そうしてミーティングをして着替えた後、選手通用口に行くと、葉月と弥生が柊司にガードされて待っていた。出てきた一同を確認して柊司はにっと笑うと『…じゃあ、姫二人は引き渡すぞ。後は任せた』と言って手を挙げて去って行った。面々はそのまま近くの居酒屋に直行すると二人の姿を改めて見てため息をつく。二人の浴衣は紺地に白で葉月は菖蒲柄、弥生は薊柄という一見地味だが物がいいのが一目で分かる物で、また帯の華やかさがその分引き立ち、地味な分彼女らの品のある凛とした美しさと年齢相応の色気を醸し出していた。ため息をつきながら、光、緒方、星王、わびすけがそれぞれ声を掛ける。
「うわぁ~可愛いし綺麗ですね~。二人ともホント可愛くて綺麗っていうか色っぽいです~!」
「…土井垣さんと三太郎の前で褒めるの怖いけどさ、でも褒める。綺麗だよ二人とも」
「浴衣の色柄はこう言っちゃ何だけど地味だけどさ、でもそれがまた逆に光の言う通り品があって同時に色気もあるってかさ」
「地味だけど…これ俺らにも分かるくらいそこらで売ってるのよりもの物よくね?」
面々の言葉に弥生と葉月がそれぞれ応えて言葉を重ねていく。
「そうね~市販の浴衣がどうも変に派手でこう言っちゃ何だけど物があんまりよくない様に見えてさ、いいのない?って和服とかにも詳しいはーちゃんに相談したら、それ聞いた『マダム・ハルヒ』がおゆきも含めて『三人ともそろそろいい年頃なんだから、年齢に合ったいい物を着なさい』って呉服屋に連れてってくれちゃってね。しかも宇都宮さんでしょ?どんだけ格高いのよ」
「ほら、おばあちゃまは宇都宮さんが昔からの行きつけだから。あたしの持ってる着物は古城の時仕立てた浴衣抜いたら足袋含めて全部あそこのよ?だから浴衣も当たり前でしょって感じで。でも浴衣までさすがに仕立てさせるのは悪いしお金かかるからって仕立ては固辞して久しぶりに格闘したよね~」
「緊張したわよ~前はそこら辺のカジュアル呉服屋で売ってる実習用のやっすい反物だったのに今回は自分用とはいえ物は確かにいいけどあんな高い反物仕立てたんだもの~。ブランク長かったし『マダム・ハルヒ』がいてくれなかったらこんなにうまくできなかった!」
「お姫は一番弟子だから振袖はともかく袷とか位ならもう何でも縫えちゃうんだけどね~あたしも洋裁ばっかりで和裁久しぶりだったからちょっと苦労したかな」
「何か盛り上がってますけど『うつのみやさん』とか『まだむ・はるひ』って…何ですか?」
「『マダム・ハルヒ』……ああ!そういう事か!確かにその呼び方『あの人』にぴったりだ」
「当たり前じゃない。里中君もお世話になったかもだけど、あたしだって演研時代人形の衣装で何度お世話になったか。世には出ずとも一流デザイナーだと思ってるからそう呼んでるのよ。あたしは」
「何か里中まで混じったな…俺もそろそろ理由知りたいから教えてくれよ、弥生さん」
二人の会話に里中まで混じったので訳が分からないという風情の三太郎の言葉に、葉月と弥生が説明する様に言葉を紡ぐ。
「まず『宇都宮さん』は…小田原にある老舗の呉服屋さんです。って言ってもお店を大々的に出してる訳じゃなくて家の中でこぢんまり風なんですが、それだけ品が厳選されてる分よくて、小田原と周辺では有名な位格も高いんです」
「へぇ…どんな風に?」
「簡単に言うと…そこら辺の呉服屋さんと値段のゼロの桁が一つ違います。でもその分何代も持つ位品も本当にいいです。私の祖母はそこが行きつけで、娘時代から何枚も着物仕立ててて。母は着たがらないですが留袖から喪服まで和装で必要なもの一式、姉も訪問着二枚、私も振袖と色紋付をそこで仕立ててもらって『次は訪問着ね』ってノリノリの所を母に止められてました。で、この浴衣の反物もここにいないお姫含めてそこで買ったんです」
