あるオフの昼下がり、土井垣はふと目を覚まし、自分がうたた寝していたと気付く。少しまだ眠りから醒めない状態で周りを見回すと、毛布が掛けられ、恋人である葉月が自分を膝枕しながら、楽しそうに自分を見詰めているのに気がついた。彼は自分の無防備な姿を見られたのが恥ずかしくなり、照れ隠しに少し無愛想な口調で口を開く。
「…起こしてくれれば良かったのに」
「だって…あんまり気持ち良さそうで、起こすの悪いと思ったんだもの」
「だからと言って毛布はともかく、膝枕までせんでも…」
「たまにはいいでしょ?こういうのも」
「…」
 葉月の悪戯っぽい言葉に、土井垣は赤面して沈黙する。確かにこうした事はお互い恥ずかしくてほとんどやらないのだが、時折やって欲しくなる事もある。彼女が自発的にこうしてくれた事が内心は少し嬉しい気持ちもあるのは確か。土井垣は無愛想な口調のまま、ぼそりと答える。
「…ありがとう」
「ふふ」
 そうして二人はしばらく沈黙していたが、やがて葉月が少し嬉しそうな口調で言葉を零す。
「…でも、恋人の特権ね」
「…何がだ」
「将さんの、こんな無防備な姿が見られるなんて。寝顔なんてまるで小さな子供みたいで、本当に可愛いんですもの」
「…」
 葉月の言葉に、土井垣は更に気恥ずかしくなってむっつりとした表情で沈黙する。葉月はその様子にくすりと笑いながらも、優しい口調で更に言葉を重ねる。
「将さんの小さい頃って、きっとこんな表情だったんだろうなって思うと、想像するだけで楽しいし…それに」
「それに?」
「そういう表情を見せてもらえるっていう事が…あたし、とっても嬉しいのよ」
「…葉月」
 土井垣は彼女を見詰める。葉月は心底幸せそうな表情で微笑んでいた。その表情がまるで子供を慈しむ母親の様な表情で、彼は何だか自分の中の子供の部分が呼び覚まされる気がした。そんな思いで彼女に笑いかけると、彼女は更に幸せそうに微笑んで言葉を紡ぐ。
「…ほら、その顔。本当にあどけない子供みたい」
「…そうか」
「うん、それにね」
「何だ」
「いつもは…ほら、あたしの方が、将さんに子どもみたいな姿見せてばっかりで悔しかったから…それもちょっと嬉しい」
 葉月はそう言って顔を赤らめる。そう、いつも二人の時間に無防備で、あどけない子どもの様な表情を見せているのは彼女。彼女は元々実年齢より幼く見えることもあり、普段でも時折あどけない表情が見え隠れする事も確かにあるが、それはほんの一瞬の事で、完全に無防備な状態でずっとそうした表情を見せるのは彼にだけ。彼はその事に気付いて幸せな気持ちが湧いてきて、それをそのまま言葉に乗せる。
「…お前のあどけない顔は…俺だけのものだぞ」
「ん…そのかわり、将さんのそういう顔も、あたしだけのものにしてね」
「…ああ」
「…それより、どうする?もう起きる?」
 葉月の言葉に、土井垣はしばらく考え込んでいたが、ふと顔を赤らめて呟く。
「いや…もう少しこうしていたい…」
「分かったわ…じゃあ、こうしているわね」
「でも…俺がこんな風になるのは…皆には秘密だぞ」
「分かってるわ。だから、将さんがこうするのは…あたしだけにしてね」
「…当たり前だろう」
「うん」

 暖かな陽だまりの中で二人はそうして時を過ごす。陽だまりの様な幸せに包まれて――