「…へえ、じゃあ里中君と山田君のクラスは劇やることになったんだ」
「ああ」
 昼休みの図書室のカウンターで、貸し出しの仕事をしつつその少女は口を開いた。彼女の言葉に、三太郎は楽しげに返す。二人は図書委員で今は昼休みの貸し出しの仕事をしている次第である。とはいえ中々本を借りる様な生徒がいないので二人は本を読んでいる生徒に邪魔にならない程度に雑談をしているのだ。三太郎は更に続ける。
「…しかも里中主役、相手役は山田らしいぜ」
「…よく二人とも受けたわよね」
「…いや、まずクラスの連中が集客増やすために里中主役って事でごり押ししたらしいぜ…で、里中がゴネて『山田を相手役にするなら』って条件を付けたらしい」
「…あ~やっぱりね…あの里中君だけじゃなくって、山田君までそんな事普通に受ける訳ないって思ったわ」
 彼女は呆れた様に口を開く。彼女は更に続けた。
「…でも、そうすると脚本はどんな感じになるのかしらね」
「…まあ、文化祭で教室が会場だから何かクラスの連中が作ったオリジナルな劇やるんだろうけど…あの二人主役にしてどんな話になるのかは気になるよな」
 三太郎の言葉に、彼女も同意して(迷惑にならない程度にだが)声を上げる。
「…あ~気になる!純粋に観てみたいのもあるけど二人の写真裏ルートで売るために撮りたいのよね~。とはいえあたしは部活の方があるから観に行けないし…」
「…そういや君んとこの部活は何やるんだ?」
「…ん~?人形劇と影絵。うちの恒例だけど今年は結構見ものよ」
「…で、俺は初めてだけど、『中庭ジャック』ってのやるんだろ?」
「…まあね。それも恒例だし…でもそこでOBが暴走しない様に見張らなきゃっていうのがあるのがねぇ…」
 呆れた様に呟く彼女に、三太郎が合わせる様に続ける。
「…ああ、一部で伝説の同時放送部ジャック宣伝ってやつね…でも面白いからいいんじゃないの?」
「…あたしらはいいんだけどね~…後で顧問の香山先生が怒られるのが可哀想だから…ってそれはどうでもいいの!問題はあの二人の劇よ!あの二人のベストショットって結構高く売れるのに~!」
 心底悔しそうな様子を見せる彼女に三太郎は苦笑しながらも、ふと考え付いた様に口を開く。
「…そうだ、俺んとこは模擬店だから暇だし、俺が撮ってやろうか。…ついでに言えば俺の親父8ミリ持ってるからビデオも撮れるぜ」
 三太郎の言葉に、彼女はぱっと顔を輝かせて口を開いた。
「…いいの?じゃあ写真とできればビデオあたしの代わりに撮って!売れたら配当は君7、あたし3でいいから」
 彼女の言葉に、三太郎はさらりと応える。
「…いや、折半でいいよ。いつも俺が野球部行っちまうから、放課後のここの仕事一人で任せてるそのお礼って事で」
「…それはあたしも同じよ、朝弱い上に発声があるあたしの代わりに朝の仕事君が一人でやってくれるじゃない。折半じゃ割に合わないでしょ」
 彼女の言葉に、三太郎は読めない笑顔(とはいえほとんど変わらないのだが)を見せ、更にさらりと口を開いた。
「…じゃあ、その売り上げで一回デートに付き合うっていうのでチャラっていうのはどう?」
 三太郎の言葉に、彼女は一瞬絶句したが、すぐに『勘弁してくれ』という表情になって応える。
「…それはやめて、君のファンに目を付けられたらお金どこじゃないわ」
「…大丈夫だよ、ばれない様にするし、ちょっと映画見てお茶してもらうだけでいいから」
 三太郎の読めない笑顔に彼女は少し考えていたが、やがて『仕方がない』という風情の溜息をつき、口を開く。
「…本当にばれない様にやってくれるのね」
「…ああ」
「…お金はともかく、劇は見たいから背に腹は変えられないわね…分かった。その話、乗るわ」
 彼女の言葉に、三太郎はおどける様な口調で口を開く。
「…じゃあ契約成立って事で、握手しようぜ」
「…はいはい」
 二人は図書室にいる人間に見えない様にカウンターの下で握手をする。彼女が仕事に集中し始めた所で、三太郎はふと呟く。
「…第一段階突破…っと」
「…ん?何か言った?」
「…いいや?別に」
「…?」
 彼女は怪訝そうな表情で三太郎を見詰める。三太郎は相変わらず読めない笑顔で彼女に笑いかけた。