「…なあ、守」
「何ですか?土井垣さん」
 ある夜の都内の小さな居酒屋、土井垣は酒を飲みながら不知火に問い掛ける。
「お前のこの間のインタビュー記事見たんだが…あれはどういう意味だ?」
「あれって、何ですか?」
「『自分には一球も球を受けてもらった事がないけれど、最高のバッテリーを組んだキャッチャーがいた』っていう話だよ」
 土井垣の言葉に、不知火は悪戯っぽい口調で答える。
「…秘密です」
「何だ~恋女房に秘密を持つのかお前は」
「これは土井垣さんにも話せません…大事な俺の思い出ですから」
「守…?」
 怪訝そうに見ている土井垣を尻目に不知火は自分の酒を飲みながら、その『最高のキャッチャー』に思いを馳せた。それは不知火にとって暖かくも、苦い記憶。しかし大切な記憶だった――