そうして食事が終わった後、三太郎は何人かのチームメイトを集めて食事時にあった件を話す。それを聞いたチームメイト達も義経の態度の意味が分らず首を一様に捻る。
「何その義経の不可解な言動」
「すし丸かぶり位普段ならみっともないっちゃみっともないが、別にまずい事はしてないよな」
「むしろささやかな野望だもんな。こういうの独り占めで丸かじりって」
「でもあの義経の表情からすると何か姫さんがらみのやばい理由があるのは確実そうなんだよな~それだけは分かったから義経からかっといたけど、ホントのとこが分んないんだよ」
「まあ宮田さんもヒナさんもさばけてる様で行儀はすごくいいし、何よりそれ以上に上品なゆきさん基準で女の子見てる義経にとっちゃ、確かに光みたいなタイプの女の子は相当手こずりそうでもあるから、ロッテンマイヤーさん並みに口うるさくなるのは分かるけどさ」
「それに今回は年行事でやる事に対してだぜ?行事とかお祭りとかの無礼講に関しちゃある意味寛容な義経だから余計におかしいよな…ってか当人も切って食ってるってのがそれ以上に変だぜ」
「とりあえずネットで検索とかしてみるか?」
「そうだな~」
 そう言うとメンバーは携帯の検索サイトを使って『恵方巻』について調べてみるが、大阪が発祥らしいという以外それ程変わった事柄は見当たらなかった。更にチームメイトは首を捻る。
「…全然わかんねぇ…」
「とりあえず大阪辺りが発祥って事だけか…ん?大阪…おい、手があるんじゃないか三太郎」
「そうか、大阪…よし、『あいつ』に聞けば何かしら分かるかもしれない。もうけ情報を仕入れるためなのか知識も深いし」
 そう言うと三太郎は携帯で『ある男』に電話をかける。数コール後、どうやら盛り上がっているらしい声を背にぱっきりした気持のいい関西弁で少しご機嫌斜めな声が聞こえてくる。
『何や三太郎、電話って事は急用なんやろうけどな、こっちは盛り上がってるんや。折角のプライベートな時間やで。盛り上がりを減らす様な空気読まん電話はやめてんか』
「悪い三吉。大阪出身のお前だからこそちょっと聞きたい事があるんだ。5分…いや、3分でいい、時間くれ」
『わての知識を買いたいんかい。しゃ~ないなぁ。今度会ったらビールおごってや~』
「まあその位の対価なら妥当かな。じゃあ早く済む様に直球で聞くぜ。実はな…」
 そう言うと三太郎は三吉に大阪が由来らしいとは分かった『恵方巻』の詳しい由来を知らないかと尋ねる。その質問に三吉は一端沈黙し、少し低い声で楽しそうに言葉を返す。
『…そういやそっちにも女が入ったんやったな。『お遊び』したいんか?』
「『お遊び』…どういう事だ?」
『何や、知らんで電話掛けてきたんかい』
「知らないから聞いてるんだが」
「そうやったな。…んじゃ教えたるわ」
 そう言うと三吉は恵方巻の『由来』を低く淫靡な声で教えていく。それを聞いていた三太郎の顔が口を大きくあんぐりと開いてまるでムンクの叫びの様になったのを見て、チームメイト達は首を傾げる。しばしの会話の後、三太郎が「…ありがとう、んじゃ約束通り今度会ったらいつもの店に連れてくから」と言って携帯を切り、大きくため息をついたのを見て、メンバーは口々に三太郎に問いかける。
「どうしたんだよ三太郎、そんな顔して」
「何か変な話だったのか」
「…ああ、大きな収穫だったよ…」
 そう言うと三太郎はチームメイトの顔を寄せて小さな声と重い口調で三吉から聞いた『由来』を話していく。その内容にそこにいたメンバー全員が先刻の三太郎の様にあんぐりと口を開け、呟く様に言葉を紡いでいく。
「大阪じゃなくって京都の祇園のお茶遊び説…」
「芸者さんに巻きずし無言で食わせてその姿鑑賞って…」
「つまり巻きずしはその…ナニ…と同義語って事…」
「もうひとつの由来って…そんなエロい話だったんだ…」
「…確かにネット上には乗ってこないな。んなの公にしたらシャレにならないわ…」
「…ってかさっきの三太郎の言葉だとドッグスまさかマドンナにやらせてるのか?」
「ああ、教えた上でマドンナも『恥ずかしいですわ~』とか言いながら面白がってやってるらしい。丁度今その『最中』だったんだよ」
「そこまでさばけきってるマドンナもアレだけどさ…うわ~俺しばらく巻きずし丸かぶりで食えねぇ」
「俺も…でもさ、俺達も知らない様な話、何で今までは完全に、スターズ入ってからも大方はそういう下世話な情報からは隔絶されてるってか耳貸さない義経が知ってんだよ」
「そういやそうだ。何で…ああ、そういやいたわうちにも『情報源』が」
「確かに…そっから姫さんに伝わって恥ずかしがってる姫さんに、何にも知らないで姫さんにいい事がある様にしたくて勧めた義経が話聞いた…ってとこかな」
 一同は好奇心が強く雑学の幅も広い『情報源』の事を思い出してため息をつく。
「でもその割に一番その『情報源』から止められそうな監督は嬉々として丸かぶりしてたよな」
「いや…知らないでやらせて面白がってると見た。彼女は『面白い事』に関しちゃ監督に対して容赦がないし。んで多分二人っきりになった時に『ネタばらし』して、甘~い時間のエッセンスにでもするんじゃない?」
「…だな」
 そう言うと一同はまた大きなため息をつく。そうしてしばらく何とも言えない気まずい沈黙が続いた後、わびすけがふと思いついた様に口を開く。
「…ちょっと待て。でもそう見るから見えるってだけだろ?他にもこれ食って戦に勝ったって説もある訳じゃないか。義経だってそういう別の由来の方信じりゃいい話じゃん。何でそんなエロい話に乗っかるんだよ」
 その言葉に緒方がポロっと言葉を零す。
「もしかして…我が身を省みたから…とか?」
「…」
 そこにたどり着いた時、高知のホテルの一室からは怒声とも雄たけびとも言える声が響き渡った――

――そしてキャンプ中義経が一部のチームメイトから『ムッツリスケベ』『生臭坊主』『エロガッパ』等と呼ばれ続け、いたたまれない思いをしたというのは余談である――