その後、将さんとはもちろん婚約破棄となったけれど、将さんの家族は一様に『将のはっきりしない態度のせいで葉月さんに悪い事をした。嫌かもしれないが、どうかこれからも家族の様な付き合いは続けてくれ』ってあたしに頼み、あたしは少し辛かったけれど、それを承知した。将さんは『葉月と結婚できないなら…もう…誰も愛せないし…誰とも結婚しない』と言っているそうだ。あたしは自分が将さんにつけた傷を思って罪悪感に溢れたけれど、いつか本当に愛せる人を見つけて幸せになって欲しいって心から願った。柊は事の経緯をお父さんと柊のお父様に話して頭を下げて結婚させてくれと頼んで、二人に一発づつ殴られた。でもその後すぐお父さんは『やっぱり…葉月にはお前しかいないんだな』って言って、あたし達の仲を認めてくれた。そうしてすぐに籍を入れて、お腹の子の事もあったから5月のお祭りが終わった直後に、あたし達は結婚式を挙げた。招待した人は小田原の近所の人がほとんどだったからスケジュールが詰まって大変だって、わざとぶつぶつ言っていたけれど、木遣を歌ってくれたり、花束を持ち切れない位贈ってくれたり、披露宴を自分達で取り仕切りたいって言って手作りのお祝いをしてくれたり、皆心から祝ってくれた。その気持ちが嬉しくて、でも沢山の人を傷つけた上にあるこの結びつきにある種の胸の痛みを抱いて、祝ってくれる人達を見つめながら、あたしは一筋涙を零した。この愛と引き換えに傷つけた人への罪悪感と、そうして人を傷つけたのに自分だけ幸せになる後ろめたさで――その涙に気付いた柊は、他の人に分からない様に、静かにあたしに囁いた。
「人を傷つけて幸せになった事が罪だと思うなら…その人間の分まできっちり幸せになれ。それが罪滅ぼしだ」
「柊…」
あたしの思っている事を見通したみたいな柊の言葉にあたしは驚く。柊は続けた。
「幸せは巡り巡ってちゃんと皆に届く。土井垣だっていつか自分の本当の幸せを見つけられる。…だから、お前もお前らしく幸せになればいいんだ…俺と、生まれてくる子どもと、きっとその後増える兄弟達と」
「…うん」
あたしは柊に向かって微笑んだ。あたしの愛する人、あたしの半身。これからどうなるかは分からない。けれど皆きっと幸せになれる。そんな気がした。この恋で知った愛に対する迷いと苦しみを、それぞれが心にちゃんと刻みつけておけば――