「こんばんは、お邪魔しま~す。約束通り俺は米持ってきました~」
「俺はうまそうだったんでイチゴです」
「俺は挽き肉ですけどいい肉が手に入ったんで買ってきました」
「俺は何買っていいか分からなかったんで、とりあえずビールと美月ちゃん用にジュースと麦茶を」
「おい星王、何だよキャベツ一個って。どう調理してもらうんだよ」
「うるさい緒方、お前こそ新玉ねぎ一袋ってのは何かの嫌がらせか?」
「ほらほら、ケンカはやめろよ。大丈夫だから…でもこりゃ頭の使いがいがありそうだな」
チームメイト達のやり取りを受け、柊司は場が盛り上がる様に気を遣い、一際明るく振る舞う。開幕三連戦が終わった夜、東京スーパースターズの有志と土井垣の恋人である葉月とその姉夫婦である文乃と隆とその娘である美月は、あるきっかけから親しくなっていた葉月達の幼馴染である柊司のマンションで宴会をするために招待されていた。元々は開幕三連戦が無事に勝ち進んだ事を前提としての祝いとして、柊司がメンバーに一品づつ食材を持ってきてもらって葉月と一緒にその食材で料理の腕を振るうと言ってくれていたのだが、奇しくも今年のスターズは山田の故障もあり三連敗。その事で表には見せないが気落ちと焦りを持っている土井垣を筆頭としたメンバーや葉月を励ますためにも、柊司は更にチームメイトとも親しい文乃一家も呼んで大宴会にしたのだ。
「葉月は伊豆谷のがんもどきを煮てきてくれたのけ…ありがとよ。これで一品は確保だ」
「うん、万が一いつも柊達がやってる『持ち寄り闇鍋』みたいになっちゃったら、美月ちゃん食べられないじゃない。だから美月ちゃんも大丈夫なものって思って」
「大丈夫よ葉月、スターズの皆さんだもの。ちゃんと気を遣ってくれる人達だってまだ少ない付き合いでも分かるわよ…ね~み~ちゃん?お兄ちゃん達、みんな優しいもんね~」
「ね~」
文乃の言葉に美月は同意する様ににっこり笑って首を傾げる。その可愛らしさに連敗で落ち込んだ暗い雰囲気も何となく和む。それを見ていた柊司も優しく笑うと、山田と一緒に美月の相手をしている里中に声を掛けた。
「おいそれにしても智、女房が松山にいる殿馬はともかく、家庭持ち、しかも新婚のお前が女房おっぽり出してここに来てていいのか?岩鬼だって、それどころか結婚してねぇ微笑やら義経すら今日は彼女がいるからって不参加なんだぞ?」
柊司の問いに里中はにっこり笑って答える。
「いえ、そのサチ子が『今日はお兄ちゃんについててあげて』って言ったんですよ。『試合休んで』とか表向きは文句言ってますけど、やっぱり故障してると試合でもそうですが、何かと生活に不都合があるんじゃないかって心配らしくって。そういう俺も心配ですし」
「そうか…まあそういう事ならいいか。山田、智と妹さんの気持ち、大事にしろよ」
「はい、もちろんです」
その会話を聞いていた美月が、不意に山田の膝によじ上って目を見ながら問いかける。
「や~らに~、ろっかた~いの?」
美月の心配している気持ちは分かるので、山田は宥める様に美月の頭を撫でて答える。
「ちょっとだけね。でも心配いらないよ。ほら、大丈夫」
そうやって山田は左腕で美月を抱き抱えたが、美月は山田が右腕をかばっている事に鋭く気づいたのか、下ろしてもらうと今度は隆と文乃の所にトコトコと寄って行って二人に声を掛ける。
「あ~や、た~た、み~のた~いのおっくちょ~らい」
「美月、どうした?熱はなさそうだから…頭が痛いのか?」
「な~うの!み~ないの!ちょ~らい!」
「…?…」
訳が分からないままにとりあえず文乃がバッグから最近熱を出しやすくなっているため医師から出されている美月用の熱冷まし兼痛み止めの水薬を出して渡すと、美月はそれを持ってトコトコと山田の所へ戻り、山田に差し出す。
