「…さん、エルンストさん」
聞き慣れた声にエルンストは目を覚ます。そこには自分の主人であり、親友である男の弟子が立っていた。
「…ああ、ジェイドか」
そうか、自分は夢を見ていたんだ、幼い頃の夢を――。エルンストが大きく伸びをすると、ジェイドがからかう様に口を開く。
「珍しいですね、エルンストさんが居眠りだなんて」
ジェイドの言葉に、エルンストも笑って答える。
「そうだね…おや、この毛布は?」
エルンストは始めは無かった筈の自分に掛けられた毛布を、不思議そうに見詰める。その言葉に、ジェイドが更に笑顔で答える。
「マノンが持って来たんですよ。『お父さんが風邪を引いたら可哀相だから』って」
「そうか…」
自分の娘の心遣いに、エルンストは思わず微笑む。
「…で、マノンは?」
「今までオレと遊んでて、エルンストさんを見つけてからしばらくは一緒に傍にいたんですけど…あんまりエルンストさんが起きないから、ルイーゼさんの所へ行っちゃいました」
「そうか…悪いな、ジェイド。折角訓練が休みの日なのに、あいつに付き合わせてしまって」
エルンストの言葉に、ジェイドは照れた様な嬉しげな表情で答える。
「いいんですよ、オレもそれなりに楽しいし。マノンとはいい友達になれると思うんです」
「そうかい?…そう言ってくれると嬉しいよ」
エルンストが微笑みながらそう言うと、ジェイドは更に照れたように笑った。
「…それで、師匠はどこにいるかな?」
「あ、レーラァなら書斎で本を読んでるみたいですけど…」
「そうか…じゃあ俺はあいつの所に行くから。ジェイド、すまないがマノンの相手を頼むよ。毛布のお礼も言っておいてくれ」
「あ、はい」
エルンストはジェイドに背を向けると、書斎へ向かって歩き出す。書斎へ向かいながらエルンストはその後の事を思い返した。
ただ傍にいる事しかできなかった事。それはエルンストの中の苦しみにもなっていたが、今は苦しいだけではない、別の感情も起こっていた。
自己満足だとは思う。でも自分を遠ざけずに傍に置いてくれた親友に、彼は感謝していた、そして親友を立ち直らせてくれた一人の小さな超人にも――。彼は今度はその小さな超人と自分の娘に思いを馳せる。
何故だか暖かい気持ちが湧き上がり、彼は人知れず微笑む。と、いつの間にか書斎の前まで来ていた。彼はドアをノックする。「誰だ」という友の声に彼は「俺だ、入るぞ」と答えドアを開けた。
聞き慣れた声にエルンストは目を覚ます。そこには自分の主人であり、親友である男の弟子が立っていた。
「…ああ、ジェイドか」
そうか、自分は夢を見ていたんだ、幼い頃の夢を――。エルンストが大きく伸びをすると、ジェイドがからかう様に口を開く。
「珍しいですね、エルンストさんが居眠りだなんて」
ジェイドの言葉に、エルンストも笑って答える。
「そうだね…おや、この毛布は?」
エルンストは始めは無かった筈の自分に掛けられた毛布を、不思議そうに見詰める。その言葉に、ジェイドが更に笑顔で答える。
「マノンが持って来たんですよ。『お父さんが風邪を引いたら可哀相だから』って」
「そうか…」
自分の娘の心遣いに、エルンストは思わず微笑む。
「…で、マノンは?」
「今までオレと遊んでて、エルンストさんを見つけてからしばらくは一緒に傍にいたんですけど…あんまりエルンストさんが起きないから、ルイーゼさんの所へ行っちゃいました」
「そうか…悪いな、ジェイド。折角訓練が休みの日なのに、あいつに付き合わせてしまって」
エルンストの言葉に、ジェイドは照れた様な嬉しげな表情で答える。
「いいんですよ、オレもそれなりに楽しいし。マノンとはいい友達になれると思うんです」
「そうかい?…そう言ってくれると嬉しいよ」
エルンストが微笑みながらそう言うと、ジェイドは更に照れたように笑った。
「…それで、師匠はどこにいるかな?」
「あ、レーラァなら書斎で本を読んでるみたいですけど…」
「そうか…じゃあ俺はあいつの所に行くから。ジェイド、すまないがマノンの相手を頼むよ。毛布のお礼も言っておいてくれ」
「あ、はい」
エルンストはジェイドに背を向けると、書斎へ向かって歩き出す。書斎へ向かいながらエルンストはその後の事を思い返した。
――あれからあいつは一人前の超人になり、俺は執事としてあいつの傍にいた。
…しかしあいつが荒れ出した時、俺は何もする事ができなかった、ただ傍にいる事しかできなかった――
…しかしあいつが荒れ出した時、俺は何もする事ができなかった、ただ傍にいる事しかできなかった――
ただ傍にいる事しかできなかった事。それはエルンストの中の苦しみにもなっていたが、今は苦しいだけではない、別の感情も起こっていた。
――…あいつは俺が傍にいる事を許してくれた…傍にいる事――その誓いだけは破らずにすんだ…それでいい――
自己満足だとは思う。でも自分を遠ざけずに傍に置いてくれた親友に、彼は感謝していた、そして親友を立ち直らせてくれた一人の小さな超人にも――。彼は今度はその小さな超人と自分の娘に思いを馳せる。
――あの二人もいつか俺とあいつの様になるのだろうか…なったらそれはそれで面白いな――
何故だか暖かい気持ちが湧き上がり、彼は人知れず微笑む。と、いつの間にか書斎の前まで来ていた。彼はドアをノックする。「誰だ」という友の声に彼は「俺だ、入るぞ」と答えドアを開けた。
――僕達はずっと、ずっと一緒だよ――