜好を考えてゆで卵を足した生野菜のサラダを多めに作り、千穂を座らせた前に出す。千穂は感動で目を輝かせて声を上げる。
「彰子、ありがと~!この二日料理も買い物も辛くてろくに食べてなかったの~!」
「だろうと思った。これなら野菜サラダだけより身体冷えないしさっぱりしてるから食べられるわよね。後デザートにカットパインあったから買って来たわ。半分こしましょ」
「うん!ありがとう」
「でも面白いわよね~あたしも食べ物の好みが多少は変わるけど、あんた、普段は大体スープとか温野菜にしてるのに、『この時』はむしろ冷やしちゃダメなのに生野菜をむさぼりたくなるなんて」
「そうね~こんなんじゃ妊娠した時何食べたくなるのかしら」
「その前にちゃんとその『相手』にアプローチしなさい。いくら柊司さんに振られたダメージがあるって言っても今回は自明で両想いでしょうが。あっちは坊ちゃん育ちで奥手なんだから柊司さん以上に力技使わないと、はっきりしてくれないわよ」
「そりゃそうだけど…そうだ」
「何?」
「彰子も御館さん完全に乗り越えて例の『彼氏』にちゃんとそっちに向けたアプローチしたら、あたしも頑張る…どう?」
「…策士」
「ふふ」
 そうして二人で食事を取った後、ほうじ茶を飲みながら話していたが、ふっと彰子が時計を見た途端そわそわし始めた。それを見た食事とお茶でだいぶ復活した千穂が問いかける。
「どうしたの?何か約束あるの?だったらあたしはもう大丈夫だからそっち行かなきゃ」
「ううん、そうじゃなくて…その、テレビ見せてくれる?」
 彰子の言葉に千穂はその言葉の意図を察して微笑むと、悪戯っぽく言葉を紡ぐ。
「オッケー、ついでにあたしにも野球の見所、彰子の分かる範囲でいいから教えて」
「…ありがと」
「うん」
 そう言うと千穂はリビングのテレビをつけて、野球中継にチャンネルを合わせる。試合はアイアンドッグス対スーパースターズで、先発はドッグスが不知火、スターズが里中だった。画面を見ながら千穂は彰子に色々問いかけていく。
「あ~ホントに華子ちゃん出てるんだ~。しかも登録名マドンナって…本人から話は聞いてたけど、こう改めて見るとびっくりだわ」
「そうね。で、今日の先発の不知火君と相手方の里中君って人はそれぞれのチームのエースなんですって」
「そうなんだ~あ、今出た、いぬかい…こじ…ろう…っていうドッグス…だっけ…の監督って言われた、何か御館さんとはまた違う、ワイルドなお兄さんが彰子の彼?」
「…そう、彼もプレーイング監督でピッチャーだから時々先発とかリリーフで投げてるのよ」
「ふ~ん…あ、ベンチに生土佐犬がいる!いいの?あんな事して」
「あれは嵐君って言って、小次郎さん…つまり…そのあたしの彼の飼ってる犬で、ドッグスのマスコットでもあるの。見た目は土佐犬だから怖いけど、すごくおとなしくて頭がいい子なのよ?で、そういう子で危害は絶対加えないから、特別許可をもらってベンチ入りしてるんですって」
「そうなんだ~でも何で彼ってフルネームで呼ばれてるの?相手方のスターズ…よね…の監督さんは名字しか呼ばれないのに」
「ええと…ドッグスには小次郎さんの弟さんがチームメイトで後二人いて区別するためにフルネームなの…ほら、ファースト守ってるあの太った男の子と…一人はベンチで…今映ったメガネの可愛い男の子。タイプ全然違うけど二人ともすごくいい子でね。兄弟仲もいいのよ」
「ほうほう…中々面白い家族構成じゃない。それに三人も子供がいれば誰かしら残ればいいから長男でも婿入りも安心ね」
「千穂!プレーも見なさいよ!」
「はいはい」
 そうしてあれこれおしゃべりしながらテレビを見ていると、不意に異変が訪れた。ヒットで塁に出たマドンナが盗塁を成功させ、立ち上がった途端に座り込んだのだ。座り込んだまま動かないマドンナの様子に小次郎がタイムを掛け、ドッグスのチームメイトだけでなくスターズの野手も心配そうに彼女の周りに集まる。しばらくしてこれ以上のプレーは困難と判断されたのか、チームメイトに支えられマドンナはベンチに戻り、代走に知三郎が告げられ、プレーが再開される。その様子を見て彰子と千穂は心配そうに言葉を交わす。
「華子ちゃん…どうしたのかしら」
「一応歩けてたから怪我とかじゃないとは思うけど…もしかすると貧血かしら。野球始めてから一度も気配なかったから忘れてたけど、バレエのソリスト時代ウェイトコントロールと貧血のバランス取るが難しくて鉄剤飲んでて、一応薬剤師の資格持ってるあたしにも副作用とかの相談何度か持ちかけてたもの」
「そっか…女は大変よね。男の貧血もかなり厄介だけどさ、確率的には『お役目』ある女の方が貧血多い分予防って大切だもんね」
