「…静かにして頂けますか」
すっと会場が沈黙した事でふと我に返る。…やばい、やばすぎる、受診者様に喧嘩売ってどうする!あせる気持ちとは裏腹にどんどん口は動いていく。唯一の救いは喚かず、丁寧にしゃべっている事位。
「どなたでも採血で具合が悪くなる可能性はありますし、倒れて大事故に繋がる事もあります。何より今一番辛いのはこの方なんですから、からかったり刺激を与えるのは止めて下さい」
「…すいません」
…ああ、やってしまった。これで帰りの車とお昼は説教タイム決定だ。それはそれとして、とにかくこの場をまとめないと。あたしは一息つくと、精一杯の愛想を動員して、明るい笑顔を周囲に向けた。
「…皆様も具合が悪くなりそうでしたら、採血の前に申し出てくださいね。安全に採血できる様に配慮させて頂きます」
「…はい」
後味は悪いけど何とか収まったか。溜息をついていると市川さんが取り成す様に声を掛けてきた。
「草柳さん、平野さんがマット下ろしてくれたから運ぼうか」
「あ、はい…じゃあ場所移動してしばらく休みましょうね、土井垣さん」
「…」
市川さんと二人でマットのある場所までゆっくり運んで横にすると、石井先生が回復体位に整えてもう一度状態を見る。
「これでよし…少し楽になったみたいだし、後は回復するまで様子見でいいかな。おかしくなる様だったらまた呼んで」
「分かりました。じゃあ市川さん、後の対応お願いします」
「了解」
「ありがとうございました先生。引き続き診察お願いします」
元の位置に戻ると、さっき髪を束ねていた人が不安そうに横にいる恰幅のいい人に話し掛けているのが聞こえてくる。
「大丈夫かな…俺、昔ちょっと具合悪くなった事があるんだよな」
「大丈夫だ里中。言えばちゃんと配慮してくれるって言ってたろ?それに、もしお前が倒れたら…俺が支えてやるから」
「山田ぁ…」
…えーと…何か二人の間にハートが飛び交ってるのが見えるのはあたしだけなのかな…他の受診者様はこの二人の様子別に気にしてないみたいだし…これ普通なの?まあ、不安の連鎖反応起こさないだけいいか。そのまま誘導を続けていると、里中さんと言うらしいその人は最後まで採血の前で止まっていたらしい。最後の最後まで残っていたもののさすがに時間が気になったのか、やっと立ち上がって採血の所にいる平野さんに話し掛ける。にっこり笑って頷いた平野さんは、里中さんを連れてきた。
「この方寝かせて採りたいんだけど、まだあちら寝てるから心電図のベッド貸してくれる?」
「あ、はい。丁度心電図空きましたから使って下さい。…そうだ、ここで寝て採るなら先に心電図を撮ってしまいましょう。江藤さん、次の方先に心電図でそのまま寝て採血です」
「了解~」
「ではこちらの名簿にお名前と番号頂けますか」
「あ、はい…あの~」
「何でしょう?」
「一緒に山田に入ってもらっていいですか?」
「…は?」
今、何か不思議な言葉を聞いた気が…思わず聞き返すと、里中さんはもう一度遠慮がちに口を開いた。
「あ、ええと…不安なんで血を採る時山田に傍に付いてて欲しくて…一緒に入ってもらっちゃ駄目かなって…」
「…はあ、別にかまいませんが」
…これは…どう理解したらいいの?付いててもらうって言ってもこの山田さんって人、別にドクターとかじゃないわよね?でも何だか断れない雰囲気がある。その雰囲気に圧されて申し出を受けると、里中さんは安心した様に胸を撫で下ろした。
「良かった~じゃあ山田、付いててくれよ」
「ああ」
またハートが飛んでるのが見える…。気を取り直してあたしは山田さんの方に話し掛けた。
「そういえば、そちらの方も心電図まだですよね。すぐ終わりますから、こちらの方の採血の前に隣のベッドで撮ってしまいましょうか」
「そうですね、じゃあそうします」
