朝起きたらお父さんが来てくれた。東京は小田原に住んでるはずのお父さんからしたら、すごく遠いのに来てくれた事がとっても嬉しい。でもお母さんが病気だって聞いて心配だし、その事も聞こうと思って話そうとしたら、すぐに検査に連れて行かれてしまった。一時間位血を取られたり何だか分からない機械での検査を終えて帰ってくると、土井垣さんも来てくれていた。土井垣さんが来てくれた事が、お父さんが来てくれた事以上に嬉しくなっている自分にドキドキする。お父さんはあたしと少し話すと『元気そうで良かった』って言って家へ帰って行った。土井垣さんは、あたしがここにいる間はお姉ちゃんと二人であたしを見ていますってお父さんに挨拶してくれた。そんな土井垣さんを見ながらあたしはどんどん胸が苦しくなっていった。何であたしが14歳から先の事を忘れちゃったのかが分からなくて苦しい。それに何よりこうして来てくれて、とっても優しい土井垣さんの事が大事な事だって思うのにその土井垣さんの事が分からない自分が苦しい。あんまり苦しくて土井垣さんにそう言ったら、土井垣さんは『自分の事を大事な事だと思ってくれるだけで充分だ』って言ってくれた。とっても優しい土井垣さん。その言葉に胸がもっと苦しくなって来る。でもその苦しさの中から忘れちゃった事に意味があるのかもしれないって思いがふと浮かんで、あたしは忘れちゃった事を思い出す努力をしようって決心した。何より自分が思い出したいって思っているから――あたしが生きてきた道を、そして何よりも大切な土井垣さんの事を。そう言ったら土井垣さんは何でか寂しそうに笑った。土井垣さんにこんな顔をさせたくない。だから絶対思い出す。14歳から先の記憶を、何より土井垣さんの事を――