「…そう、明日からレッスル星に行くんだ」
ベッドに座ったマノンは静かな口調で呟いた。ここはマノンの家。そしてジェイドの師匠であるブロッケンJr.の使用人であり親友である夫婦の家でもある。その使用人一家に別れの挨拶に訪れ、幼馴染がまた寝込んでいると聞いて彼女の部屋を訪れたジェイドは、大分具合が良くなって起き上がっている彼女に対して、誇らしげに口を開いた。
「ああ、とうとう俺もヘラクレス・ファクトリーに入学する資格をもらったんだ。これから他にも仲間ができるし、今以上に訓練を頑張って立派な正義超人になるんだ」
「そう…そうよね。…あ、そうだ。宇宙だとこことはきっと違うだろうから、怪我とか病気とかしない様に元気で頑張ってね」
「ああ、もちろんさ。それよりマノンこそ元気でいろよ。今日だって学校の帰りに具合が悪くなって、観光客に助けられたんだろ」
「うん。…でも明るくていい人でしょ?あの女の人」
「そうだな。ドイツ語もろくに分からないのに、『放ってはおけないから』ってお前に声掛けてタクシーに乗せて自分の滞在してるホテルへ一旦連れて行って、医者呼ぶ様にフロントに頼んだんだもんな。本当にいい人だよ」
感心する様に言葉を紡ぐジェイドに、マノンはおかしそうに続ける。
「でもまさか連れて行かれたホテルが、お父さんの働いてるホテルだとは思ってなかったわ。お父さん恐縮しちゃって。偶然ってあるものなのね」
「…で、丁度その人のツアーは今日自由行動で食事も自由だったから、夕食をご馳走したって訳だ」
「うん、でもエリカさん…その女の人の名前だけど…も、『医療職として当然の行動をしただけなのに』ってやっぱり恐縮してて。本当にいい人だと思ったから、『日本語をもっと勉強したいから、お友達になって下さい』って頼んじゃった。エリカさんもそっちは『私もドイツ語をもっと勉強したいから喜んで』って言って、受けてくれたわ」
明るく言うマノンにジェイドは複雑な表情を見せ、口を開く。
「そうか…語学の勉強をもっとするって事は、お前はやっぱり執事になるつもりなんだな」
ジェイドの言葉にマノンはきっぱりと応える。
「もちろんよ。ジェイドがいる限りはブロッケン一族は続くわ。だとしたらあたしの役目は執事としてブロッケン一族を守る事…それに」
「それに?」
ジェイドの問い掛けに何故かマノンはふっと寂しげな表情を見せ、呟く様に口を開いた。
「…何でもないわ」
「何だよ、気になるな」
ジェイドはマノンの様子に不満げな表情を見せる。マノンはそれを宥める様に笑うと、おどける様に言葉を重ねる。
「何にせよあたしは執事としての心得をお父さんから学ぶつもり。女の執事ってあんまり例がないみたいだけど、この男女平等の世の中だもん。女が執事になったっていいじゃない」
マノンの言葉に、ジェイドはおかしそうに笑って同意する。
「それもそうだな」
「でしょ?」
そこで二人はおかしそうに笑う、ひとしきり笑った後、不意にマノンが真摯な口調に変わり、ジェイドに言葉を掛ける。
「だから…ジェイドも立派な正義超人になってね」
マノンの言葉に何かを感じ取ったのか、ジェイドも真摯な口調で言葉を返す。
「ああ、あんまり俺はお前の世話にならないかもしれないけど…それがお前の夢だって言うなら、お前も身体を大事にしながら頑張って敏腕執事になってくれよ」
「うん」
そこで二人はにっこり笑いあう。暖かい沈黙が続いた後、ふとジェイドが提案をする。
「…なあ、お互いこれから夢に向かって頑張るって事で『乾杯の歌』を歌わないか?」
「…あたし達、飲める年齢じゃないのに?」
茶化す様に言葉を返すマノンにジェイドは不満げに口を開く。
「別にいいぜ、嫌なら」
不満げなジェイドの表情をマノンは見詰め、やがてふっと寂しげに微笑むとゆっくりと口を開いた。
「…いいわ、歌いましょ。…お互いの夢が叶う様祈って」
ジェイドは彼女の様子を不思議に思ったが、自分の言葉に同意してくれた彼女にある種の嬉しさと何故か照れを感じ、少し口ごもりながら言葉を紡いだ。
「あ、ああ…じゃあいくぜ」
そうして二人は『乾杯の歌』を歌った。お互いのこれからの道が輝く様祈りながら――
ベッドに座ったマノンは静かな口調で呟いた。ここはマノンの家。そしてジェイドの師匠であるブロッケンJr.の使用人であり親友である夫婦の家でもある。その使用人一家に別れの挨拶に訪れ、幼馴染がまた寝込んでいると聞いて彼女の部屋を訪れたジェイドは、大分具合が良くなって起き上がっている彼女に対して、誇らしげに口を開いた。
