土井垣は夜中に目を覚ますと、隣で眠っているはずの葉月がいない事に気付く。彼は『またか…』と苦笑しながらとりあえず部屋を見渡すと、ベッドの足元で丸まって眠っている彼女を見つけ、彼は彼女を揺り動かして起こす様に声を掛ける。
「…ほら、こんな風に寝ていると具合が悪くなる。ベッドに戻って寝よう」
 その言葉に半分寝ぼけながら葉月は応える。
「…やだ、…ここがいい。…ベッド、暑いもん…」
「俺と寝るのがそんなに嫌か」
「…ううん…暑いのがやなだけ…」
「…」
 土井垣は葉月の答えに更に苦笑する。彼は彼女といる時は一時も離したくないので肌を合わせた後も離さず眠りに就くのだが、彼女はいつの間にかその腕をすり抜け、眠るのに快適な場所を見つけてそこで眠るのが夏は常であった。今夜の様に部屋から出ずに眠っている時はまだいい方で、ある晩などダイニングキッチンのテーブルの傍の床に丸まっていた事もある。
『…まるで…猫だな』
 快適な睡眠場所を半分寝ぼけながら探し出して眠っている葉月も土井垣は愛しいと思うが、自分の体温を拒絶されている様な一抹の寂しさもあった。そんな寂しさを感じながら土井垣は少し冷房で部屋の温度を下げる。すると彼女はゆっくりと立ち上がり、ベッドへ戻ってきた。どうやら寒くなったらしい。こういう手は身体にも良くないし、卑怯な気がして本当は使いたくないが、彼女を離したくないだけでなく、あまり外で眠らせて具合が悪くなってはいけないと言う思いもあり、こうやってベッドに戻らせるのがいつもの手であった。実際彼女は外で眠っていて熱を出してしまった事もあるので、ベッドで眠らせるのが一番安心できる。彼はベッドに戻った彼女を見届けると、自分もベッドに戻り、彼女を抱き締めるとその耳元に囁く。
「もう外に出るな。…俺の傍にいろ…」
「…ん…あったかいからそうする…」
 その言葉に土井垣は呆れながら口を開く。
「俺はお前の暖房機か…?」
 その言葉に葉月は寝ぼけ半分かそれを装ってか、ぼんやりと応える。
「…そう」
「お前な…」
 土井垣があまりの事に内心頭を抱えていると、葉月は更に呟く。
「将さんはあたしの身体も心も最高の状態にしてくれる…最高のエアコンなの…」
「葉月…」
 葉月の言葉が愛しくて、土井垣は彼女を抱き閉める腕に力を込めると、その額にキスをする。彼女はふふっと笑うと、そのまま安らかな寝息を立て始めた。
『まったく…こいつにはかなわんな…』
 土井垣は心の中で苦笑しながら、エアコンを切ると今度は唇にキスをして、自分も眠りに就いた。