「…おい、あの話は本当なのかよ!」
「…ああ、認めたくないですが…本当です」
テオドールの慌てた問いに、クラウスも平静に見せながらも重い口調で答える。テオドールはその『答えに』ソファにどかりと座ると、額に手を当て心底嫌そうな口調で更に呟く。
「いくらアマーリエと引き裂かれたからって…よりにもよって『あの』マルヴィーダかよ…」
「私も説得はしたんですが、フランツも強情と言うか…おそらく、絶望しているんでしょう」
「まあ…確かに子どもだけはバンバン産みそうな女だが…俺嫌だぜ?あんなのがフランツの女房に…ひいては俺の義理の妹になるの」
「私も、こう言っては失礼ですが…彼女がこの屋敷の女主人になるのは…ちょっと…」
テオドールの言葉に、クラウスも同意して溜息をつく。彼らが話しているのは彼らの主人であり、同時に親友であるフランツ・フォン・ブロッケン――通称ブロッケンマン――の結婚話。元々フランツはアマーリエ・シェリングという天才的な表現力で『ピアノの歌姫』と呼ばれ国民から愛されている新進気鋭のピアニストと恋におち結婚の約束まで交わした仲であったが、フランツ側は親はともかく一族の者達が彼女の出身が貧しい庶民、しかも孤児という事が許せず、アマーリエの側も国民が自分達が愛しているピアニストが『ドイツの鬼』と怖れられている残虐超人と結ばれる事を許さず、二人は引き裂かれてしまったのである。そうして涙ながらに別れたフランツに、一族の者達はここぞとばかりにそれぞれ自分達に都合のいい結婚相手を差し出してきたのである。そしてその中からフランツは新たなる婚約者を選んだのだが、その相手が余りに余りな相手なので、この様子になっている次第である。
「フランツは何て言ってる?」
「顔は…個性的だと」
「あれはどう見てもヤーパンにある『ナマハゲ』…だっけか…だろ?」
「身体は…多産系でいいのではないかと…」
「あれは…多産系…っつうより…マッチョ…っつった方がいいだろ…」
「心根も優しいと…」
「まあ…それは認めるが。…確か前牛一頭と格闘して、勝ったんじゃなかったっけか?」
「いえ…熊五頭と…です」
「もっと酷ぇじゃねぇか!そんなのよく嫁にしようと思ったなフランツの奴!他に見た目も心根ももっといい女一杯いただろ!?アグネスとか、マティルデとか、アーデルハイドとか、ツェツィーリアとか!!」
「テオドール、良く調べましたね。後でローザに教えておきましょうか?」
「やかましい!今はフランツの事だろ!」
あまり話が重くならない様、軽くジャブをかますクラウスの言葉に、逆にテオドールは激昂する。クラウスは苦笑しながらもふと真面目な顔に戻り、改めて口火を切る。
「とはいえ、本当にフランツが愛せるならいいのですが。…多分、彼女を愛したとしても…女性としてではなく…」
「ペットか…家畜並みだよな。レベルは」
クラウスの言葉に、テオドールはその後の言葉を察し、続けた。しばらくの気まずい沈黙の後、クラウスが重い口を開く。
「このままだと、皆が不幸になります。フランツも…マルヴィーダ嬢も…」
「そして誰より俺達が…だ」
「…ええ」
あんな猛牛の様な嫁が来られては自分達が困ってしまう。そこで二人の意見は一致している。
「さて…どうするか」
「壊すしかないでしょう…この縁談を」
「それで、はっきりフランツにアマーリエを選んでもらわねぇとな」
「ええ。フランツの幸せのために」
「…よし。俺達で頑張ろう」
「…ええ」
そうして二人はがっちりと握手をする。この縁談を完膚なきまでに破壊して、自分達の主人兼親友が真に愛する女性と結ばれる様に、いや、何より自分達の平和な生活を守るために――
「…ああ、認めたくないですが…本当です」
テオドールの慌てた問いに、クラウスも平静に見せながらも重い口調で答える。テオドールはその『答えに』ソファにどかりと座ると、額に手を当て心底嫌そうな口調で更に呟く。
「いくらアマーリエと引き裂かれたからって…よりにもよって『あの』マルヴィーダかよ…」
「私も説得はしたんですが、フランツも強情と言うか…おそらく、絶望しているんでしょう」
「まあ…確かに子どもだけはバンバン産みそうな女だが…俺嫌だぜ?あんなのがフランツの女房に…ひいては俺の義理の妹になるの」
「私も、こう言っては失礼ですが…彼女がこの屋敷の女主人になるのは…ちょっと…」
テオドールの言葉に、クラウスも同意して溜息をつく。彼らが話しているのは彼らの主人であり、同時に親友であるフランツ・フォン・ブロッケン――通称ブロッケンマン――の結婚話。元々フランツはアマーリエ・シェリングという天才的な表現力で『ピアノの歌姫』と呼ばれ国民から愛されている新進気鋭のピアニストと恋におち結婚の約束まで交わした仲であったが、フランツ側は親はともかく一族の者達が彼女の出身が貧しい庶民、しかも孤児という事が許せず、アマーリエの側も国民が自分達が愛しているピアニストが『ドイツの鬼』と怖れられている残虐超人と結ばれる事を許さず、二人は引き裂かれてしまったのである。そうして涙ながらに別れたフランツに、一族の者達はここぞとばかりにそれぞれ自分達に都合のいい結婚相手を差し出してきたのである。そしてその中からフランツは新たなる婚約者を選んだのだが、その相手が余りに余りな相手なので、この様子になっている次第である。
「フランツは何て言ってる?」
「顔は…個性的だと」
「あれはどう見てもヤーパンにある『ナマハゲ』…だっけか…だろ?」
「身体は…多産系でいいのではないかと…」
「あれは…多産系…っつうより…マッチョ…っつった方がいいだろ…」
「心根も優しいと…」
「まあ…それは認めるが。…確か前牛一頭と格闘して、勝ったんじゃなかったっけか?」
「いえ…熊五頭と…です」
「もっと酷ぇじゃねぇか!そんなのよく嫁にしようと思ったなフランツの奴!他に見た目も心根ももっといい女一杯いただろ!?アグネスとか、マティルデとか、アーデルハイドとか、ツェツィーリアとか!!」
「テオドール、良く調べましたね。後でローザに教えておきましょうか?」
「やかましい!今はフランツの事だろ!」
あまり話が重くならない様、軽くジャブをかますクラウスの言葉に、逆にテオドールは激昂する。クラウスは苦笑しながらもふと真面目な顔に戻り、改めて口火を切る。
「とはいえ、本当にフランツが愛せるならいいのですが。…多分、彼女を愛したとしても…女性としてではなく…」
「ペットか…家畜並みだよな。レベルは」
クラウスの言葉に、テオドールはその後の言葉を察し、続けた。しばらくの気まずい沈黙の後、クラウスが重い口を開く。
「このままだと、皆が不幸になります。フランツも…マルヴィーダ嬢も…」
「そして誰より俺達が…だ」
「…ええ」
あんな猛牛の様な嫁が来られては自分達が困ってしまう。そこで二人の意見は一致している。
「さて…どうするか」
「壊すしかないでしょう…この縁談を」
「それで、はっきりフランツにアマーリエを選んでもらわねぇとな」
「ええ。フランツの幸せのために」
「…よし。俺達で頑張ろう」
「…ええ」
そうして二人はがっちりと握手をする。この縁談を完膚なきまでに破壊して、自分達の主人兼親友が真に愛する女性と結ばれる様に、いや、何より自分達の平和な生活を守るために――