「あい!た~いのないないよ~」
「美月…」
「美月ちゃん…」
美月の幼い思いやりに一同は心が温まる。山田はにっこり笑うと水薬を受け取り、もう一度美月の頭を撫でて言葉を掛ける。
「ありがとう、美月ちゃん。後で飲むよ」
「うん!」
満面の笑顔を見せる美月に山田は笑いかけながら、そっと文乃達に『後で返します』という目配せをする。それを見て二人もにっこり笑って頷く。そのやりとりを見ていた柊司はにっと笑って声を上げる。
「さあ、気分も怪我も飯をきっちり食えば早く良くなるぜ!じゃあ調理に入るか…ってな訳で葉月、アシ頼むわ」
「うん…じゃあ将さん、皆さんも。出来上がりを楽しみにしていて下さいね。作ってる間にさっき言った通りに食卓の支度しておいて下さい」
「オッケー」
「了解」
「…」
笑顔で返すメンバー達とは裏腹に、土井垣だけ苦虫を噛み潰した様な表情になっている。その表情を見ていた里中と文乃と隆が口々に土井垣に言葉を掛ける。
「どうしたんだよ将さん、不機嫌な顔見せてさ」
「あ~そうか~葉月ちゃんが柊司さんに取られてるから不機嫌なんだ~」
「しょうがないわね~そんなに不機嫌な表情見せる位なら、いつも放置してるんじゃないわよ。あの子だって人間よ?寂しかったら浮気って意味じゃなくても、優しい人に傾くわよ。柊はそれ分かってるから、なおさら大事にするしね。まあ当然の帰結よ」
「でも…」
「独占欲があるんだったら、ちゃんと出さなきゃね。まあもう少し落ち着けば戻ってくるわよ。あの子の気持ちが落ち着くまで、そうなるまで放置してた事を、海より深く反省なさい」
「…」
文乃のとどめの様な言葉に土井垣は言葉がなくなる。それを見ていたメンバーは土井垣を不憫に思いながらも、ほんの少しこの微妙な三角関係を面白がっていた。そんなこんなの会話をしている間も、キッチンでは二人が会話している。
「今回は鍋じゃねぇから、この炊いた米を美月も食べやすい様に、小さめのおにぎりにして出すか。後美月ももうほとんど同じもん食えるから主食の足しに『あれ』も用意すんべ」
「そだね…じゃあ具はこのキャベツ少しと、ハム柊常備してるよね。それで味付けは『あれ』にして…キャベツの残りは折角こんないい春キャベツだし、挽き肉も玉ねぎもあるし、大人数だから『あれ』作らない?」
「ああ、『あれ』か。人参とピーマンも常備してるし美月も食えるしいいな。じゃあ『それ』と新玉ねぎの残りでトマトもあるから『あれ』を作んべ」
「オッケー、『これ』はどうする?」
「生で食ってもいいが、折角牛乳もヨーグルトもあるから、簡単なデザートにすんべか。美月がどっちを選ぶかで『あれ』と『あれ』のどっち作るか決めんべ」
「そだね」
その会話を食卓の準備をしながら聞いていたわびすけが感心した様に呟く。
「すげぇ…ほぼ全部指示語で会話が成立してる」
わびすけの言葉に里中と隆が説明する様に言葉を紡ぐ。
「ああ、柊司さんと葉月ちゃんは昔っからあんな感じだよ。葉月ちゃんは親しい人なら会話を読み取るのがうまいし、ああ見えてちっちゃい頃はおしゃべりだったけど、自分が伝える方は苦手だった事もあって、結局意思疎通になるとその頃はあんまり上手じゃなくてね。でも柊司さんはそんな葉月ちゃんの言いたい事を、ほぼ百発百中で当ててたし」
「家族ですら分からない事があった葉月ちゃんのおしゃべりを、文乃さんやお義父さん達に翻訳してたしね、柊司さんは」
「そうなんだ~下手な夫婦よりツーカーって、すごい絆じゃないですか…土井垣さん、こりゃホントにやばいかもしれませんね~?」
「づら」
「…」
