シーズンも半ばに入った頃、義経は守備では相変わらず冴えたものを見せていたし、今では時折になったストッパーの仕事も立派にこなしていたが、打撃の面で今一つの成績に陥っていた。彼自身不調にはとうに気づいていて、どうもしっくりいかない打撃に悩んではいたが、表面上はその悩みは見せない様に努めている。というのも道場での修業が良くも悪くも感情の発露を抑える方向に彼を育て上げたのでうまく悩む姿を出す事ができず、チームメイトはもちろんだが、誰より一番大切な愛しい恋人…いや、実質的な恋女房が、彼の悩む姿を見てしまったら自分の存在が彼の障害になっているのではないかと誤解してしまい、彼女自身まで悩み苦しんでしまう事がよく分かっているからである。本当なら悩んでいる姿を正直に見せるのが正しい恋人同士や夫婦の姿なのだと思う。しかし歪んだ形でしかその姿が見せられないのなら、そんな姿は見せず、悩んでいる時に一番欲しい、愛おしい存在の笑顔と優しい心遣いを受け取る方がずっと自分のためにいい、と彼は思っていた。そんな事を思いつつ今日の試合も守備は完璧だったが打撃がしっくりいかないまま試合も敗北で終え、今日は週末で仕事が休みになる『彼女』がマンションに来ているから早く帰ろうとロッカールームで着替えていると、三太郎と星王が声を掛けてきた。
「よお、義経。今日も打撃は散々だったな」
「…まあな」
「まあお前は元々『守備の人』だからいいけどさ、こんだけ打てないとくさくさしないか?」
「…殴られたいか?俺だって現状がよくないし、どうにかしなければならない事位分かっている」
「ま〜ま〜そんな怖い顔しないで。そんなお前に『起爆剤』やるよ」
「『起爆剤』?」
そう言って何やら包みを渡す二人からその包みを受け取り、怪訝そうに義経が問い返すとわびすけや緒方も声を掛けてくる。
「…ま、『起爆剤』ってか『応援グッズ』だな」
「それでゆきさんに応援してもらえよ。多分一発で打てるようになるぜ〜」
「…?そうか…とりあえず何か分からないから開けてみるか」
そう言って包みを開けようとする義経を一同は慌てて止める。
「ああ、ダメダメここで開けちゃあ」
「持って帰ってお姫さんの前で開ける事。でないとサプライズにならないからな〜」
「何だか分からないが…分かった」
そう言って何の疑問も持たず素直に包みをバッグにしまう自分を見詰める一同の目が心なしか笑っている事に、義経は全く気付いていなかった――
そうしてマンションに帰り、部屋に入ると若菜が少し残念そうな笑顔で彼を出迎える。
「お帰りなさい、お疲れ様。…でも試合、残念だったわね」
「ああ。でも負ける日もあるさ」
「それに…最近光さん打てないわね…それも心配」
「それもそういう時期もあるさ。俺は元々打撃より守備が売りだしな。守備までは低迷していないだろう?」
「ええ…でも」
そう言って暗い表情を見せ何か言いたげな若菜をきつく抱き締めてその唇を塞ぐと、囁く様な声だが、言い聞かせる様な口調で言葉を掛ける。
「…いいから。不調は不調、一年を通して調子がいいばかりだったらそれこそ化け物だ。きっと今が底だろうから、これから調子がどんどんまた上がってくるさ」
「…そうかしら」
「そうさ」
「…はい」
「さあ、今日の汁物はどんな味付けにしてくれたんだ?」
そうして翌日の試合の支度をしている間に夜食の汁物の用意をしてもらい、二人で話しながら口にし、互いに風呂を使い、寝室で寝支度をしていた時に義経はふと星王達からもらった包みの事を思い出し、結局何だろうと思い包みを開けてみる事にする。そしてその『中身』を取り出し――直後顔を真っ赤にしてそのまま勢いよく包みに戻し、慌てて隠す場所を探す。そうしてあたふたしている彼を風呂から上がって寝室に入ってきた若菜は不思議そうに見詰めながら問いかける。
「どうしたの?光さん、そんなに慌てて」
「あ…いや…その…」