「そんなぁ山田…そうだ、面倒だから同じ所で入れ替わりに撮るっていうのは駄目ですか?」
「…」
今まで新婚らしき受診者様にも言われた事のない申し出に、あたしは一瞬思考が停止する。断るのが普通だろうけど…断れそうにない。とりあえず撮る江藤さんの判断か。…丁度外に出て来たし決めてもらおう。
「…って事でいいですか江藤さん」
「うん。順番待ちもいないし、狭くて構わないなら別にいいわよ」
「…ではどうぞ。山田様…ですか、採血が終わっている様ですので、先にお願いします」
二人は名簿に名前と番号を書いて嬉しそうに心電図へ入って行った。考え込みたいけど…深く考えるのは止めよう。溜息をついて二人を見送ると、平野さんがこっそり話しかけてきた。
「ごめんね草柳さん、対応任せちゃって。でもあんまりわらわら行ったら邪魔かなと思ったから」
少し考えて、今の事じゃなくてさっきの人が倒れた時の事を指しているのだと分かり、あたしは明るく応える。
「あ、別にいいですよ~何とかなりましたし…そうだ、まだ起きないみたいですし、そろそろあっちの様子見に行ってきます」
「OK、こっちは任せて」
「お願いします」
平野さんに二人の対応を頼むと、あたしはさっきの方が寝ている所へ行って様子を見る。大分顔色が良くなったみたいだ。もう随分経ってるから止血バンドも取って…うん、腫れもない。
「市川さん、どうですか?」
「今血圧測ったら118の64まで戻ってるわ。顔色も大分いいし、もう起きても大丈夫かな」
「そうですか。…土井垣様、気分はどうですか?」
「…あ、はい。もう大丈夫です」
さっきよりも応答がしっかりしてるみたいだし、これなら起きても平気かな。とりあえず慌てさせない様にゆっくり応対しないと。
「大丈夫の様でしたら、ゆっくり健康診断続けましょうか」
「はい、そうします」
「それから、今後は採血時にこうなった事を、必ずその時の看護師に伝えて下さいね。採血でこうなった方はこうなる事が多いので。最後に状態を聞くために、明日私どもの保健師からこちらに連絡を入れさせて頂きます」
「分かりました」
「では次は心電図です、名簿は書いておきますからゆっくりいらして…」
そう言って土井垣さんを促すと、丁度さっきの二人が相変わらずハートを飛ばして心電図から出て来た。それを見た土井垣さんは硬直した様に立ち止まると、搾り出す様な声で問いかける。
「…あの二人は何をしていたんだ」
静かだけれど口調はものすごく怖い。下手に隠し立てしたら怒らせそうだし、やましい事は別にないから正直に話そう。
「ああ、ええと…里中様…ですか、あちらの方が採血するのに横になるだけでは不安だからと、もうお一方の…山田様…でしたか…に付いて欲しいとおっしゃったので、一緒に入って頂いたのですが…」
「…」
土井垣さんの顔からまた血の気が引く。え?まだ休ませた方が良かったのかしら…
「大丈夫ですか?まだ具合が悪い様でしたら、もう少し休まれても…」
「…いや、大丈夫だ。何でもない」
土井垣さんは額に手を当てて大きく溜息をつくと、ふらふらと心電図に入って行った。大丈夫かなあの人…とはいえああ言われると、また倒れない限りはこれ以上できる事もないし…あ、そうだ。平野さんがいるならもう一つ手がある。あたしは平野さんの所へ行って声を掛けた。
「すいません平野さん、今日は飴なりチョコなり持ってます?」
「うん、持ってるけど…どうしたの?」
「いえ、あの方何だかまだ具合が悪そうだったんで…ドック方式で甘いものあげとこうかと」
「そうね~特別サービスになっちゃうけど、具合悪そうだったしその方がいいわね。…そうだ、もしだったら次回から正式に用意する様に上と相談したら?」
「そうですね。提案しておきます」
「そうしてくれる?じゃあとりあえずちょっと待ってね…はいこれ」