からかう様な星王の言葉に、土井垣は更に顔が厳しくなった。
「俺はうまそうだったんでイチゴです」
「俺は挽き肉ですけどいい肉が手に入ったんで買ってきました」
「俺は何買っていいか分からなかったんで、とりあえずビールと美月ちゃん用にジュースと麦茶を」
「おい星王、何だよキャベツ一個って。どう調理してもらうんだよ」
「うるさい緒方、お前こそ新玉ねぎ一袋ってのは何かの嫌がらせか?」
「ほらほら、ケンカはやめろよ。大丈夫だから…でもこりゃ頭の使いがいがありそうだな」
チームメイト達のやり取りを受け、柊司は場が盛り上がる様に気を遣い、一際明るく振る舞う。開幕三連戦が終わった夜、東京スーパースターズの有志と土井垣の恋人である葉月とその姉夫婦である文乃と隆とその娘である美月は、あるきっかけから親しくなっていた葉月達の幼馴染である柊司のマンションで宴会をするために招待されていた。元々は開幕三連戦が無事に勝ち進んだ事を前提としての祝いとして、柊司がメンバーに一品づつ食材を持ってきてもらって葉月と一緒にその食材で料理の腕を振るうと言ってくれていたのだが、奇しくも今年のスターズは山田の故障もあり三連敗。その事で表には見せないが気落ちと焦りを持っている土井垣を筆頭としたメンバーや葉月を励ますためにも、柊司は更にチームメイトとも親しい文乃一家も呼んで大宴会にしたのだ。
「葉月は伊豆谷のがんもどきを煮てきてくれたのけ…ありがとよ。これで一品は確保だ」
「うん、万が一いつも柊達がやってる『持ち寄り闇鍋』みたいになっちゃったら、美月ちゃん食べられないじゃない。だから美月ちゃんも大丈夫なものって思って」
「大丈夫よ葉月、スターズの皆さんだもの。ちゃんと気を遣ってくれる人達だってまだ少ない付き合いでも分かるわよ…ね~み~ちゃん?お兄ちゃん達、みんな優しいもんね~」
「ね~」
文乃の言葉に美月は同意する様ににっこり笑って首を傾げる。その可愛らしさに連敗で落ち込んだ暗い雰囲気も何となく和む。それを見ていた柊司も優しく笑うと、山田と一緒に美月の相手をしている里中に声を掛けた。
「おいそれにしても智、女房が松山にいる殿馬はともかく、家庭持ち、しかも新婚のお前が女房おっぽり出してここに来てていいのか?岩鬼だって、それどころか結婚してねぇ微笑やら義経すら今日は彼女がいるからって不参加なんだぞ?」
柊司の問いに里中はにっこり笑って答える。
「いえ、そのサチ子が『今日はお兄ちゃんについててあげて』って言ったんですよ。『試合休んで』とか表向きは文句言ってますけど、やっぱり故障してると試合でもそうですが、何かと生活に不都合があるんじゃないかって心配らしくって。そういう俺も心配ですし」
「そうか…まあそういう事ならいいか。山田、智と妹さんの気持ち、大事にしろよ」
「はい、もちろんです」
その会話を聞いていた美月が、不意に山田の膝によじ上って目を見ながら問いかける。
「や~らに~、ろっかた~いの?」
美月の心配している気持ちは分かるので、山田は宥める様に美月の頭を撫でて答える。
「ちょっとだけね。でも心配いらないよ。ほら、大丈夫」
そうやって山田は左腕で美月を抱き抱えたが、美月は山田が右腕をかばっている事に鋭く気づいたのか、下ろしてもらうと今度は隆と文乃の所にトコトコと寄って行って二人に声を掛ける。
「あ~や、た~た、み~のた~いのおっくちょ~らい」
「美月、どうした?熱はなさそうだから…頭が痛いのか?」
「な~うの!み~ないの!ちょ~らい!」
「…?…」
訳が分からないままにとりあえず文乃がバッグから最近熱を出しやすくなっているため医師から出されている美月用の熱冷まし兼痛み止めの水薬を出して渡すと、美月はそれを持ってトコトコと山田の所へ戻り、山田に差し出す。