そうして義経が背中に何か隠している事に気づいた若菜は、何だろうとその『何か』を見せてもらおうとする。
「光さん、何隠してるの?」
「いや、これは…最近の不振の『起爆剤』やら若菜さん用の『応援グッズ』やらたばかった星王達の悪ふざけで…」
「それなら面白そうじゃないですか。『起爆剤』になるならいい事ですよ。それに私用の『応援グッズ』なんですよね?なら私にも見せてくれないと」
「いや…『起爆剤』やら『応援グッズ』というのはあいつらの嘘だ。それに見せたら若菜さんは絶対に怒る。…あの馬鹿者共が…」
「そんな事言うと余計気になるわ。絶対に見せてもらいます」
そう言うと若菜は義経の背中の『何か』を取り上げようとする。彼は彼女に渡らない様に死守する。そうしてしばらくじゃれあった後、一瞬の隙をついて彼から『何か』を奪い取り、包みから取り出して確認した瞬間、彼女は彼が必死に隠そうとした理由が分かり、真っ赤になって俯いた。
「…これって…」
「…だから、見せたくなかったんだ…」
『それ』はピンクのベビードールだったのだ。揃いのショーツまでご丁寧についていて、デザインも女の子のおしゃれやリラックス用などではなく『その手』用のものだと明らかに分かるもの。しばらくの気まずい沈黙の後、若菜が恥ずかしそうに問いかける。
「これ…私用の『応援グッズ』って言ってたけど…光さんがリクエスト…した…とか…?」
「それは断じてない。…いくら俺でも…そこまで他人に頼むほど…その、落ちぶれてはいない」
「…そう」
そうしてまたしばらくまた気まずい沈黙が続いた後、若菜が囁く様な声で躊躇いがちにまた問いかける。
「これ…光さん…私に…着てほしい…?それに、着て…『応援』したら…本当に…調子が出るかしら…」
普段の若菜の性格からは考えられない言葉に義経は狼狽しながらも、こちらも躊躇いがちに囁く様に言葉を返す。
「いや…無理はしなくていいから。…まあ、確かに…あいつらの悪ふざけは殴りたいし…『起爆剤』云々は別としても…着た所を見たいのは、その…山伏の身としては修業が足りないが…一人の男としては…その、本音では…ある」
「…そう」
若菜はしばらく考え込んでいたが、やがて顔を真っ赤にしながらもベビードールを手に取りすっと立ち上がると、消え入りそうな声ではあったが義経にははっきり聞こえる声で言葉を紡ぐ。
「…折角のチームメイトの皆さんの『心遣い』だもの…光さんも見たいって言ったし…着てくるわね。…でも、恥ずかしいから…明かり…暗くしておいてね」
「あ…ああ」
そう言うと若菜は部屋を出て行った。多分バスルームで着替えて来るつもりなのだろう。義経は恥ずかしさと何とも言えない胸騒ぎが高まり、両手で確実に真っ赤になっているだろう顔を覆って大きくため息をついた――
しばらくして彼女の要望通り薄暗くした寝室に若菜が戻って来る。その姿は言った通り、着ていた黄色の小花模様のパジャマからピンクのベビードールに変わっていた。その姿に義経はため息をつく。ベビードール単体で見ていた時には品がない品だと思っていたが、こうして彼女が着てみると、パウダーピンクの薄い布地は彼女の透き通る様な白い肌がよく映えるし、胸元のギャザーやリボンなどのデザインがなかなか彼女の可憐な容姿に似合っていて可愛らしい。しかし同時に薄明かりに映ったその薄い布地から透けて見えたり、胸の中央で重ねられた薄布からちらりちらりと覗く白い腹部や胸が逆に薄布を通す分薄明かりのせいでエロティックでもあり、欲望を掻き立てもする。そうして見詰めている彼の視線が恥ずかしいのか、彼女は普段から肌を合わせる前の態度が初々しく可愛らしいのだが、初めて肌を合わせた時の様ないつも以上の初々しい雰囲気で躊躇いがちに彼に近付き、静かにベッドの端に座っていた彼の隣に座ると、やはり躊躇いがちに消え入りそうな声で口を開く。
「…どうかしら」
