「『知らなかった事』…それは何ですか?」
ジェイドが問いかけるとブロッケンマンは自嘲気味な表情のままジェイドに向き直り、口を開いた。
「私の育った時代は戦火の中だった。そしてあいつの育った時代も、その燻りがまだ続いていた。だから私はあいつに教える事ができなかった。平和な時代こそ、その平和を守るために戦争という意味ではなく戦わなければならず、それこそが真の正義超人としての使命だとな。…あいつが酒に溺れたのを天上から見ていて、私はそれに気付いたのだ…」
「…」
ジェイドは何も言えずにブロッケンマンを見詰めていた。しばらくの気まずい沈黙の後、ジェイドはふっと口を開いた。
「…いいじゃないですか」
「何?」
ジェイドの言葉の真意が分からず、ブロッケンマンは問い返す。ジェイドは続けた。
「確かにレーラァは長い間お酒に溺れました。でも、ちゃんと立ち直ってそこから俺という超人を育ててくれました。回り道をしたかもしれませんけど、あなたから受け継いだ真っ直ぐ生きるっていう芯があったからこそレーラァは立ち直って、自分で生きる道を見つけられたんじゃないんですか。最終的に自分の道を自分で切り開けたレーラァは素晴らしいですよ」
「…そうだろうか」
「そうですよ」
ジェイドはブロッケンマンに向かって笑いかける。複雑な表情を見せているブロッケンマンに、ジェイドは更に続けた。
「…それに」
「それに?」
「『真っ直ぐ生きる』っていう思い、何があっても自分の信念を曲げない事。…それはきっと大切な事なんだって俺は思っています。だからあなたがレーラァに対して見せていたものは、決して間違ってはいないって俺は思ってますよ。そうして育って俺にも見せてくれたレーラァも、それをレーラァに見せていたあなたも素晴らしいです」
「…そう言ってくれるか」
「はい」
ブロッケンマンはしばらく沈黙していたがふとジェイドに向き直り、また感情を余り見せない表情で口を開いた。
「…ジェイド」
「はい」
「ブロッケン一族を統べていた者として、一つの言葉を捧げよう。戦闘超人故の心構えだ。『己の欲のために戦うな、そして必要のない戦いは絶対にするな。無意味な戦いは悲しみを産むだけだ』」
「…はい」
「それだけだ。…さあ、ここなら光が見えるだろう。現世へ戻るにはあの方向へ行けばいい」
「分かりました。ありがとうございます」
「息子の弟子と話せるなど、よくこんな私に幸せな偶然を神は与えてくれたものだ。…後は、これから永い先に息子が来るのを待つのみだな」
「お父さん…」
自嘲気味なブロッケンマンの言葉にジェイドが何も言えず彼を見詰め返すと、彼は感情を見せない表情で静かに彼を送り出した。
「…さあ、行け。お前はまだ戦わなければならない。平和な世を守るためにな」
「…」
ジェイドはしばらく立ち止まっていたが、やがて、ブロッケンマンに背を向けたまま口を開いた。
「ブロッケン一族を継ぐ身として、もう一つ心に留めておきます。『愚直と笑われようと己の決めた道は真っ直ぐに貫き通し、曲げる事は絶対にしないし、してはならない』…これがブロッケン流ですよね」
「ジェイド」
「…じゃあ…失礼します」
ジェイドはブロッケンマンに背を向けたまま、光に向かって歩いて行く。これは混沌とした意識が見せた夢なのかもしれない。しかし今聞いた師の父の言葉には戦い続けてきた者の重みがあった。夢ならそれでもかまわない。自分は戦い続けてきた彼の、そして自らの師の思いを受け継ぎ生きていく。ブロッケン一族を受け継ぐ者として――
ジェイドが問いかけるとブロッケンマンは自嘲気味な表情のままジェイドに向き直り、口を開いた。
「私の育った時代は戦火の中だった。そしてあいつの育った時代も、その燻りがまだ続いていた。だから私はあいつに教える事ができなかった。平和な時代こそ、その平和を守るために戦争という意味ではなく戦わなければならず、それこそが真の正義超人としての使命だとな。…あいつが酒に溺れたのを天上から見ていて、私はそれに気付いたのだ…」
「…」
ジェイドは何も言えずにブロッケンマンを見詰めていた。しばらくの気まずい沈黙の後、ジェイドはふっと口を開いた。
「…いいじゃないですか」
「何?」
ジェイドの言葉の真意が分からず、ブロッケンマンは問い返す。ジェイドは続けた。
「確かにレーラァは長い間お酒に溺れました。でも、ちゃんと立ち直ってそこから俺という超人を育ててくれました。回り道をしたかもしれませんけど、あなたから受け継いだ真っ直ぐ生きるっていう芯があったからこそレーラァは立ち直って、自分で生きる道を見つけられたんじゃないんですか。最終的に自分の道を自分で切り開けたレーラァは素晴らしいですよ」
「…そうだろうか」
「そうですよ」
ジェイドはブロッケンマンに向かって笑いかける。複雑な表情を見せているブロッケンマンに、ジェイドは更に続けた。
「…それに」
「それに?」
「『真っ直ぐ生きる』っていう思い、何があっても自分の信念を曲げない事。…それはきっと大切な事なんだって俺は思っています。だからあなたがレーラァに対して見せていたものは、決して間違ってはいないって俺は思ってますよ。そうして育って俺にも見せてくれたレーラァも、それをレーラァに見せていたあなたも素晴らしいです」
「…そう言ってくれるか」
「はい」
ブロッケンマンはしばらく沈黙していたがふとジェイドに向き直り、また感情を余り見せない表情で口を開いた。
「…ジェイド」
「はい」
「ブロッケン一族を統べていた者として、一つの言葉を捧げよう。戦闘超人故の心構えだ。『己の欲のために戦うな、そして必要のない戦いは絶対にするな。無意味な戦いは悲しみを産むだけだ』」
「…はい」
「それだけだ。…さあ、ここなら光が見えるだろう。現世へ戻るにはあの方向へ行けばいい」
「分かりました。ありがとうございます」
「息子の弟子と話せるなど、よくこんな私に幸せな偶然を神は与えてくれたものだ。…後は、これから永い先に息子が来るのを待つのみだな」
「お父さん…」
自嘲気味なブロッケンマンの言葉にジェイドが何も言えず彼を見詰め返すと、彼は感情を見せない表情で静かに彼を送り出した。
「…さあ、行け。お前はまだ戦わなければならない。平和な世を守るためにな」
「…」
ジェイドはしばらく立ち止まっていたが、やがて、ブロッケンマンに背を向けたまま口を開いた。
「ブロッケン一族を継ぐ身として、もう一つ心に留めておきます。『愚直と笑われようと己の決めた道は真っ直ぐに貫き通し、曲げる事は絶対にしないし、してはならない』…これがブロッケン流ですよね」
「ジェイド」
「…じゃあ…失礼します」
ジェイドはブロッケンマンに背を向けたまま、光に向かって歩いて行く。これは混沌とした意識が見せた夢なのかもしれない。しかし今聞いた師の父の言葉には戦い続けてきた者の重みがあった。夢ならそれでもかまわない。自分は戦い続けてきた彼の、そして自らの師の思いを受け継ぎ生きていく。ブロッケン一族を受け継ぐ者として――