「あい!た~いのないないよ~」
「美月…」
「美月ちゃん…」
美月の幼い思いやりに一同は心が温まる。山田はにっこり笑うと水薬を受け取り、もう一度美月の頭を撫でて言葉を掛ける。
「ありがとう、美月ちゃん。後で飲むよ」
「うん!」
満面の笑顔を見せる美月に山田は笑いかけながら、そっと文乃達に『後で返します』という目配せをする。それを見て二人もにっこり笑って頷く。そのやりとりを見ていた柊司はにっと笑って声を上げる。
「さあ、気分も怪我も飯をきっちり食えば早く良くなるぜ!じゃあ調理に入るか…ってな訳で葉月、アシ頼むわ」
「うん…じゃあ将さん、皆さんも。出来上がりを楽しみにしていて下さいね。作ってる間にさっき言った通りに食卓の支度しておいて下さい」
「オッケー」
「了解」
「…」
笑顔で返すメンバー達とは裏腹に、土井垣だけ苦虫を噛み潰した様な表情になっている。その表情を見ていた里中と文乃と隆が口々に土井垣に言葉を掛ける。
「どうしたんだよ将さん、不機嫌な顔見せてさ」
「あ~そうか~葉月ちゃんが柊司さんに取られてるから不機嫌なんだ~」
「しょうがないわね~そんなに不機嫌な表情見せる位なら、いつも放置してるんじゃないわよ。あの子だって人間よ?寂しかったら浮気って意味じゃなくても、優しい人に傾くわよ。柊はそれ分かってるから、なおさら大事にするしね。まあ当然の帰結よ」
「でも…」
「独占欲があるんだったら、ちゃんと出さなきゃね。まあもう少し落ち着けば戻ってくるわよ。あの子の気持ちが落ち着くまで、そうなるまで放置してた事を、海より深く反省なさい」
「…」
文乃のとどめの様な言葉に土井垣は言葉がなくなる。それを見ていたメンバーは土井垣を不憫に思いながらも、ほんの少しこの微妙な三角関係を面白がっていた。そんなこんなの会話をしている間も、キッチンでは二人が会話している。
「今回は鍋じゃねぇから、この炊いた米を美月も食べやすい様に、小さめのおにぎりにして出すか。後美月ももうほとんど同じもん食えるから主食の足しに『あれ』も用意すんべ」
「そだね…じゃあ具はこのキャベツ少しと、ハム柊常備してるよね。それで味付けは『あれ』にして…キャベツの残りは折角こんないい春キャベツだし、挽き肉も玉ねぎもあるし、大人数だから『あれ』作らない?」
「ああ、『あれ』か。人参とピーマンも常備してるし美月も食えるしいいな。じゃあ『それ』と新玉ねぎの残りでトマトもあるから『あれ』を作んべ」
「オッケー、『これ』はどうする?」
「生で食ってもいいが、折角牛乳もヨーグルトもあるから、簡単なデザートにすんべか。美月がどっちを選ぶかで『あれ』と『あれ』のどっち作るか決めんべ」
「そだね」
その会話を食卓の準備をしながら聞いていたわびすけが感心した様に呟く。
「すげぇ…ほぼ全部指示語で会話が成立してる」
わびすけの言葉に里中と隆が説明する様に言葉を紡ぐ。
「ああ、柊司さんと葉月ちゃんは昔っからあんな感じだよ。葉月ちゃんは親しい人なら会話を読み取るのがうまいし、ああ見えてちっちゃい頃はおしゃべりだったけど、自分が伝える方は苦手だった事もあって、結局意思疎通になるとその頃はあんまり上手じゃなくてね。でも柊司さんはそんな葉月ちゃんの言いたい事を、ほぼ百発百中で当ててたし」
「家族ですら分からない事があった葉月ちゃんのおしゃべりを、文乃さんやお義父さん達に翻訳してたしね、柊司さんは」
「そうなんだ~下手な夫婦よりツーカーって、すごい絆じゃないですか…土井垣さん、こりゃホントにやばいかもしれませんね~?」
「づら」
「…」
からかう様な星王の言葉に、土井垣は更に顔が厳しくなった。