明訓を卒業して、俺はジャイアンツの二軍に合流していた。ランニングからストレッチ、守備練習に打撃練習。徳川さんや土井垣さんの練習で厳しい練習には慣れていると思っていたけれど、やっぱり高校野球とプロは厳しさの質が違う。とはいえ厳しい練習は嫌じゃない。一軍に上がるステップアップだと思えば、それにプロで生きていくための基礎だと思えば大学生が勉強したり、社会人が仕事をするのと同じ、必要な事だって分かっているから。でも、一つだけ心残りがある。それは――

　思えばこの三年間で俺の野球生活はがらりと変わった。まあ変わった理由は俺が転校する高校を間違えたからだから、自分の責任って言えば責任だけれども。高校に入ってしばらくは、俺はキャッチャーとして高い名を馳せていた。そうしてその剛球のためにキャッチャーに泣いていた横浜学院の土門さんに買われて横浜学院に入るはずだった。ここで横浜と土門さんのあだ名の『ドカベン』だけで学校を探していなかったら、俺の野球人生はまた違っていたのだろうか――

　結局俺は同じ『ドカベン』の異名を持つ山田のいる明訓に間違って転校して不覚にも気に入ってしまい、留まる事にしてしまった。そこから俺の野球人生はガラリと変わった。山田は俺以上のキャッチャーで、キャッチャーとしての俺の出る幕はなくなった。ごくたまに山田がピンチの時にキャッチャーをする機会にも恵まれたけれども、俺では里中を最高の状態にする事ができなかった。そしていつの間にか俺は強肩を買われレフトが定位置になり、ドラフトでも外野手として指名された――

　あの時山田のいる明訓に入らなかったら、俺は土門さんの球を受けてキャッチャーのまま高い評価を受けていたのだろうか。それとも、並の選手としてこうしてプロに入る事もなく終わっていたのだろうか――

「こらー！三太郎！ルーキーが上の空なんて悠長にやってるんじゃない！」
「はい！すいません！」

　――まあ、考えても仕方ない事か。大事なのは俺が今こうしてここにいるって事。そうして見上げた青空は眩しい位青すぎるブルー。プロとして生きるために、そんな眩しすぎる今日の積み重ねを夢中で生きていこう――