守と関係を持ってから二ヶ月、俺は罪を消してしまいたい気持ちとは裏腹に、狂った様に小次郎との悦楽に更に堕ちて行った。しかし以前の様に悦楽に堕ちている様で行為の最中も心から彼女の存在を消す事ができず、関係を持った後は二人の間にはある種の気まずさが、俺の中には罪悪感が更に増すばかりだった。守とも三度程関係を持ったが、その時はいつも完全に彼女との代替行為にしかならず、更にお互いを傷付ける関係にしかならなかった。そうして彼女を、何より彼女との悦楽を求めているのに、俺は彼女を抱けなくなっていた。寄り添って眠る事はできても、彼女にどうしても触れる事ができない。俺は怖かった。こんな悦楽を求めるだけの獣の様な状態で彼女を抱く事で、折角過去の傷から立ち直ってきた彼女を、また傷付けてしまうのが
――いや、違う。本心はそうなった時俺の罪が露わになってしまうかもしれないのが怖かったのだ。そうして不自然なくらい抱かずにいても、彼女は何も聞かず、変わらず聖母の様に俺を包み込み、愛してくれる。しかしその事が、更に俺の罪悪感を増す事になった。そうして過ごしていった7月6日の夜
――
「将さん、明日はドームでデーゲームなのよね」
「ああ、そうだが…どうかしたか?」
「明日は早く…帰って来れる?」
いつもは連絡が来るのをおとなしく待って、絶対帰る時刻など聞かない彼女の掛けた問いが俺には不思議に思えて、彼女に問い返した。
「どうした?…何か用事があるのか」
俺の問いに彼女は一瞬寂しそうな表情を見せたが、すぐに微笑むと言葉を返す。
「ううん、何でもない」
「…?…」
彼女の態度が分からず、俺は彼女を見つめる。彼女は俺を宥める様に更に微笑んで俺の胸に身体を預けてきた。俺は自分の罪悪感が彼女に伝わる気がして、反射的に身体を離す。俺の態度に彼女は哀しげな表情を見せた。
「…すまん」
「…ううん、始終べたべたするのは将さんだって嫌だものね。ごめんなさい」
そう言って哀しげな目で微笑む彼女を宥め、愛しむために俺は慎重に自分から抱き締め、キスをする。直前に取ったものとは裏腹なその行動に驚いた表情を見せた彼女に、俺は微笑んで言葉を掛けた。
「明日は…なるべく早く帰るからな」
「…うん…ありがとう」
そう言って微笑む彼女に俺は更に優しい微笑みを返した。
そうして翌日、俺はドッグスとの試合に臨み、勝利を収めた。試合時間もそれ程長くはならなかったので彼女との約束は守れる、と試合後のミーティングを済ませ着替えて帰ろうとした時、不意に里中が声を掛けてきた。
「土井垣さん、ちょっと待って下さい」
「里中、何だ」
「これ、葉月ちゃんに渡して下さい」
「…?」
そう言うと里中は小さなラッピングされた箱を差し出した。俺が訝しく思いながらそれを見ていると、里中もその表情を見て、怪訝そうな様子で口を開く。
「何変な顔してるんですか。今日は葉月ちゃんの誕生日ですよ」
「…あ」
俺の様子に、里中は呆れた様に続ける。
「忘れてたんですか~?もう、まだ若いし新婚に近いのに熟年夫婦みたいになってないで下さいよ。それに、名前に騙されるとはいえ仲良くなったらこんなに覚えやすい誕生日、なかなかないでしょう?」
「そうか…そういう事か…」
里中の言葉でやっと昨日の彼女の態度に合点が行った。お互い7月が誕生日、しかも俺が遠征に行っている事が多い事もあって、こうして誕生日に一緒に過ごせる事はほとんどなかった。彼女は俺に誕生日の夜を一緒に過ごして欲しくて、あんな言葉になったんだろう
