キャンプも開始からはや三日が過ぎ、今日は節分。キャンプ終了後の東京スーパースターズの面々は毎年のごとくいつどこから買って来たのやら、いり豆の袋を取り出してメンバーに年齢の数を数えて配っていた。
「でも普通のじゃなくって食う専用の砂糖まぶした奴買ってくりゃいいじゃんか。豆だと中途半端に甘いんだよな~もっとお菓子みたく食いたいぜ」
「それ高いんだよ。チームメイトの年齢全部足したら相当な値段になっちまう。これで我慢しろ」
「あ~俺20個ね~」
「こら三太郎、サバ読むにも程があるだろ」
「だって俺永遠のハタチだも~ん」
「そうなるとヒナさんとはどんどん歳が離れてくってこったな。釣り合い取れなくなるぜ~?」
「だって弥生さんは俺の中で『永遠の18歳』だから関係ないね」
「そうなると今度は法律に引っかかって来るよな~?」
「いて…そこ突かれたか。いいよ、歳通りもらうよ」
「皆さん、今名前出た人って誰ですか?」
「ああ、光はルーキーだからヒナさん知らなかったっけ。ヒナさんは腕のいい小児科と内科の女医さん。俺らほぼ全員と仲のいい友人だから、東京帰ったらその内本人に会えるよ」
「ついでに言うと俺の許嫁なんだぜ~」
「そうなんですか~」
納得した様に頷く光に星王はちょっと悔しさを滲ませながら言葉を加えて光にも豆を渡す。
「まあ悔しいが事実だな、それも。光は18個だったな」
「はい」
「監督は今年年男でもうすぐ還暦だから59…おまけして60個って事で」
「え~!?見た目や選手名鑑だともっとお若いのに、本当は土井垣監督ってそんなお歳だったんですか~!?」
星王の言葉を真に受けて驚く光を見て皆が笑いを堪えているのを睨みつけながら、土井垣が低い声で応える。
「おい…年男なのは確かだが…何故わざとらしくとてつもなく上にサバを読む」
「ああ、48個でしたか」
「お~ま~え~ら~!俺は北条早雲か!分かっていてからかうな!」
「はいはい監督、年男なんですから健康のためにも血圧上げる真似はしないで下さいね」
「誰が上げていると思ってる!」
更に声を荒げる土井垣に緒方と三太郎がさらりと言葉を返したのをきっかけに、チームメイト達も混じって更に土井垣をからかっていく。
「はいはい俺達ですね。…ったく、ライバル登場のおかげで最近は宮田さんが側にいないとす~ぐに怒りっぽくなるんだから」
「やっぱり常時宮田さんが側にいないと、監督メンタルも健康も悪くなるよな」
「そうだ、仕事場人員削減なのに個別の仕事増えてとてつもなく忙しくなって最近は相当身体が参ってるみたいだし、彼女の身体に合った仕事させるためにも、力づくで病院辞めさせた上で、俺達もついでに健康相談とかしてもらえる様に、権限使ってうちに雇って名実ともに監督専属の看護師にしちゃえばいいのに」
「あ、それ宮田さん含めた皆にとって平和が訪れる案だな」
「ここは監督、宮田さん説得して実現しましょう!」
「…そうできれば苦労はない」
「ま~そういう公私混同は葉月ちゃんが一番嫌う事だって皆知ってるだろ?多分不可能。でも今の言葉だとそれでも少なくとも一回はそれ考えた事があるか…葉月ちゃんに提案してますね土井垣さん」
「!」
チームメイトの口々のからかい半分、本気半分の提案に恨みがましい低い声で呟きを返した土井垣に里中がとどめを刺し、土井垣は赤面して絶句する。それを見たチームメイトは爆笑し、光は目を白黒させて問いかける。
「あの~土井垣監督って、専属の看護師さんがいらっしゃるんですか?」
「ああ、看護師っていうか資格では本当はもう少し専門性高い保健師なんだけどね。事実上私的な所じゃ専属の人がいるの」
「腕はいいし、優しいし、仕事上は関係ないけどとっても可愛いな~?」
「もうプライベートでは頼りっきりになっちゃうくらいのな~?俺達ともさっき言ったヒナさんとも仲いいから同じ様にその内会えるよ」
「そうなんですか~監督ともなると健康管理も気を遣うから違うんですね~」
「…」
チームメイトの揶揄の込められた言葉に、何も分かっていない光は感心した様に頷き、土井垣はいたたまれなくなって赤面したまま沈黙する。それを見てチームメイトは更に笑った。