「ありがとうございます」
あたしは飴を少しもらうと診察から出て来た土井垣さんに声を掛ける。
「すいません、あの~」
「何か?」
振り返った土井垣さんは眉間に皺を寄せているし、まだ少し顔色が悪いみたいだ。やっぱりこれあげた方がいいみたいね。
「いえ、かなり具合が悪そうでしたので…また具合が悪くなる様でしたら、当座のカロリー補給に食事までの間これでも食べて下さい。採血が終わりましたからもう糖分を摂っても大丈夫ですので…水分も摂っていらっしゃらない様でしたら、胃のレントゲンもありませんので普通に飲んで下さって大丈夫ですよ」
あたしが飴を差し出すと、土井垣さんは抵抗なく受け取ってくれた。
「そうですか…丁寧にありがとう」
「いえ。安全に健康診断を受けて頂く事が大切ですので…ではこちらの部屋は終了ですので、後は奥の部屋で聴力と、最後に外の車で胸のレントゲンを撮って下さい」
「分かりました」
「今日は静かに過ごして下さいね。では、お疲れ様でした~」
笑顔で土井垣さんを見送った後、あたしは何だか脱力してその場に座り込む。それを見ていた市川さんが心配そうに声を掛けてきた。
「大丈夫?もしかして草柳さんも具合悪いの?」
「いえ…大丈夫ですけど。…何かちょっとくたびれたなぁって…」
あたしの言葉の意味が分かったのか、市川さんはにっこり笑うと座り込んでいるあたしの頭をポンポンと叩いた。
「…そうね、お疲れ様。予定人数近いし時間も時間だから、さすがにもう一杯は来ないわよ」
「…え、もうそんな時間ですか?」
ふと腕時計を見ると11時。終了時間にもう近い。気を取り直してゆっくり立ち上がったところで高岡さんが戻ってきて声を出した。
「じゃ終了です~片つけとデタの提出お願いします」
『は~い』
何だか色々あって人数の割に怒涛の健診だったな…大きく息をつくと、あたしは皆と一緒に片付けを始めた。
すっと会場が沈黙した事でふと我に返る。…やばい、やばすぎる、受診者様に喧嘩売ってどうする!あせる気持ちとは裏腹にどんどん口は動いていく。唯一の救いは喚かず、丁寧にしゃべっている事位。
「どなたでも採血で具合が悪くなる可能性はありますし、倒れて大事故に繋がる事もあります。何より今一番辛いのはこの方なんですから、からかったり刺激を与えるのは止めて下さい」
「…すいません」
…ああ、やってしまった。これで帰りの車とお昼は説教タイム決定だ。それはそれとして、とにかくこの場をまとめないと。あたしは一息つくと、精一杯の愛想を動員して、明るい笑顔を周囲に向けた。
「…皆様も具合が悪くなりそうでしたら、採血の前に申し出てくださいね。安全に採血できる様に配慮させて頂きます」
「…はい」
後味は悪いけど何とか収まったか。溜息をついていると市川さんが取り成す様に声を掛けてきた。
「草柳さん、平野さんがマット下ろしてくれたから運ぼうか」
「あ、はい…じゃあ場所移動してしばらく休みましょうね、土井垣さん」
「…」
市川さんと二人でマットのある場所までゆっくり運んで横にすると、石井先生が回復体位に整えてもう一度状態を見る。
「これでよし…少し楽になったみたいだし、後は回復するまで様子見でいいかな。おかしくなる様だったらまた呼んで」
「分かりました。じゃあ市川さん、後の対応お願いします」
「了解」
「ありがとうございました先生。引き続き診察お願いします」
元の位置に戻ると、さっき髪を束ねていた人が不安そうに横にいる恰幅のいい人に話し掛けているのが聞こえてくる。
「大丈夫かな…俺、昔ちょっと具合悪くなった事があるんだよな」
「大丈夫だ里中。言えばちゃんと配慮してくれるって言ってたろ?それに、もしお前が倒れたら…俺が支えてやるから」
「山田ぁ…」