――俺は自分のうかつさに呆れてしまった。俺は呆れながらも里中からかすかに甘い香りが漂う箱を受け取ると、お礼の言葉を紡ぐ。
「ありがとう、葉月も喜ぶと思う…ところで、これは何だ?」
「お香です。彼女小さい頃からこういうもの好きで、良くおじいさんに焚いてもらってましたから」
「しかし、葉月は人工的な香りは好きではなかったはずだが…」
「ああ、香水は確かに苦手ですよ。でも、お香とか、匂い袋とか、ポプリとかの香りは好きなんです」
「そうなのか?」
「ええ。土井垣さん、知らなかったんですか?」
「…ああ」
俺は彼女の知らなかった一面を知って驚く。彼女は俺と暮らし始めてかなり経つが、その間一度も香など焚いた事はない。確かにハーブティは良くいれるし、洗剤やシャンプーやボディーソープなども割と決まったものを買っているなとは思っていたが、香りにこだわっているとは思った事もなかった。その事に気づいて沈んだ表情を見せたらしい俺に、里中は怪訝そうな表情を見せる。
「…大丈夫ですか?土井垣さん」
「ああ…すまん。ちょっと考え事をしてしまってな」
「そうですか」
「じゃあ俺は葉月が待っているから、早めに帰る。監督が一足先に帰ってすまんが、後はよろしくな」
「いえ、葉月ちゃんによろしく言って下さい」
そう言って俺は一足先にドームを出ると、俺も彼女への誕生日プレゼントを買わねばと思い、何を買おうか考える。花はしおれるのが哀しいと、好きでもあまり置きたがらないからまず却下だ。ぬいぐるみや人形が好きなのは知っているが、一番の好みは知らない上、さすがに子ども扱いしている様で悪い気がするし、本やCDだと大抵欲しいものは自分の給料で買ってしまう。髪留めやリボンはもう売るほど持っているし、服は彼女のサイズや好みが良く分からないし、それ以前に彼女自身あまり増やしたがらない。そこまで考えて俺はふと彼女の何を知っているのかと考え込む。あまり丈夫でない事。歌がとてもうまく一時期はプロの声楽家を目指し、大成できると太鼓判を押されていた事。保健師としてもかなり有能と言われているが、それに驕らず日々努力や研鑽を怠らないし、それがその評価の元である事。料理は苦手だと言っているが、本当は手馴れていないせいで手早くできないだけで作る事は大好きだからそれなりにおいしいし、その分お茶をいれるのがとても得意な事
――それ以外は?
――服の好み、好きな本や音楽の傾向、食べ物の好み
――俺は付き合いが長く今では一緒に暮らしてまでいるというのに、彼女について全く知らない事に気が付いた。そして彼女が俺に見せる微笑みの裏で何を思い、何を求めているかを俺は考えようとすらしていなかった事にも気付いた。もしかすると、いつも彼女は微笑んでいる様に見えて、泣いている事もあったんじゃないか。昨日の俺に対する態度も、きっと
――俺はその事で胸が痛んだ。彼女は俺の望みをいつも先に察して、自分の全てを圧し殺しているのか?
――俺が最初に出会った彼女は、確かに心優しく、心に傷があるため人を大切にするあまり、与えられた姿を演じてしまう事もあったが、それ以上に自由に、自然に生きている女性だった。そこに俺は惹かれていたはずなのに、いつの間にか俺は彼女に聖母の偶像を押し付けていたのか?
