「メリークリスマース!いぇ~い!」
『メリークリスマス!』
 万太郎が楽しそうにシャンメリーを掲げて声を上げるのに続けて、それぞれクリスマスパーティ仕様に着飾ったいつものメンバーが、同じ様に乾杯の声を上げる。今日はクリスマスイブ。クリスマス当日は凛子が家の幼稚園のクリスマス会があるという事で、全員が集まれるイブに集まって仲間内のパーティをしようという事になって、こうして集まっている次第である。そして今年のこのクリスマスパーティには、春の花見から縁ができ親しくなった、ジェイドの幼馴染で現在日本に留学中のマノンとその歳の離れた友人で、彼女の保証人にもなっている美山絵里香という女性もケーキと飲み物の代金のパトローネになる形で(彼らが暴走しない様、ミートとともに監視する意味もあり)参加していた。それぞれまた一品づつ料理を持ち込み、楽しく味わいながら面々は楽しく話す。
「セイウチン君、思った通りサンタ衣装似合うわね。最近は百円コーナーが充実してるから、試しに買ってみて正解だったわ」
「キッドもそのトナカイのかぶり物、似合ってるじゃん」
「…おい、俺はキッドじゃないぞ」
「ああ、メンゴメンゴガゼル~見たとこそっくりだったから見間違えちゃった~」
「ええいわざとらしい間違いをしやがって!お前はこれでも掛けてろ!」
 そう言うとガゼルは絵里香が買ってきた『エサを与えないでください』というたすきを万太郎に掛ける。それを楽しそうにお互いの近況を話していたジェイドとマノンが見て笑う。その二人を複雑な表情で凛子が見つめていた。チェックメイトはおいしい料理にご満悦。絵里香も料理を楽しんでいる風情で口を開く。
「…うん、最近忘年会続きで外食多かったから、ごちそうでもこういう手作りのものは落ち着くわね」
「でもエリカさん、大人なのに私達が未成年なだけに、お酒がないのはいいんですか?」
 チェックの彼女を気遣った問いに、絵里香はにっこり笑って答える。
「ええ。私は飲めない訳じゃないけど、お酒が特別好きって訳でもないから。ないならないで雰囲気が楽しければそれでいいのよ。それに、今日は私の独断と偏見で買わせてもらったこの隠れた名パティシエ作のおいしいクリスマスケーキがあるしね。…昔はこんないいクリスマスケーキ売ってなかったのよ?普通に売ってるケーキって言うと、ガチガチにコーティングされておいしくないバタークリームのばっかりで、生クリーム系のケーキって珍しかったんだから」
「バタークリーム…ってそんなにガチガチじゃないじゃないですし、まずくないじゃないですか」
「ああ、今の子は知らないのね。ガッチガチのバタークリームのケーキって」
「そんな事言ってるエリカさんは歳いくつなんですか。年上なのは知ってますが、俺らとそう歳変わらない見た目ですけど」
 キッドの呆れた様な問いに、絵里香は悪戯っぽくウィンクして答える。
「パパから聞いた事なかった?『レディに歳は聞くな』って」
「そうですね」
「ああキッド先輩、エリカさんは確かオレとヤーパンで言う『エト』が一緒でにじゅう…ぐっ!」
 素直で天然なジェイドが年齢を言いそうになったのを止める様に、ガゼルが頭を叩く。それを見て一同は爆笑すると、それぞれの幼い頃のクリスマスの思い出話をし始めた。
「ボクんちはキン肉族一同があつまって盛大にパーティしてたんだよ」
「オレはパパの農場でしばらく前からターキーを飼って、クリスマスのごちそうにしてたぜ」
「オラんちはおがぁが毎年プレゼント用の靴下をオラとドロシーに編んでくれて、プレゼントを中に入れてくれただ」
「オレのところは…赤道に近いからサンタがトナカイそりじゃなくてサーファーで、親父が一緒にサーフィンしてたな」
「オレとマノンは大方レーラァが聖書の話をしてくれてお祈りした後、マノンの両親が作ってくれたちょっと豪華な食事をしてましたね」
「それに何年かに一回はおじいちゃん…私の母方の祖父の家がやっている酒場に連れて行ってもらって、その時にはお客の人が皆で歌ったりしてる所に、一緒に居させてもらったりしました。…それから、ドイツ全体ではクリスマスからそのまま年明けになだれ込むから、ツリーはヤーパンで言う『カドマツ』みたいに新年までずっと飾っておくんですよ」
「うちは園児と一緒にプレゼント交換を毎年やってるから、最近ネタが尽きちゃって。何か皆が面白がるいいネタない?」
 楽しげに話している一同とは裏腹に、チェックがその一団から離れて寂しそうにその様子を見つめている。それに気付いた絵里香はそっと彼に寄って行き、静かに問いかける。
「…どうしたの?」
 絵里香の問いに、チェックは寂しげな口調で答える。
「…いえ、私はあの話題に入れないので傍にいるのがちょっと。…こんな事を言うと、気を遣わせてしまうかもしれませんが…このメンバーでは周知の事実ですし言いますね。私は知っての通り元悪行超人だった上、親も知らないですし、サンシャインヘッドの訓練は日々関係なしでしたから…クリスマスの家族との楽しい思い出というものが…全くないんです。今こうしてクリスマスが楽しめる自分は、確かに幸せだと思います。でも、その分思い出がないというのがこれ程寂しいとは…マイナスの感情を覚えた事の、唯一の辛いところです」