…えーと…何か二人の間にハートが飛び交ってるのが見えるのはあたしだけなのかな…他の受診者様はこの二人の様子別に気にしてないみたいだし…これ普通なの?まあ、不安の連鎖反応起こさないだけいいか。そのまま誘導を続けていると、里中さんと言うらしいその人は最後まで採血の前で止まっていたらしい。最後の最後まで残っていたもののさすがに時間が気になったのか、やっと立ち上がって採血の所にいる平野さんに話し掛ける。にっこり笑って頷いた平野さんは、里中さんを連れてきた。
「この方寝かせて採りたいんだけど、まだあちら寝てるから心電図のベッド貸してくれる?」
「あ、はい。丁度心電図空きましたから使って下さい。…そうだ、ここで寝て採るなら先に心電図を撮ってしまいましょう。江藤さん、次の方先に心電図でそのまま寝て採血です」
「了解~」
「ではこちらの名簿にお名前と番号頂けますか」
「あ、はい…あの~」
「何でしょう?」
「一緒に山田に入ってもらっていいですか?」
「…は?」
今、何か不思議な言葉を聞いた気が…思わず聞き返すと、里中さんはもう一度遠慮がちに口を開いた。
「あ、ええと…不安なんで血を採る時山田に傍に付いてて欲しくて…一緒に入ってもらっちゃ駄目かなって…」
「…はあ、別にかまいませんが」
…これは…どう理解したらいいの?付いててもらうって言ってもこの山田さんって人、別にドクターとかじゃないわよね?でも何だか断れない雰囲気がある。その雰囲気に圧されて申し出を受けると、里中さんは安心した様に胸を撫で下ろした。
「良かった~じゃあ山田、付いててくれよ」
「ああ」
またハートが飛んでるのが見える…。気を取り直してあたしは山田さんの方に話し掛けた。
「そういえば、そちらの方も心電図まだですよね。すぐ終わりますから、こちらの方の採血の前に隣のベッドで撮ってしまいましょうか」
「そうですね、じゃあそうします」
「そんなぁ山田…そうだ、面倒だから同じ所で入れ替わりに撮るっていうのは駄目ですか?」
「…」
今まで新婚らしき受診者様にも言われた事のない申し出に、あたしは一瞬思考が停止する。断るのが普通だろうけど…断れそうにない。とりあえず撮る江藤さんの判断か。…丁度外に出て来たし決めてもらおう。
「…って事でいいですか江藤さん」
「うん。順番待ちもいないし、狭くて構わないなら別にいいわよ」
「…ではどうぞ。山田様…ですか、採血が終わっている様ですので、先にお願いします」
二人は名簿に名前と番号を書いて嬉しそうに心電図へ入って行った。考え込みたいけど…深く考えるのは止めよう。溜息をついて二人を見送ると、平野さんがこっそり話しかけてきた。
「ごめんね草柳さん、対応任せちゃって。でもあんまりわらわら行ったら邪魔かなと思ったから」
少し考えて、今の事じゃなくてさっきの人が倒れた時の事を指しているのだと分かり、あたしは明るく応える。
「あ、別にいいですよ~何とかなりましたし…そうだ、まだ起きないみたいですし、そろそろあっちの様子見に行ってきます」
「OK、こっちは任せて」
「お願いします」
平野さんに二人の対応を頼むと、あたしはさっきの方が寝ている所へ行って様子を見る。大分顔色が良くなったみたいだ。もう随分経ってるから止血バンドも取って…うん、腫れもない。
「市川さん、どうですか?」
「今血圧測ったら118の64まで戻ってるわ。顔色も大分いいし、もう起きても大丈夫かな」
「そうですか。…土井垣様、気分はどうですか?」
「…あ、はい。もう大丈夫です」
さっきよりも応答がしっかりしてるみたいだし、これなら起きても平気かな。とりあえず慌てさせない様にゆっくり応対しないと。
「大丈夫の様でしたら、ゆっくり健康診断続けましょうか」
「はい、そうします」