――俺は更に胸の痛みが増してくる。俺は彼女を裏切っているだけでなく、彼女を自分の理想の姿に追い込んでしまっているのかもしれない
――俺が罪悪感と胸の痛みのままドームの入口に立ち尽くしていると、いつの間にいたのか小次郎が声を掛けてきた。
「…来いよ」
「…駄目だ」
「いいから来い」
それが何を表しているか分かるからこそ、俺はこれ以上罪を重ねないために抗おうとする。しかし強引に腕を引かれ、車に乗せられる。連れられていった所は、やはり俺達がいつも逢瀬に使うホテルだった。地下の駐車場に着くと小次郎は俺の腕をまた引き、車から引きずり出した。
「さあ…今夜こそは前みたいに楽しもうぜ。時間は充分ある」
「嫌だ。今夜は…せめて今夜だけは…」
「そうは言っても…逆らえないだろ?俺には」
そう言うと小次郎はにやりと笑い俺を強引に引き寄せ、噛み付く様に口付ける。その陶酔に応えそうになる自分も感じたが、ふと同時に彼女の面影が頭をよぎり、それで不意に頭に冷水をかぶせられた様な感覚が走った俺は、次の瞬間その心のまま小次郎を突き飛ばしていた。
「土井垣…」
俺の初めての激しい抵抗に、小次郎は驚いた様に俺を見詰める。俺は熱くなる心と冷静な思考を同時に感じながら、小次郎に対して言葉を返した。
「葉月が、待ってるんだ…せめて今夜だけは…あいつだけの俺でいるんだ」
「…」
「俺は…行く」
驚いて立ち尽くす小次郎を置いて俺は荷物を奪い取る様に手に取ると、駐車場から飛び出した。夕闇迫る道を、俺は走った。今夜は、せめて今夜だけは彼女を裏切ってはならない。早く帰ろう…いや、帰りたい、帰らなければ。彼女の所へ
――そうして俺は家路を急いだ。結果的には彼女を裏切らなかったが、その裏切りの片鱗を『見られてはならない人物』に見られていた事にも気付かずに
――
「…ただいま」
俺が部屋へ戻ると、明かりはついているのにいつもは出迎えてくれるはずの彼女の出迎えがない。チェーンロックは幸運かつ無用心にも開いていたので部屋へ入ると、彼女は試合を放映していたチャンネルをつけたままリビングの床に座り込んでソファに寄りかかり、眠っていた。キッチンを見ると、そこにはいつもより若干豪華で俺の好物ばかり並べられた食事と、俺の好きな酒が用意されている。俺はそれを見て更に胸が痛むのを堪えながらテレビを消して彼女を起こした。
「…ほら、起きろ。こんな風に寝ているとまた具合が悪くなるぞ」
「…ん…ああ、将さん…お帰りなさい。ごめんなさい、出迎えなくて」
「いや、俺こそ悪かった。今日は…お前の誕生日だったな。すっかり忘れていた」
「ううん…いいの。将さんがちゃんと思い出して、こうやって早く帰って来てくれたから」
そう言って微笑む彼女の笑顔に更に胸が痛むと共に、何故かふとある種の腹立たしさが出てきて、俺は口を開く。
「何で…そうやって笑えるんだ」
「…え?」
「『何で忘れるんだ』って責めればいいじゃないか、『あなたは冷たい』って泣けばいいじゃないか!俺は…こんなにお前の事をなおざりにしているんだぞ!?」
「だって、それは仕方がないじゃない。将さんはプロ野球チームのプレーイング監督って仕事があるんだから。あたしだって、出張の仕事で将さんをほったらかす事あるでしょ?お互い様よ」
「違う!俺は…お前を…!…」