その若菜の雰囲気が可愛くて、同時に蠱惑的で、義経は高鳴る鼓動と欲望を抑えながら応える。
「ああ…こう言っては何だが、良く似合っているし…その…可愛い」
「…そう」
義経の言葉に若菜は何故か寂しそうな表情を見せた。その表情が不思議で義経はまだ鼓動が高かったが、それでもそれを見せない様に静かに問いかける。
「…どうした?」
彼の言葉に、若菜はしばらく俯いたまま黙っていたが、やがて俯いたまま、寂しそうにぽつりと言葉を零す。
「私…そんなに色気がないかしら」
「…え?」
「こういうあからさまな格好しても、可愛いって言われるだけで…光さんに…何の感情も起こさない位魅力のない…女なのかしら…」
若菜の意外な、しかし思いがよく分かる言葉と儚げな表情に、義経は彼女を傷つけた事は辛いと思ったがその表情が更に欲望を掻き立て、その心のままにするりと薄布の間に手を滑り込ませると耳元に囁く。
「いや。…可愛いというのも本当だが、これは建前だ…本音は…魅力的なのも…色気もあるが…一番の本音は、言葉にならないから…実地だ」
「…光さん」
義経の囁きに若菜は顔を赤らめながらも恥ずかしそうに微笑む。そうして二人は深く口づけると、そのまま彼は彼女を押し倒し、掌や指先や唇を這わせていく。彼女はその愛撫に反応し、甘い声やため息を漏らしながらも、その隙をついて彼のパジャマのボタンを外し、脚を使ってズボンをずらしていく。彼女の『逆襲』に彼はくすくすと笑いながら耳元に囁く。
「あなたも…かなり行儀が悪くなったな」
「…教えたのは誰だったかしら?」
「…そうだった」
そう言って互いにくすりと笑い合うと義経はボタンを外されたパジャマとずらされたズボンや下着を脱ぎ捨て、更に若菜の身体を愛撫しながら着ているベビードールを探っていく。そして胸元のリボンの『秘密』に気づくとまた淫靡にくすくすと笑い、そのままの態度で彼女に囁く。
「このリボンにも…ちゃんと…意味があるんだな」
「…」
若菜が恥じらいで顔を赤らめたのを見て義経は更に笑うとリボンを解く。すると指が一二本だが入る程度の隙間ができた。彼はそこから指を滑り込ませると胸の頂を弄ぶ。そのめくるめくほど強くはないが堪える事ができない快楽に、彼女は切なげな表情を見せながらも恥じらいを持ったまま、甘い声と溜息を微かに漏らす。
「くっ…ふぅっ…」
義経は暫くそうして彼女の恥じらいながらの反応を楽しむ様に胸の頂を弄んでいたが、その内それだけでは物足りなくなり胸元から手を滑り込ませ、胸の頂とともに膨らみそのものを愛撫していく。その愛撫に彼女は先刻より少し高くなった恥じらいの混じった甘い溜息を漏らし、それでも一方的に攻められるのは本意ではない、とばかりに肌を合わせていく間に知ってきた彼の体の感度の高い所へ掌や指を滑らせていく。その心地よい彼女の愛撫に幸福感を覚えながらも、その愛撫と耳をくすぐる彼女の甘いため息に更に欲望が掻き立てられ、更なるとろける様な快楽と『意地悪』を彼女に与えようと手を胸元から外し、彼女の聖域に滑り込ませる。そこには確かに薄布があるのだが――
「親切な設計だ。…最初から外さなくていい様になっているとはな」
「!」
義経の意地悪な囁きに若菜は一瞬全身まで真っ赤にして息を止め、次の瞬間与えられた快楽に甘い声が一際高くなる。薄布は聖域の部分が切れ目となって開いていたのだ。彼はその切れ目から指を滑り込ませ、その泉と花を愛しむ。その内に泉から蜜が溢れ出し、淫猥な音を立て、彼女は恥じらいと快楽の狭間で息を荒げ、甘い声が高くなっていく。やがて彼女の身体は一瞬力が入った後弛緩した。それで彼女が頂点に達したのだと分かった彼はくすくすとまた笑い、意地悪な口調で囁く。
「これだけで、こうなるなんて…今夜は随分…敏感なんだな」
「…知らない」
「じゃあ…今度は俺を…気持ち良くしてくれないか…?」
「…」