「『反物も』…って事は仕立てたのは?」
「私達自身ですよ。古城の女子は二年生の時体育祭で着るのもあって夏の家庭科の課題で浴衣仕立てるんです。で、今回も仕立て方の大まかは覚えてたから昔取った杵柄で、忘れてる所は祖母に聞きながら」
「はーちゃんは前言った通り二年の時休学理由で留年してるでしょ?夏休みの時体調崩して入院生活始まったからすぐ退院しても体育祭に間に合わないかもって事で先生に了解得た上で途中から『マダム・ハルヒ』に仕立ててもらった後そのまま休学が決まって。で、翌年一学期終わりから復学したから、やっぱり最初から最後まで仕立てたいって先生が『もう評価は終わってるからいいわよ』って言ったの振り切ってもう一枚仕立てたのよね。それに和裁の縫い方で色々作って遊んだりもしてるから縫い慣れてるし、おゆきに至っちゃ『マダム・ハルヒ』の一番弟子の上、その後お教室通って和裁も師範レベルまで習ったから和裁も洋裁も自由自在なのよ。その二人に比べて洋裁はともかく和裁のブランク長いあたしは相当苦労したわ」
「だからその『マダム・ハルヒ』ってのは…何じゃい。サトも何か知っとるみたいやけど」
岩鬼の問いに弥生は悪戯っぽく答える。
「『マダム・ハルヒ』っていうのは…今の話で分からない?はーちゃんのおばあちゃんの事よ。名前が春日さんっていうの」
「ああ、そうか!確かに以前若菜さんとの件でご挨拶にお伺いした時『酒匂春日』さんと名乗られていた」
義経も気づいてポンと手を叩く。しかしそれでも分からない事があるので池田が問いかける。
「でも何でそんな風に呼ぶんすか?」
池田の問いに弥生は更に悪戯っぽく応える。
「はーちゃんのおばあちゃんってね、大正生まれでしかもこう言っちゃ何だけど田舎って言っていい小田原で生まれ育った女性にしては珍しく、女学校も出た後自分の希望通して都内のかなり有名どころの洋裁学校出て短期間だったけど職業婦人として女性洋裁師になった人なのよ。当時のいわゆるモダンガールね。で、結婚するまでの何年かと、結婚してからも旦那さんのはーちゃんのおじいちゃんが病気で働けなかった時に家計支えるために洋裁店で働いてた位腕もセンスもいい人でね。文乃さんは習ってたバレエ教室の先生のお母さんがそのおばあちゃんのお友達でそれ知ってたせいで頼ってたから発表会の衣装のほとんどとか、はーちゃんは既製服が体型に合わないのもあって大学位まで服の大半縫ってもらうとか自分も洋裁教えてもらって型紙作って自分で縫うとかしてたの。その服すっごい可愛かったんだから。で、あたしも演研時代人形の服に迷った時デザインとか一緒に考えてもらって型紙よく一緒に作ってもらってその服用に余り布とかもらったりお世話になってて。おゆきはマンツーマンで洋裁を教わっててお裁縫が好きになったからそこからお教室教えてもらってさっき言った通り自分で和裁も習っていって。で、そのセンスの良さから世には出なかったけど名デザイナーだなって思ってるから、あたしは敬意を込めて『マダム・ハルヒ』って呼んでるの」
弥生の言葉に里中も懐かしげに笑いながら言葉を紡ぐ。