「後であたしから華子さんに連絡入れてみるわ。その答えの内容によっては小次郎さんに…たとえ彼氏でも、監督として管理不行き届きだから同じ管理者としての立場から説教しないとだし」
「あらら、経営者モード発動か。でもこんな彰子でも心底惚れこむ小次郎さん…だっけ…もかなり大物ね」
「もう、千穂ったら…」
 そうして二人はまたしゃべりながら試合に集中していった――

 そしてその試合は接戦の末ドッグスが制し、彰子は遅くなったからと千穂が部屋に泊める事にしてくれた。そうして風呂とパジャマを借りて寝ようとした時、不意に電源を切ろうとした彰子の携帯が鳴る。そのメロディーに彰子は慌てて電話に出る。
「小次郎さん?」
『ああ、俺だが…こんな遅い時間に悪いが、ちょっと話していいか』
「ええ、こうなったら丁度よかったわ。あたしもちょっと小次郎さんに聞きたい事があったから」
『じゃあ、とりあえず俺から手短に…実はマドンナの事で相談があってな』
「ああ、あたしもなの。今日華子さん試合中倒れたでしょう。どうかしたの?」
『ああ、実はあんまり顔色悪いんであのまま病院に直行させて、結果が今出た所だ。軽い貧血って事で厄介ではあるが重病じゃないのは安心だったが…』
「ああ、やっぱり。彼女ああ見えてバレエの時代ウェイトコントロールとレッスンのハードさのせいで貧血持ちだったのよ。バレエ程ウェイトコントロールはいらなくっても、やっぱり野球はハードなのね」
『そうか…まずその情報得られて良かった。だが…俺もうかつだったと思ったのは…その後の話なんだ』
「何?その『話』って」
『実は…土井垣…今日の対戦相手の監督で、俺とも親しいんだが…に試合後に怒鳴られたんだ。『忘れがちだがマドンナは女性だろう、俺も葉月の受け売りで悪いが女性は身体の仕組みがあるからそれなりの気遣いがいるんだ!男と一緒の扱いをしろと言われていようが、それとなくこちらから気遣わんと彼女も言い出せんぞ!』ってな…そう言うと確かに…その…女は色々あるんだよな。でもその辺りの気遣いどうしたらいいか俺わからねぇんだ…だから明後日から俺が首都圏に遠征なんだが、大丈夫なら俺は一足早く明日向かってもいいからいつでもいい、いやなるべく早く…俺に教えてくれないか。同じ女だし、彰子はマドンナとも親しいから分かるだろ』
 しどろもどろになりながらも、ちゃんと今までの行状に反省してマドンナを気遣おうとする小次郎の気持ちを受け取った彰子はふふっと笑うと、優しく言葉を返す。
「いくら怒鳴られたせいって言ってもちゃんと自分で気付けて気遣いしようとしてる小次郎さんは管理者としてちゃんとしてるし…いい男よ。その心意気受けたわ。丁度あたし明日と明後日休暇だから、明日の昼から夜で良ければあたしの部屋に来て。ある程度のレクチャーはするから」
『ああ。じゃあ俺は明日の朝一番でそっちに行くから、着いたら連絡するって事でいいか』
「了解。待ってるわ」
 彰子が携帯を切ると、途中から傍にいたらしい千穂が話しかけてくる。
「さっきの彰子の会話からすると…今のあたしと同じって事?」
「みたいね。そうじゃなくても貧血対策教えないとだからまあこの際、一緒にプレーするチームメイトとしての女性保護の視点に立ってもらいましょう」
「そうね」
 そう言うと二人は笑いあって眠りに就いた――

 そうして二人で朝食をとった後彰子は自分の部屋に戻り、自分のケアもしつつ小次郎に分かりやすい『女性に対する気遣いについて』のレクチャーをお茶を飲みながら考え、ふと妙案を思い付いた。そうして昼過ぎになった頃メールが届き、『今着いた。今からそっちに向かって大丈夫か』という文面がそこにはあった。彼女は『了解。準備はしてあるから来てくれて大丈夫』と返す。それから30分位経ってインターホンが鳴り彼女が出ると、モニターに小次郎が映り『俺だ、開けてもらえないか』と言葉を掛けてくる。彼女は『ええ、今開けるわ』と言葉を返すとオートロックのドアを開ける。しばらくして中のインターホンが鳴り、彼女がドアを開けると、小次郎が肩で息をしながら立っていて、真剣な口調で言葉を紡ぐ。
「なるべく早く聞きたいと思ったから…急いで来た。とりあえず入れてくれ」
「ええ。でもね、そんな悲壮な顔しなくていいの。ほんの少し気遣えればそれだけで女性は嬉しいし、助かるものよ…とりあえず入って」
「ああ」
 そう言って彰子は小次郎を部屋に入れるとリビングに座らせて温かい麦茶を出し彼の前に座る。小次郎は一口飲んだ途端、不思議そうに問いかける。
「珍しいな、麦茶…しかも温かいやつなんて」
 小次郎の言葉に彰子は微笑みながら言葉を紡ぐ。
「これも『気遣い』の一つよ。凝れればハーブティとかもいいけど、そこまでできない場合は麦茶は一般的なお茶の中では紅茶とか緑茶よりも貧血気味の人とか、小次郎さんが聞きたい『女性の身体』の変化の時には向いてるのよ。麦茶はカフェインが入ってないから」