義経の囁きに若菜はその意図を察し一瞬顔を真っ赤にしてしばらくためらっていたが、やがてゆるゆると座っている彼の脚の間に顔を落としていき、彼自身に手を掛けまず手を使い、更に口に含み舌と口を蠢かせる。彼は与えられる快楽のままに陶酔した息遣いと表情を見せていた。やがて彼も頂点に達し、彼女の口腔内に欲望を放出する。彼女はその精を飲み込もうとするが、全ては飲み込めずに咳き込んだ。それを見て彼は優しく彼女を抱き締めると囁きかける。
「無理はしなくていいから…辛ければ吐き出してしまってくれ」
「…」
義経の囁きにも若菜は黙って口元を両手で覆ったまま頭を振る。愛しい男の精を吐き出すのは申し訳ない、という風情だ。そんな彼女が可愛くて、愛おしくて、でも辛い思いはさせたくなくて――
「だったら…」
その心のままに彼は彼女の手に自分の手を添えそっと解くと、その手指を口に含んだ後深く口づけ、彼女の手指や口腔内に残っていた自分の精を舌に絡め吸い取り、飲み込んで微笑む。
「…ほら、これでいい」
「…」
義経の客観的に見ると淫猥な行為と微笑みに、若菜は恥じらいと嬉しさと困惑が混じった表情で顔を赤らめ俯いた。その表情がまた可愛らしくて愛おしくて、それと同時に今まで以上の艶めかしさを感じ、その心のままに囁く。
「それにしても、今夜のあなたは…いつもと違って可愛くて…魅力的だ」
「いつもは…可愛くないし…魅力もないの?」
そう言ってわざと拗ねた様な表情を見せる若菜がやはり可愛らしくて、愛おしくて、自分の言いたい事を素直に伝えるのもこんな夜には悪くない、と義経は彼女をもう一度抱き寄せると耳元にわざと意地悪っぽく囁く。
「いや…可愛らしさや魅力に違いがある程度の事さ。いつもは、清らかなあなたが…俺の腕の中で恥じらいながらも、段々と淫らに乱れていくのが魅力的なんだが…今夜は、乱れてもいるが…いつも以上に恥じらいが先に立っているのが…またいつもとは違って可愛いくて魅力的だと…その程度の事だ」
「…」
「…でも」
「…でも?」
「いつもの様に淫らなあなたも見たくなってきたから…もう少し『意地悪』をさせてもらう」
そう言うが早いか義経は若菜の脚を掴み押し広げるとその付け根に顔を埋め、薄布の切れ目越しに泉と花芯を味わっていく。泉と花芯に蠢く舌と、裏腹に薄布越しの熱い吐息。その二つの感覚に弄ばれる様にいつになく彼女は甘い吐息と声を上げ、その与えられる感覚から逃れようと脚を閉じたり身をよじろうとするが、脚を掴まれた時点でしっかりと彼に動きを止められてしまったので、逃れる事ができない。そうして快楽に溺れ甘い吐息と声を上げつつも、その快楽から逃れようと身をよじっている彼女に、彼はわざと意地悪っぽく囁きかける。
「どうした…?気持ち…いいだろう…?どうして、にげるんだ…?」
「だって…ん…ふぅっ……こ…んな…ぁっ…はずか……しい…」
「そんな…はずかしい…あなたが…みたい」
その囁きに更に若菜は更に身体をこわばらせ、また身を激しくよじる。その可愛らしくも淫猥な反応に義経はまた淫靡かつ満足げな表情でくすくすと笑った。そうして彼女に恥じらいを与えながら花を愛しんでいると、彼女はまた頂点に達したのか、泉から蜜が溢れ、掴んでいる脚に一瞬力が入ると、甘く大きな溜息とともに脱力した。脱力したまま肩で息をついている彼女を解放せず彼は本格的に組み敷くと、淫靡な笑みを見せながら薄布の切れ目を広げ、彼女の耳元に囁く。
「後は…お互いに気持ちよく…ならないとな」
「ひか…る…さぁ……ん…やめ…」
「だって…あなただけが、気持ちよくなるばかりは…フェアじゃない」
「!」