「…」
 絵里香はチェックの言葉を静かに聞いていたが、やがてふっと微笑んで呟く。
「…ご同類がまさかこんな若い子でいるとはね。…びっくりだわ」
 絵里香の呟きに、チェックは怪訝そうに問い掛ける。
「『ご同類』…?どういう事ですか?」
 チェックの問い掛けに、絵里香は更にふっと笑って答える。
「正直に過去話してくれた君だから言っちゃうか。…君とは意味合いが違うけど…あたしも小さい頃のクリスマスの家族との楽しい思い出って…実を言うとないのよ」
「え?」
 チェックは驚く。絵里香はぽつり、ぽつりと続ける。
「ちょっとうざいかもしれないけど、あたしの育った環境と…そこからの昔話をしましょうか。あたしは今こうして東京で働いてるけど…実家はある温泉地の老舗旅館でね。父は板長、母は女将なの。…でね、祖父母はあたしが物心ついた頃には亡くなってたから…あたしは旅館の仲居さんや番頭さんや板さん達に囲まれて育ったの。結構有名な温泉地だし、旅館自体も評判が良くって繁盛しててね。そうじゃなくても旅館だけに1年365日年中無休、クリスマスはもちろん、盆暮れ正月だって両親は仕事。…家族の時間なんてないに等しかったわ」
「絵里香さん…」
「両親は確かに誕生日とかクリスマスにプレゼントはくれたし、ケーキも買ってくれたわ。ケーキは父が作ってくれた事もある。でもね、そのケーキだって両親は仕事仕事で時間がないから、あたしは一人ぼっちで食べてたの。…あたしが欲しかったのはケーキでもプレゼントでもない、ケーキを食べるほんの少しの間でもいいから、両親を独り占めできる時間だったのにね。…もちろん両親の仕事の姿勢は尊敬してるしそんな両親を恨んじゃいないけど、やっぱり思い出すと寂しいのよ。だから女将の仕事はできない訳じゃないし嫌いでもないけど、こうしてその座を継ぐのにちょっと反発して…家を飛び出して、別の仕事をしてるのかもしれない」
「…」
 チェックはじっと絵里香の言葉を聞いていたが、やがてふっと言葉を紡ぎ出した。
「傷を…舐め合いたい訳ではないですが…エリカさんの方が私より辛いですね」
「どういう事?」
 不思議そうに問う絵里香に、チェックもぽつり、ぽつりと語りかける。
「私は、両親を知らない分…悪行超人の頃はプラスの感情しかなかった事を差し引いても、一人が当たり前でしたが…エリカさんの場合は、ご両親がいるのに…一人だったんですから…客観的に見たら、もしその頃私が同じ様に寂しさを感じていたとしても…エリカさんの方がより寂しいんじゃないかって…ふっと思ったんです。今言った通り、傷を舐め合いたい訳でも、エリカさんに同情している訳でもなく…ただそう思いました」
「…そう」
 絵里香はチェックの言いたい事が分ったのか、彼に向かってふっと微笑むと口を開く。
「…ありがとう」
「ああ…いえ…」
 絵里香の優しい微笑みに、チェックは少し気持が乱れ狼狽する様子を見せる。それを見て絵里香は更に微笑むと、言葉を重ねていく。
「…でもね、だからこそ、こうして皆で騒ぐクリスマスが楽しいし…とっても嬉しいし…愛おしいの。そう思えた時、過去は過去、これから自分で楽しいクリスマスを過ごせばいいんだって思える様になってね。こうやって毎年誰かしらを誘って馬鹿騒ぎしてるの。その内に…二人っきりのロマンティックなクリスマス、なんてのがあるといいなっても夢見ちゃったりね。だから今回の企画に乗せてもらったのもとっても嬉しいのよ。…チェック君もね、中々そこまでたどり着けないかもしれないけど…今と…これからを楽しむ気持ちをほんの少しでもいいから持ちなさい。そうすれば、あたしみたいに過去の寂しさも楽しさを倍楽しむためのスパイスになる日が…いつか来るわ」
「…はい」
 そう言うと二人は笑い合い、絵里香はチェックを奮い立たせる様に声を上げる。
「じゃあそろそろケーキ切り分けますか!皆チョコと生クリームどっちがいい?」
 絵里香の言葉に、一同はそれぞれ食べたい方を言っていく。チェックもチョコクリームを選ぶと、絵里香が切り分けてそれぞれに渡す。
「あ、これボク食べたい~」
「だ~め。万太郎君は飽きる程食べた事あるでしょ?『これ』は行くところが決定してるの」
「ずるいよ絵里香さ~ん!こういうのは普通希望者ジャンケンとかでしょ~?」
「残念ながらパトローネの特権発動よ。…はい、チェック君の分」
 万太郎と絵里香のやり取りを不思議に思いながら、チェックが絵里香から渡されたケーキを見ると、ケーキと一緒にケーキの上に乗っていたマジパンのサンタクロースが添えられていた。それを見てチェックは笑う。
「ありがとうございます。…初めて私にもサンタクロースが来ました」
「どういたしまして」
 絵里香は笑い返すと、自分の分のケーキを手にとっておいしそうに口にする。それを見てチェックもケーキを口にし、思い出のほろ苦さの分甘さが引き立ったケーキと、彼だけにやって来た『サンタクロース』を心から楽しんだ。