「…しっかし、今までも何度かはあったけどさ、こういうのが本業の俳優とかモデル通り越してイメージキャラにオファー殺到して使われるって…どんだけ世間にあの殿様の恰好がクリーンヒットしたんだか」
「でも確かに義経の熱心なファンとかが次に着せたい衣装とか仲間内で応募してイラスト描いたりコラ写真作ったりしてたもんな」
「当人は『本来は苦手分野だから、うまく自分の位置を見つけてフォローしてくれる彼女が一緒じゃなければこうした仕事は受けない』って公務員だから原則副業禁止のお姫さんの立場使って逃げまくってるけどな…でも今回は逃げられなかったって事か…」
「今回のイベントは主催が自治体だから、自治体同士の連携を主催者側が利用して姫さんを『事業協力』って力技使って引っ張り出したんだもんな~」
「ゆきさん自身も『今では芝居はあくまで趣味だから、こういう形で表に出るのは好きじゃないけど、市長に頭下げられたら正直ないとは分かっていても万が一の免職が怖くて断れなかった』ってため息ついてたもんな」
「出張扱いでホテル代とかの経費全額支給と、ささやかな額の報酬をボーナスに追加してくれるし、一度見てみたかった装束の勉強も一緒にしてきていいって言われた事だけが救いだって言ってたしな」
「まあ義経と一緒でいいって事も判断材料には多少なったんだろうけどさ」
「…で、今日はその仕事のポスター撮影のために京都のスタジオにいるって事か。…何だったっけ、今回のネタ」
「ああ、源氏物語のイベントの一端で光源氏だろ?おゆきさんはとりあえず写真だけでしか顔知られてないから本人のイメージが掴めなくて出すかどうかは分からないけど、義経の事もあるから来て欲しいって」
「ファン喜びそうだよな~だって義経って言うと名字と八艘飛びキャッチでむしろ源氏と平家のあれになりそうだけどさ、あの顔と名前から取ったコアなファンの呼称は『光の君』だぜ?まんまじゃん」
「シャレにならねぇよな~…」
「でも義経さんだったら光源氏の恰好絶対似合いますよ~。いいじゃないですか、ファン含めた皆が幸せになれるなら」
「…いや光、当の本人が不幸なんだって。ああ見えてあいつ目立つ事嫌いな性質だから」
「そうなんですか?変なの。プロ野球選手っていう目立つ職業してるし、センターであんな派手な守備してるのに」
「…まあプロ野球選手にも色々いるって事だよ。光ももうちょっとこの世界にいたら分かる」
「…まあ、その手の事嫌いでダブル天然ボケバカップルでも、ああ見えて二人とも一人一人はしっかりしてるから、トラブルとかはなしでそつなく済むだろうけどな」
「ポスターできたら今度こそ思いっきり笑ってやろうぜ」
「さんせ~い」
 そう言うと一同は笑った――