そうしてオフが明け、試合の為にドームへ行った義経は、監督である土井垣に事情を話して野球と芝居の両立のために最低限の許可を得る。
「…じゃあ、日曜日に首都圏でデーゲームだった時には、試合後のミーティングに出ずに帰らせて欲しいという事と、クライマックスシリーズ直後の土日は、練習があっても出ないという事だな」
「はい…勝手な願いだとは分かっていますが、許してもらえないでしょうか」
土井垣は机にあったコーヒーを一口飲むと、静かに言葉を紡ぎ出す。
「よし、許そう。だが…条件がある」
「条件ですか?…本名を出すなと言う事でしたら、それは大丈夫です」
義経の言葉に、土井垣はにやりと笑って言葉を返す。
「いや、もっと簡単な事だ。『チケットを買うから、チームの有志でその公演を観に行かせろ』…これ一つだ」
「監督、それはちょっと。…監督だけなら毎年観にいらしているのですからいいですが、チームメイト達となると目立ちすぎて会場が大騒ぎになりかねません。先方にご迷惑を掛ける訳には…」
「その辺りは大丈夫だ。皆分散して観劇してもらう。チームメイトの晴れ姿を見せないのは悪いからな。とりあえずパンフレットができたら持ってきてくれ。それから有志からはカンパを集めて花束とご祝儀を出すし、チケット代は神保さんのノルマに入れよう。そうすれば彼女も悪い立場に陥らなくて済むだろうからな。そこまで考えろ」
「あ、はあ…」
「まあ大筋は認める。とりあえずは内密とはいえ、スターズの名誉のためにもふがいない芝居はするなよ、義経」
「…はい」
そう許可を得て監督室を出てロッカールームに入ると、チームメイト達がにやにや笑いながら彼を見つめる。怪訝に思っていると、楽しそうに里中が彼に声を掛けて来た。
「よ~しつね」
「何だ里中」
「若菜ちゃんの芝居の公演に、特別出演で出るんだって?」
「な…里中!何故それを!」
いきなり話が漏れていた事に驚いて声を上げる義経に、チームメイト達が楽しげに言葉を重ねていく。
「さっき里中が監督室の前を通った時、監督とお前が話してるのが耳に入って、ちょっと聞き耳を立ててくれたんだよ。お前、結構目立ちたがり屋だったんだな~?」
「で?役どころは?やっぱ姫さんと恋仲の侍の役とか?」
「…教えるか」
「ふ~ん?まあいいよ。きっと何も知らない宮田さんやヒナさんから三太郎経由でどうせ俺達にもパンフ回ってくるだろうから、それ読ませてもらうし。いいだろ?三太郎」
「あったりまえじゃん。すごくいい芝居する劇団なんだぜ~?そこに見込まれたんだからすごいよ義経は」
「そうなんですか。だとするとすごく楽しそうですね」
「なるべく人数集めて、観劇ツアー組ませてもらいますね」
「まあでもアマチュアだもんな。お前が出るってばれて騒がれたらおゆきさんが可哀想だもんな。マスコミにはちゃんと秘密にしといてやるから頑張れや」
「…」
義経は自分の詰めの甘さに軽いめまいを覚えた。そうだった。演技より、様々な妨害より一番厄介な輩がこんなすぐ傍にいたのだ。公演まで、いや公演当日も何かをやらかしかねない彼らを何とかするにはどうしたらいいだろう。彼はその事で頭が痛くなった――
「…じゃあ、日曜日に首都圏でデーゲームだった時には、試合後のミーティングに出ずに帰らせて欲しいという事と、クライマックスシリーズ直後の土日は、練習があっても出ないという事だな」
「はい…勝手な願いだとは分かっていますが、許してもらえないでしょうか」
土井垣は机にあったコーヒーを一口飲むと、静かに言葉を紡ぎ出す。
「よし、許そう。だが…条件がある」
「条件ですか?…本名を出すなと言う事でしたら、それは大丈夫です」
義経の言葉に、土井垣はにやりと笑って言葉を返す。
「いや、もっと簡単な事だ。『チケットを買うから、チームの有志でその公演を観に行かせろ』…これ一つだ」
「監督、それはちょっと。…監督だけなら毎年観にいらしているのですからいいですが、チームメイト達となると目立ちすぎて会場が大騒ぎになりかねません。先方にご迷惑を掛ける訳には…」
「その辺りは大丈夫だ。皆分散して観劇してもらう。チームメイトの晴れ姿を見せないのは悪いからな。とりあえずパンフレットができたら持ってきてくれ。それから有志からはカンパを集めて花束とご祝儀を出すし、チケット代は神保さんのノルマに入れよう。そうすれば彼女も悪い立場に陥らなくて済むだろうからな。そこまで考えろ」
「あ、はあ…」
「まあ大筋は認める。とりあえずは内密とはいえ、スターズの名誉のためにもふがいない芝居はするなよ、義経」
「…はい」
そう許可を得て監督室を出てロッカールームに入ると、チームメイト達がにやにや笑いながら彼を見つめる。怪訝に思っていると、楽しそうに里中が彼に声を掛けて来た。
「よ~しつね」
「何だ里中」
「若菜ちゃんの芝居の公演に、特別出演で出るんだって?」
「な…里中!何故それを!」
いきなり話が漏れていた事に驚いて声を上げる義経に、チームメイト達が楽しげに言葉を重ねていく。
「さっき里中が監督室の前を通った時、監督とお前が話してるのが耳に入って、ちょっと聞き耳を立ててくれたんだよ。お前、結構目立ちたがり屋だったんだな~?」
「で?役どころは?やっぱ姫さんと恋仲の侍の役とか?」
「…教えるか」
「ふ~ん?まあいいよ。きっと何も知らない宮田さんやヒナさんから三太郎経由でどうせ俺達にもパンフ回ってくるだろうから、それ読ませてもらうし。いいだろ?三太郎」
「あったりまえじゃん。すごくいい芝居する劇団なんだぜ~?そこに見込まれたんだからすごいよ義経は」
「そうなんですか。だとするとすごく楽しそうですね」
「なるべく人数集めて、観劇ツアー組ませてもらいますね」
「まあでもアマチュアだもんな。お前が出るってばれて騒がれたらおゆきさんが可哀想だもんな。マスコミにはちゃんと秘密にしといてやるから頑張れや」
「…」
義経は自分の詰めの甘さに軽いめまいを覚えた。そうだった。演技より、様々な妨害より一番厄介な輩がこんなすぐ傍にいたのだ。公演まで、いや公演当日も何かをやらかしかねない彼らを何とかするにはどうしたらいいだろう。彼はその事で頭が痛くなった――