義経の意地悪な囁きに息をついていた若菜は一瞬全身を色づかせて息を止める。それを見て彼は更に淫靡な笑みを見せると彼女を貫いた。ほんの少しの抵抗がありながらも、滑らかに彼を受け入れ包み込む彼女に快楽を与え、自らも快楽を貪ろうと彼は彼女が甘い陶酔の表情を見せる場所を探し出し突き上げつつ、彼女の身体の感度が高い所を愛撫していく。彼女は休みなく与えられる甘く、熱い快楽にどう応えたらよいのかという風情で身をよじり、髪を乱れさせながら頭を振り甘い溜息を漏らし、その内に彼を全身で受け止めようとするかの様に首に腕を絡めて密着し、胎内も更に柔らかく彼を包み、温めていく。彼女のその清らかだが同時に淫靡な表情と、彼自身が彼女の熱く柔らかい胎内に包み込まれながらその胎内と薄布に擦られる感覚に彼の欲望と快楽も刺激され、熱く、とろける様な快楽が自らにも返ってくる。そうして二人は互いに目くるめく快楽を貪りあい、溶け合っていった。
行為の後の気怠い身体を、いつもの様に体温を分け合いたくて寄せ合うために義経が若菜を引き寄せようとすると、不意にその腕から彼女がすり抜け、彼に背を向けた。その態度が不思議で彼は彼女に声を掛ける。
「…若菜さん?」
「…」
若菜は黙っている。彼女のその態度に義経も何となく何も言えなくなった。そうしてしばらくの気まずい沈黙の後、不意に彼女が彼に背を向けたままぽつりと呟く。
「…私、今度は…ちゃんと…光さんの『応援』…できたかしら」
「…若菜さん」
「私…光さんの足を…引っ張っているもの。…だって、今の不調…それだけじゃないけど…一つは私が今抱えてるケースで悩んでるのを元気づけようとして、余計な力が入ってるからだって、私…分かっているもの」
「…」
若菜の言葉で義経は自分ですら忘れていた『打撃がしっくりいかなくなった』理由に気づかされた。そうだった。福祉の現場にいる彼女は今仕事でかなり大変なケースを抱えている。しかし不調の悩みなどをある程度まで何でも口に出せる自分と違い、彼女の仕事は守秘義務があるため悩みの大部分は話す事ができない。そんな彼女を元気づけるためにも自分がしっかりして冴えたプレーを見せようと気を張った事で、逆に余計な力が入ってしまっていたのだ。結果確かに守備はそれでよかったが、打撃はそうした事で逆に調子が狂ってしまい『しっくりいかなく』なってしまったのだ。しかしそれは彼女の責任ではない。彼女に対していい恰好をしようとしてしまった自分の責任だ。それなのに彼女は自分の責任だと責任を感じて悩み、自分を少しでもいい方向へ持っていこう、と一生懸命こうして文字通り身体を張ってまで応援をしてくれる。それが申し訳なくて、嬉しくて、何よりそんな彼女が愛しくて、彼は背中から優しく包み込む様に彼女を抱き締めると、耳元に優しく囁いた。
「あなたは…俺の足を引っ張ったりなんかしていない。確かにあなたが悩む姿に俺は心を痛めた。…だが、それ以上に…あなたの俺に対する気遣い、作ってくれる料理、語る言葉、見せてくれる笑顔…全てが俺を力づけてくれているんだ。だから…足を引っ張っているなんて…思わないでくれ」
「…光さん」
彼の腕の中で若菜の身体が小さく震える。どうしたのかと彼が彼女の顔を覗き込むと、彼女の目から涙が零れ落ちていた。彼は彼女をそっと向き直らせてその涙を唇で吸い取ると、言い聞かせる様にまた囁く。
「泣かないでくれ…俺を励ましたいなら…笑顔を見せてくれ。この姿も、その後の事も…確かに嬉しくて励ましにはなったが…何よりそれが…俺に対する一番の励ましだ」
「…はい」
若菜は義経の言葉に返す様に泣きそうな表情を堪え、懸命に笑顔を見せた。彼はその心が嬉しく、愛しく、その笑顔も可憐で美しいと思った。その笑顔に彼も笑顔を返し、優しく問い返す。
「それに…反対に言えば、俺があなたの励ましにしてあげられる事は…試合で冴えた打撃や守備を見せる事だけか?」
義経の言葉に若菜は静かに頭を振って応える。
「いいえ…そうだった。それだけじゃないわ。光さんが私のために食事を作ってくれる事…労わりの言葉をかけてくれる事…何より優しい笑顔をくれる事が…嬉しくて励ましなの」
「だろう?…だから、お互い遠回りしたが…そうして互いに労わりあおう。そうすればお互い絶対に…底から抜け出せる」
