「…そういや、宮田さんもヒナさんもラブアンドピースフォン社の携帯なんだよな」
 ある夜、東京スーパースターズの面々は彼らの友人であり、土井垣と三太郎と義経のそれぞれの恋人でもある葉月と弥生と若菜を交えて飲んでいた。そうして酒も食事も進んだ頃、不意に思い出した様に星王が口を開いた。それに続ける様にわびすけと緒方が続ける。
「スターズができるまでここの会社、言っちゃ悪いけどシェアあんまなかったよな」
「やっぱ二人とも土井垣さんとか三太郎と付き合う時に、会社乗り換えたの?」
 二人の言葉に二人はあっさり首を振る。
「まさか。そんな面倒な真似する訳ないじゃないですか」
「あたしも。偶然だけど元々ここよ」
「…またそりゃあっさりと否定しましたね」
 池田が苦笑い。それに続けて苦笑いしながら土井垣が続ける。
「…確かに。親会社のために乗り換えたのは俺の方だったな」
「俺はスターズ入った時に上からの指示で乗り換えてたから、弥生さんに会った時にはカップル無料プランに弥生さんに入ってもらっただけだったよな」
「そうだったわね」
 そう言って笑っている四人に飯島が問いかける。
「じゃあ、また何でシェアが少なかったここにしたんですか?」
 飯島の問いにまず弥生が答える。
「あたしは簡単な答え。あたしが携帯持った頃ってそう今みたいにいろんなところで携帯売ってなかったのよ。それに携帯自体もまだこんなに進化してなかったしね。で、丁度近所にあったアンテナショップがラブアンドピースフォン社だったからまあいっかって感じで」
 弥生の言葉に葉月が続ける。
「私はもっと単純。そもそも私は携帯持つ気なかったんですけどね。大学の時にサークルの皆から『ライブだバイトだって出歩いてばっかりで自宅電話やパソコンメールだと掴まらないから持て』って詰めよられて。ヒナが言う通りその当時ってまあ電話とメールも短いのしか送れない程度の機能で着メロとかネットなんか珍しい位だったからどこでもいいかって感じで、料金プランお手軽で気に入った色の機械があったこの会社にしたんです。叔父には手に入れた後『何で相談しなかった』って怒られましたけど、でもこうなってみると良かったかなって」
「え?何で叔父さんが怒るんですか?」
 飯島の更なる問いに葉月は苦笑して更に答える。
「うちの二人いるうちの上の叔父って元N○Tの職員なの。その当時は現役で。だからまあいろんなしがらみもあるしサービスもできるからdo○o○o持たせたかったみたい」
「はあ…いろんなしがらみってあるもんなんすねぇ…」
 池田がまたため息をつく。弥生がそれを見て笑いながら続ける。
「でも乗り換えってまだ面倒なところあるわよね。電話番号はそのままでよくなったとはいえさ、メアドはそれぞれの会社のじゃん。使えなくなったりね」
「そうそう」
「それもなくなったらもっとお気軽に乗り換えしちゃうんだけどね~…ってそういえばおゆきは乗り換えしたんだっけ」
 弥生は今まで義経の隣でおとなしく酒を飲んで一同の話を聞いていた若菜に話を振る。若菜は申し訳なさそうに頭を振って応える。
「ううん…まだ」
「そういやお姫さんの携帯番号やらメアドって、監督以外は俺ら誰も知らないんだよな。義経の完璧なガードでさ。こいつが怖いからあえてそこは聞かないけど、使ってる会社くらいは教えてくれない?」
 緒方の問いに若菜はかまわないかという様に義経の顔を見上げ見詰める。義経は仕方ないから構わないという風情で頷く。それを確認して若菜は控えめに応える。
「ええと…さっき言った通り、私はおようと仲が良かったし、おばあ様…おようのおばあ様ですね…にも良くして頂いているので…おようの叔父様がN○Tで働いてらした関係でおばあ様が色々サービスを息子さんであるそのおじ様に指示して下さったのもあって…do○o○oを使ってます。おじ様も定年で辞められてそろそろその義理も果たしたので会社を変えても確かにいいのですけど…今言った通りアドレスとかの不都合が多くて踏み出せなくて…光さんは業務用は持っていても個人携帯を持っていないので、光さんとの間には不都合ないですし、いいかってまだなんとなくずるずると」
「…」
 若菜の正直な告白にスターズ一同は義経を一斉に冷ややかな視線で見る。その視線に気づいた義経は怪訝そうに問いかけた。
「どうした、皆」
 義経の言葉にスターズの一同は畳み掛ける。
「お前さ~『組織行動』って言葉知らねぇの?」
「もしくは『社会人としての義理』だな」
「少しは親会社の利益ってもの考えろよ」
「だから業務用の携帯は持ったじゃないか」
「個人用も持てって言ってんだよ」
「そんな無駄な事を。道場はそもそも電波が入らんし、武蔵坊はいるがやはり電波の関係で家の電話でないとかからん場合が多いし、携帯まで使っては家族とチームメイトの仕事関係の会話くらいしか電話しないから業務用で事足りているのに」
「そこが『社会人としての義理』なの!いらなくても個人用持つ位の器用さってか柔軟性持てよ」
「監督命令だ!手紙も確かに風雅でいいかもしれんが個人用携帯を持って神保さんを乗り換えさせて二人の連絡を密にしろ!」
「そんな…」
 そうしてわいわいやっている男連中を女三人は楽しそうに見詰めている。そうして都内の飲み屋は楽しく夜が更けていくのであった。