「あのおばあちゃんの服とか弁当箱入れとか体操着入れには俺も世話になったんだぜ。いい服がなかったりお袋が仕事忙しくて体操着入れとか縫う暇ない時に代わりに布代だけで仕立て引き受けてくれて、一緒に布買いに行ってサイズ測ってデパートの包装紙とかで型紙きちんと作ってさ。葉月ちゃんの分と一緒に年季入った足踏みミシンですっげぇスピードできれいに縫ってくれて。俺が頼むと好みのデザインとかで仕立ててくれたり売ってるのとか時々手作りまでしたワッペンとかも縫いつけてくれて。で、体操着入れとかは学校の先生やってた旦那さんのおじいちゃんが墨擦ってこれもすっげえきれいな筆文字で名前書いてくれてさ。俺だけのオリジナルって感じで嬉しかったな。で、それだけじゃなくって余り布でポシェットとか帽子まで作ってくれたんだぜ?それがまたかっこよかったんだ。確かメッツの岩田さんと同年代かそれ以上位だからもう80とっくに超えて下手すると85も超えたろ?本人もミシンもまだ健在なのか?」
「うん、健在も健在。一度ミシンはベルトが老化して切れて故障したけど、おじいちゃまが亡くなる直前に業者さん走り回って探し出してくれて修理して見事復活してね。今も美月ちゃんのスカートとかワンピースとか保育園の小物入れバッグとか縫ってあげてて美月ちゃんが大喜びよ」
「さっすが」
「へぇ…そりゃまたすごい人ですねぇ」
「まあひいおじいちゃま…おばあちゃまのお父さんって方も大漁旗とか浴衣とかの型を作って染めてた型染め職人ですからね。その血なんでしょう」
「そういえば葉月の父方のおじいさんは腕のいい大工だったそうだな。とするとお前の保健師の仕事の的確さや採血の正確さとかは生粋の職人の血から…という訳か」
今まで嫉妬で怒り狂っていた土井垣も弥生達の話が興味深く、ふと怒りを忘れ自分が知っている事を口にする。葉月は恥ずかしそうに微笑んで頷く。
「…そういう事になりそうですね」
「それにしてもなんてぇか…今日は老人力バリバリの話たくさん聞くよなぁ…」
「でもさらっと言ってますけど、こうやって外に着ても全然おかしくない位綺麗な浴衣一枚自力で縫っちまうなんてすごいですよ。ちなみにどのくらい時間かかったんですか?」
小岩鬼の問いに弥生は少し考えて答える。
「去年探していい物なかったからこの夏にいい物着たいねって言って3月に反物買って…ゆっくり教わりながら縫ってそれでも夏には合わせる様には急いで2か月半か。初めての時は何にも知らないのと授業っていうのもあったけど4か月以上かかったから頑張ったね」
「そだね」
「おゆきは1か月で縫いあげて何気に義経君の分の浴衣も一緒に反物買っててその後それ縫ってたっけ」
「へ~?義経、そんなもん貰ってたんだ~」
「…朝霞さん、何もここでばらさなくてもいいだろう」
秘密を暴露されてむっつりとした表情になった義経の顔を見て弥生は笑ってサワーを飲みながらパタパタと手を振りながら言葉を返す。
「ああ、ごめんごめん酔った勢いでつい口が滑って」
「そのおんどれらやツネにいっつも金魚のフンみたいにくっついとる神保はどしたんや。まあ今日は週半ばやさかい、仕事もあるし役人はしょっちゅう休んどるようでそう休めもせえへんからこれへんか」
「ああ、お姫は今回今日だけじゃなくて週末も…っていうか今週はずっとこっちに来るのは無理でしたよね?義経さん」
「…」
岩鬼の言葉に悪戯っぽい顔でウィンクして応える葉月と更に苦い顔で沈黙する義経に、スターズの面々はからかう様に言葉を紡ぐ。
「あ~リアル織姫と彦星がここに」
「まあ会えるのが年一度じゃないだけましか」
「でも土日も無理ってどうして。市役所土日休みで遠征じゃない限り毎度ゆきさんこっち来て週末婚してるじゃん。今週はイベントもなさそうだし」
呑気に言葉を紡いでいるスターズ一同に葉月は呆れた様に言葉を返す。
「…皆さん、忘れてません?土井垣さんの誕生日と重なりますけど『一番の大イベント』」
「え~何か…あ~っ!」
「…ごめん、すっかり忘れてた」
「駄目よ?日本国民の大事な権利度忘れで放棄しちゃ」
『一番の大イベント』を思い出した面々に弥生がわざと咎める様に言葉を紡ぎ、更に葉月が説明する様に言葉を続ける。