「ああ、とうとう俺もヘラクレス・ファクトリーに入学する資格をもらったんだ。これから他にも仲間ができるし、今以上に訓練を頑張って立派な正義超人になるんだ」
「そう…そうよね。…あ、そうだ。宇宙だとこことはきっと違うだろうから、怪我とか病気とかしない様に元気で頑張ってね」
「ああ、もちろんさ。それよりマノンこそ元気でいろよ。今日だって学校の帰りに具合が悪くなって、観光客に助けられたんだろ」
「うん。…でも明るくていい人でしょ?あの女の人」
「そうだな。ドイツ語もろくに分からないのに、『放ってはおけないから』ってお前に声掛けてタクシーに乗せて自分の滞在してるホテルへ一旦連れて行って、医者呼ぶ様にフロントに頼んだんだもんな。本当にいい人だよ」
感心する様に言葉を紡ぐジェイドに、マノンはおかしそうに続ける。
「でもまさか連れて行かれたホテルが、お父さんの働いてるホテルだとは思ってなかったわ。お父さん恐縮しちゃって。偶然ってあるものなのね」
「…で、丁度その人のツアーは今日自由行動で食事も自由だったから、夕食をご馳走したって訳だ」
「うん、でもエリカさん…その女の人の名前だけど…も、『医療職として当然の行動をしただけなのに』ってやっぱり恐縮してて。本当にいい人だと思ったから、『日本語をもっと勉強したいから、お友達になって下さい』って頼んじゃった。エリカさんもそっちは『私もドイツ語をもっと勉強したいから喜んで』って言って、受けてくれたわ」
明るく言うマノンにジェイドは複雑な表情を見せ、口を開く。
「そうか…語学の勉強をもっとするって事は、お前はやっぱり執事になるつもりなんだな」
ジェイドの言葉にマノンはきっぱりと応える。
「もちろんよ。ジェイドがいる限りはブロッケン一族は続くわ。だとしたらあたしの役目は執事としてブロッケン一族を守る事…それに」
「それに?」
ジェイドの問い掛けに何故かマノンはふっと寂しげな表情を見せ、呟く様に口を開いた。
「…何でもないわ」
「何だよ、気になるな」
ジェイドはマノンの様子に不満げな表情を見せる。マノンはそれを宥める様に笑うと、おどける様に言葉を重ねる。
「何にせよあたしは執事としての心得をお父さんから学ぶつもり。女の執事ってあんまり例がないみたいだけど、この男女平等の世の中だもん。女が執事になったっていいじゃない」
マノンの言葉に、ジェイドはおかしそうに笑って同意する。
「それもそうだな」
「でしょ?」
そこで二人はおかしそうに笑う、ひとしきり笑った後、不意にマノンが真摯な口調に変わり、ジェイドに言葉を掛ける。
「だから…ジェイドも立派な正義超人になってね」
マノンの言葉に何かを感じ取ったのか、ジェイドも真摯な口調で言葉を返す。
「ああ、あんまり俺はお前の世話にならないかもしれないけど…それがお前の夢だって言うなら、お前も身体を大事にしながら頑張って敏腕執事になってくれよ」
「うん」
そこで二人はにっこり笑いあう。暖かい沈黙が続いた後、ふとジェイドが提案をする。
「…なあ、お互いこれから夢に向かって頑張るって事で『乾杯の歌』を歌わないか?」
「…あたし達、飲める年齢じゃないのに?」
茶化す様に言葉を返すマノンにジェイドは不満げに口を開く。
「別にいいぜ、嫌なら」
不満げなジェイドの表情をマノンは見詰め、やがてふっと寂しげに微笑むとゆっくりと口を開いた。
「…いいわ、歌いましょ。…お互いの夢が叶う様祈って」
ジェイドは彼女の様子を不思議に思ったが、自分の言葉に同意してくれた彼女にある種の嬉しさと何故か照れを感じ、少し口ごもりながら言葉を紡いだ。
「あ、ああ…じゃあいくぜ」
そうして二人は『乾杯の歌』を歌った。お互いのこれからの道が輝く様祈りながら――
――盃を持て さあ卓を叩け
立ち上がれ飲めや 歌えやもろびと
祝いの盃 さあ懐かしい
昔のなじみ 心の盃を
飲めや歌え 若き春の日のために
飲めや歌え みそなわす神のために
飲めや歌え わが命のために
飲めや歌え 愛のために ヘイ
盃を持て さあ卓を叩け
立ち上がれ飲めや 歌えやもろびと
祝いの盃 さあ懐かしい
昔のなじみ 心の盃を――
立ち上がれ飲めや 歌えやもろびと
祝いの盃 さあ懐かしい
昔のなじみ 心の盃を
飲めや歌え 若き春の日のために
飲めや歌え みそなわす神のために
飲めや歌え わが命のために
飲めや歌え 愛のために ヘイ
盃を持て さあ卓を叩け
立ち上がれ飲めや 歌えやもろびと
祝いの盃 さあ懐かしい
昔のなじみ 心の盃を――