義経はゆっくりと目を覚ます。しかしその目覚めは今まで見てきた夢から覚めた時とは違い、その胸と魂は幸福感で満たされていた。それで彼は心残りを昇華した『かつての自分』が自分の魂の中で眠りについたのだと分かる。その心のまま隣を見ると彼女も目を覚ましていて、優しい眼差しで彼を見詰めていた。彼女も自分と同じ感覚を覚えているのだとその眼差しで分かった彼は、そっと彼女に囁きかける。
「…良かったな」
「…そうね」
その囁きの『意味』を理解した彼女はやはり囁きかける様な口調で彼に言葉を返し、二人は微笑み合う。そしてしばらく微笑み合った後、彼は彼女の額に自分の額をつけると、更に優しく囁いた。
「…どうやら熱も下がった様だな」
「…そうね、身体がとても軽くなっているもの」
「…でも、まだ本調子じゃないのだから、しばらくはここでゆっくり過ごしなさい」
「…はい」
「それから…元気になった後も、これから何があっても、ずっと…俺と一緒に過ごしていってもらえるか」
「…はい。私こそ…そうしてもらえますか」
「…もちろんだ」
「…ありがとう」
「…俺こそ」
二人は互いの言葉にくすりと笑いあうと、眠り着いた『かつての二人』への餞とこれからの自分達の幸福を確かめる様にそっとキスを交わした。
――我が想い 君が許にあり
君が想い 我が許にあり
想いは絶えず 呼び合わん
生を超え 輪廻を超え
幾年 百代 千歳 万世
縷々流れ行く時の如く――