自分を密かに裏切り、今日だって裏切りかけたのにその事を棚上げにして怒っている俺を怒るどころか、尚も取り成す様に微笑んで優しい言葉を掛ける彼女が更に腹立たしく、俺は自分に心を開いていないからこうして微笑んでいられる様にも見える彼女をめちゃくちゃにしてやりたい衝動に駆られる。彼女は俺の『真実』を何も知らない上、この微笑みだって彼女の本心だと心の片隅では分かっているのに、こんな感情を持つ俺は勝手だ。しかし俺は俺の中の衝動を止められなかった。その衝動のまま俺は強引に彼女に口付けると、そのままソファへ押し倒し、シャツの衿を広げながら唇を這わせる。彼女の表情の中に俺は恐怖を感じ取ったが、俺はそれを知らぬふりをして、わざと行為を続けた。彼女は抵抗しない。おそらく過去の『傷』を思い出し、恐れのあまり動けないでいるのだろう。しかし俺はそれも気にしない…いや、わざと彼女の恐怖を煽り立てる様にその反応で更に荒々しく振舞った。彼女の本心を知るためにその傷を暴き、広げたくなって
――やがて衣擦れの音と共に彼女の上半身は身に纏うものをなくし、豊かな白い胸が露わになる。俺がその胸に顔を埋め赤い花弁を散らしていると、不意に今まで微動だにしなかった彼女が包み込む様に俺の頭を抱き締めた。彼女の行動が分からずに顔を上げると、彼女は哀しげな、しかしこれ以上ない程に優しい眼差しで俺に微笑みかけていた。その微笑みに俺は釘付けになる。傷を広げられて、血を流してさえその痛みを堪える、どこまでも俺に優しい彼女。筋違いの怒りで傷つけられても、それを受け入れ俺に限りない愛を注いでくれる俺の聖母、俺だけの愛しいマリア
――彼女の暖かい愛と、自分の罪深さを自覚させられるその微笑みに、俺はいつの間にか涙を零していた。
「どうして…泣くの?」
彼女は静かに、しかし哀しげに問い掛ける。俺は答えず、ただ涙を零し続けた。そんな俺を彼女はいつもの聖母の様な優しさで、愛おしむ様に包み込む。彼女は何も知らないはずなのに、俺は何故か彼女のその行動に自分の罪を許された様な気がして、その愛が嬉しくて、愛しくてふと呟いた。
「葉月、お前は俺の…聖母マリアだ」
その言葉に彼女は静かに頭を振ると、哀しげに囁く様な声で応えた。
「違うわ…あたしは、マリアはマリアでも罪の女…マグダラのマリアよ」
「違う…お前は罪なんか負っていない」
「ううん…将さんだって知ってるじゃない。あたしが汚れてるって…それだけじゃない、あたしは人を二人も殺…」
俺は聞いていられなくなり、彼女の唇を乱暴に塞ぐ。彼女が拭いきれない傷、負わずともいいのに負っている罪
――彼女はその傷と罪のために、聖母の様な微笑みの裏で未だ傷つき、血を流し、涙を零しているんだ。それなのに俺はその傷を更に広げて痛めつけようとしてしまった。自らの葛藤をなくし、彼女の心を開こうとする余りに
――俺は後悔の念に駆られながら唇を離すと、彼女を慰めたくて、囁く様な口調で言葉を掛けた。
「『あの事』は…お前のせいじゃない、事故だ。それにあの『二人』だって…確かにお前も死なせようとしたが、結局死んだのは…偶然だろう?」
「違う…あの『二人』はあたしが殺したの…あたしが『二人』を愛してあげられなくて、死なせようとしたから…『二人』は自分から死ぬ事を選んだのよ…絶対そうなの。…だから直接じゃないにしろ、あの『二人』はあたしが殺したのと…同じよ」
俺の言葉に、葉月は涙を流しながら弱々しく頭を振り、言葉を返す。その言葉は弱々しい口調だが、俺には彼女が叫びを上げているんだと分かったし、確かにそう聴こえていた。愛情深いがために彼女が負ってしまった罪に対する彼女の自責と悔恨の叫び
――それが余りに哀しくて、痛々しくて、俺は彼女を慰めるために必死に言葉を掛ける。
「そうじゃない!あの時期には良くある事だ!『二人』を愛せなかった事だって、理由を考えれば仕方がなかった事だ!だからお前は何も悪くない!そうずっと言ってきただろう!?…だから、汚れているとか、罪の女だなんて…そんな哀しい事を言うな…!」