「ああ、カフェインが貧血によくねぇってのはちらっと聞いた事がある。そうか…そう言う事か…じゃあその『変化の時』にいいっていうのは?」
 小次郎の問いをきっかけにして彰子は女性の身体についてとどういう気遣いをしたらいいかを小次郎に話していく。小次郎は真剣な表情で聞いていった。一通り話した所で小次郎は麦茶を口にして呟く。
「ベンチの冷えも大敵、月に一度は場合によっては吐き気やら痛みで2~3日動けない事もあるから抹消しないまでも戦線離脱は覚悟。それだけじゃない、貧血対策の指導も…婦人科検診も…俺が言うのは恥ずかしいって受ける様には言ってなかった…時々顔色悪いのには気づいてたのに…管理者失格だな」
 そう言って沈んだ表情を見せた小次郎を見て、彰子は宥める様に言葉を掛ける。
「そんな沈んだ顔しないで。男の人って大抵小次郎さんみたいな人ばっかりで、気遣える人は少数派よ。小次郎さんは今から気遣えばいいの。それにね、生休の権利が書かれてるのは労働基準法だから、小次郎さんや華子さんみたいなプロ野球選手は選手会では労働者でも契約上は個人経営者だから…対象外でね、今の日本の状況考えたら彼女から言い出して規定作らない限り、権利行使はできないの。それに小次郎さんがそうやって気遣おうとしてもチームメイトの人が気遣わないで無神経な言葉を投げたら結局は意味ないから…全員の意識改革してもらわないといけないかもしれないわ。後は華子さん自身がうまく言える様にならないと…その辺りはあたしがうまく相談乗れる様に持っていくわ。もう一つ…こういう話になったからちょっとうちの事業のビジネス的な話もさせてもらうけど…気遣いの最初として、華子さんにちょっとモニターになってもらいたい物があるの。その依頼を小次郎さんからしてもらっていいかしら」
「ああ、いいが…その『物』ってのは?」
 彰子はにっこり微笑んで説明をしていくと、話が進んで行く毎に講義を受けたもののこうした話に慣れていない小次郎の顔が真っ赤になっていった――

――数日後――
「何と先日貧血で途中退場したマドンナ、ベンチで見慣れないデザインのクッションを敷いて座っています!」
「何でもマドンナ曰く、『貧血対策を依頼したメーカーの経営者の女性から対策の一環として女性に大敵の腰の痛みと冷えにいいクッションのモニターとイメージキャラクターを頼まれたので使っている』そうで、他の選手や他球団にも積極的に勧めているらしいですよ」
「しかし何とも言い難い風景ですね…あまり甘やかさない方がいいのでは?」
「犬飼小次郎監督曰く『倒れて戦線離脱するよりは数倍いいし、実際効果もある様なので腰痛持ちの選手の症状緩和の一端になれば』という事だそうです。とはいえちょっとしたセンセーションを起こしそうですね」

『彰子お姉さま、ありがとうございます。冷えが少なくなって腰も安定する分辛い日も快適ですし、腰が辛いっておっしゃる他の方にも試しに使ってもらうと『これいいな』って好評ですわ』
「そう。こっちもいいPRになってるし、お互い良かったわね。それから毎月の『お役目』の対策もそうだけど貧血の治療と予防、ちゃんとなさいね。男性に混じっていい成績を残すためには女性らしい体調管理は必須よ。厳密なウェイトコントロールが減ったけどそれに代わって男性基準のハードさが増えた分ソリスト時代位か…それ以上にね」
『はい。食事内容も一人さんにも協力してもらってざっくりのバランス、考え直しました。後はかかりつけの婦人科を作ってきちんと通います』
「はい基本はいいわ。後は来月から試作品の布ナプキンも試してみてね。他の既存メーカーを使ってる人の話聞くとケミカルより汗に強いからスポーツ中も快適だし、むれや冷えも少なくなるはずよ。後は使い勝手と快適さもそうだけれど、楽しく使える様なレディ向けの上品なものや女の子向けの可愛いデザインの協力もお願い」
『はい。『プロでもアマでもいつも楽しく快適にスポーツしよう』のキャッチフレーズがなるべく早く使える様に、わたくしも頑張りますわ』
「頑張らなくていいの。自分が気持よく仕事や生活するのを第一にね。じゃあこの事だけじゃなくってまた何か旦那さんとかトレーナーとか監督に相談し辛い事で相談したい事があったらいつでも連絡頂戴。話を聞いてうまく伝えられる様に一緒に考えるから」
『はい、お願いしますね彰子お姉さま』
 そう言って電話を切った後、彰子は『女と生まれたからって嫌な思いばっかりじゃないってなるといいわね…ううん、なるわ。男性にも柊司さんや小次郎さんみたいな人がちゃんといるんですもの』と思いながらにっこり微笑んでコーヒーを飲み干した。