東京スーパースターズができて間もない頃、スターズのチームメイト達はチーム内の交流を図るために飲み会を開く事になった。予約している店に行くためにチームメイト達はそれぞれ雑談をしたり思い出話に花を咲かせながら店までの道のりを歩いている。と、不意にその塊から二人の人間がすいっと前に抜け出した。それに気付いた緒方がどうしたんだとその『二人』に声をかける。
「…おい、山田、里中、どうしたんだよ」
 そう、その『二人』は山田と里中だったのだ。緒方の言葉が聞こえているのかいないのか、二人は塊を一旦同時に見詰め、二人で顔を見合わせて微笑み合うと、何もなかった様にもう今までいた塊も忘れたかのごとくごく自然に手をつないで、すたすたと先に進んでいった。それを見た元明訓メンバー以外のスターズのチームメイトは口をあんぐりと開けて見送り…いや、元明訓メンバーでも、土井垣と山岡は額を押さえてため息をついていた。慣れているのか、三太郎と殿馬と岩鬼はいつもの事だという風情で口を開く。
「あ~仕方あらへんなあいつらは」
「まあ、ああいう二人見てるとやっと仲間が揃ったって気にもなるよな」
「づら」
「…おい、三太郎」
「何だ?」
「…あの二人いつもあんな感じなのか?」
 やがて口をあんぐりと開けていたわびすけが、やっとの事で三太郎に問いかける。三太郎はあっさりと答える。
「え?あんなもん普通だろ?あれで驚いてる様じゃこれからやってけないぜ」
「…え、って事はあれ以上もあるのかよ」
「あいつらはいっつももっといちゃこいとるで」
「づら」
「いつもいつも自重しろと言っているのにあいつらは…」
「…って事は…全く直らなかったんですか…」
「…それどころかプロでチームが離れたせいか強化した…」
「え~っ!?そりゃないですよ。それを俺にまたまとめろって言うんですか土井垣さん!」
「だから手伝ってくれと言ったろう、俺も手を貸す…」
「…胃薬がまた必要になりそうだな、こりゃ」
「いいじゃないですか。可愛いもんですよ」
「三太郎!お前がそうやって甘やかすから!」
「え~?俺ですか?それはとばっちりってもんですよ」
「…」
 元明訓メンバーのやり取りを遠い目で見詰めながらチームメイトで過去にライバルだった者達は、かつて打倒山田を目指して戦ってきた自分達の日々を思い、何とも言えない哀愁が沸き起こり、そして先刻の山田と里中のやり取りを思い出し、二人に対して心の中でパウダーシュガーを吐き出していた。あれだけ焦がれていた山田・里中バッテリー、そして何より打者・山田。彼らを打ち倒すために全力を傾けた日々。その相手の実際はこの姿。俺たちの青春の日々は一体何だったんだ…さらば青春、そしてこんにちは大人の日々。それでも、とりあえず最低限の条件として、あの二人に慣れないとこのチームでは生き残れない――そのたった一つの真実、いや――これはもう絶対的真理であろう――を、新しく仲間になったチームメイト達は痛いほどに理解した――