「将さん…」
最後の言葉は俺も泣きながら紡いでいた。そうして俺達は二人で涙を零す。戻せない時に、お互いの罪に
――しかし、葉月の傷と罪は彼女が負わずとも良いもの。もう彼女はそこから解放されていいんだ。俺とは違って
――俺はそう言いたくて言葉を紡ぐ。
「…それでもまだ汚れて、罪を負っていると思うんなら…俺にお前ごと…その汚れと罪を渡せ。俺が浄化して…忘れさせてやる」
もう元に戻れないほど汚れ、罪を負っている俺こそ、罪を負うのにふさわしい。そして葉月を過去の傷と罪から解放するために、俺はそう口に出していた。彼女は俺の言葉に涙を零したまま、俺の首に腕を絡める様に回してきた。まるで自分の犯した罪の許しと救いを俺に求めるかの様に
――俺はその想いを感じ取り、自分の想いを返すために深く彼女に口付けると抱き上げ、寝室へ行き、彼女を抱いた。彼女は俺の想いを全身で受け止めているかの様に、俺の愛撫に今までになく敏感に反応し、切なく甘い声を上げ、俺を求める様に何度も俺の名を呼んだ。やがて時が熟して一つになった時には今まで俺と肌を合わせた時と違い、俺を慈しみ、包み込む様な抱き締め方ではなく、まるで俺が腕からすり抜けていくのを怖れるかの様に、必死にしがみつく形で俺を抱き締めた。そこに俺は初めて彼女の恋情や情愛とは違う、一人の女としての愛とその顔を見た気がして喜びを感じると共に、いつの間にか俺はそんな彼女に女としての快楽を与えるために、彼女をいつになく強く突き上げ、彼女も今までにはなかった程積極的にそれに応えていた。この行為は彼女の罪の忘却と浄化という意味も確かにあったが、おそらくそれ以上に無意識にお互い求め合っていたのは、俺が彼女にずっと求め、彼女へ与えようとしていた、二人だけしか見えなくなる様な悦楽の時。そしてそれは現実のものとなり、俺が小次郎と交わしていた様なお互いの身体を貪る様に求め合う、しかし小次郎との関係とは違い、お互いの愛も共に求め分かち合う、至福の悦楽の時になった
――
そうして何度か果てた後、俺はふと里中が渡した香の事を思い出し一旦彼女から離れてバッグから包みを取り出す。香炉や香皿がないので無粋だが客用に使っている灰皿に香を置き、火をつけくゆらせた甘い香りに気づくと、彼女は陶酔した姿態と表情を見せながら呟いた。
「…いい香りね」
「里中からだ。…お前、こういう物が好きなんだってな…知らなかった」
「うん…将さん、香水苦手じゃない。だからこういうのも嫌いだと悲しいなって思って、黙ってたの」
「いいんだぞ、もっと自分を出しても。俺に…いや、俺だからこそ気兼ねをするな」
「うん…ごめんなさい」
「でも…俺の事を考えてくれるのは、嬉しいがな」
「そう、ありがとう。…ねぇ、じゃあこれは…嫌じゃない?」
「ああ。俺も、これは…好きだ」
「…良かった」
そう微笑む彼女の笑顔はやはり聖母の様な温かさに満ちていたが、同時に初めて見せる『女』の顔もあった。その『女』の顔や姿態とそれを更に引き立てるくゆらせた香の香りに俺は駆り立てられ、その駆り立てられた感情のまま彼女の唇を奪うと、俺達はまるで今まですれ違っていた心と身体を埋めていく様に、互いが感じていた渇きを癒す様に、再び初めて訪れた二人の悦楽へ堕ちていく。この悦楽の時を得た事で、俺はやっと本当の意味で彼女を見つけ、手に入れた気がした。俺の、俺だけのマリアを聖母としてではなく、一人の女として
――
――しかし、それが彼女の中の『呪い』を呼び覚ましてしまったとは、その時の俺は思う由もなかった――