「市役所の職員の一部は当日の選挙管理委員の要員ですからね。お姫も駆り出されるんですよ。だから今週一杯は通常業務に加えて準備、当日の日曜は一日管轄の投票所詰です。まあ開票作業までは郊外で駅からも遠いアリーナだったはずだから免許持ってても女性で家遠いお姫はしないでしょうけど」
「大変よねぇ、はーちゃんのお父さんの時もそうだったらしいけど、確か自分が住んでるとこの投票所は詰めちゃダメなんでしょ?最低限隣の地区の投票所で会場は当日準備片づけだから朝5時位から晩8時に投票所閉めてその後まで、要員によっては開票作業まででさ。昔と違って当日開票だからそうなると夜中までじゃん」
「そうそう。まあ翌日開票で投票箱しいて開票場所で一晩寝てた頃よりは気苦労はましだって言ってたけどね、お父さんは。でも要員にならなかった人も激励に自分とこの投票所の選挙管理委員や立会人さんに差し入れ持ってったりの気苦労もあってね。それに当人がたとえ判子一つでも道具忘れ物すると大変なんだから。本人は投票所から出られないから家族が届けるんだけどさ、うちみたいに地区が一駅離れてるとかだと急ぎだから早く確実に持ってくのにチャリ使わないといけなかったり厳戒態勢だから家族だって明らかに分かってても面通しで時間かかったり」
「という訳でそういう現場の苦労を理解して、期日前投票でもいいから行きなさいね」
そうしてわざとらしく若菜の苦労話をして面々を選挙に行かせる様に弥生と葉月は釘を刺し、面々は頷き、一人素直な(というか嫌味すら分かっていない)光は素直に言葉を返す。
「は~い…」
「私はまだ選挙権ないですけど、来年貰って選挙あったら行くようにしますね」
「はいオッケー」
弥生の言葉に土井垣と義経が言葉を重ねる。
「俺はもう済ませたぞ。当日試合だし何が起こるか分からんからな。投票所が帰る前に閉まったら困るし」
「俺ももう済ませた。若菜さんの苦労も皆から聞いていたし、当日試合が終わった後翌日はオフだからすぐ向こうに若菜さんを迎えに行ってそのまま一緒に過ごせる様に」
「お~リアル彦星は積極的だな~」
「…うるさい」
星王のからかう言葉に義経は余計な事まで言ってしまったと顔をしかめる。その言葉に何も分かっていない光はうっとりした口調で言葉を紡ぐ。
「でもそれくらい彦星さんが積極的だったら織姫さんも幸せですね~」
何も分かっていない光の言葉に、スターズの男衆は自分の事も顧みろとばかりにからかう口調で言葉を重ねていく。
「何言ってんだ光、お前の『彦星』もかなり積極的じゃんか。しかもベタ惚れと来た」
「あれは『彦星』ってか状況やら行動的にはむしろ『ロミオ』だけどな。本家ロミオよりちょっと…ってかか~な~りビッグマウスだし生意気で失礼だが」
「…」
先輩達のからかいに顔を真っ赤にする光にふと思い出した様に弥生が提案する。
「そうだわ。今日の浴衣で思い出したけど、そんな光ちゃんも近い内はーちゃんとマダム・ハルヒに宇都宮さん紹介してもらって浴衣仕立ててもらおっか。『市販のだと身長のせいで丈が合わなくて買えないし、そうじゃなくても私じゃ大きいから似合わなくて可愛くならないって毎年夏になる度女子が浴衣姿で笑ってるの見て寂しそうにしてるんだ。身長なんか関係ない、そこらの女子よりもこんなに可愛いのに』ってその『ロミオ君』が浴衣着て笑ってる女の子見ながら光ちゃんの事思い出して悔しそうにしてたってロッテの選手…中西君だっけ…から里中君ルートだったかしら…でちらっと聞いたから。今からなら遅くなってもプロの職人の手なら急ぎで作れば8月の半ば位にはできるから、今年の夏の最後をロマンチックに締めくくれるわよ」
「…!」
