10月31日、今日はハロウィン。ニュージェネレーションの面々と彼らと仲良くなった絵里香とマノンは、凜子の家が運営している幼稚園の行事であるハロウィンパーティーに、凜子の友人のたまきと恵子と共に手伝いを兼ねて参加していた。一同はそれぞれ思い思いの扮装を用意し着替えて、お菓子を食べながら園児達と交流している。
 
「万太郎、そのシーツで作った幽霊、シンプルでいいじゃない。皆にも好評だし」
「でしょでしょ?セイウチンは狼男か~うまいじゃん、元の素材使いつつで」
「ガゼルはヴァンパイアか。これもスタンダードでいいな」
「そういうキッドは…それ、ジェイソンか?…ジェイソンは魔物じゃないよな」
「まあ細かい事は気にするな。これもアメリカではスタンダードになってるんだぜ?」
「チェックはジャックの被り物にしたんだ。それもいいけど…いいじゃんかお前はわざわざ仮装しなくても、チェス・ピース・チェンジすれば」
「それはさすがに邪道でしょう。こういう時には皆に合わせるのがマナーです」
「マノンちゃんは凜子ちゃん達と四人で魔女にしただなぁ。皆それぞれに合わせた改造で似合ってるだよ」
「でっしょ~?元は買った奴だけど、それぞれに合わせて改造するの苦労したんだから」
「嬉しいです。皆に私も混ぜてもらって」
「エリカさんは民族衣装は着てますが、何で仮装しないんですか」
「あたしは年齢的にお菓子あげる側でしょうが。…でもまあこれくらいはするわよ」
 そう言うと絵里香は猫耳の被り物を付ける。それが着ている冬物のディアンドルに妙に合うので、一同は笑った。そうして園児達にお菓子を配ったり遊んだりしている内に、メンバーが一人足りない事にキッドが気付いた。
「…そういえば、ジェイドがいないじゃないか。俺達と一緒に着替えてた時に『オレはちょっと時間がかかりそうなんで、先に行ってて下さい』とは言っていたが…そんなに凝ったもん着てるのか?」
「どうせジェイドの事だから『若い頃のレーラァの仮装をします!』とかだと思ってたんだけどなぁ。…何着るつもりなんだろう」
「…」
 キッドに続く万太郎の言葉に、苦笑いしている絵里香と困った表情をしたマノンが顔を見合わせている。それに気付いたたまきがマノンに問い掛けた。
「どうしたのよマノン、そんな表情して」
「…いえ、ちょっと嫌な予感がして。取り越し苦労であってほしいんですけど」
「でもねぇ…あの子だと、やりかねないわよねぇ」
「何ですか?それ」
 マノンの言葉に続ける絵里香の言葉に、恵子が更に問いを重ねる。…と、突然園児達が大声で泣き出し、会場がパニックに陥った。見ると会場に本格的ななまはげが乱入していて、『悪い子はいねが~!』と園児を追い回していたのだ。
「…おい、時期早すぎるだろ『あれ』が『ご訪問』するのは!」
「よりによって何で『あれ』が『ご来訪』したんだよ~っ!」
 そうした一同の様子を見ていた絵里香が額を押さえてため息をつき、マノンが両手で顔を覆った。その二人の反応となまはげの声でその『中の人』がジェイドだと一同は納得し、どうやら彼がこうした事情を知っているらしい二人に、キッドが問い掛ける。
「…二人とも、あいつがああした理由知っているみたいだが。…その元凶って、まさか…」
 キッドの言葉に、絵里香とマノンは深いため息をついて答える。
「…そう、彼のお師匠さん。この話聞いた時は、まさか二人とも本気で信じてたって思ってなかったからあたしも訂正しなかったんだけど、素だったのねぇあの二人…」
「それにその原因を作ったのは、冗談で『ハロウィンに現れるヤーパンの魔物だ』ってブロッケンレーラァに適当に教えた、うちの父なんです。…信じ込んでるって分かってたら、せめて訂正して欲しかったです」
「…やっぱりか…」
 それを聞いたキッドも納得してため息をつく。その間も(本人は真面目に一生懸命盛り上げようとしているのだが)ジェイドは、まだ子供達を追い回していた。
「悪い子はいねが~!」
「…ええい、お前が『悪い子』だ~っ!!」
 そのジェイドの前にガゼルが立ちはだかり、得意のチャランボを浴びせかけると、急な攻撃でガードしきれなかったなまはげ=ジェイドは昏倒した。
「あ~、久々にガゼルの『悪い子だ!』が炸裂した」
「ジェイド君KOされたけど、あれ…まともに鳩尾に入ってなかった?」
「ガゼル、やりすぎじゃないだか?」
「いや、子供を泣かせる方が悪いだろう」
「とはいえ気絶しているのを放置は良くないですねぇ。…とりあえず気絶したジェイドはこちらに寝かせて…彼の分のお菓子は起きた時に食べられる様に、枕元に置いておいてあげましょうか」
 そう言うとチェックはジェイドを部屋の隅に寝かせ、枕元にお菓子を置く。チェックも親切心からそうしたのだが、そうして彼が寝ている一区画はまるで仏様が安置されている様で、すでにハロウィンの様相ではなくなっている。子供達も自分達を怖がらせたとはいえ気絶した彼を気にしている様で、彼の様子をちらちら伺い始めたのでこのままだと、子供達の盛り上がりまで奪ってしまいそうだ。どうしようかと頭を悩ませていると、凜子の母でこの幼稚園の園長であるマリが保健室から衝立を持ってきて、ジェイドが寝ている一角を隠すとにっこり笑った。
「まあ、ジェイド君には起きてから注意するとして。…あそこは忘れて続きを楽しみましょうね」
「…なんつうか…マリさんってまともに見えて結構…酷いよな」
「まあいいさ、今回は天然からくるものだったとしてもジェイドの自業自得だ」
「…正しい日本文化の教育は後であたしが改めてするから。…まあ、少し叱る事になるだろうけど、起きたらジェイド君も仲間に入れてまた盛り上がればいいわよね」
「そうだね…んじゃ、続きしよっか!」
 そう言うと一同はまたパーティーの続きを改めて開始した。その後ジェイドがどうなったのかは述べるまでもない。