「それから、今後は採血時にこうなった事を、必ずその時の看護師に伝えて下さいね。採血でこうなった方はこうなる事が多いので。最後に状態を聞くために、明日私どもの保健師からこちらに連絡を入れさせて頂きます」
「分かりました」
「では次は心電図です、名簿は書いておきますからゆっくりいらして…」
そう言って土井垣さんを促すと、丁度さっきの二人が相変わらずハートを飛ばして心電図から出て来た。それを見た土井垣さんは硬直した様に立ち止まると、搾り出す様な声で問いかける。
「…あの二人は何をしていたんだ」
静かだけれど口調はものすごく怖い。下手に隠し立てしたら怒らせそうだし、やましい事は別にないから正直に話そう。
「ああ、ええと…里中様…ですか、あちらの方が採血するのに横になるだけでは不安だからと、もうお一方の…山田様…でしたか…に付いて欲しいとおっしゃったので、一緒に入って頂いたのですが…」
「…」
土井垣さんの顔からまた血の気が引く。え?まだ休ませた方が良かったのかしら…
「大丈夫ですか?まだ具合が悪い様でしたら、もう少し休まれても…」
「…いや、大丈夫だ。何でもない」
土井垣さんは額に手を当てて大きく溜息をつくと、ふらふらと心電図に入って行った。大丈夫かなあの人…とはいえああ言われると、また倒れない限りはこれ以上できる事もないし…あ、そうだ。平野さんがいるならもう一つ手がある。あたしは平野さんの所へ行って声を掛けた。
「すいません平野さん、今日は飴なりチョコなり持ってます?」
「うん、持ってるけど…どうしたの?」
「いえ、あの方何だかまだ具合が悪そうだったんで…ドック方式で甘いものあげとこうかと」
「そうね~特別サービスになっちゃうけど、具合悪そうだったしその方がいいわね。…そうだ、もしだったら次回から正式に用意する様に上と相談したら?」
「そうですね。提案しておきます」
「そうしてくれる?じゃあとりあえずちょっと待ってね…はいこれ」
「ありがとうございます」
あたしは飴を少しもらうと診察から出て来た土井垣さんに声を掛ける。
「すいません、あの~」
「何か?」
振り返った土井垣さんは眉間に皺を寄せているし、まだ少し顔色が悪いみたいだ。やっぱりこれあげた方がいいみたいね。
「いえ、かなり具合が悪そうでしたので…また具合が悪くなる様でしたら、当座のカロリー補給に食事までの間これでも食べて下さい。採血が終わりましたからもう糖分を摂っても大丈夫ですので…水分も摂っていらっしゃらない様でしたら、胃のレントゲンもありませんので普通に飲んで下さって大丈夫ですよ」
あたしが飴を差し出すと、土井垣さんは抵抗なく受け取ってくれた。
「そうですか…丁寧にありがとう」
「いえ。安全に健康診断を受けて頂く事が大切ですので…ではこちらの部屋は終了ですので、後は奥の部屋で聴力と、最後に外の車で胸のレントゲンを撮って下さい」
「分かりました」
「今日は静かに過ごして下さいね。では、お疲れ様でした~」
笑顔で土井垣さんを見送った後、あたしは何だか脱力してその場に座り込む。それを見ていた市川さんが心配そうに声を掛けてきた。
「大丈夫?もしかして草柳さんも具合悪いの?」
「いえ…大丈夫ですけど。…何かちょっとくたびれたなぁって…」
あたしの言葉の意味が分かったのか、市川さんはにっこり笑うと座り込んでいるあたしの頭をポンポンと叩いた。
「…そうね、お疲れ様。予定人数近いし時間も時間だから、さすがにもう一杯は来ないわよ」
「…え、もうそんな時間ですか?」
ふと腕時計を見ると11時。終了時間にもう近い。気を取り直してゆっくり立ち上がったところで高岡さんが戻ってきて声を出した。
「じゃ終了です~片つけとデタの提出お願いします」
『は~い』
何だか色々あって人数の割に怒涛の健診だったな…大きく息をつくと、あたしは皆と一緒に片付けを始めた。