弥生の唐突な提案に更に顔を真っ赤にして狼狽する光に葉月も優しく言葉を紡ぐ。
「宇都宮さんなら職人さん直通の信用のおけるホットラインがあって、女物じゃ反物の長さが足りない身長の人とか体格が幅に合わない人は足し布をしたり男物の反物を使って染めから職人さん直依頼で仕立ててもらえるから、光さんの希望と雰囲気に合った可愛い色柄の物を仕立ててもらえるわ。その代わりちょっと手間とお値段かかるけど、浴衣ならこうしてプロ野球選手やってるんだから年棒どころか契約金のちょっとひとかけらも出せば仕立てまでお任せできるお値段よ。で、その分帯や下駄を市販のもので安めに抑えればいいしね。帯なら体型はともかく身長には全く関係ないし、光さんウエストは細そうだから市販のもので大丈夫そうだしね。下駄も足に合ったものをちゃんと選んで売ってくれるいい履物屋さん教えてあげるわ。それで気に入ったら確か今年19よね?成人式の振袖もそこでご用命してもらえれば私としても万々歳だし。『ロミオ君』に折角だから可愛い姿、見せてあげなさいな」
「…」
光は暫く顔を真っ赤にして黙ったまま俯いていたが、やがて俯いたままぽつりと呟く。
「…本当ですか?こんなに背が高くて大きい私でも…可愛くなれますか?」
光の言葉に葉月と弥生は優しく励ます様に言葉を返す。
「ええ、本当よ。似合うものをちゃんと選べば、すごく可愛くなれるわ」
「野球以外では背が高いのを気にしてるみたいだけど、とっても可愛い顔じゃない。ちゃんと似合うものを選んで変におどおどしないで背筋を伸ばしたきれいな姿勢と笑顔で着れば、身長なんか関係ないの。姿勢と笑顔でとっても可愛くなるのよ。光ちゃん程じゃないけどあたしだって結構背が高いでしょ?でもさっき光ちゃん言ったじゃない、可愛いって。ほら、あたしだって可愛くなれるんだもの。そのあたしとはーちゃんが保証する」
二人の言葉に光は不意に涙を零すと少ししゃくりあげながら言葉を零していく。
「…私も…浴衣…着たいです。ずっと…着たかったんです。でも…近所のお店ではいつも『あなたの身長と体格に合う物はありません』って言われて…着物とかも…ずっと無理だって思ってた。…剣はそれ聞いていつも『プロとしてプライドがあるなら客が頼んだ品位どんな手使っても用意しろよ』って怒ってくれてた…それは嬉しかったけど…反物って長さとか幅が決まってるのは知ってたから…絶対…無理なんだって…」
そうしてすすり泣く光に葉月と弥生は優しく、しかし元気づける様に明るく言葉を紡ぐ。
「…それはその呉服屋さんが悪かったわね。ごくまれにそういう不親切な所があるのよ。ちゃんとした所なら『お代と時間はかかりますが』って言って今言った足し布や男物の布使う話してくれるはずだから」
「アンラッキーだったってそれまでの事は割り切って、これからはいいお店とか品見つけるポイント、はーちゃんに教わって覚えるといいわよ。何せこの娘って、小さい時から今言った宇都宮さん始めとしてマダム・ハルヒとその旦那さんとかお父さん方のおじいちゃんに分野問わないで本場の美術展とか舞台とか老舗とかサービス含めたいい物がある所やお店を連れ回してもらって、お店とか品見る目が肥えてるんだから。ただ値段で見る事ないの、安かろう悪かろうは論外だけど、高くて悪いものも絶対選ばない。値に合ったものはもちろんだし、安いものでもいい物をちゃんと選んでるんだから」
「ああ、それは俺も常々思っている。俺と買い物に出るといつも自分に合った上で適正な値の物を選んでいるな。葉月の審美眼や観察眼は信頼できるものだ、社会勉強のためにも教わるといい」
「…はい」
弥生と土井垣の言葉に光は涙を拭って笑顔を見せる。それを見た一同も笑顔で場を盛り上げていった。