「…そうね」
「…ああ」
二人はまた微笑み合うと軽くキスをする。そうして微笑んで抱き合っていたが、やがて若菜がふと悪戯っぽい表情で囁く様に口を開く。
「…でも」
「でも?」
「こういう格好…景気づけに時々またして欲しい?…だとすると…洗えるのかしらこれ」
「…」
悪戯っぽく囁いた若菜に義経は形ばかりぶすっとした表情を見せたが、間をおかず彼女をきつく抱き寄せ、深く口づけた。
『義経、長い沈黙を破る走者一掃のタイムリースリーベースにツーランホームランと、今日は神の守りに加え、打撃も爆発です!』
『このところ打撃は不調が続いていただけにやっと長いトンネルの出口が見えて、義経自身一安心というところでしょう』
「お〜い義経〜」
「…何だ」
「早速『応援』してもらったみたいだな〜?」
「しかも一晩でしっかり効果出やがって。このムッツリスケベの生臭坊…ずっ!」
「おい、グーで殴んなよ。ただでさえ山伏修行で鍛えたお前の腕力、加減しても凶器なんだぜ?」
「お前らが下世話な想像をするからだ…でも」
「でも?」
「…俺と若菜さんが互いに素直になるきっかけを作ってくれた事だけは…感謝しておく」
「ほ〜…」
そう言って去って行った義経をにんまりとした顔で見送ると、一同は更なる『計画』を話し合う。
「…こりゃ、成績って意味以外でも効果抜群だったみたいだな」
「…じゃあ効果上々って事で第二弾、今度は打撃もそうだけど采配とリードで悩んでる監督にプレゼントだな」
「…でも宮田さんの場合、性格的にはベビードールで当たりだけど、あの隠してるらしいけどそれでも隠せないグラマーな体型だと、むしろビスチェとかボンテージにガーターベルトじゃね?」
「…うわ〜エロい、エロいわ〜」
「…でもそれいいわ〜それでいこうぜ?」
その後、二人があの下着を洗ったり、その手の下着を更に買って楽しんだのか、土井垣にチームメイト達からボンテージが贈られたのかは、それぞれの名誉のためにも永遠の秘密にしておきましょう――
…え〜という訳で…
本当にごめんなさい(切腹)。
『真夜中は別の顔』に引き続きゲシュタルト崩壊かつ変態義経が発動いたしました(爆死)。…元々は義経編と書いている通り土井垣さんの方が先にネタが上がっていたんですが、どのコスプレで行くかで迷っているうちに出てきたベビードールネタがみょ〜に義経に合うと思ってしまい先に話が上がってしまったというのが実際でして…ってか何で私は義経をゲシュタルト崩壊させたり変態にしたがるんだ…本当に私は義経ファンに刺殺されても文句言えないと思っております。でも事後のいちゃいちゃは表でも通じる甘〜いお話だと思っております(笑)。ちなみにベビードールを頑なに今回脱がせなかったのは某所の動画で『脱がせたらコスプレエッチじゃない!』と熱く語ってた方がいらしたからです(笑)。
で、変態な場面はともかく(笑)不振返上のネタは私がプッシュしてオリキャラ恋愛ものを書くと途端に原作の方でキャラがそれまで大活躍しててもガタっと成績を落としてしまうという恐ろしいジンクスがあるので何とかそれを覆したいな〜という思いがあっての事です。頑張ってくれよ〜義経も土井垣さんも。タイトルの『衣通姫(そとおりひめ)』は歴史上にいる絶世の美女で、その美しさが衣を通して輝いたという故事をとってこのタイトルにしました。何か歴史ボートクしてる気もするが…(苦笑)
で、前述の通りこの『衣通姫』は義経編と銘打っている通り土井垣さん編を書くつもりでおります。何の衣装を葉月ちゃんに着せるかで今悩んでるという…あ、ボンテージじゃありませんので(爆笑)。後ナース服もなし。性格上ありえないので。バニーとかは…あるかも。『Trick or Trick?』の逆襲編という事で。まあ見たい人はいないと思いますが暇な方は待ってみて下さい…ってか心の旅人シリーズの続き!
[2012年 05月 27日改稿]