懐かしい人間との突然の再会。しかし本来ならこの再会はあってはならない事だと、お互いに分かっている。それでも俺は彼女を見た途端、懐かしさと彼女に対するある種の愛おしさが沸きあがってきた。その心のままに、俺は自分の息が苦しくならないペースで彼女に話し掛ける。
「…元気だったか」
「…はい」
「…あの後、引っ越したって聞いていたんだが」
「…引っ越したって言っても隣町です。不知火さんには臓器移植の原則で会えなくなる様に場所を教えなかっただけで、白新の他の人達は、今でも…不知火さんの分も含めて…時々お線香をあげに来てくれています」
「…そうだったのか」
「…はい。…でも」
「でも?」
「…いえ、何でもないです。不知火さん、立派なエースになりましたね」
「…真理子ちゃんこそ、すっかり大人になって…見違えた」
「…そうですか」
 俺達の様子をずっと見ていた矢野と名乗った女性は、不意に軽い口調で彼女に声を掛けた。
「…じゃあ、不知火投手見物って目的は達成したしあたし先に戻ってるわ。山崎さんには適当に言っとくから、ゆっくり話していきなさい」
「矢野さん、でも…」
「何の事情があるかはあえてあたしは聞かない。…でも、懐かしい人なんでしょ?だったらその縁を大切になさい」
「…」
「じゃあ、私は失礼します。適当な所で帰して下さればいいので、ゆっくり旧交を温めて下さい」
 そう言うと矢野さんは頭を下げて病室を出て行った。
「矢野さん、私も…」
「待ってくれ、真理子ちゃん」
 付いていこうとする彼女を俺はとっさに止めた。彼女はその言葉に硬直した様に止まると、ゆっくりと振り返る。俺は軽く咳をしつつ、更に言葉を掛ける。
「こっちへ来てくれ…それで…少しでいい、話そう」
「…でも…」
「お願いだ、俺を…一人にしないでくれ…」
 不意に零れた心の言葉。土井垣さんにはああ言ったが、やはり一人心の闇に取り残された哀しみはどこかにあったのだろうか――俺の言葉に、彼女はとても優しく、そしてそれ以上に寂しい微笑みを見せて問い掛ける。
「不知火さんは…一人なんですか?」
 その問いが一般的な事を指していない事はすぐに分かった。俺は迷いながら、軽い咳と共にゆっくりと言葉を零していく。
「俺は…一人だ。寄り添ってくれる人がいると思っていたけれど…それは…幻だったんだ。だから…俺はずっと二人でいても…一人だったんだ…」
「…そうですか」
 彼女は更に寂しげに微笑んで言葉を重ねる。
「でも…私には何もできません。あなたと私は、本当は二度と会っちゃいけないんですから…何もしてあげる事ができません…でも」
「でも?」
「その事がなかったら…あたしはあなたを支えてあげたかった」
 そう言うと彼女は俺にキスをした。驚く俺に、彼女は哀しい微笑みを見せたまま言葉を紡ぐ。
「もう二度とここへは来ません。…だから…不知火さんも私の事は忘れて下さい。お願いです…」
「真理子ちゃん…」
「…では、失礼します」
 そう言うと彼女は一礼して病室を出て行った。扉が閉まる刹那見えた彼女の横顔に、俺は涙を見つける。その涙で、彼女がどれだけ苦しんでいるか分かる気がした。でも、その苦しみは今では俺の左目となっている兄の事を思い出す苦しみじゃなく…俺に対する想いへの苦しみだとあの言葉とキスでよく分かった。そしてその想いに俺は心が温まり、何かが満たされる気持ちがした。二度と会ってはならない人物に覚える心が満たされる気持ち――その矛盾に俺は言葉をなくし、激しい咳と共に涙を零す。どう転んでも俺は一人にしかなれないのだろうか――そうしてしばらく咳と涙を零していたが、やがて不意に別の感情が表れる。――嫌だ、この満たされる気持ちを失いたくない。彼女もきっと同じ気持ちでいてくれている。だからこそあんな言葉を発したんだ――絶対にこの気持ちは間違いじゃない。なら、どんな障害があっても失いたくない。どんな非難を受けてもかまうものか、今度こそ俺は必ずこの手に入れる。この暖かなぬくもりを――

 …はい、という訳で不知火と真理子ちゃんの再会話でした。
 これから出てきますが表と違い、真理子ちゃんは最初から葉月ちゃん達と同じネットワークの病院に入った設定になっています。彼女が不知火と出くわす可能性がある危険性を犯してまでこの道に進んだ理由は…作者も考えてなかったり(爆死)。でもその内真理子ちゃん自身が話し出すと思います。割合私の書くキャラは必要な所で暴走してくれるので(笑)。
 タイトルの『淋しい太陽』はクレヨン社さんの曲から取りました。曲自体は恋人の裏切りから来る別れを書いた様な歌詞なのですが、何か不知火に似合いそうなタイトルだなと思って。土井垣さんに捨てられ独り寂しく病に苦しみ、惹かれた女性には拒まれ…ホント不幸だな(笑)。でもここで彼女を失いたくないというのはまだ不知火の中では無意識ですが恋ではなく執着の様なものです。ここから彼女と関わってどう恋に変わっていくか…それが続きです。暇な方は展開を楽しみにしてくださいませ(ぺこり)。

[2012年 05月 27日改稿]