「…え?これ宮田さん?」
「巫女さんのコスプレなんかして何やってんだよ」
 5月半ばのロッカールーム、選手達は里中が楽しげに広げた写真を鑑賞していた。里中は説明する様に言葉を紡ぐ。
「コスプレじゃないぜ。祭りの時に本当に巫女さんをやってるんだ。GW仕事入ってないって言うから土井垣さん驚かすために試合に招待しようと思ったらさ、祭りがあるから神輿を担がなきゃいけないし、そうじゃなくてもそこで巫女をやんなきゃいけないって断られちまって。俺もそういえばそうだったと思って、なら祭りの写真を送ってくれって頼んだんだ」
「こっちの法被姿もかっこいいよな。へぇ…宮田さんってこんな事してたんだ」
 感心した様に写真を見つめる一同に、里中は楽しげに更に言葉を紡ぐ。
「葉月ちゃんは昔っから神輿が大好きで子ども神輿…って言ってもその神輿だからすごく重いんだけど…を担いで、その頃は男にばっかり教えてた木遣唄って唄もやりたいって言って教わってたらしいぜ。その分お囃子ができないんだけどな」
「里中…随分詳しいな」
「俺も地区は違ったけど、小田原に住んでた時は同じ日程で祭りがあったからな。作法は一緒だし。それから、若菜ちゃんとこも一緒だぜ」
「ああ、若菜さんも試合に誘ったらそう言っていたな。それだけではなくて、市のイベントもあるから大変だと言っていた。しかしもらったイベントの写真に写っていた姫のお連れ姿に扮した姿は、姫より美しかった」
「義経~うまくいってるんだな~」
「…」
 チームメイトのからかう言葉に、義経は赤面して沈黙する。そうして賑やかに話しているとチームメイトの一人が里中に問い掛ける。
「…で、里中。これどうするつもりでもらったんだ?」
 チームメイトの問い掛けに里中は悪戯っぽい口調で口を開く。
「皆好きな写真持ってけよ。最終的には手元には残らないけど、その代わりにささやかな『臨時収入』が入るぜ」
 その言葉にチームメイトは里中の意図を察し、楽しげに写真を選んでいく。
「あ、じゃあ俺これ。法被姿の宮田さんってかっこいいじゃん。それにこの法被の柄も見てて気に入ったし」
「俺は断然巫女さんの方。中身もそうだけど装束が綺麗だしな」
 そんな風に里中とチームメイトで賑やかに写真の配分をやっていると不意に怒りのオーラが漂ってきたのが分かる。一同は『来た来た』と楽しみ半分、恐れ半分でオーラの元を見詰める。と、そこには憤怒の表情の土井垣が立っていた。土井垣は低い声で呟く。
「お前ら…何をやっている…?」
「え~?宮田さんの晴れ姿を皆で鑑賞しようって見てただけですけど」
「いい加減にしろ!人の許嫁を何だと思ってる!」
「え~?いいじゃないですか、別に裸見てたわけじゃないんですし」
「法被姿は生足もろに見えてますけどね」
「お・ま・え・ら~!」
「だって葉月ちゃんから送って来てくれたんですよ。『智君にお祭りの楽しさを思い出して欲しい』って」
「里中…首謀者はお前か~!」
 里中の言葉に、土井垣は更に激昂する。しかしそんな事も気にしない風情で里中はさらりと口を開く。
「ちなみに回収したかったら皆に一律1000円払って下さいね。皆にこの写真あげる約束したんですから」
「1000円はぼったくり過ぎだろう!」
「なら500円でいいです。これ以上はまけませんよ」
「~っ!」
 土井垣は卒倒しそうになったが、彼女の写真を他のチームメイトに渡す訳にはいかないと、言われた通りまとまると痛い出費だったが、それぞれに500円払って写真を回収した――

 その日のナイターが終わった後、土井垣は怒りのままに葉月に電話を掛ける。数コール後、眠っていたのか間の抜けた声で『は~い』という声が聞こえてきた。それが土井垣の勘に更に触り、彼は怒りのままに言葉をまくし立てていく。
「葉月!お前自分の写真をそう簡単にばら撒くな!何に使われるか分からないんだぞ!」
「…はい?どういう事ですか?」
 まだ夢うつつの状態なのか間の抜けた声のままの葉月に更に土井垣はまくし立てる。
「里中に写真を送っただろう!俺にはそんな事しないくせに、どうして里中には送ったんだ!」
 まくし立てていく土井垣の言葉の強さと内容に、やっと目も覚め、彼が怒っている理由が分かった葉月は、申し訳なさそうに口を開く。
「えっとね…元々は将さんに内緒で試合に来ないかって智君から連絡があったんだけど、毎年あたしお祭に出なきゃでしょ?そう言ったら智君、『俺も昔の事が懐かしくなったから写真を送ってくれよ』って言ってきたの。智君も元は小田原っ子だしお祭の楽しさを思い出してくれたら嬉しいなって思ったから…」
「じゃあ…何で俺には写真をくれないんだ」
 まだ不満げな土井垣の言葉に、葉月はおずおずと応える。
「だって…将さんは一度直に見てるし…写ってる写真だと他の男の人と写ってるのもあるから…将さん見たら怒るんじゃないかなって思って…」
 おずおずと答える葉月に土井垣は言い聞かせる様に口を開いた。
「お前の気持ちは分かったが…俺だってお前の写真が欲しいんだぞ…それに…できるなら…独占したい」
「…」
 土井垣の言葉に電話向こうの葉月は沈黙する。土井垣はふっと溜息をつくと更に言い聞かせる様に言葉を重ねた。
「とにかく…これからは里中でも気軽に写真を送らない事。お前の写真は…俺だけのものだ」
「…ん」
 土井垣の言葉に、葉月は恥ずかしそうに頷く様な声を出す。土井垣は自分でこうした言葉を出したものの独占欲が強いと苦笑しながらも、彼女のどんな姿も自分だけのものにしたいという気持ちは本心であり、それを受け入れてくれる葉月に愛おしさが更に増した――

――しかしその後、ちゃっかり写真から焼き増しをしていた里中の手により、葉月の写真は結局土井垣には内密にチームメイトの手に渡っていたのは余談である――